ノイズ・キャンセル実験室

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ノイズ・キャンセル実験室
第
低周波領域が予測しやすい…
川村 新
5 回 線スペクトル強調タイプの適応フィルタ
観測信号
(
s t)
予測誤差
e
(t)
=s
(t)- (
y t)
Dサンプル
-D
Z
遅延器
(
s t-D)
Z
(
s t-D -1)
-1
ノイズは小さくなった
N-1
…
Z
観測信号
(
s t)
予測値(過去の信号の線形
結合)
-1
…
Z
h2
…
1サンプル
遅延器
-1
-
h1
∑
(
y t)
= hm (
s t-D-m)
hN
m =0
ALE出力
(
y t)
音声振幅も
小さくなってしまう
(
s t-D -N+1)
時間
係数更新アルゴリズムの例(NLMSアルゴリズム)
図 1 適応線スペクトル強調器のブロック図
本連載では,音声のノイズ除去に注目し,さまざ
まな方式や,それらを実現するプログラムを紹介しま
す. 今 回 は,FFT(Fast Fourier Transform: 高 速
フーリエ変換)による周波数領域への変換は使用せ
ず,波形ベースのノイズ除去を扱います.
適 応 線 ス ペ ク ト ル 強 調 器(ALE:Adaptive Line
Enhancer)と呼ばれる適応フィルタを設計してみま
しょう.ALE はノイズに埋もれた周期信号を抽出す
るために用いられます.
原理
入力信号
(
s t)
音声は低周波数に
大きなパワーを有する
0Hz
8kHz
ALE出力
(
y t)
低周波数の方が予測しやすい
0Hz
時間
(b)スペクトログラム
図 2 振幅が小さくなってしまうが低周波領域は予測しやすい…
適応線スペクトル強調器
● 遅延の設定
ALE のブロック図を図 1 に,効き目(シミュレーショ
ン)を図 2 に示します.
時刻 t の観測信号を s(t)とします.z-D は,D サン
プルの遅延を表します.ALE は D サンプルよりも過
去の観測信号だけを利用して,現在の観測信号 s(t)
を予測しようとするものです.ALE はその名が示す
通り,線スペクトル,つまり,正弦波を強調するため
に開発された適応フィルタです.
126
8kHz
周波数
∑
2
s(t-D-m)
ステップ・サイズ.
m =0
更新の強さを決める
(m=0,1,…,N-1)
パラメータ
(a)波形
周波数
(
(t)
s t-D-m)e
hm(t +1)= hm(t)+μ N-1
ノイズに埋もれた正弦波を抽出するためには,遅延
D をうまく設定する必要があります.D は,ノイズと
正弦波の「相関」を分離する役割を持つため,相関分
離パラメータと呼ばれます.
ここで,「相関」とは,2 つの信号の統計的な関連性
を表す指標です.相関がなくなれば,両者は無関係に
なり,一方から他方を推定することはできません.例
えば,ノイズがランダムであれば,「現在の信号」と
「過去の信号」は関連性を持ちません.
(1)では,
関 連 特 集:本 誌 2016 年 6 月号「 体 感! 全 集 CD 付き! 音 声 信 号 処 理 」
さまざまな音声処理の方式と,それらを実現するプログラムを紹介しています.
2017 年 2 月号