六道の神殺し ID:107077

六道の神殺し
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︻あらすじ︼
草薙護堂にNARUTOの力を持って憑依転生する話。基本原作沿い。
目 次 プロローグ ││││││││││
1話 ∼会談∼ ││││││││
2話 ∼模擬戦∼ │││││││
3話 ∼決着∼ ││││││││
4話 ∼媛巫女∼ │││││││
5話 ∼初邂逅∼ │││││││
6話 ∼転校生∼ │││││││
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10
22
39
55
90 70
プロローグ
その電話は、学校で護堂が帰り支度をしているときにかかってきた。
ディスプレイに表示された通知不可能の文字を見て、不審に思う。通知不可能。
これが表示されるのは、主に海外からの電話だ。それだけに電話の主が誰なのか、判
別つかない。
電話に出るか少しばかり考え、結局でることにする。
この女は、間違いなく世界の中心で輝いているのは、己だと思っているタイプだ。ゆ
この電話の主│エリカ・ブランデッリは非常に我侭な女である。
る。
開口一番とは思えない言葉である。しかし、この口調から、誰からの電話なのか察す
まあいいわ、あなたがのんびりやなのは分かっていたことだし﹂
だから。
﹁やっと出たわね護堂。この私をこんなにまたせるなんて、ずいぶんと礼儀知らずなん
1
えに、言葉が少しばかり、いや、聞く人によっては非常に不快に聞こえるものが多い。ま
あ、性根自体は悪い奴ではないのだが。
それがわかっているので、護堂のほうも特に怒ることなく、返答する。
メールにしてくれ。
﹁あのな、エリカ。通知番号が分からん時は、基本的に俺は電話に出ない。今度からは
それなら差出人でエリカだとすぐ分かる﹂
﹂
が愛しくて、声が聞きたいと思うのがおかしなことかしら。護堂のほうもそうでしょう
﹁もう、無粋な事を言うのね。メールだと護堂の声を聞けないじゃない。あなたのこと
し、いいでしょ
だが、どうだろうか
﹂
﹁私がそれで我慢できると思ってるのかしら
﹂
﹁うん、聞いた俺が馬鹿だった。しかし急に電話してくるなんて、どうしたんだよ
?
?
なにか厄介な揉め事⋮神様や魔王関連でなにかあったのか
?
また
?
﹂
﹁あのな、エリカ。俺が覚えてる限りでは、前に会ってからそんなにたってないと思うの
?
ひとつお願いがあるの
﹁察しがいいわね、護堂。ええ、その通りよ、またまつろわぬ神に関することで、護堂に
プロローグ
2
よ﹂
その言葉に護堂の、放課後を向かえ明日から休みだわーい、と言う気持ちが急降下し
ていく。だがそれもしょうがない。神が絡む事態は、いつだって世界の危機に直結する
ぐらい大事になるのだから。
ドニの奴は
?
﹂
?
などと、本来であれば、酒の席のつまみになるのが関の山だ。しかし、イタリアの、い
さらりとエリカはとんでもないことを言う。一個人を捕まえてひとつの国が消える
消滅することになるわ﹂
である護堂しかいないのよ。他の神殺しの方々に頼むと、おそらくイタリアが地上から
してサルバトーレ卿が動けない今、私が頼める相手が貴方しか⋮⋮曲がりなりにも魔王
﹁あのね護堂、サルバトーレ卿なら、貴方が山ごと吹き飛ばした時の怪我の療養中よ。そ
るだろ
どうしたんだよ。あいつなら神の相手が出来るなら、尻尾を振って喜んで飛び込んでく
なるんだ。人類全体が呪われてても納得するぞ。しかし、なんで俺なんだ
﹁⋮はあ、やっぱり神様関係か。なんで毎度の事ながら、こんなにぽんぽん世界の危機に
3
や、全世界のある事情から表にはでない者達がこの発言を聞けば、こう言うだろう。
だよね、と。
まだ一月程度だぞ。⋮でだ、俺はなにしたらいいんだ
﹂
﹁⋮⋮分かった。分かったよ。はい、俺の負けですよ。糞、前に命がけの戦いをしてから
﹁了解。俺がこの間渡したお守りあるか
つけられた人物は暢気そうにあくびをしながら、エリカの剣を指先でつかみながらこう
オーネを手元に呼び出し気配の主に向けて振り向きざまに剣を突きつける。剣を突き
で気づかなかったのだ。胸のうちの感情を押し殺し彼女の愛刀、魔剣クオレ・ディ・レ
の天才である。これは10年に一度レベルの神童だ。そのエリカが、近くに寄られるま
愕にエリカの顔が歪む。エリカは魔術世界で、齢16にして大騎士の称号を授かるほど
プツン。いきなり通話が切れた。そしてエリカの後ろに突如人の気配が現れる。驚
﹂
捨てたりしてないよな
?
﹂
⋮⋮護堂
?
好きよ。⋮とりあえずイタリアまで来てもらえるかしら、そこで詳しいことは話すわ﹂
﹁さすが話が早いわね。マイペースなのが欠点ではあるけど、その察しのよさはとても
?
?
?
﹁いま手元にあるわ。このお守りがどうしたのかしら
プロローグ
4
言い放った。
﹁どうしたんだよエリカ、俺またなんか悪いことしたか
﹂
!
﹂
きつけられた護堂は床に正座させられているのに反抗する。
じとっとした目つきでエリカは護堂を見下ろしながら言う。そしてこの言葉をたた
かしたいなんて理由からだまっていたりね
けない悪癖がたくさんあるわ。おかしなことを口にしたり、重要なことを相手をおどろ
﹁あのね、護堂。貴方は私のことをあれこれ言うけれど、あなたも根本から治さないとい
│││││││││││││││││││││││││
にいた。
さきほどまでエリカが話していた相手、数千キロかなたにいるはずの草薙護堂がそこ
?
5
﹁いやーまあね、まあね。確かにエリカの言うことも、俺は分かるよ。しかし、しかしだ。
男の子には可愛い女の子をびっくりさせて、驚かしたいという思いがDNAのなかに刻
み込まれているんだよ。この思いはきっと、何歳になってもかわらんだろうな﹂
後悔や反省の態度をまったく感じさせない口調と暢気さで、悪びれもなく頭の悪いこ
とを言い放つ。このマイペースに生きる点こそ、草薙護堂のおかしさの真骨頂だと言え
る。
しかし驚いたわ護堂。あな
?
﹂
!
は、もしスポーツの選手ならオリンピックで金メダル確実と称されるほどの天才だ。そ
が口にした長距離転移、これは魔術のなかでも最高峰に位置する代物である。エリカ
る男の子が、当然のごとく神秘の秘奥を体言することに畏怖の感情を抱く。今、エリカ
くるのを自覚するエリカだが、同時にいまこの床で反省︵形だけだが︶の正座をしてい
振り回したつもりが振り回されている。護堂の厄介な特徴に対して、頭が痛くなって
た長距離転移まで使えたのね
﹁⋮⋮はあ。このひとはどうしてこんなにあれなのかしら
プロローグ
6
んな彼女でも空間転移は使えない。いや、おそらく彼女を超える地や天を極めた魔女
や、彼女が信頼してやまない欧州最高の騎士パオロ・ブランデッリですら使えないだろ
う。そんな秘術を息をするように行う、それも数千キロも しかし、それも護堂である
ああ、飛雷神のことか。いや、なんか驚いてくれたのは目的通りで、嬉し
い、最強の称号を持つのだから。
ならば当然かと納得する。なにせこの少年は、自分が愛する上にこの世に7人しかいな
!
もしかしてこのお守りって﹂
ないと飛べないし﹂
﹁マーキング
﹁そ。それに俺のチャクラ、エリカたちは呪力っていうんだっけ
こに転移できたたけだよ﹂
?
色々と言いたいことはあるが今は
いかと無理矢理に納得する。
きるだけでとんでもないのだが。まあ、この人のおかしさは、今に始まったことじゃな
まるで使い勝手が悪いかのような物言いだが、それでも日本からイタリアまで転移で
をこめてあるからこ
いんだけど、これそんなに便利な術じゃないぞ。移動したいところにマーキングしとか
﹁長距離転移
?
?
7
﹁もう怒ってないから、正座をくずしてもいいわよ。それよりも護堂。愛する二人がこ
﹂
うしてひさしぶりにあったのだから、なにをするかなんていわなくても分かるわよね
で体勢が悪かったのもあるだろう。あっさりと後ろに倒れこむ。
さの女の子が胸に飛び込んできてふらつかないほどではない。また、正座を崩した直後
む。護堂は平均的な同年代の男子に比べ、はるかに力が強いがそれでもそこそこの大き
先ほどまでの態度はどこへやら。正座を崩した護堂の胸に甘い言葉とともに飛び込
?
﹂
?
でる。それだけであきらかな不満顔が、少し緩む。
のが不満なのか、エリカが口を尖らせている。そのエリカの頭を、また今度なと軽くな
そういいながらあっさりと上にいたエリカを押しのけ立ち上がる。押しのけられた
るだろう
﹁うーむ、エリカ。こういうのも俺は悪くないとは思うのだが、今はほかにすることがあ
プロローグ
8
不満さとは無縁の声で答えるのだった。
あげるわ﹂
﹁ふん、こんなので終わらすつもりはないのだけれど、今回はあなたの顔をたてて引いて
9
1話 ∼会談∼
ついてきてほしいところがある。エリカに﹃頼み﹄とはなんなのか。
そう尋ねた護堂に対しての、どこかに電話しながらの、エリカの返答である。
そしてエリカに共に車で移動することになったのだが、
!
サスがついてないのか
﹁エリカ、本当にこの車は大丈夫なのか さっきから、エンジンの唸り方がおかしいぞ
!
えるなと護堂は少し失礼な感想を抱く。なにせエリカの行動の方針、その大前提には
エリカの御付のアリアンナと言う人を紹介された。エリカが雇うにしては、普通に見
だがしかたない。さきほど
普段はマイペース気味で、暢気な返答が多い護堂にしては、切羽詰った口調である。
﹂
尻が痛くなってきた
!
!
分の行動を棚上げして感心したほどだ。だが違った。考えるべきだったのだ。エリカ
﹃面白いかどうか﹄がある。そんなエリカも、たまにはまともな判断をするのだなと、自
1話 ∼会談∼
10
がわざわざ直属にする以上、何かしらのおかしな要素があることを。まさか、こんなに
車の運転が乱暴だなんて
!
ていったぞ
⋮ああ違う、こっちが逆走してるのか
﹂
!
﹂
!
あなたがいないと、もしなにかあったとき誰が私を守るのかしら
らないでしょ
なくてもいいだろうに
!
それに、場所を知
こんなときに自分の力が少しばかり恨めしくなる。心が通じ合うのは、こんなときで
?
?
声が、己のチャクラー呪力を通して伝わってくるのを、護堂は感じる。
ドアを開けようとした護堂の腕を、ガシリとエリカが掴む。その手からエリカの心の
の場合はたぶん飛び降りても大丈夫でしょうね。でも逃がさないわ
﹁あら護堂、どう考えてもこの速さで飛び降りるほうが危険だと思うけれど⋮まあ、貴方
!
道で出すには、明らかにこの速度はおかしい。⋮⋮⋮ちょっと待て。今隣を車が逆走し
﹁くそ、俺は降りるぞ。どう考えても、自分で飛んでいくほうが安心だし、安全だ。一般
11
﹁大丈夫だエリカ、お前の魔術は強い。俺がいなくてもなんとかなる。場所はエリカの
呪力を追えばいける⋮⋮そうだ、だったら一緒に行こう それなら、仮に神獣がエリカ
を襲ってきても大丈夫だ。うん、そうしよう﹂
が。
だとしても面白さ第一のエリカが、こんなに狼狽している護堂を手放すわけないのだ
より速い。快適なフライトになるだろう。
片をつけれる。最強のボディーガードだ。さらに護堂の飛行能力は、魔女が使う飛翔術
確かに仮にエリカが神獣に恨みを買っていて、襲われたとしても護堂なら1分以内に
!
うが折れる。
があるのを、全く理解してくれないエリカの姿勢に︵本当は違うが︶、とうとう護堂のほ
冷徹な言葉と共に、護堂の提案は切り捨てられる。大丈夫と分かっていても怖いもの
ろ、この車と追突した相手を心配するべきね﹂
﹁却下よ。そもそもあなた、大型車が追突しても須佐能乎で守りきれるじゃない。むし
1話 ∼会談∼
12
︵諦めよう。俺にはきっと相手と、分かり合う力がないんだ。俺は⋮⋮無力だ
護堂の耳に今、おかしな会話が聞こえてきた。
まで上がってくるような感覚が消えていく。やっぱ大地が一番
︶
。そう少し涙を流す
車から降りると同時に、自身の足で大地に立つ感触を、護堂は堪能する。内臓が、口
ホテルだった。
絶望の時間が終わり、たどり着いたのはとある姫君が使っていた館を改装したという
││││││││││││││││││││
を抱くのだろうと、自分の世界に沈んで逝くのであった。
絶望が護堂の心を埋め尽くしていく。きっと出荷される牛に心があれば、こんな感情
!
