総説 神経とドライアイ 土至田 宏 Hiroshi Toshida 順天堂大学医学部附属静岡病院眼科 先任准教授 E-mail:[email protected] はじめに 涙腺支配神経 すべての臓器には役割があり,それらのほとんどは脳を中 1.概論 心とした指令系統上位からの指示に従って各々の機能を果た 涙腺分泌に関与する神経は,reflex loop- 涙腺システム 8) している。その働きは意識下になくとも交感神経と副交感神 (図) の求心路である知覚神経の三叉神経,遠心路の交感 経とのバランスからなる自律神経系によって制御されているも 神経と副交感神経とが挙げられる 9)。まず角結膜上皮に のが大半を占め,涙腺とても例外ではない。 存在する三叉神経第 1 枝末端の自由終末に存在する機械 涙腺に存在する神経は古くから三叉神経,交感神経,副 感覚受容器,ポリモーダル侵害受容器,冷受容器の 3 種 1)-3) 近年,涙腺と神経との関係 類の侵害受容器が刺激を受けると痛みや異物感,不快感 が再び注目を浴びている。その背景には, ドライアイによる眼 などが脳に伝わる 9)10)。次いで脳幹にある顔面神経運動 不快感の機序解明に関する進展をはじめ,再生医療技術を 核の一つである上唾液核近傍の涙腺核を介して遠心路で 交感神経が知られていたが 応用した涙腺再生 4)5) や,持続的な刺激を発信する超小型 神経刺激装置を用いた涙液分泌増多治療の試み 6)7) などの, ある副交感神経が興奮し,節前神経である大浅錐体神経 (greater superficial petrosal nerve;GSPN) は翼口蓋神 画期的な治療法までもが編み出されようとしているためと捉え 経節(pterygopalatine ganglion;PPG) でシナプスを置き換 ることができる。本稿では,解剖学的な見地からの基礎的知 え,節後神経は頬骨神経と合流し涙腺神経を経て涙腺に達 識の整理と,神経の重要性に主眼を置いた新しいドライアイ し,涙液分泌をもたらす 11)。副交感神経受容体のうち,涙 治療法の概略と将来性について解説する。 腺で最も関係の深いサブタイプは M3 ムスカリン作動性アセチ ルコリン受容体(M3 muscarinic acetylcholine receptory: 22 (102) Frontiers in Dry Eye Vol.11 No.2 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.
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