ハニカム格子イリジウム酸化物における量子スピン液体

ハニカム格子イリジウム酸化物における量子スピン液体
東大理A,マックスプランク研究所B,高知大理C
北川健太郎A,高山知弘B,松本洋介B, 高野陸A, 岸本恭来C,高木英典A,B
Honeycomb格子Ir酸化物物質群においてはIr4+O6八面体に特有のJeff=1/2状態
と、120度O-Ir-O結合角と90度に近いIr-O-Ir結合角から、3方向のボンド依存強磁性相
互作用が競合するKitaev模型の実現が期待されている[1]。しかしながら、他の相互作用
の影響により、Kitaev模型の厳密解である量子スピン液体状態はこれまで実現されていな
い。最近我々は、α-Li2IrO3の層間LiサイトにHを置換することによって絶縁体のまま秩
序を抑えることに成功し、磁化、比熱及び核磁気共鳴(NMR)測定などから50 mKまで
スピン液体状態が保たれることを見い出した。
図1に示すように、相互作用Jの1/100程度に相当する1 K程度まで殆ど線幅が増加し
ないことからスピンが揺らいでいることが分かる。さらに、この広がりは高々0.01μBの
オーダーであり、これまでスピン液体候補とされている、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3、
EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2 、HerbertsmithiteのNMR実験に比べて1桁以上小さい値であ
る。従って、H3LiIr2O6はこれまでで最も純良なスピン液体物質である。さらに、比熱や
NMRスピン格子緩和率の低温測定により磁場誘起ギャップ状態や磁場・温度スケーリン
グ等が観測し、純粋なKitaev量子スピン液体では説明不可能な興味深い現象物理を発見し
た。
[1] G. Jackeli et al., PRL 102, 017205 (2009) .
Intensity (arb. units)
7
Li-NMR 5T
1
H3LiIr2O6
H-NMR 2T
110 K
110 K
70 K
70 K
50 K
50 K
30 K
30 K
15 K
20 K
10 K
10 K
5K
5K
H3LiIr2O6
0.01µΒ
0.02µΒ
0.9 K
1.0 K
-0.3
-0.2
-0.1
0.0
0.1
Shift (%)
0.2
0.3
0.4
-0.3
-0.2
-0.1
0.0
0.1
0.2
0.3
Shift (%)
図1:H3LiIr2O6の中の7Li-NMRスペクトルの温度依存性。