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!
﹁私たちは行って来るわ。アンナはここで待っていてもらえるかしら。帰りもお願いす
るわ﹂
﹁分かりました、エリカ様。では会合が終わるまで、こちらで待機しておきます﹂
なにを会話しているのかイタリア語がさっぱりな護堂には分からないが推測するに、
帰りもあの車に乗るのだろう。そこまで考え護堂は決断する。用件だけ聞いたら、さっ
さと飛雷神で日本に帰ろう。そう決意するのだった。
││││││││││││││││││││
ホテルの中に入りカウンターによらずに、エリカは早足に突き進む。その後ろを青い
顔をした護堂が、黙々と何も聞かずについていく。そして一室の前でエリカが立ち止ま
る。
﹁護堂、わたしがよぶまで待機していてもらえるかしら。本来、あなたの身分ならVIP
1話 ∼会談∼
14
ルームで待っていてもらうのがいいのだけれど。ただ、今回はそうもいかないの﹂
エリカにしてはもうしわけなさそうな口調で告げてくる。別に護堂としてもVIP
また、なにかしらの政治的な理
ルームなぞどうでもいいので、構わないのだが、そうもいかないと言うのが気になる。
﹂
﹁別にいいぞ。ただ、そうもいかないってのはなんでだ
由か
電子書籍アプリを立ち上げるのだった。
の中にはいっていった。そして一人残された護堂は、ポケットからスマホを取り出し、
そう告げるとエリカは何も言わず、ただ目で、もっと反省しなさい、と訴えると部屋
狂ったのか。そうか、だから重要な事を言わないって怒ったわけか、納得﹂
空間を飛び越えて、一日かかる予定が、わずか10秒に短縮されたせいで、計画が全部
﹁本当なら部屋を取っておいて、俺はそこに待機する予定だった。なのに、その張本人は
たわ。そういう意味では政治的な理由になるわね﹂
来てから開かれる予定だったの。でも護堂が来た以上、予定通りに開く意味がなくなっ
﹁いいえ、違うわ。単純にあなたが来るのが早すぎたのよ。本来ならこの会合は、護堂が
?
?
15
││││││││││││││││
30分ほど経っただろうか。充電を忘れていたため、バッテリーの残量が切れかけの
スマホを眺めながら、雷遁は直流なのか交流なのか、そして発電機の変わりになれるの
か考えていた、護堂の元に部屋に入ってくれとエリカからメールが送られてきた。ちな
みに入る際に、普通とは違う方法で入ってくれとの要望があったので、エリカが持って
いるお守りを目印に、部屋の中に飛ぶ。そんな明らかに、異常な方法で部屋にいきなり
出現した人物にエリカを除く3人の人影が驚く。
そう自己紹介する護堂にいたずらを成功させた子供のような笑顔でエリカが答える。
エリカと同じ魔術師なら、日本語が通じるだろうと考え名を名乗る。
﹁始めまして、草薙護堂といいます。以後お見知りおきください﹂
1話 ∼会談∼
16
神殺しの魔王、現代ではカンピオーネとも呼ばれる人類最強の王者である。かれらは
がここに呼ばれたのか説明される。
全員がお互いの名前や立場を確認できたところで今回、なぜ神殺しの魔王である護堂
││││││││││││││││││
めたのか部屋の中にいた人たちが、護堂に対して日本語で自己紹介をするのだった。
い。護堂としては多少低く見られても、別にかまわないのだが。そんな中、驚きから覚
リカの考えを理解しているので、特に護堂のほうもエリカの口調に突っ込みを入れな
なところで、護堂と談笑じみたことをすれば、護堂自身が軽く見られることになる。エ
い。いまこの部屋にはエリカと同等の大騎士に魔術結社の総帥が2人いるのだ。そん
部屋に入る前までの軽さがうそのようなかしこまった物言いである。だが無理もな
ランデッリの願いを叶えてくれたことに感謝します﹂
﹁お越しいただき真にありがとうございます、草薙王よ。あなたの第一の騎士エリカ・ブ
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その名の通り神を殺し、神々が持っていた異能の力│権能と呼ばれる│を奪い取り常
人、いや魔術師であろうと起こせぬほどの奇跡を手足のごとく扱うことが出来る。
また、魔王となるまえの人間であったころに、本来であれば人間ごときに神を殺すこ
とができない、この当たり前の常識を打ち破り、神に勝つ偉業を成し遂げた彼らは、魔
術世界において王族のごとき敬意と畏怖を払われる。そんな神殺しが唯一、しなければ
ならない義務がある。かつて成し遂げたように、この世に降臨し災厄と破壊をもたらす
神々を殺すことだ。
そんな魔王の一人である護堂しかできない神様がらみのことと聞いていただけに、こ
れは正直護堂としても、予想外であった。
﹁まさか、エリカと戦うことになるなんてな。てか、あの人たち疑り深いにもほどがある
だろ﹂
ため息をつきながら、疲れたサラリーマンのような声でつぶやく。
よ。まあ、護堂には政治的なしがらみなんて、無縁のことだから関係がないでしょうけ
﹁あら、そうかしら。あれぐらいでないと権謀術数うずまく世界ではやっていけないわ
1話 ∼会談∼
18
19
ど﹂
あのあと自己紹介をし、エリカから告げられたのは、この人たちに護堂の力を見せて
ほしいとのことだった。
本来なら、神がらみの問題は欧州では、護堂と同じカンピオーネの一人であるサルバ
トーレ・ドニのところに、話が行く。
だがドニは、一月前の護堂との死闘での怪我が癒えてない為、神と戦うかもしれない
案件に関らせるわけにはいかなかったのである。そこで、エリカは今回7人目の魔王で
ある護堂に、頼むつもりであった。
しかし、それに待ったをかけたのがあの部屋にいた、総帥たちである。
いくら療養中とはいえ、盟主であるドニに話を通さず、外国のカンピオーネに助力を
請うなどあってはならない。また、護堂自身カンピオーネになって半年もたっていな
い。そんな経験の浅い魔王で信用できるのだろうか。これが総帥たちのだした結論だ。
ならば実力が確かならだいじょうぶなのですね。エリカがこう言い放ったらしい。そ
して護堂が飛雷神で早く日本に帰りたいんだけど、と思っている間に、エリカと模擬戦
をして力を示し、総帥たちを納得させるという流れになったのである。
﹁でもな、エリカ。別にこんなことしなくても俺がいいから話な、あんらたうまい話を
しってるんだろ。だせよ、ほらはやくよってやったら誰もさからえないんだろう﹂
どう聞いてもチンピラのようなやり方だが、事実これをされると魔術師はだれも護堂
に逆らえない。護堂に逆らえるのは、同格の魔王か神話の中の住人だけなのだから。
﹁そうね、一番手っ取り早い方法ではあるわね。でもね、護堂、この模擬戦はわたしに
とっても重要なのよ。私は前々から思ってたのよ。護堂と一度戦ってみたい。その力
﹂
を直に確かめたいって。確かに私は護堂の戦いを、近くで見てきたわ。それでも見るの
と、実際にやるのは全く違うわ
ある。
どこか夢見る少女のような面持ちで護堂の肩によりそいながら、語りかけてくるので
!
者の思考にはわからん﹂
﹁戦いに対しても情熱を注ぐ。エリカらしいとはいえ、物騒だな。俺のように平和主義
1話 ∼会談∼
20
神殺しの魔王としては異端の言葉をつぶやく。そして、そんな矛盾した言葉を見逃す
ほど、エリカは甘くない。
って力強く主張してたじゃない﹂
!
自身の尻に、振動とエンジンの唸りを感じながら。
世界の平和を。
ら今も彼は祈る。
草薙護堂16歳、彼は行動は別にして平和︵になったらいいな︶主義者である。だか
る﹂
﹁だからこそさ。叶わない願いだからこそ、主義主張になり理想としてあり続けてくれ
その言葉に対して護堂も力強く言い返す。
る限りな
﹁平和主義って思考じゃないでしょ護堂は。むしろ戦争はなくならない、人類が生きて
21
のだ。
エリカの発言を聞いた総帥たちは、その提案を聞き入れ、こちらで戦うことになった
との事。
護堂があんな場所で力を振るったら世界遺産が滅ぶ
エリカ曰く
こちらにしたらしい。
オ近くのパラティーノの丘と言う場所で、模擬戦を行う予定だったらしいが、エリカが
そしてここなら、護堂の力を存分に発揮出来るだろうとのことだ。最初は、コロッセ
そこはガルガーノ国立公園という場所だ。護堂自身は初めて来たが、自然が多い。
地面があるだけでそこは天国に変わる。護堂がたどりついた天国。
いや、実際にはオアシスなどではないのだが、先ほどまで地獄にいた護堂には
護堂が尻の痛みに耐えながらたどり着いたのはオアシスだった。
2話 ∼模擬戦∼
2話 ∼模擬戦∼
22
護堂としてはいささか、納得がいかない。いくらなんでも、世界遺産を粉砕するよう
なまねはしない。
確かに自分も山の一つや二つは破砕するかもしれないが、さすがに貴重な物を壊す気
はない。
もしそんなやつがいるとすれば、そいつは後先を考えず、その場の思考で生きるタイ
プだ。
﹂
そう考えている護堂の視線の先で、エリカが後から来た総帥たちを迎えている。
その中から一人、前に進み出る。
﹁ふむ、本当に私などが立会人でかまわないのかね、﹃紅き悪魔﹄殿
そう疑問を投げかけたのは、﹃紫の騎士﹄と名乗った人物だ。
その疑問に対し、エリカも明朗に返答する。
ります。だからこそ、今回の立会人をおねがいしたのです﹂
﹁私などとはご冗談を。﹃紫の騎士﹄の活躍はこのエリカ・ブランデッリも聞き及んでお
?
23
こう返されては、立会人を断るわけにもいかない。了解したと﹃紫の騎士﹄も気持ち
のいい返事を返す。
ところで、この﹃紅い悪魔﹄や﹃紫の騎士﹄という呼び方だが、これは魔術結社が代々
受け継いできた名前である。
この称号を預かることは、非常に名誉なことらしい。そして護堂の認識では、市川團
十郎みたいなものかとなっている。
護堂もいつかは二つ名を名乗ろうと、画策している。そしてその名前候補もすでに考
えているのだ。
閑話休題
この場にいては戦闘の余波に巻き込まれるかもしれない、距離をとったほうがよろし
いかと。
﹁エリカ、ルールはさっき言ったとおりだ。どちらかが降参したら戦闘終了。明らかに
それと同時にエリカと護堂も距離をとる。
﹃紫の騎士﹄のこの勧めに従い、二人の総帥はこの場から姿を消す。
2話 ∼模擬戦∼
24
これ以上の戦闘行為が不可能かもしれない場合は一旦中止、レフェリーの判断で決着。
あとはなんでもあり、これでいいな﹂
さきほど車の中で交わした約束を、改めて口にする。これにより審判役を勤める﹃紫
の騎士﹄もある程度判断しやすくなる。
﹂
それに対してエリカのほうも首を縦に振る。
﹁ではお互い準備は良いですね、⋮⋮⋮始め
先に動いたのは当然エリカだった。
│││││││││││││││││││││││
エリカと護堂。二人の模擬戦の口火が切られた。
!
25
﹁鋼の獅子と、その祖たる獅子心王よ。│騎士エリカ・ブランデッリの誓いを聞け﹂
エリカが呪文を唱えだす。それにあわせてエリカの呪力が高まっていく。エリカが
言霊により自らの呪力を操作しているのだ。
﹂
﹁我は猛き角笛の継承者、黒き武人の裔たれば、我が心折れぬ限り、我が剣も決して折れ
ず。獅子心王よ、闘争の精髄を今こそ我が手に顕わし給えー
!
その言葉が終わると同時、エリカの手に剣が現れる。つい数時間前に護堂に突きつけ
た剣だ。
﹂
!
込みだ。
恐らく剣道の有段者でも、このエリカの動きには対応できまい。それほどに速い踏み
い。
エリカが剣を構え、護堂に接近する。その動きは、とてもではないが人のそれではな
﹁さあ、いくわよ。クオレ・ディ・レオーネ
2話 ∼模擬戦∼
26
⋮ッ。あっぶね。今のがあたっ
だがそれに相対するは、世界に現在7人しかいない真正の怪物の一人。人の形をして
いるだけの何か。
当然護堂もその動きに対応し
たら首が飛ぶぞ。エリカ、なんでもありとは言ったが
﹁待てエリカ。いきなり心臓狙いで突きは危ないだろ
殺す気の一撃までOKといってないぞ﹂
!
