(12-1)相続税の仕組み

相続税の仕組み
12 -1
● 相続税のABC
相続税の基本的仕組み
(相続人が配偶者+子二人の場合)
遺産総額
債務等
相続税の概要
相続税は、死亡した人の財産を相続し
て「相続人等」といいます。
た相続人等にかかる税金です。相続税の
相続等は原則として個人間で起こるも
かかる場合として、まず、人の死亡によ
のであり、納税義務者である相続人等は
りその遺産を民法の定める(法定)相続
原則として自然人たる個人でなければな
により取得する場合があげられます。遺
りません。
しかし、
代表者や管理者が定め
言によって財産を分与する遺贈というも
られている人格のない社団または財団あ
のもあります。そのほか、死因贈与とい
るいは持分の定めのない法人が遺産を取
うものがあります。これは死亡を贈与契
得した場合にも相続税を納めなければな
約の効力発生の条件とするもので、たと
らないことがあります。なぜならば、こ
えば「自分が死んだらこの家をあげる」
れらの社団・財団などを利用して相続税
といった契約をした場合のことです。
の不当な軽減を図るというケースがある
相続・遺贈(死因贈与を含む、以下同じ)
ためです。そこで課税上の公平を保つた
いずれの場合にせよ、人が死亡することを
めに、相続税を納める義務を課している
原因として課税問題が発生するところに
わけです。
もっとも、
これらの社団・財団
相続税の特徴があります。原則として、
などが取得した遺産に対して法人税がか
(注)
被相続人が死亡した日が相続開始日
かる場合には、法人税額に相当する額は
となります。
相続税額から控除されます。
相続によって遺産を取得した人(相続
なお、相続税については、平成27年
人)や、遺贈によって遺産を取得した人
1月1日以後の相続等から大規模な改正
(受遺者)は、原則として相続税を納め
が行われています。改正後の規定が適用
されるか否かは、
「相続開始日」によっ
本章では、相続と遺贈を合わせて「相
て決まります。
続等」といい、相続人と受遺者を合わせ
①相続時精算課税
にかかる財産
②相続開始前 3 年
以内の贈与財産
①
正味課税遺産額
②
課税価格
基礎控除額
3,000万円+
(600万円×法定相続人の数)
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第
二
段
階
課税遺産総額
課税遺産総額
法定相続分で按分
各法定相続人 税 率
の取得金額
∼1,000 万円 10%
∼3,000 万円 15%
∼5,000 万円 20%
∼1 億円 30%
∼2 億円 40%
∼3 億円 45%
∼6 億円 50%
6 億円 超 55%
子( )
子
( )
妻
( )
超過累進税率の適用
税額
税額
第
三
段
階
税額
相続税の総額
各人の実際の相続割合で按分
・贈与税額控除
・配偶者の税額軽減
(法定相続分または 1
億 6,000 万 円 の い ず
れか大きい金額に対
応する税額を控除)
れます。特別失踪では危難が去った時から1年
経過後に申し立てることにより、一定の手続を
経て家庭裁判所より失踪宣告がされます。
正味課税遺産額
14444444444444444444424444444444444444444443
相続税額
(子)
・障害者控除
など
相続税額
(子)
納付税額
(子)
納付税額
(子)
第
四
段
階
相続税額
(妻)
第
五
段
階
税額控除
・未成年者控除
(注)失踪宣告によって死亡したとみなされる場合に
は、普通失踪では7年間の失踪期間満了の日、
特別失踪では危難の去った日が相続開始日とさ
第
一
段
階
相 続 税
なければなりません。
非課税財産等
(妻)
263
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相続税の計算
相続税の計算は、次の5つの段階から
続人に法定相続分で按分されたと仮定し
なっています(263ページ参照)。
て、各按分額に超過累進税率を適用して
◆(1)課税価格の計算
各相続人の相続税額を求め、各相続税額
遺産総額から、債務等や非課税財産等
を合計したものを相続税の総額とします。
を控除し、それに相続時精算課税にかか
◆(4)各相続人等の相続税額の計算
る財産、相続開始前3年以内の贈与財産
(3)で求めた相続税の総額を、各相
を加え、課税価格を求めます。
続人等に、実際の相続割合で按分して各
◆(2)課税遺産総額の計算
相続人等の相続税額を算出します。
(1)で求めた課税価格から基礎控除額
◆(5)各相続人等の納付税額の計算
を差し引いて、課税遺産総額を求めます。
(4)で求めた各相続人等の相続税額
◆(3)相続税の総額の計算
に控除等を適用し、各相続人等の納付税
(2)で求めた課税遺産総額が法定相
額を求めます。
■ 課税価格の計算(第一段階)
● 相続税のABC
①被相続人が保険料等を負担した生命保険金等(注)
②被相続人の死亡退職金等で死亡後3年以内に支給が確定したもの
③被相続人が保険料または掛金を負担した一定の生命保険契約に関する権利また
は定期金に関する権利で、被相続人以外が契約者であるものなど
④委託者の死亡に基因して効力が生じる信託が行われた場合で、適正な対価を負
担せずに信託の受益者等となる場合
⑤遺言により著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合
⑥遺言により債務の免除などを受けた場合
⑦遺言によりそのほか実質的に利益を享受した場合
(注)対象となる契約は、生命保険会社、損害保険会社、外国保険業者、少額短期保険業者、農
業協同組合などと締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む)および簡易生
命保険契約(年金保険を除く)などです。
