化学概論 練習問題3 解答と解説 (暫定草稿版) 山北 Q1 解答 一般に、一定圧力 P のもとで気体のする仕事は PV で与えられる。したがっ て、気体のされた仕事は、 W=0.1×106×(500-350)×10-3×10-3 =150×10-1 =15 J (1) 解説 ここでは、計算途中に単位は書かず、位取りの記号は 10 の何乗と表して 計算しています。SI 単位で計算していれば、答えの単位も自動的に SI 単位にな ります。非 SI 単位の L については、1 L=10-3 m3 と換算して下さい。 Q2 解答 メタン CH4 の分子量は 16 だから、32 g のメタンガスは 2 mol である。この変化 は定圧変化なので、熱力学第 1 法則より式(2)が成り立つ。 U=QPV -1 -1 (2) 5 気体定数 R=8.31 JK mol を用いると、300 K, 10 Pa における体積は V=nRT/P=2×8.31×300/105=49.9×10-3 m3 (3) 気体がする仕事は、同様にして次のように計算される。 PV=nRT=2×8.31×(550300)=500×8.31 =4155 =4.16 kJ (4) W=PV=4.16 kJ (5) 吸熱量は、定義より定圧モル比熱を使って次のように計算される。 Q=CPdT=nCP,mdT=ncP dT 550 𝑄=∫ 2 × (12.55 + 8.37 × 10−2 𝑇)d𝑇 300 −2 2 550 = [25.1𝑇]550 300 +[8.37 × 10 𝑇 ]300 =6275+17786=24.1 kJ (6) エンタルピー変化は、式(2)を変形して次のように計算できる。 H=U+PV=Q=24.1 kJ 1 (7) 内部エネルギー変化は、式(2)から、 U=Q-PV=Q+W =24.1 4.16 =19.9 kJ (8) 解説 この問題は、熱力学第 1 法則の典型的な解法がまとめられています。問題 を読んで困ったら、次のような方策が良いでしょう。 ① 熱力学第 1 法則を書き下して何を聞かれているのか考える、 ② 気体の状態方程式を思い出す、 ③ 熱容量などの定義式を書いて思い出す。 Q3 解答 エタンとエタノールについて、標準状態における生成反応を示す熱化学方程式 は式(9), (10)で与えられる。 2C(黒鉛)+3H2(g)= C2H6(g)fH°(C2H6) 2C(黒鉛) +3H2(g)+(1/2)O2(g)= C2H5OH(l)fH°(C2H5OH) (9) (10) 式(10), (11)の完全燃焼を示す熱化学方程式の反応熱を求めればよい。 C2H6(g)+(7/2)O2(g)=2CO2(g)+3H2O(l)H1 (11) C2H5OH(l)+3O2(g)=2CO2(g)+3H2O(l)H2 (12) そのためには、式(13), (14)に示す CO2(g)と H2O(l)の標準生成エンタルピーを示す 熱化学方程式と、式(9), (10)を組み合わせ、式(11), (12)を導出する。 C(黒鉛)+O2(g)=CO2(g)fH°(CO2) (13) H2(g)+(1/2)O2(g)= H2O(l)fH°(H2O) (14) 式(13)×2+式(14)×3-式(9)より、略記して、 C2H6+(7/2)O2=2CO2+3H2OH(CO2)H(C2H6)H(H2O) (15) H1=H(CO2)H(C2H6)H(H2O) =1559.86 kJmol-1 (16) 式(13)×2+式(14)×3-式(10)より、略記して、 C2H5OH+3O2=2CO2+3H2OH(CO2)H(C2H5OH)H(H2O) H2=H(CO2)H(C2H5OH)H(H2O) =1366.85 kJmol-1 したがって、エタンの方がよく発熱する。 解説 定圧条件での反応熱は、エンタルピー変化で与えられます。エンタルピー 2 や内部エネルギーの変化の符号に注意して下さい。あくまでも系が持つエネルギ ーを示していますので、右辺の値としてプラス、つまりH としてマイナス(つ まり安定化)のとき、発熱になります。燃焼熱と生成熱を組み合わせた問題はよ く出題されます。ここでは、fH°と反応式を+で合わせて書いていますが、正し くはfH°と反応式は;で区切って独立に計算します。Q4 の解答を参照してくだ さい。 Q4 解答 エタノール C2H5OH→アセトアルデヒド CH3CHO→酢酸 CH3COOH の酸化反応 は次のように表される。 C2H5OH=CH3CHO+H2fH°(1) (17) CH3CHO+(1/2)O2=CH3COOHfH°(2) (18) 一方、生成エンタルピーは式(19)~(21)のように与えられる(状態は略) 。 2C+3H2+(1/2)O2= C2H5OHfH°(E) (19) 2C+2H2+(1/2)O2= CH3CHOfH°(A) (20) 2C+2H2+O2= CH3COOHfH°(S) (21) したがって、エタノールとアセトアルデヒドの酸化反応(17), (18)は、 式(20)式(19)より、 C2H5OH=CH3CHO+H2 fH°(A) fH°(E) (22) 式(21)式(20)より、 CH3CHO+(1/2)O2=CH3COOHfH°(S)fH°(A) (24) と導出される。したがって、反応熱(吸熱量)はそれぞれ、 fH°(1)=fH°(A) fH°(E)= 111.59 kJmol-1 (吸熱) fH°(2)=fH°(S)fH°(A)=319.5 kJmol (発熱) -1 となる。 解説 これが一番正統的な反応熱の計算方法です。反応熱という言葉が、発熱・ 吸熱のどちらを指すかは曖昧に使われています。私の化学概論の授業では、反応 熱とは吸熱量 Q のことです。 3 Q5 解答 (a) 圧力一定なので、エントロピー変化は定圧モル熱容量を用いて次のよう に表せる。 dS=Q/T=CP,m/T dT =(5R/2)T-1 dT (25) したがってこれを積分して、 S= 5𝑅 2 [ln 𝑇]1000 500 (26) -1 =14.4 JK (a) 体積一定なので、エントロピー変化は定積モル熱容量を用いて次のよう に表せる。 dS=Q/T=CV,m/T dT =(3R/2)T-1 dT (27) 体積一定で圧力が 5 倍になっているので、状態方程式から温度が 5 倍になっていると言える。したがって、 S= 3𝑅 2 5000 [ln 𝑇]1000 (28) =20.1 JK-1 解説 エントロピーの計算は、感覚的にとらえることが難しいところですが、定 義に忠実に考えることによって解けるようになります。 Q6 解答 この熱化学方程式は次のように書ける。 N2O4=2NO2(g); (29) H°=57.2 kJmol-1,S°=175.7 JK-1mol-1 標準ギブズ自由エネルギー変化G°は、定義 G=HTS より、温度一定の標準状 態で次のように与えられる。 G°=H°-TS° (30) したがって、 300 K では、 G°300 K=57.2×103300×175.7=4.49 kJmol-1 400 K では、 G°400 K=57.2×103400×175.7=13.1 kJmol-1 ただし、ここではH°,S°の温度変化がないものとしている。 解説 温度が増大すると、熱力学的ポテンシャルG°に対するエントロピーの寄 与が増大することが分かります。 4
© Copyright 2024 ExpyDoc