と
を言っても遅いわよ
﹂
﹁護堂、勝負に待てはないわ。それになんでもありに同意したでしょう。今更そんなこ
だが、そんな願いをエリカが受け入れるわけもなく
誰でも、弱音の一つくらい吐きたくなる。
武装していて、自分は徒手空拳。
方ない。護堂の近接戦闘能力は素の状態だと、エリカと同等なのだ。その同等の相手が
情けないことを言っていた。その声に観戦していた誰かが、こけそうになる。だが仕
!
27
聞く耳持たぬ。そんな感情を声に乗せ、エリカは護堂を攻め立てる。それでも護堂は
閃光の如く、繰り出されるエリカの斬撃を必死に避ける。避けきれないと感じた時に
は、近くの石を拾い数秒だけもつ、盾代わりにする。
そんな状態が少しの間続く。護堂も石を使い反撃する。その石を迎撃するためにエ
リカの意識がそれたところで、エリカの懐に飛び込んでいるのだが、すぐにエリカに突
き飛ばされ距離を取られている。
そして、そんな状況がいつまでも続くわけがない。ついにエリカの
剣が護堂の右腕を裂く。鮮血が散る。
﹂
!
エリカが剣を引き抜こうとする。その前に護堂は剣を握り、エリカに対して前蹴りを
刺さった。明らかに致命傷の一撃。護堂の口から血が漏れる。
きが放たれる。
護堂の顔が痛むに歪む。痛みに護堂の意識が奪われる。その隙を逃さず、胴を狙い突
﹁⋮ッ
2話 ∼模擬戦∼
28
放つ。
剣を護堂の腹に残し、その蹴りを避けるために後ろにバックステップでエリカが下
がっていく。
どうみても勝敗はついた。草薙護堂は腹に剣を刺され、血を吐いている。たいして、
エリカ・ブランデッリは無傷。
そう判断し、やはり魔王とは言っても半人前かと﹃紫の騎士﹄は失望する。最初に会っ
たときに、部屋に空間転移で来たのには驚いたが、その腕前が実戦に伴わないのでは話
にならない。背に腹は変えられないが、かの狼王をイタリアに招かなければならないの
か。
そのことを考えながら、この模擬戦を終了させようとしたときにエリカが護堂に対し
て、明らかに怒りのこもった声で話しかける。
﹂
!
そう言葉を叩きつけられた護堂は腹の剣を抜く。そして血が大量に傷口から湧き出
ないけど、少しは真面目にやりなさい
じゃないでしょうね。それなら、私に対する侮辱よ、その行為は。本気を出せとは言わ
﹁どうしたの護堂、いつもの動きとは全く違うけど。まさか、私相手に手加減しているん
29
2話 ∼模擬戦∼
30
る。
この量では普通なら大量出血によって、この少年は死ぬ。この戦いを見守る全員が同
じ感想を抱く。
だが、そうはならなかった。
護堂の腕と腹の傷が煙を立てながら、塞がっていく。たったの5秒程度で、死ぬほど
の重症が完治する。
異常なまでの自己治癒能力。護堂が持つ能力のひとつだ。そしてその光景を見て、エ
リカが笑う。
分かっていたのだ。護堂はこの程度では死なない。なにせ、サルバトーレ卿に上半身
と下半身に分断され、
内臓が零れ落ちても生きていたのだから。そして護堂が力を見せたがらないのなら、
出させるまで
そして朗々と呪文を唱えるのだ。
エリカの元に、護堂が足元に投げ捨てた剣が空を飛び、戻る。
!
!
││││││││││││││││││││
戦いが幕を開ける。
ダンプカーサイズの獅子と170半ば程度の少年。本来であれば、絶望的な戦力差の
その銀の獅子が本物のように動き出し護堂に襲い掛かる。
が違う。
ついには銀の獅子へと変貌する。そして、魔術で生み出された獅子だ。彫像とはわけ
形を変えていき、
膨張し、巨大な金属の塊になったのだ。しかもそれで終わらない。金属の塊は徐々に
どり着く前に変化する。
そう言い終わると、エリカは護堂に向かって剣を投げつける。その剣が護堂の元にた
我は汝にこの戦場を委ねる﹂
!
﹁鋼の獅子に指名を授ける。引き裂き、穿て、噛み砕け 打倒せよ、殲滅せよ、勝利せよ
31
2話 ∼模擬戦∼
32
護堂は獅子に襲われながらも、自分の世界に耽っていた。この模擬戦はエリカは自分
にとって、重要な物だといったが護堂にとっても、重要な場である。生まれたときから
自身に備わっていた、異能の力と前世の記憶の一部。
前世のことはほとんど思い出せないが、なにかがあって自分はこの異能の力を授けら
れた。どうして、授けられたのか分からないが、このことは恐らく何年生きても分かる
ことはないだろうと思っている。
重要なのはこの力が本来なら自分のものではない事だ。もし自身に前世の記憶が少
しでもなければ、特別性に浸り、今とは全く違う性格になっていただろう。しかしそう
はならなかった。
そして護堂は、この力とは別に自分で獲得した力を欲した。なにせ、どうして備わっ
ているのか、分からないものだ。ある日いきなり使えなくなってもおかしくない。当然
あるものが、ある日消える恐怖。それを感じた幼い護堂は、もし喪失したとしても、代
わりになるようにと己の体を鍛えた。
だが異能の力を全く使わないわけではない。なにせ元が強大な力だ。もし、暴発でも
したら東京が消える。それを念頭に、異能の力の制御の練習も始める。そうして、護堂
は自らの力の制御と体を鍛えるのに、これまでの人生の大半を費やしてきた。そうして
33
培った力を護堂自身も、試してみたかったのだ。
異能の力を使えば、神が相手でも戦うことが出来る。これは、経験上知っている。な
らそれとは別。自分で鍛えた力が、どれくらいの相手までなら通じるのか。それを、確
かめたいと思う心が護堂の中にあった。そしてエリカならその相手にぴったりだ。自
分が知る中でもとびっきりの天才。相手としては十分。エリカには言わなかったが、そ
れくらい護堂にとっても絶好の機会だったのだ。
結果は腕を切られ、腹を刺されたが。この結果に、護堂は内心落ち込む。自分の本来
の弱さに。特別な力がなければ、自分はこの程度だと。それでも、この戦いを降参はし
ない。それはエリカを裏切る行為だ。車の中での会話、そのときの、護堂との試合に本
当にうれしそうな顔をみせたエリカ。あの笑顔を裏切る真似はしたくない。
だから、己で鍛えた体で戦うのはここまで。ここからは、異能の力を使う。そしてこ
の力を総称し、護堂はこう呼ぶ。
六道仙術と。
││││││││││││││││││││
銀の獅子に吹き飛ばされた護堂の体が、木に叩きつけられる。それを見た﹃紫の騎士﹄
がさすがに止めようとする。いくら自然治癒力が高くても、あの質量にすでに何十発も
殴られているのだ。
すでに護堂の服は原型をとどめていない。しかし止めようとする騎士に対して、エリ
カが目で訴える。
まだよ。
﹂
!
轟音。その光景にさすがの大騎士も目を逸らす。あの腕の下がどのようになってい
に振り下ろされる。
うとする。だが間に合わない。無慈悲にも獅子の前腕は立ちあがりもしない、草薙護堂
そう宣言し、今まさにとどめの一撃を加えんとする銀の獅子に対して魔術を行使しよ
みるのは、騎士道に反する。あなたが止めても、私はあの獅子を止めるぞ
﹁しかし、
﹃紅い悪魔﹄殿。もう草薙王は死に体だ。反撃しない相手をこれ以上嬲るのを
2話 ∼模擬戦∼
34
35
るのか、想像するだけで目をつぶりたくなる。
そして、エリカに抗議しようと口を開いたところで
呪力が爆発した。
あの獅子の腕の下から、桁違いの呪力が噴出しているのだ。その莫大な量に大騎士の
心臓が止まりそうになる。そしてそんな騎士の前でゆっくりと、銀の獅子が上に浮いて
いく。
違う。浮いているのではない。何かに持ち上げられているのだ。だれが持ち上げた
のか。そんなものは決まっている。
草薙護堂だ。草薙護堂が数十トンある獅子を軽々と持ち上げているのだ。
その護堂自身にも先ほどまでとは全く違う変化が起きている。ぼろぼろになってい
たはずの服、それが黒のズボンと黒のTシャツによくにた服に変化している。
そしてその上に白いコートのような物を羽織っている。﹃紫の騎士﹄は日本の文化に
疎いため、分からないが、それは羽織と呼ばれる代物だ。その羽織には、背中に勾玉模
様が九つ描かれている。そして、黒髪のはずの護堂のそれが、白色に変色している。そ
して注視すれば気づいただろう。護堂の日本人らしい黒目、それが紫色に変色し波紋模
様が広がり、その波紋を顕わしている黒の線上に、勾玉に良く似た模様ー巴と呼ばれる
紋様が等間隔で三つずつ配置されているのに。
あきらかに神殺しの魔王を超え
あれが、先ほどまで﹃紅き悪魔﹄の獅子に弄ばれていた少年
その姿を見るだけで、大騎士の体の震えが止まらない。
なのか
?
?
こ、こんな、こんな呪力が存在していいのか
ている
?
︶
!
しかし、投げられた獅子のほうはたまったものじゃない。その軽やかさからは、想像
だ。
士の視線の先で、護堂が動く。持ち上げていた獅子の体を上空に投げる。軽やかな動き
恐ろしい想像が大騎士の脳内を駆け巡る。そして、震える体を止めようとしている騎
のでは
いや、違う。神殺しの魔王どころではない。これは、まつろわぬ神すら上回っている
!
︵⋮な、なんなんだあれは
2話 ∼模擬戦∼
36
37
できないほどの速さで上空千m近くまで飛んでいったのだ。そして獅子を投げた結果、
護堂の手が空く。
その護堂の手に呪力が集中していく。集まった呪力は、護堂の手のひらの上で高密度
に圧縮されていく。圧縮された結果、目に見えるほどの呪力の球が完成する。大きさは
サッカーボール程度の大きさだ。しかし、それに込められた呪力は尋常じゃない。あれ
を作るだけで、エリカがあと100人集まって命を振り絞ってようやくできるかどう
か。そんな術を簡単に行う。
その球ー護堂は螺旋丸と呼んでいる。その螺旋丸を、空中にいる獅子に向かって護堂
は投擲する。音を軽々と超え、飛んでいった螺旋丸は獅子に着弾。一気に圧縮された呪
力が開放される。
呪力の渦とでもいうべきか。それに飲まれた獅子は抵抗すら許されず、その身を削ら
れ消えていった。
││││││││││││││││││││
簡単にエリカの魔術を粉砕した、護堂がエリカと大騎士のほうを向く。その行為に、
騎士の心臓が死神に掴まれた様に萎縮する。今目の前にいるのは、まぎれもなく王だ。
先ほど、半人前などと評した自分を殴り飛ばしたい。
その一応人の形をしているだけの、怪物が口を開く。なにをしゃべるのか。エリカに
﹂
俺それを粉々にしちまった
対する恨みか。止めなかった騎士に対する神罰か。そう畏怖の念を抱いている騎士と、
何も言わないエリカに対して
許してくれるよな、な
?
けど、大丈夫だろうか
!
い気の抜ける謝罪に、こけそうになるのだった。
エリカに対する謝罪であった。そしてエリカを含む全員が威圧感と、それにそぐわな
?
﹁すまん、エリカ。確かあの剣って大事なものなんだよな
2話 ∼模擬戦∼
38
3話 ∼決着∼
模擬戦とはいえ、戦闘中に謝罪をする。その行為のちぐはぐさにエリカの戦意が
抜けそうになる。﹃紫の騎士﹄も今ので落ち着いたのか、先ほどまでの震えが止まって
いる。
騎士が今も、すまない、本当にすまないと謝っている護堂に疑わしい目を向ける。
そして、エリカに向かってその疑問を投げる。
﹂
それと
も、こちらが萎縮しているのを見て我々の緊張を解くために、わざとやっているのい
﹁紅き悪魔殿、ひとつ聞きたいのだが。あれは、草薙王は素でやっているのかね
返す。
と思った心を返してほしい。エリカはなんとか、眉間を揉み解し騎士に対して、答えを
たと思ったら、六道仙人モードを出してきたので、ついに真面目にやる気になったのか
その疑問に、エリカの頭が痛くなってくる。やる気がないように見えた動きをしてい
?
?
39
﹁護 堂 の あ れ は 天 然 よ。絶 対 に 治 ら な い 不 治 の 病 み た い な も の ね。ど ん な こ と を し て
も、驚かないつもりだったのだけれど、さすがにあれはないわね﹂
エリカが騎士の前だというのに、草薙王と言う呼び方をやめる。どだい、護堂に威厳
を醸し出せというのが無茶だったかと、考えを改める。なんにしろ今は、護堂に壊され
た剣を直すのが先かと手を前にかざす。そのエリカの手に、空から塵が集まってくる。
集まった塵は形を変え、護堂が粉々にしたはずの剣に形になる。
だから、
!
