「道徳」に思うこと 大谷 幸男 確かに<こころ>はだれにも

「道徳」に思うこと
大谷 幸男
確かに<こころ>はだれにも見えない
けれど<こころづかい>は見えるのだ
それは人に対する積極的な行為だから
同じように胸の中の<思い>は見えない
けれども<思いやり>はだれにも見える
それも積極的な行為だから
これは宮沢章二氏(1919∼2005)の詩、「行為の意味」の一節です。宮沢氏は羽生市の出
身ですが、旧大宮市に居住し、同市教育委員会の委員長も務めました。県内を中心に300校
以上の校歌を作詞した、本県を代表する作詞家です。
我が郷土の偉人 渋沢栄一翁は論語を愛し、人生をより良く生きるための思想を論語にあ
ちゅうじょ
じょ
る「忠恕の心」に求めました。「忠」は正直で嘘や偽りのない「真心(まごころ)」であり、「恕」は相
じょ
手の立場に立って物が考えられる「思いやり」のことです。孔子は「恕」について、「己の欲せざ
る所は、人に施すことなかれ」と「解説」しています。すなわち「自分が人からされて嫌なことは、
人にもするな」ということです。
文部科学省は、毎年、全国全ての小学校6年生と中学校3年生を対象に、全国学力・学習
状況調査を実施しています。これには大きく分けて教科に関する調査と学習意欲や生活面な
どについて調べる質問紙調査がありますが、お陰様で、さいたま市の教科に関する調査の平
均正答率は、小学生、中学生ともに埼玉県平均はもとより全国平均をも上回って、良好に推移
しています。
これまでの数年の調査結果を見ますと、この平均正答率と質問紙調査の間には、相関があ
るように見えます。質問紙調査には、例えば「人の気持ちが分かる人間になりたいと思います
か。」、「いじめは、どんな理由があってもいけないことだと思いますか。」、「学校のきまりを守っ
ていますか。」といった項目がありますが、「当てはまる」と答えた子どもたちほど、正答率が高
いという傾向が目につきます。
長い間教育に携わってきた私自身の個人的経験則からしますと、こうした結果は、単なる
「相関」関係ではなく「因果」関係ではないかと考えています。学校訪問をしますと、よく「時を守
り、場を清め、礼を正す」という標語に出会いますが、こうした「規範」意識の高まりこそが、学力
を支え、伸ばしていくということだと考えられます。
平成30年度から小学校、翌31年度からは中学校で、一斉に、「特別の教科 道徳」の授業
が開始されます。子どもたちの心を耕すことで、確かな道徳的判断力などを養い、さらには道
徳的実践につながる力を身に付けさせていくことをねらいとしています。
個人的には、道徳心の中心にある「真心」や「相手の立場に立って物が考えられる心」が
「道徳的判断力」になり、「こころ」や「思い」が、「積極的な行為」として自然に「こころづかい」
や「思いやり」になることが、まさに「道徳的実践につながる力」であると考えています。
確かな学力を身に付けさせて欲しいということは、児童生徒、保護者の強い願いでもありま
す。そのためにも、道徳観や倫理観、規範意識を養い、身に付けることが不可欠であり、その
ことで伸びた学力は、さらに道徳観や倫理観、規範意識をより確かなものにするはずです。こ
れが、すなわち人間を作るということです。
今後とも、子どもたちの明るい未来に向けて、家庭、地域の御協力のもと学校と一体となっ
て教育行政を進めて行く所存です。
[2016.12.16 掲載]