﹂
!
ほどまで、弛緩していた騎士は急激に増した緊張感に、足が無意識に後ろに下がってい
とたんに、あの威圧感が戻ってくる。視線だけで、後ろに飛ばされそうなほどだ。先
下ろす動作をしていた護堂も構えを取る。
その頭痛を振り払うように何度か、首を振り剣を構えなおす。それにあわせて、胸を
頭痛が強まるのを感じる。
そう護堂に呼びかけると、謝るのをやめ明らかにほっとした顔をする。その光景に、
いいかげんその謝罪を止めなさい。それと模擬戦の続きをやるわよ
﹁安心しなさい、この剣は私が生きている限りは、仮に溶かしても元に戻るわ
3話 ∼決着∼
40
る。
無理もないかとエリカは思う。なにせ、今の護堂は持てる力を、十全に発揮できる状
態だ。すなわち、神を殺し、同格であるサルバトーレ卿を半死半生に追い込んだ力を、完
全に使える様になっている。前に護堂から聞いた話が、エリカの脳内に再生される。
﹂
││││││││││││││││││││
﹁六道仙人モード
に、危険な代物だ。そんでもってそれは、おれ自身を蝕むくらいに強い﹂
﹁エリカも知ってるように俺の力は、正直俺自身、どこに底があるのか分からないくらい
堂は返答する。
エリカが不思議そうに、護堂の言葉に相槌を打つ。その相槌に対し、ああそうさと護
?
41
それはエリカにも分かる。実際、もともと持っている力が大きいゆえに、生まれなが
らにして体が病弱になり、満足に外も出歩けないほど、呪力に体が悲鳴を上げる事例が
欧州の魔術界でも確認されている。人間の脆弱な体では、己の物なのに耐えれないの
だ。
そこまで考え、護堂が何を言おうとしているのかを察する。
﹁つまり、護堂はこう言いたいわけね。護堂自身の体は常人と変わらない。その体で全
力を出そうとすると、肉体が崩壊するかも知れない。それを防ぎあなたの身を守る為の
方法が、六道仙人モードだと﹂
いくらでもいるし、術にしても護堂と比べることができる人間は片手で数えるほどだが
エリカに匹敵するほどだ。だが、それで神に挑めるほどではない。エリカ以上の達人は
に述べるとそれほど凄くない。確かに術の腕前は怪物の領域にある上に、体術の腕前も
この説明で、前々から護堂に対して抱いていた疑問が氷解する。普段の護堂は、正直
ど、権能に匹敵する不思議な術が多く使えるようになる﹂
に引っ張りだせるようになる。それ以外にもエリカは見た事もあるし、分かるだろうけ
﹁その通り、このモードになれば普段の体じゃ使えないほどのチャクラ、⋮呪力を最大限
3話 ∼決着∼
42
43
存在する。
自己治癒能力や呪術耐性の高さなどは、人外の域なのだが、それ以外は総合して人類
最高峰程度に、普段の護堂は収まっている。どうして普段の護堂は、あの最強状態の時
に使っている六道仙術や瞳術を使わないのか、不思議だったのだ。なんのことはない、
通常の護堂では、使うことが出来なかったのだ。
││││││││││││││││││││
今の護堂は正直に言うと、エリカでは絶対に勝てない。あの六道仙人モードは、ただ
護堂の体を呪力に耐えれるように、作り変えるだけに留まらない。あの状態になった護
堂は、まず呪力や攻撃を察知する感知能力が増大する。
数百キロ先の呪力を感知し、誰の呪力なのか判断できるほどだ。
また、あの眼が厄介な代物である。まず眼をあわせてはいけない。眼を見るだけで、
護堂は相手に幻を見せる。この幻を見せる過程で、相手の精神に干渉する。この原理を
応用し、幻をみせた相手を自分の思い通りに操る人形に変えることも出来る。この幻術
3話 ∼決着∼
44
には、カンピオーネクラスの呪力耐性がないと、抗うことすらできない。
このほかにも、相手の魂を抜く、呪力を吸収する、視線の先に黒い炎を発生させる、異
空間に視界内の物体を飛ばす、記憶を読む、ブラックホールを発生させるなど、明らか
に眼が関係ないだろうと言いたくなる能力のオンパレードである。
そのうえ眼である以上、視ることにも長けている。本来呪力は眼に見えない。護堂が
やったように、極限まで圧縮すればいけるかもしれないが、普通は視ることが出来ない。
その呪力を視覚情報として、護堂は捉える。そのせいで護堂は呪力から、おおよそど
んな術や権能なのか判断できる。そして、未来視に匹敵するほどの見切りまで備える。
攻撃感知とこの見切りをあわせることで、護堂は神速を捉え、軍神や武神が相手でも
引けを取らない体術を披露する。
そして、何よりも呪力が最大限に発揮できることで、普段の護堂では使うことのでき
ない仙術が開放されるのだ。はっきり言おう、この生物をこの世に生み出した奴は何を
考えているのだと。
パワーバランスという言葉を知らないのか。そうエリカは改めて護堂の戦力分析を
して、思わず汚い言葉を使ってしまう。
弱点でもないかと分析したのだが、特に見当たらないのが腹が立つ。だが構わないだ
ろう。こんな子供の考えたような、出鱈目超常怪物と今まさに試合をしているのだか
45
ら。
││││││││││││││││││││
エリカは、最初のように踏み込もうとはしない。踏み込んだところでそのまま捕まえ
られて、締め落とされるだけだ。エリカは、切り札である﹃ゴルゴタの言霊﹄を使うか
考がる、が、使っても意味がないとこの思考を切り捨てる。護堂は陰陽遁により権能と
体術以外通用しない。そのうえ、あの呪力量だ。エリカの魔術など、紙吹雪の様に散ら
されるだけだろう。
さて、こうなるとエリカからは仕掛けられない。エリカから仕掛けないことに気づい
たのか。護堂が今度は、先に動く。軽いジョブ。そして大気が弾けた。
弾けた大気はエリカの横を通過、森の一角を吹き飛ばす。それにエリカは全く反応で
きなかった。当たり前だ。今のに反応できるのは、カンピオーネか神々、そして技量だ
けは
それらに並べる聖騎士くらいだ。
さすがに、エリカの腰が抜けそうになる。いくらなんでも、実力差がありすぎる。今
エリカの横を通った死神、あれですら護堂の拳に大気が押されたに過ぎない。もし、あ
の拳が直撃すればどんな防御魔術を使っても、防げない。その腰が引けた状態のエリカ
に護堂が降参を促す。
﹂
!
を示せという約束をこれで果たせただろう。
しませたくはないが、それ以上に傷付けたくない。自分の目的も達成し、エリカとの力
護堂が手加減をしてもエリカを傷つけないようにするのは難しい。護堂はエリカを悲
だ。確かに、どちらも現状は無傷。しかし、ここから本格的な戦闘が始まれば、いくら
護堂の降参を促すにしては、悲痛な叫び。護堂は本気でこの勝負を終わらすつもり
降参しないなら、心情を曲げてでも俺が降参してこの勝負を止めるぞ
エリカとしてはもっとやりたいんだろうけど、頼む。降参してくれ。もし、エリカが
嫌だ。
ら。だから、止めよう。これ以上戦って、エリカを死なせるようなことになったら俺は
﹁エリカ、もういいだろう。やっぱりお前はすごいよ、俺にこの状態を出させたんだか
3話 ∼決着∼
46
﹂
それでもエリカは動かない。どうするのか、悩んでいるのだ。そのエリカの元に、護
それ以上近づくなら、戦闘続行と見るわよ
堂が近づいていく。
﹁護堂
!
!
睡魔が襲ってくる。エリカの体から力が抜けていく。
づく。そして、エリカと護堂の眼が合う。エリカが気づいたときには遅かった。ひどい
そう言いながら護堂から離れようとして、体を動かしたさいに護堂の顔が間近まで近
れど、今することじゃないでしょ﹂
﹁⋮ちょ、ちょっと、護堂。今は戦っているのよ 情熱的な抱擁も私としては構わないけ
恋人に対するような抱擁。
そしてエリカの体を護堂が抱き寄せる。だが、それは攻撃のためではない。むしろ、
護堂の首に当たる。だがそれだけ。肉に食い込みすらしない。
それでも、護堂は止まらない。そんな護堂に対して、エリカは言葉通りに剣を振るう。
?
47
﹁⋮ ご、ご ど う。ひ ⋮ き ょ ⋮ う よ。こ ⋮⋮ さ な ⋮⋮⋮ て ⋮ こ ⋮⋮ め の ⋮⋮⋮⋮ ふ
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮き﹂
そこまで言ったところでエリカは夢の中に落ちていくのであった。
││││││││││││││││││││
エリカが眠ったことで、この模擬戦も終了した。眠るエリカを、地面に落ちないよう
﹂
にお姫様抱っこをした護堂の元に姿を消していた総帥と、護堂の気迫に押され、退避し
ていた騎士が集まってくる。
まさか、こ、殺したのですか
!
?
だと分かるだろうに騎士に向かってジト目を向ける。今の護堂の眼ー輪廻写輪眼に、そ
騎士が護堂を糾弾する。護堂はエリカの胸が上下しているのをみれば、寝ているだけ
﹁紅き悪魔殿はどうされたのですか
3話 ∼決着∼
48
んな目を向けられた騎士はまた護堂から離れる。そして、総帥たちが怯えながら護堂に
対して勝利の賞賛を送る。
﹁こちらは、ゴルゴネイオンと言います。いまから2月ほど前に、ある海岸に打ち上げら
が姿を現す。
そういいながら、総帥が魔術でトランクを呼び出す。その中から、一枚の黒いメダル
﹁おお、そうでしたな。今回、草薙王にはこの神具を預けたかったのです﹂
だ。
い。そしてアンナさんに預けるか、自分の手で腕に眠る姫を早くベットに運びたいの
護堂としては、そんな言葉は要らないので今回どうして自分を呼んだのか教えてほし
の一端とはいえ空恐ろしいものを感じましたよ﹂
﹁それほどの呪力を保有しているとは思いもしませんでした。また、その顕身の力、ほん
﹁あなたの権能、確かに拝見させていただきました。まさか、これほどとは﹂
49
れたのです。そして、この神具を狙っているまつろわぬ神がいることを霊視により知る
ことが出来たのです。
我々の手にあっても、神からは守ることはできますまい。しかし、これほどの力をも
つ御身であられるならきっと大丈夫でしょう﹂
総帥の手から護堂にメダルが手渡される。メダルを持っている間は、エリカを空中に
浮かす。そして、メダルを視た護堂はぽつりと呟く。
﹁ゴルゴン、メデューサか。かなり古い代物だな。これは、蛇か。蛇の力を蓄えているん
だな。⋮⋮なるほど、もしこれが神の手に渡ればその神は地母神に戻れるわけか。とな
ると、こうするのが一番だな﹂
輪廻写輪眼の力で、メダルを解析した護堂は呪力を練り上げる。護堂の手の中にある
黒いメダル。そのメダルがその黒色よりもなお黒い、奇妙な紋様に覆われていく。つい
まさか、メダルを使って何か良からぬことをするおつもりで
にはメダル全体が完全に塗りつぶされる。
﹁な、なにをされたのです
!
3話 ∼決着∼
50
すか
﹂
オーネらしい魔王なのか。そう思う総帥たちだが
まさか、この王も実は神との戦いに楽しみを見出したり、混乱を引き起こすカンピ
!
なんでもないようにさらりと言う。いま行われた偉業に流石の総帥たちも護堂が何
分からないでしょうね﹂
も、
空間に封印された神具には手をだせません。それどころかメダルがもうどこにあるか
﹁更に万全を期すために、神威空間に転送しました。もう大丈夫ですよ、たとえ神でも異
まったメダルは、護堂の右眼に吸い込まれたのだ。
護堂は総帥たちを安心させるために、なにをしたのか説明する。そして、漆黒に染
はもたないですけどね﹂
﹁いえ、この神具を六道仙術で封印しただけですよ。ただ、即席の封印なんであまり長く
51
3話 ∼決着∼
52
をいっているのか、最初理解できなかった。だが、徐々に護堂の言葉の意味を分かり、こ
の日最大の驚きを得る。
今言ったことが本当なら、草薙護堂は破壊の力だけでなく、封印術のようなものを、し
かも神具を封じれるほどの強力な権能を行使できると言うことになる。そしてその力
は、現在あらゆる魔術結社が欲する物だ。魔術結社が行う仕事の中に、神具や魔本など
の処理がある。しかし、物によっては最高位の魔術師が何日も係り、それでも処理でき
るか分からないものがある。
そして、ゴルゴネイオンはその処理できない物であった。それを、わずか一分足らず
で封印する。事ここに至り、なぜエリカ・ブランデッリが草薙護堂こそが今回、最も向
いていると推薦したのか知ったのだ。
戦闘力としてではなく、その特殊性こそを頼りにしたのだと。
さきほど、総帥たちは最大の驚きを得たが、彼らは知らない。護堂がまだまだ奇跡を
見せることを。
護堂が森に向け手を突き出す。その行為にまた、何かするのかと関心が集まる。
護堂が手を向けたのはさきほど己の拳の余波で吹き飛んだ木々たち。その木々たち
が元の形に戻っていくのだ。この行為もわすが数秒で終わる。
﹁今のは一体全体、何をされたのですか﹂
驚くのも疲れたのか、能面のような顔で、誰かが護堂に聞く。そして、聞かれた以上
護堂も答えるのだ。
して、それぞれ草薙護堂に別れの挨拶をし、この場を離れるのだった。
今しがた見た数々の奇跡。自らの中で処理できないなら、見なかった事にしよう。そ
﹁ああ、今から家に帰っては深夜帰りになるな。はは、妻に怒られるな﹂
﹁そういえば書類がたまっていたな。帰って片付けなくては﹂
﹁おお、もういい時間ですね。私は、娘との食事があるのでこれにて失礼﹂
す。
総帥たちは驚くのではなく、乾いた笑いを漏らす。そして彼らは、ひとつの判断を下
た所には木を生やしたんです﹂
﹁木遁と陽遁の力を使い、残っている木に生命力を与え戻しました。根っこからえぐれ
53
そして眠るエリカと共に残された護堂はひとり寂しく呟く。
のであった。
いなりに宥めエリカを預け、そんな彼女から逃げるように、護堂は飛雷神で日本に帰る
彼女が酷く怯えた為解除。そしてなんとか、涙目になっているアンナを言葉が分からな
ろに、護堂は戻った。その際六道仙人モードから通常状態に戻っていなかったせいで、
その後、土遁を使用し土を整え、エリカを抱っこし、主人を待っていたアンナのとこ
││││││││││││││││││││
相変わらずピントがずれていた。
けどさ。だからって、あんなにさっさと帰らなくてもいいだろうに﹂
﹁そんな怖がらなくてもいいと思うんだけどな。確かに、俺の力は自分でも怖いほどだ
3話 ∼決着∼
54
4話 ∼媛巫女∼
東京タワーの近くに、神社や仏閣が多い地域がある。その中のひとつ、七雄神社で一
人の巫女が身支度を整えていた。
少女の名前は万里谷祐理と言う。祐理はいつも通りに、自らの茶色がかった、黒髪を
櫛で梳く。その櫛が突如折れた。
││││││││││││││││││││
それでも、祐理の直感は嵐の到来を予感していた。
ない。
非科学的な感想だが、彼女はこの出来事になにかを感じていた。その何かは、分から
﹁不吉だわ。なにか良くないことが起きる前兆でなければいいのだけれど﹂
55
身支度を整えた祐理は、拝殿に向かう。その途中、見知った人たちに出会い挨拶をす
る。挨拶をされた大人たちは、祐理に向かい、丁寧にお辞儀をする。
﹂
10代の少女にするには、馬鹿丁寧な挨拶。だがそれも仕方ない。祭神を除けば、彼
女がこの神社で最も格が高いのだ。そんな祐理に声が掛けられる。
﹁やあ媛巫女、お初にお眼にかかります。少しお時間をいただけますかね
?
胡散臭さを感じるしゃべり方と軽薄さ。そのどこか道化じみた人物は、祐理に近づい
てくる。その足からは、玉砂利の上なのに音もしない。
ただものではない。
﹂
?
を覚える。
名乗りながら、名刺を祐理に渡す。その名刺に書かれた肩書きに、不審を祐理は不審
﹁や、これは失敬。申し遅れましたが、私、甘粕と申します。以後お見知りおきを﹂
﹁⋮あなたは
4話 ∼媛巫女∼
56
﹁正史編纂委員会の方が、どのような御用があるのですか
﹂
それによりこの世の過去、未来、現在に存在する情報を知ることが出来る。ただ、万
アカシャの記憶、いわゆるアカシックレコードに干渉する。
この青年ー甘粕冬馬が称賛するように、祐理の霊視の力は絶大だ。霊視ーこの技術は
力を求めに来たのです﹂
﹁またご謙遜を。世界有数の霊視能力の保持者、そんなあなただからこそ、我々は今回呪
﹁⋮私ごときにお手伝い出来る事など、そうないと思いますが﹂
た。お許しください﹂
そこで、媛巫女の力をお力を借りたいと思い、ぶしつけにも訪問させていただきまし
痛くしているんですよ。
﹁実はですね、この国始まって以来の大災厄の種、とても困った問題が最近上層部の頭を
祐理になんの用なのか。
祐理は、目の前の20代後半の男性に質問する。一体、日本呪術界を統括する組織が
?
57
能の力ではない。並みの霊視では、目的の情報にアクセスすることが出来ない。そのた
め本来は霊視をもつ人物を掻き集め、人海戦術で行う必要がある。しかし、祐理は違う。
彼女は単独で、望む事象を知る。
現在、委員会で浮上している最優先事項。それを解決するためには、この霊視が必要
になる。
話を
?
﹂
﹁あなたには媛巫女として、委員会に協力する義務があります。おわかりですね
聞いていただきますよ﹂
﹁⋮⋮わかりました。では、私に何をしろと
?
に、甘粕の言葉は続く。
そして祐理にとって、いや世界中の魔術師の恐怖そのもの。その連想を断ち切るよう
古の魔王、最強の怪物。爛々と輝くエメラルドの瞳。
カンピオーネ。羅刹の君。この言葉は祐理にとある魔王を連想させる。現存する最
真偽を確認していただきたいのです﹂
オーネが生まれた可能性があるのですよ。そして、その少年が本当に羅刹の君なのか、
﹁⋮我々も賢人議会のレポートで知ることができたんですがね、どうもこの国にカンピ
4話 ∼媛巫女∼
58
﹂
!
術を学んだ方なのですか
それとも、武術を修めておられるとか
﹂
?
が苦しむことになる。ならば、例えトラウマに関することでもやらなければならない。
は、まつろわぬ神と変わらない。それでも、誰かがやらなければこの国の、ひいては民
魔王がらみである以上、本気で取り掛かる必要がある。祐理にとってカンピオーネ
?
﹁その草薙護堂と言う方について、詳しく教えてください。私たち同様、なにかしらの呪
る必要がある。そのためにも、まずは本物なのか確かめなければならない。
本当に草薙護堂が神殺しなら正史編纂委員会は、彼との付き合いをどうするのか考え
し、こうしてレポートがある以上、確かめる必要があります﹂
﹁同感です。だからこそ、私たちもその少年、草薙護堂が本物だとは思わなかった。しか
な奇跡を起こせる人物が日本にいたなんて
﹁⋮信じられません。人間が王になるためには、神を殺める必要があるはずです。そん
バンにあっている。あなたなら、本物かどうかの鑑定が出来るはずです﹂
﹁あなたにお願いする理由が分かりましたね。あなたは幼い頃に、デヤンスタール・ヴォ
59
﹁呪術や武術に関しては、素人のはずなんですよ。彼の家は、そういった物に関ることは
ない家系ですからね。ただね、どうも奇妙なんですよ﹂
そう言いながら、紙の塊を祐理に差し出してくる。
しかし、賢人議会のレポートは違う。草薙護堂をこう評していた。
それにしたって人間を逸脱しているわけではない。
が平均値を上回っているくらいだ。
などもしていなく、学校の成績の方も平均的。他人と違うところは、体力テストの結果
委員会が調査した限りでは、草薙護堂はどこにでもいる平凡な少年だ。特にスポーツ
惑する。
祐理は資料を斜め読みだが、一通り目を通す。そして、情報のあまりの食い違いに困
が食い違うんです﹂
んでいただければ分かるのですが、レポートに書いてあることと、委員会で調べた情報
﹁それは、賢人議会のレポートと草薙護堂に関する情報を印刷したものです。それを読
4話 ∼媛巫女∼
60
61
││││││││││││││││││││
草薙護堂はメルカルト及びウルスラグナを滅ぼし、カンピオーネへとなられた。しか
し、現在彼が持つ権能、これらは依然謎に包まれている。
確かに草薙護堂は、権能と思わしき能力を行使する。だが、それらは先ほど述べた二
柱の性質と異なる。このことから、草薙護堂の振るう能力は権能ではなく魔術に近いも
のだと伺える。
以上の理由から草薙護堂は元々、天仙級の術者だと推測する。そのため、彼と関りを
持つ者は彼を魔王に成り立ての半人前と侮ってはならない。
彼は奇跡を持って神を殺したのではなく、勝つべくして神に勝ったのだから。
││││││││││││││││││││
﹁媛巫女が困惑されるのも、無理ありませんね。調査結果ではこの少年は白です。なの
に、術の腕前は人類を凌駕していると記されている。しかし、そんな人間はいません。
生まれるわけがないからです。その為、私の上司は一つ仮説をたてたんですよ﹂
﹂
﹂
わざわざ指を立てながら、説明する。その仮説に祐理も興味を引かれる。
﹁⋮どのような仮説なのでしょうか
﹁そうですね、⋮ところで媛巫女は神隠しをご存知でしょうか
ている。
話題が変わる。なぜ話題を変えたのか、祐理には分からないが、神隠しぐらいは知っ
?
?
神隠し。人がなんの前触れも無く失踪することを、神の仕業と考える概念だ。だが、
いている事件のことですね﹂
﹁⋮甘粕さんがおっしゃりたいのは、世間一般の意味での神隠しではなく、6年前から続
4話 ∼媛巫女∼
62
63
6年前からこの言葉は日本の呪術師の間で、全く違う意味を持つ。
神獣の神隠し。草薙護堂の存在が発覚する前に、委員会を悩ませていた事件の名前で
ある。言葉通り、神獣がこつぜんと姿を消すのである。
神獣は自然発生する。そして、この獣はただの獣とはわけが違う。もし、熊や猪のよ
うに人里に下りると、災害の如き被害が生じる。その為、委員会は神獣の発生を確認す
ると、すぐに討伐隊を編成する。そして、いざ討伐隊が出撃しようとすると、その神獣
が子猫や子犬に思えるほどの巨大な呪力が、観測されたのだ。
そして、出撃した隊が現場に着くと、その呪力の主も神獣もいなくなっていたのだ。
そして委員会は、まつろわぬ神が降臨し、神獣と共に姿を消したのだと思っていた。
だが不思議な事に、神獣が消えただけでそれ以降特に何もなかったのである。それら
の事情から、神獣の報告は間違いで、神と思わしき反応も観測手の勘違いで終わったの
だ、
その時は。しかし、終わってなどいなかった。また神獣の出現報告が委員会に届けら
れる。それに呼応して同じように神と思わしき呪力反応が捉えられる。そして、また姿
を消す。
それがこの6年間、数件起きた。
日本にはまつろわぬ神がいる。それを、委員会の古老と呼ばれる者たちに相談なども
したが沈黙。かくして神は間違いなくいるのに、神獣をどこかに連れ去るだけでそれ以
外は何もしない。
そんな奇妙な事件がこの国では起こっている。
﹁神獣の神隠し。連れ去った神がどのような意図で、この行為を行っているのかわから
ないために、この事件が危険なのか、そうでないのか誰も判断できず、問題そのものが
宙に浮いている状態にあるんですよ。ただ、この事件の真相をもしかすると明かすこと
が出来るかもしれない。うちの上司はそういっていましたね﹂
われているはずです。しかし、そうはなっていません。なので考え方を、変えたのです。
﹁いえね、簡単は話し何ですよ。まつろわぬ神が降臨しているなら、この国は大災害に襲
答 え は 簡 単 で す。当 時 す で に 魔 王 と な っ て い た 草 薙 護 堂 が
けれど、どう考えても現存する魔王の誰かが動けば、その情報を隠すことは出来ま
連れ去ったのは神ではなく羅刹の君だと。そしてそれを行ったのは、どの魔王様方なの
か
せ ん。な ら ば 誰 な の か
行使できても不思議ではないんですよね﹂
この調査書を読む限りでは、草薙護堂は私と同じ16歳のはずです
!
行ったのだと。それなら、ウルスラグナ神やメルカルト神の特徴と一致しない、権能を
?
?
﹁ありえません
!
4話 ∼媛巫女∼
64
もしそれが本当なら彼は10歳、いいえそれより以前に神を殺めたことになります
神を殺したと言うことになるのだから。
﹂
祐理は悲鳴のような声を上げる。それもしかたない。下手をすれば、齢一桁の子供が
!
﹂
なにせこの少年、なにもかもが出鱈目な怪人物なんです
から。無論、危険を伴う可能性もあります。それでも引き受けていただきますね
?
人物。カンピオーネであるなら、危険なのは間違いないだろう。
のようにすぐには頷きを返せない。甘粕冬馬が説明したように、全てが謎に包まれた怪
祐理に対して、最初に会ったときの軽薄さを捨てて、甘粕が問う。その問いに、最初
?
私としても心苦しいんですよ
れない。そして、今回これが真実なのかを、媛巫女には確かめていただきたいのです。
る。もしかするとすでに滅ぼしているのかもしれないし、まだ手元に残しているかもし
らせなかったほど。そのうえ何の意図があるのか分かりませんが、神獣を連れ去ってい
ランとなります。しかも、メルカルト神を倒すまでは、誰もそんな存在がいることを知
堂は、すでにこのレポートに載っている二柱以外にも、神から権能を簒奪しているベテ
﹁ええ、私としてもこんな仮説は笑い飛ばしたいんですよ。しかし、もし真実なら草薙護
65
祐理は悩む。どうするのか。引き受けるのか、引き受けないのか。熟考のすえ、答え
を出す。
﹁引き受けさせて頂きます。私にしか出来ないと言うなら、やるしかありません﹂
媛巫女としての責任を果たす。今、祐理の顔に浮かんでいるのはそれだけ。そんな祐
理に対して、甘粕は唯一安心できる材料を提供する。
││││││││││││││││││││
縁があったなんてと。
甘粕から渡された最後の情報。それに祐理も驚く。この怪人物と自身の間に、そんな
ちは完全に偶然だったんですがね⋮⋮﹂
﹁ありがとうございます。それともうひとつ、あなたに頼んだ理由があるのです。こっ
4話 ∼媛巫女∼
66
67
祐理は帰宅後、家族に今日あったことを伝える。それを聞いた、家族は思い思いの反
応をする。
母は、もしかするともうこの家に娘が帰ってこないかも知れないことに涙を流す。
父は、己の無力さを嘆く。自身のちっぽけな手では、脅威から娘を守ることもできな
いのかと。
妹はまた神殺しが姉を苦しめるのかと憤る。この優しい姉が、どうしてそんな理不尽
に付き合わなければならないのかと。
食卓が落ち込む。なにせ、今夜が家族全員が揃って食事を出来る最後の機会になるの
かもしれないのだ。
祐理としても自身の感情を持て余す。
そんな、落ち込んでいた家族に妹ー万里谷ひかりが写真を撮ろうと持ちかける。家族
で撮れる最後かもしれない写真。その中では、全員が無理に笑っている。祐理は、家族
にこんな顔をさせたくなどなかった。
それでも祐理は、武蔵野を守護する媛巫女。この国を暴虐の化身から守る義務がある
のだ。
││││││││││││││││││││
﹂
さて、このようにして正史編纂委員会からは警戒され、万里谷一家を恐怖のどん底に
説明できる、できない、どっち
叩き込んだ怪人物こと、草薙護堂。彼が今、何をしているかというと
﹁で、お兄ちゃんは結局どこにいってたの
床に正座され、問い詰められていた。
?
うに家に入ったのだが、そこには妹ー草薙静花が待ち構えていた。
護堂がイタリアから帰った時には、すでに日本は朝方。家族にこっそりとばれないよ
?
質問だ。そもそも、人はどこに向かい、なにをなすのか
その辺り静花はどう思う
﹂
やっぱり、あれかな。お兄ちゃんにも、草薙一族の悪癖が出始めたのかな。こっそり、女
﹁⋮ふうん、結局説明できないんだ。それで、そんな誤魔化しが通用すると思ってるの
?
?
?
﹁どこに行っていたか、か。実に難しいな、その質問は。形而学上の真理にふれるほどの
4話 ∼媛巫女∼
68
の人と遊んだりしてるんでしょ﹂
﹁やっぱりいたんだ
どこのだれなの
後高校生にも
お兄ちゃんの行動しだいでは、またご近所さん
こうして、妹に問い詰められながら草薙護堂は思う。
なって、世界の危機とか妄想をいうのは止めて﹂
から草薙さんの家はお盛んねなんて、恥ずかしいこといわれるんだよ
!
いいから眠らせてくれ。ただそれだけを願うのだった。
!
!
たわけじゃないぞ。世界の危機を救いに行ってたんだ﹂
﹁そりゃ、お前俺もいい年頃だぜ。そういった相手の一人ぐらいはいるさ。ただ、遊んで
69
5話 ∼初邂逅∼
静花の説教を、あの手この手で何とか誤魔化した護堂は、己の部屋に戻り一睡。
そのまま夕方まで眠り、起床した護堂は部屋の片付けやトレーニング、ソーシャル
ゲーム等をして土曜日を過ごした。
明けて翌朝日曜日、少しばかり寝坊した護堂の元に、階段を誰かが駆け上がってくる
音が届く。この家でそんな上がり方をするのは、一人しかいない。
音の主は護堂の部屋の前で立ち止まる。そして勢い良く、扉が開かれる。
﹁おはよう、お兄ちゃん。起きてたんだ。なら都合が良いかな。⋮ちょっと、そこに座り
なさい﹂
静花が指差す。そこはどう見ても床の上。寝起きで頭の回らない護堂は、朝から突撃
﹂
?
してきた妹が、何を言っているのか分からない。
また正座しなきゃいけないのかな
?
﹁おはよう静花。えっと、座るって床にかな
5話 ∼初邂逅∼
70
﹂
﹁うん、ちょっとお兄ちゃんに訊くことがあるからね。昨日みたいに誤魔化さないで、正
直に答えなさいよ。│お兄ちゃんと万里谷先輩は何時の間に仲良くなったの
?
万里谷か、どこかで聞いたな。先輩って事は静花の年上か。いや、俺の知
すごすごと正座した護堂に、意味不明な質問をぶつけてきた。
﹁万里谷先輩
ーじゃあ、追求は後回しね﹂
?
が、ここで下手なことを言うと、昨日以上に厄介になる。
なので、現状は黙っている。
?
﹂
?
﹁まあね。でね、うちの学校で誰が一番美人かなんて、競争するまでもないことなの。ど
のほうが詳しいんじゃないのか
﹁知らんな、それは。俺も入ってまだ二月程だ。そういうのは中等部でずっといる、静花
﹁ねえ、お兄ちゃんのいる高等部で一番の美人って誰か知ってる
﹂
流石に身に覚えのないことで追求しないでほしい。護堂は正直そう提言したい。だ
﹁本当なの、それ
り合いにはいないな、そんな人﹂
?
71
うせ万里谷祐理さんになるんだから﹂
﹂
﹁⋮ああ、どうりで聞いたことがあるわけだ。うちのクラスの奴らが何度か口にしてい
たな。それで、その万里谷さんとやらがどうしたんだよ
を誑かしたの
﹂
やって万里谷さん
で申し訳ないんだけど、お兄ちゃんと会いたいって。⋮⋮⋮それで、お兄ちゃんはどう
﹁じゃ、本題に入るね。さっきね、その万里谷さんから電話がかかってきたの。急な頼み
?
﹂
おかしいで
!?
ら﹂
やらを、手篭めにしたと思ってるんだろう。だが残念だな、そんな人はしらないんだか
﹁⋮⋮ははあ、分かったぞ。静花がなんで俺に正座させたのか。俺がその万里谷さんと
?
﹁じ ゃ あ ど う し て お 兄 ち ゃ ん に 会 い た い な ん て、電 話 が か か っ て く る の
しょ
!
いるんだ
んて、
﹂
でもかなりの有名人だよ。旧華族のお家柄で、お別れの挨拶で﹃皆様ごきげんよう﹄な
?
?
﹁⋮万里谷さんはあたしの茶道部の先輩だからだよ。⋮⋮⋮⋮本当に知らないの
学校
﹁⋮それを言われると確かになあ。そもそもその人は、なんでうちの電話番号を知って
5話 ∼初邂逅∼
72
でてくるぐらいのお嬢様なんだもん﹂
しかし、どこで縁が出来たんだ
そもそも、な
?
⋮⋮なあ、静花その万里谷さんは、他にも何か言ってな
で、向こうはこっちの事を知っている
ぜ会いたいんだ
﹂
俺に会わなきゃいけない
かったか
?
?
﹂
?
これ、
?
││││││││││││││││││││
か、なんとなく察するのであった。
て、なぜそのことを万里谷は知っているのか。万里谷祐理がどうして護堂に会いたいの
小学生の頃になにかなかったか。そう考え、護堂に一つ思い当たることがある。そし
何のこと
らいの頃に、お兄ちゃんになにかおかしなことがなかったか、聞かれたんだけど
﹁⋮ん∼、あ、そうだ、最後にお兄ちゃんの事を一つ質問されたんだけど。⋮⋮小学生ぐ
?
?
﹁⋮本当になんでその子は、会ったこともないのに呼び出したんだ。俺が知らないだけ
73
あの後、静花に開放された護堂は祐理の指定した待ち合わせ場所ー七雄神社に向かっ
ていた。家を出る時に、祐理一人で護堂と会わせるのを不安がった静花があたしもつい
ていくと宣言。
しかし、祐理の目的が護堂の考えている通りなら、静花を巻き込むわけにいかない。
その為同行したがる彼女を説き伏せるのに酷く苦労した。ともあれようやく護堂は目
的地である神社に着いた。
鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れる。そんな護堂を一人の巫女が出迎えた。
祐理の直感が護堂の中に眠る、権能とは違う何かを感じ取っているからだ。祐理はそ
彼は神殺しではなかった。しかし、祐理の心のざわつきは治まらない。
オーネではない。
うでないかを確かめるために。そして霊視を信じるなら、護堂は白。草薙護堂はカンピ
巫女ー万里谷祐理はそう挨拶し、護堂を真正面から視る。護堂がカンピオーネか、そ
ださいませ﹂
﹁よくいらしてくださいました、草薙護堂様。御身を急にお呼び立てした無礼、お許しく
5話 ∼初邂逅∼
74
の何かを捉えようと、精神感応の触手を伸ばす。触れた。そう思ったときには、祐理の
意識は奈落の底に落ちていった。
││││││││││││││││││││
そう口にしようとして
祐理が意識を取り戻す。そして辺りを見回す。広い。いつの間にか彼女は暗い世界
にいた。どこまでも白い床だけが広がっている。ここはどこ
気づく。声が出ない。
いたか思い出そうとする。
なぜこんな場所にいるのかを探るために、彼女は意識を落とす前に何をしようとして
?
に引きずりこまれたのだ。だとすると
そうだと思い出す。草薙護堂の中の力、それを探ろうとしたら祐理の意識が護堂の中
︵⋮確か、草薙様の精神に触れようとしてそれで⋮︶
75
︶
?
していた。祐理は自身の体力に自信がない。1キロも走ったらへばるほどだ。その為
体感時間で30分ほど歩いただろうか。ここではあまり疲れないことに祐理は感謝
││││││││││││││││││││
るためにも、まずは行動するべきだと歩き出す。
なんにしろここで立ち止まっていても、状況は好転しない。この世界の中から脱出す
が、カンピオーネでないのならまだ何とかなると考える。
ともあれ、ここからどうするべきか。祐理は今の状況に不安を覚えないわけではない
中に招いたのだろうか。
の知れない怪人物であることを思い出す。ならば何かしらの術で祐理の精神を自身の
そうとしか考えられない。それと同時に祐理は護堂がカンピオーネでなくとも、得体
︵ここは草薙様の精神世界
5話 ∼初邂逅∼
76
77
疲労がたまらないことは、祐理にとって唯一の救いとなっていた。
更に10分ほどたったか。人影が見えた。二人いる。一人はこの世界の中でも更に
黒い人影、もう一人は床の色より白い人影。黒の人影の前に、白い人影が跪く。そして、
白は両手の手のひらを上に向け、頭よりも高い位置に持っていく。
黒はその手に、己の手のひらを重ねる。数秒たっただろうか。黒が手を離し、煙の様
に消える。白のほうにも変化が起きる。膨張したのだ。驚きに固まっている祐理の前
で、その膨張は続いていく。ついには山の如き大きさになる。大巨人となった白の人影
に尾が生える。
その数、実に10本。そしてのっべらぼうのようだった顔に眼が現れる。一つ目だ。
その眼は血のように赤く、波紋が広がり波紋上に巴が浮かんでいる。その眼が下に向
く。じ っ と 一 点 を 捉 え る。祐 理 だ。祐 理 を 視 て い る の だ。彼 女 を 指 先 一 つ で 潰 せ そ う
な巨人に視られていることに、ついに祐理が恐怖を覚える。
巨人が祐理に手を伸ばす。逃げようとしたがあっけなく捕まえられた。手のひらに
乗せられた祐理は、巨人の顔の前まで持っていかれる。巨大な紅き眼が祐理の視界一杯
に広がる。
その眼の輝きに意識が呑まれそうになる。頭を振り、視界から外そうとするのだが、
祐理の意識に反して視線はその眼に向けられる。飲まれていく。呑まれていく。祐理
の意識がこの精神世界より深いところに落ちそうになる。その刹那
糞、許してくれよ﹂
!
だが、体に力が入らない。
うとする。
のだ。同年代の子に、そんな行為をされていることに恥ずかしさを覚え、すぐに離れよ
る。視界に男の子の顔が入る。草薙護堂だ。草薙護堂が祐理の体を抱きかかえている
誰かに抱きかかえられている。そして頬が痛い。そう思いながら、祐理は眼を開け
││││││││││││││││││││
から浮上させていった。
そんな声が聞こえたかと思うと、祐理の頬に衝撃が走る。その衝撃が祐理をこの世界
﹁万里谷さん、起きるんだ。そのままだと戻れなくなる
5話 ∼初邂逅∼
78
そのせいで、精神トラップに引っかかったんだ。起こすのがもう少し遅れていた
﹁無理して動かないほうがいい。君は俺を霊視か、それに準ずる能力で視ようとしたん
だろ
震える声で護堂に問う。
﹁お、御身は、御身は一体何なのですか
﹂
とが本当なら、もう少しで精神が死ぬところだったのだ。
安堵する声でそう述べる。だが、祐理としては聞き捨てならない。この少年が言うこ
ら、君は廃人になっていた。その前にこちら側に戻せてよかったよ﹂
?
社務所に移動し、護堂は祐理の体を畳の上で横にさせる。祐理としては恥ずかしかっ
││││││││││││││││││││
にならないと、体が麻痺したままになる﹂
﹁⋮とりあえず休めるところにいこう。今の君は神経が参っている状態だ。しばらく横
?
79
﹂
たが、体に力が入らない以上どうしようもない。そんな祐理の腹の上に、護堂が手を載
せる。
﹁草薙様、なにをするおつもりですか
数分が経過した。護堂が手を離す。
治しているのだ。
じんわりと暖かくなっていく。祐理も気づく。この少年の治癒術が、彼女の体の異常を
ある種の覚悟を決める祐理。そんな彼女の前で、護堂の手が緑色に光る。祐理の体が
のだから。
んに恐ろしくなる。今この少年になにをされても、体が動かない以上抵抗すら出来ない
弱弱しく祐理が問う。護堂は何も言わない。怪人物かつ初対面の少年の前だ。とた
?
ほどではない。体を起こし、護堂のほうに向き直る。
そう言われ、手足を動かす。いつもより力が入らないが、先ほどまでの全く動かない
﹁もう動けるよ。あとは時間が経てば体力のほうも戻るはずだ﹂
5話 ∼初邂逅∼
80
﹂
?
なら、返答するよ﹂
そして、さっきまでの異常な事
﹁⋮分かりました。では、率直にお尋ねします。御身は神殺しなのですか
?
顔にはっきりと書
?
﹁それで疑問に思った君は、より注視しようとして俺の精神世界に囚われたのか﹂
感じるのです﹂
しかし、それとは別に御身の中に力を
ンピオーネなのか読み解けるのです。そして草薙様は、カンピオーネではありません。
﹁草薙様も先ほどおっしゃられていたように、私には霊眼があります。その力で私はカ
いてあるよ。その理由聞いてもいいかな﹂
﹁そうだよ、って言いたいけど、俺が神殺しだって思ってないんだろ
﹂
﹁⋮万里谷さんの方も俺に聞きたいことがたくさんあるだろ。答えることの出来る質問
さやかですが呪術の心得もございます﹂
﹁はい、その認識に間違いはございません。私はこの武蔵野を守護する巫女の一人で、さ
かな
態にそれほど驚いていない、ってことはやっぱり君は、この国の魔術師って事でいいの
﹁さっき、万里谷さんは俺に何なのですかって聞いたね
?
81
護堂は、さてどうしたものかとごちる。どうもこの少女の力は、護堂の真実に気づい
ているようだ。今のところはエリカしか知らないことを。このことを話すのは、極力止
めるようエリカからも口止めされている。
しかし
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
祐理は護堂の方を、探るように見ている。たださすがに今度は、霊視で見ようとはし
ないようだ。そんな姿をみて、まあいいかと思い直す。あくまで極力だ。事情があれば
エリカも許してくれるだろう。
﹁⋮今から言うことは、誰にも言わない。それを約束してもらえるなら、俺の中の力やど
うして、俺がカンピオーネだって分からないのかを説明するよ﹂
その言葉に対して、祐理は首を縦に振る。
﹁分かった、話すよ。この話しを聞いてどう判断するかは万里谷さんに任せる。まず、俺
5話 ∼初邂逅∼
82
83
には万里谷さんが気づいたように、巨大な呪力がある。ここまではいいね。この呪力は
俺が生まれた時から、元々あったものなんだ。
そして、この呪力は神様たちの神力より大きい。そして、俺はこの呪力を用いてイタ
リアで神様を斃したんだ。万里谷さんも魔術師なら知っていると思うけど、神を斃した
人間はその神が持っている権能を簒奪することが出来る。その際に、体が戦闘用の肉体
に
作り直されるんだ。これは神殺しの母、パンドラが使う神を贄にして行われる魔王転
生の儀式によって成される。そしてこの時にね、俺の呪力は他の神殺したちが魔術や権
能の干渉を防ぐように、この術式を無効化したんだ。ようするにね、俺は神を斃せる魔
王なんだけど、権能の簒奪は出来ないことが分かったんだよ。多分そのせいで、万里谷
さんも俺が神殺しだって分からなかったんじゃないかな﹂
そう言い切る。そんな話しを聞いた祐理は、信じられないという顔で護堂を見てい
た。その顔があの時の神様たちの顔と重なる。
││││││││││││││││││││
5話 ∼初邂逅∼
84
ここでなにがあったのだろうか。地面は巨大なクレータが、数多く出来ている。森は
焼失し、遺跡は大地ごと掘り返され残ってすらいない。
そんな爆心地のような場所に人影がある。しかし、ここにいる人間は一人だけ。それ
以外は、この世ならざる者たち。
そんな、人外達が今起こった出来事が信じられなかった。その中の1柱ーパンドラが
彼女でも見たことがない現象に困惑していた。
つい先ほど、ある少年が神を殺めたのだ。新たなる神殺し誕生を祝福するため、わざ
わざ彼女は現世に来た。だと言うのに、この新たな息子は﹃簒奪の円環﹄の干渉を攻撃
として弾いたのだ。
そんな忌まわしき女神があたふたしている光景に、軍神は腹を抱えて笑っている。今
斃されたばかりの神王は、ざまあみろと言った顔をしている。
そして、この微妙な空気を作り出す原因になった護堂は、申し訳なさそうにパンドラ
に話しかけるのだった。
││││││││││││││││││││
そんな光景を護堂は、脳裏に思い出す。
﹁そ、そんなことはありえません 生まれながらにして神を超えた呪力を、その身に宿す
85
?
?
発生しています。そのことに心当たりはないでしょうか
﹂
﹁⋮⋮草薙様は、神獣をご存知でしょうか 数年前から、この国で神獣が姿を消す事件が
一つ質問をする。
レポートに食い違いがあったのか、つじつまがあうのだ。それを確かめるために、もう
祐理にはやはり信じられない。しかし、この少年が言うことが本当なら、なぜ調査と
はなったんだよ﹂
ネではない。神殺しだけど、神殺しではない。そんな過去になかった唯一の例外に、俺
﹁そう言うと思ってたよ。でも、これが真実なんだ。カンピオーネであって、カンピオー
なんて。嘘をおっしゃらないでください﹂
!
﹁あー、静花にも聞いた奴か。うん、あの呪力の大きい鹿とか馬とか蜘蛛だろ
﹁ッ
﹂
てたんだ﹂
それやっ
てたのは俺だ。力の制御にやっと慣れ始めてた頃で、試験運用の為の相手として捕まえ
?
﹂
?
の俺でもすぐに分かったからね﹂
﹁処理したよ。あんな力の塊が町や都市に入ったらどんなことが起きるのか、子供の頃
は、どうされたのですか
﹁⋮分かりました、草薙様のお言葉、信用させていただきます。ところで連れ去った神獣
ている。ならば言っていることは、嘘ではない。
決定的だ。この少年は、正史編纂委員会の外部には漏れていない、神獣の姿まで知っ
!!!
﹁万里谷さん、さっきからずっと言おうと思ってたんだけど、その草薙様って言い方どう
そう続けようとした祐理の前に、護堂が手を突き出す。
﹁では、草薙様、最後の質問に⋮﹂
5話 ∼初邂逅∼
86
にかならない
もう少し砕けた口調になってくれると、助かるんだけど﹂
?
﹂
困ります。神殺しの方とは私如きでは身分が違いますし、男性を呼び捨てな
ど出来ません
!?
﹂
?
トラブルメーカーには変わらないのだから。
にせ、どんか人物であろうと神殺しは神殺し。
にはこの国を神獣から守ったらしいが、今現在の彼の真意を問いただす必要がある。な
これは極めて重要だ。草薙護堂は権能を簒奪出来ていないが、実際には神殺し。過去
あなたは、これから何をなしていくのですか
を兼ね備えていたのですよね。そして今、名実共に羅刹の君へとなられました。そんな
﹁草薙さんに、後一つだけ問います。あなたは、神を殺す前から、神殺しに匹敵する実力
﹁⋮⋮はぁ、では、その、草薙ーーーーさん﹂
﹁ふうん、じゃあ神殺しとして命じる。敬称を禁ずる﹂
!
﹁そんな
ような口調でいいんだよ。俺も万里谷さんのこと万里谷って呼ぶから﹂
﹁それを止めよう万里谷さん。ここからは敬語はなし、様付けも禁止。普段友達に話す
﹁申し訳ございません、私の口の利きように至らぬところが⋮﹂
87
﹁何をするのかって言われたら、今までと変わらないぞ。普通に学校行って、家に帰っ
て、神獣やまつろわぬ神が現れたらそれらと戦う。今までもこれからも、特には変わら
ないな﹂
﹁変わらないってそんな﹂
と提案があるんだけど。この国で神様が現れたさいに、正史編纂委員会だっけ
前にイ
﹁ほら、俺は結局神様って奴と戦って、それで何かが変わったわけじゃないからね。それ
タリアで日本の魔術結社はそれだけしかないって聞いたんだけど、その委員会の力を借
?
?
い。そんな人物なら、多少は信用出来るだろう。
彼女が悪い。それも、すぐに解除し治療も施した。彼女の知る魔王とは似ても似つかな
た、あの精神トラップとやらに祐理は捕まえられたが、それは彼の内面を覗こうとした
らなければならない。そして、今までの会話からも分かるが、彼の性格は穏やかだ。ま
祐理に悩む余地はない。彼が神殺しである以上、正史編纂委員会や媛巫女は嫌でも関
﹂
りることが多分だけど、たくさんある。万里谷もその委員会の構成員なんだよな。その
﹂
際に、委員会に話しを通す時の窓口に、なってもらえないだろうか
﹁私がですか
!
﹁うん、俺がこの国で知っている魔術師は万里谷だけだから﹂
5話 ∼初邂逅∼
88
初邂逅は無事に終わったのだった。
こうして、日本呪術界と後に彼の能力から﹃六道仙人﹄と呼ばれるようになる魔王の
﹁⋮その提案を受けさせていただきます。これからよろしくお願いします、草薙さん﹂
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と、部活動もしていない護堂では、色々と怪しまれる。
化なしで100mを10秒台で走れるほどの身体能力になった。その為手を抜かない
そんな反則同然の練習を続けていた為か、本気で走ったりすると通常状態でも呪力強
すなわち、人の何十倍もの効率で訓練できる。
一つ特徴がある。分身が得た経験値が、本体の護堂に還元されるのだ。
も一組ではなく、複数の組を作ってだ。そして、ここからが重要なのだがこの分身には
彼がする修行方法は簡単だ。実体のある分身を作り、その分身と組み手をする。しか
入れる異空間で訓練している。
彼は無人島に飛雷神で移動し、そこで六道仙人モードになり、神威空間と言う彼だけが
なぜ手を抜かなければならないのか。それは彼が普段しているトレーニングにある。
いる為、体つきは良いのにそれほどスポーツが得意だとは思われていない。
草薙護堂は学校では、地味な生徒であった。勉強の成績は普通。体育では手を抜いて
6話 ∼転校生∼
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そんな理由から護堂のクラスの立ち居地は、少し体を鍛えている1生徒として認識さ
れていた。しかし、つい最近あることから護堂の名前は校内で有名になった。
お昼のほうをご一緒に頂こうと思って、来たので
そのあることとは一人の女子生徒が関係していた。
﹁草薙さんはこちらにおられますか
すが⋮﹂
質問に対して護堂は適当に答えようとしたのだが、同じような質問をされた祐理が先に
護堂のクラスメイト達が興味を持たないわけがない。ある質問を護堂はされた。その
スキャンダルである。しかも会うだけではなく、今日の様にお昼まで一緒に食べる。
男子生徒と一緒にいるところを目撃されるようになった。
係を持つことがなく、浮ついた噂もなかったほどである。そんな彼女がある日を境に、
なにせ、彼女はこの学校一の美少女かつお嬢様。また、男子生徒と彼女が積極的に関
尋ねてくる。この少女の存在こそが、護堂の名を校内に広めた。
お昼休みになったので、食事にしようとしていた護堂の元に女子生徒ー万里谷祐理が
?
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こう答えてしまった。
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になったのだった。
護堂は女子にすら人気のある美少女の心を奪い取った男として、悪い意味で校内一有名
か護堂は、静花の勘違いだけでも正したが、それで噂が消えるわけではない。かくして、
この噂は瞬く間に拡散される。家に帰った護堂が静花に詰問されたほどだ。なんと
万里谷祐理は草薙護堂と付き合っていると。
たクラスメイト達はそんな事情を知らないので、言葉の意味をこう捉えてしまった。
無論祐理は神殺しとしての護堂を指して、重要だと言ったのだ。しかし、それを聞い
﹁私が草薙さんと一緒にいるのは、彼が私にとって重要な人だからです﹂
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教室で食事をするには、不躾な視線が多すぎる。その為祐理と護堂は屋上に移動し、
昼食をとるようにしている。
そんな凹む護堂を見て、自分は草薙さんを落ち込ませるような事を言ってしまったの
リカぐらいなのだから。
は10股の伝説をもつ祖父とは違い、今のところ護堂に好意を持ってくれた女性は、エ
かっていたが、祐理程の美少女にはっきり言われるとやはり傷つく。なにせ学生時代に
混乱するほどかと護堂は落ち込む。自分が祖父と違って女性に好かれにくいのは分
言われて、混乱することが多いのは事実です﹂
﹁い、いえ、迷惑というわけではありません。ただ、やはり草薙さんと付き合っていると
れても迷惑だろ﹂
﹁⋮万里谷は悪くないよ。むしろこちらこそ悪い。俺なんかと付き合ってるなんて言わ
しまって⋮﹂
﹁すみません、草薙さん。わたしが不用意な返答をしたせいで、草薙さんに迷惑をかけて
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かと祐理は気づく。そして、思うのだ。草薙護堂はカンピオーネとしては、彼女の知る
魔王とはやはり全く違うことに。
もしこの状況に陥っている魔王が護堂ではなく、他の魔王であれば権能を駆使して、
自 ら に 対 し 無 礼 を 働 く 民 衆 を 決 し て 許 さ な い だ ろ う。少 な く と も 彼 女 の 知 る 魔 王 ー
ヴォバン侯爵であれば彼の持つ権能を使い、戯れ程度の感覚で魂を縛り、塩の彫像に変
え、狼たちの狩りの獲物にし、必死に逃げる人を何百頭もの狼が追いかけ絶望の文字に
心が支配されたところで食い散らかすことだろう。
翻ってみれば、護堂のあり方はその辺りの只人と対して変わらない。むしろ穏やかと
すら言える。今祐理の目の前でしているように、しょんぼりしている姿をみると彼は普
通の学生で、神を殺せるような人には見えない。
だが、真実は違う。彼はいざ戦いとなれば、人々の矢面に立ち災厄をもたらすまつろ
わぬ神を滅ぼす戦士。権能を簒奪していなくとも、神を殺す力を持つ人類最強の魔王な
のだから。
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落ち込んでいた護堂だが、いつまでも沈んでいては昼休憩が終わってしまう。気を持
﹂
ち直し惣菜パンにかぶりつく。そして前から少し気になっていたことを、祐理に質問す
る。
﹁そういえば万里谷さんは、俺の事を委員会の方にどんな風に報告したんだ
﹁幽世
ああ、アストラル界の事か。たしか、この世ではない場所だっけ
﹂
?
﹁い、いえ、その、草薙さんと誰にも話さないと、約束しましたので⋮﹂
﹁そっか、ありがとう万里谷。俺の真実を話さず、委員会の方に報告してくれて﹂
が神殺しを成し遂げていても分からなかったのは、不思議ではないので﹂
﹁はい、幽世は生と不死の境界、あの世とこの世のはざまです。そこであれば、草薙さん
?
そして、なぜ神を殺したのかが分からなかったのは、幽世で戦った為と報告しました﹂
﹁⋮委員会では現在草薙さんは、小学生の頃に神殺しを成し遂げたことになっています。
?
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徐々に祐理の声が小さくなっていく。そんな彼女を見て、あんな荒唐無稽な話しを信
﹂
用してくれたことに感謝する。そして、口約束なのに守ってくれる律儀な彼女なら、仲
﹂
良くなって損はないと護堂は確信する。
﹂
﹁万里谷、少し時間良いかな
﹁はい、何でしょうか
﹁もう一度俺の事を、君の眼で見てくれないか
?
来ない。
だが護堂を霊眼で視たらどうなるのかを知っている祐理は、その言葉に頷くことは出
気づく。彼が言っているのは、生身の目ではなく霊視で見てくれと言っているのだと。
そう言われ、もう見ているのに何のことなのだろうと、祐理は不審に思った。そして
?
?
﹁大丈夫、今の万里谷なら、精神トラップは発動しない。⋮安心して﹂
界に囚われます。そうなったら今度こそ、私は死ぬかもしれません﹂
﹁草薙さん、それはあなたのお願いでも出来ません。あなたを霊視でみたら、またあの世
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護堂は微笑みながら、祐理に語りかけてくる。その顔を見て、本当に大丈夫なのかを
考える。
座っている。その人物が祐理を手招きする。
と椅子が2つ置かれ、日除け代わりなのか傘が立ててある。その椅子の片方には誰かが
な彼女の前に一箇所だけ花が生えていない広場がある。その広場には、白い丸テーブル
い。祐理が今いる場所。花畑だ。空に太陽が輝き、多種多様な花に囲まれている。そん
祐理の意識はまた精神世界にいた。ただ、今度は前回と違う。あの暗い世界ではな
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る。そのとたん、彼女の意識がまた落ちていくのであった。
そう伝えると祐理は、護堂を視る。前回と同じように精神感応で護堂の精神に触れ
﹁⋮草薙さんを信用します。ですが、もしまた囚われたら助けてくださいね﹂
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︵草薙さんのうそつき
またこの世界にいるじゃないですか
︶
!
︵く、草薙さん
︶
近づくにつれ、その人の顔がはっきりとする。
る。
出来るのだろう。そう悩んでいた祐理の元に座っていた人物が立ち上がり、近づいてく
え逃げるか検討する。無駄だ。どうせあの巨人のように、簡単に祐理を捕まえることが
これが精神トラップならあの手招きしている人物が、自分を殺すのだろうか。そう考
!
護堂だ。祐理に近づいた護堂は話しかけてきた。
服が学生服ではないし髪の色も違う、また奇妙な眼になっているが、間違いなく草薙
!
そう言いながら祐理の手を取り、広場の机までエスコートするのだった。
﹁すまない万里谷、怖い思いをさせて。あっちで少し茶でも飲もう﹂
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﹁万里谷は紅茶かコーヒーどっちがいい
!
なんなら、ほうじ茶もあるけど﹂
喋れる。でも、なぜ。この間は悲鳴を上げることさえ、出来なかったのに。
﹁草薙さん、私は⋮
﹂
そう聞いてくるが、祐理はこの世界では喋れないのだ。それをなんとか伝えないと。
?
護堂がどこからか、カップとポットを取り出しながら祐理に語りかけてくる。
だろ﹂
﹁きちんと説明せずに、こっちに招いたから、最初またトラップだと思ってびっくりした
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﹁あー、そうか。トラップの方だと喋れないから驚いてるのか。まずそこから説明する
か。まずこの間万里谷が捕まった奴なんだけど、あれは俺の許可なく内面を探ろうとす
ると、勝手に発動する。そして、引きずりこんだ者の精神を破壊して、二度とそういっ
た こ と を 出 来 な く す る 偽 者 の 精 神 世 界 な ん だ。そ れ に 対 し て こ っ ち は 本 物 の 俺 の 中。
俺が許可する限りは喋る事だって出来る。それで万里谷を招いて、お茶でもしようかな
と考えたんだ﹂
現実の世界でもお茶は出来ると思うのですが
﹂
﹁⋮そうだったのですね。しかし、どうして草薙さんは私をこの世界に招いたのですか
?
だ。
ろう。だが、今祐理が言ったように現実の方で護堂の言うお茶会をしても良かったはず
そう疑問を呈する。護堂自身が、霊視で干渉した祐理を招いたのなら危険はないのだ
?
だから。⋮俺は万里谷に委員会との窓口を頼んだ。
みの時間もあまりなかったらからね。こっちでは時間も空間も質量も俺の思いのまま
﹁ああ、万里谷の言うとおりだよ。ただね、俺が万里谷を招待したかったんだ。もう昼休
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そうである以上、俺は多分万里谷と長い時間付き合っていくことになる。だから、ま
あ、親睦を深める為にね﹂
最後の言葉辺りは自身がなさそうに喋る。そんな彼を見て、祐理は少しおかしくな
る。親睦もなにも護堂は神殺しの魔王だ。彼が祐理に窓口を頼む以上拒むことは出来
ない。だと言うのに、まるで友達のように仲を深めようと言うのだ。
そんな魔王らしからぬ律儀さに、心の片隅のどこかにあった、祐理自身気づいていな
かった護堂への警戒心が解けていく。
祐理はまだ気づいていない。元々彼女は、男性との交友関係などがない。そんな彼女
﹁いえ、草薙さん。私などでよければお付き合いさせていただきます﹂
そう呟く護堂をあわてて祐理が止める。
何も言わないって事は、やっぱり嫌か。分かった、現実に戻ろう﹂
﹁もちろん、万里谷が俺なんかとお茶なんて嫌っていうなら、すぐに現実に戻ろう。⋮⋮
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が、護堂に対してだけは気を許し始めていることに、己自身気づいていなかった。
││││││││││││││││││││
祐理を己の中に招いた翌日、護堂の教室は少しざわついていた。なんでも、今日転校
生がこのクラスに編入するらしい。そのおかげで、今日に限っては護堂の方になにかし
らの視線を向けるものはいない。是幸いとばかりに机にうつぶせになって、護堂は寝て
いた。
チャイムが鳴る。護堂も起きる。そして教師が入ってくる。
が、きれい、などと呟いた。男子は転校生が女子で、しかもモデルでも出来そうな美し
教師が転校生とやらを教室に入るように促す。その入ってきた転校生をみてだれか
だ。お前ら失礼なことをするんじゃないぞ﹂
﹁席に着け。知ってると思うが今日からこのクラスに転校生が来る。外国からの留学生
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さにうおお
などとテンションがあがっている。
﹁チャオ、護堂。久しぶりね。護堂の方は元気にしてた
﹂
そして護堂にしだれかかる。その行動に、誰かが息を呑む。
空に至らせる。その少女は黒板に向かわず、まっすぐに護堂のところに向かう。
メリハリのある体つき。そして、護堂がとても見覚えのある顔。それらが護堂を色即是
そして護堂は心が無になっていた。赤みのある流れる金髪、日本人では到底叶わない
!
心が傷つく
!
めちゃくちゃにする
︶
!
私をめちゃくちゃに出来たのに﹂
無理矢理昏睡
!
︵だました
!
させたことに心が傷ついたりしたのを治したりね。あんなことをしなくても護堂なら、
﹁ええ、私もちょっと色々あったわ。護堂が私を言葉でだまして近づいて、無理矢理昏睡
﹁お、俺のほうもい、色々あったからな。はははははは﹂
らイタリアまですぐのはずなのに﹂
﹁あらそう、心配してたのに会いに来てくれないなんて酷い人ね。護堂の愛なら日本か
してたよ﹂
﹁や、やあエリカ。俺は元気だったよ。エリカの方はメールしても返事がないから、心配
?
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クラス一同の心が一つになる。そして、それらの言葉は思春期真っ只の彼らに一つの
連想をさせる。その連想故に、全員が護堂を性犯罪者でも見るような目になる。その視
線を受けて護堂の心がますます虚無に近づく。
そんな目を向けている中の誰かが、エリカに問う。
﹂
?
⋮あのね、私の未来の旦那をそういう風にいうのはやめ
﹁あ、あの、あなたは、その虫けらの知り合いなんですか
それって護堂の事
?
生は護堂の嫁、あるいは妻。
﹁万里谷さん可愛そう﹂
?
なぜか勝手にクラスのボルテージが上がっていく。そんなひどい連想ゲームを聞き
﹁いや、この転校生もだよ。さっきの言葉はどう聞いたって⋮﹂
﹂
その言葉に今度こそ全員の殺意が一気に高まる。旦那ということはつまり、この転校
てちょうだい﹂
﹁虫けら
?
﹁つまりこいつ結婚相手がいるのに万里谷さんと付き合ってたって事か
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ながら、不思議そうな顔をしているエリカ。更に高まるクラスの殺意。
それらをバックに護堂はただ思う。やっぱり神様殺したりしたら罰が下るんだなと。
こうしてあっさり数日間で、護堂はクラスの地味な存在からみんなの中で、虫けらの
ごみ屑へとジョブチェンジしたのだった。