●保険金の合計額が非課税限度額を超える場合
その相続人が取得した保険金の合計額
保険金の
その相続人の
× すべての法定相続人(放棄した者等を除く)=
非課税限度額
非課税金額
が取得した保険金の合計額
ここでは、遺産総額から、債務等や非
課税価格の計算にあたっては、各相続人
課税財産等を控除し、それに相続時精算
等の課税価格の1,000円未満の端数は切
課税にかかる財産、相続開始前3年以内
り捨てます。
◆(3)非課税財産
次のような財産は、相続財産に含まれ
の贈与財産を加え、課税価格を求めます。
ていても相続税はかかりません。
①宗 教・慈善・学術研究などの公益事業を行う一定の者が取得したもの
相続時精算
3年以内
相続等によっ みなし
課税の適用 − 債務+葬式 +に贈与を
課税価格= て取得した +相続財産−非課税
+
財 産
を受けた
費用 受けた財
財産の価額
の価額
財産の価額
産の価額
(
)
のうち、その公益事業に使うことが確実なもの
②墓所・祭具など
③条例による心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権
④相 続または遺贈により取得した財産を相続税の申告書の提出期限まで
◆(1)相続等によって取得した財産の価額
に国・地方公共団体・一定の公益法人・一定のNPO法人に贈与(死
て評価されます。それぞれの財産の評価
所有していた財産で金銭に見積もること
方法については、第14章「相続・贈与
ができる経済的価値のあるものすべてに
に欠かせない財産評価」の章を参照して
対してかかります。そして、この財産は、
ください。
原則として、相続時における時価によっ
◆(2)みなし相続財産
次に掲げる財産は厳密には被相続人の
額(500万円×法定相続人の数)以下で
所有していた財産ではありませんが、相
ある場合には、各相続人が受け取った保
続等により取得した財産とみなされます
険金は非課税となります。
因贈与を除く)した場合のその財産
⑤相 続または遺贈により取得した財産に属する金銭を相続税の申告書の
提出期限までに一定の特定公益信託の信託財産とするために支出した
場合のその金銭
相 続 税
相続税は、原則として、死亡した人の
(注)①・④・⑤において公益事業を行う者や一定の公益法人・NPO法人・特定公益信
託が財産の取得の日から2年以内にその財産を公益事業に使用していないときなど
には相続税が課されます。
◆(4)相続時精算課税の適用を受けた財産の価額
保険金の合計額が非課税限度額を超え
相続時精算課税制度(296ページ参照)
の時価で相続財産に加算されます(すで
①と②については、それぞれ非課税限
る場合には、次の算式により算出した金
を選択した場合には、相続時精算課税の
に納めている贈与税額は相続税額から控
度額が設けられています。相続人全員が
額が各相続人における非課税金額となり
適用を受ける贈与財産のすべてが贈与時
除されます)。
受け取った保険金の合計額が非課税限度
ます。死亡退職金等の場合も同様です。
(みなし相続財産)。
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● 相続税のABC
国外財産等が相続された場合
相続時精算課税制度と相続税
相続時精算課税制度は、贈与時の税負担を軽くすることで生前贈与を行い
被相続人の相続財産の中に、国外の財産も含まれている
のですが、これにも相続税はかかりますか?
やすくするために設けられた制度です。この制度では、暦年課税の最高55%
の累進税率ではなく、一律20%の税率が適用され、控除枠も大幅に拡大され
ています。ただしこの制度を利用すると、相続税額の計算において、生前贈
4
4
4
4
4
4
与された贈与財産が贈与時の時価で相続財産に加算された上で相続税額が算
出され、その相続税額から、生前贈与の際にすでに納付した贈与税額が控除
される、という計算方法になります(相続時精算課税制度について、くわし
くは296ページを参照してください)
。
◆(5)債務と葬式費用
課税価格を求める際に、被相続人の債
かれる葬式費用は、
葬儀にかかった費用、
務と葬式費用のうち相続人等が負担した
お通夜の飲食費用、お寺への支払いなど
額は差し引かれます。
です。香典返戻費用、墓地や墓碑の買入
差し引かれる債務は、被相続人の債務
れ費用、法事に要する費用などは葬式費
で、相続開始の際に実際に存在し、確実
用とは認められません。
と認められるものに限られます。差し引
◆(6)3年以内に贈与を受けた財産の価額
日本国内に住所を有する者
相続税の課税対象となります。
が相続等により財産を取得
国外財産の相続等について、相続
した場合、それが日本国内の財産か、
税が課税されないのは、①国外居住
国外の財産かを問わず、相続税の課
者→日本国籍を持たない国外居住者
税対象となります。また、被相続人
の場合と、②5年以内に国内に住所
が日本国内に住所を有する者である
のない国外居住者→日本国籍はある
場合の相続等についても、日本国内
が5年以内に国内に住所のない国外
の財産か、国外の財産かを問わず、
居住者の場合のいずれかのみです。
国外に居住
相続人等
被相続人
(国籍を問わない)
国内に
居住
日本国籍あり
日本国籍
5年以内に
なし
国内に
左記以外
住所あり
国内に居住
○
○
○
○※
国外に 5年以内に国内に住所あり
居住
上記以外
○
○
○
×
○
○
×
×
○…国内財産・国外財産ともに課税、×…国内財産のみ課税
※ 平成25年3月31日以前の相続等については「国内財産のみ課税」
相続等により財産を取得した者が相続
す。
の開始(被相続人の死亡日)前3年以内
すでに納めている贈与税額は相続税額
に被相続人から財産の贈与を受けている
から控除されます。
場合には、相続税の課税価格の計算にお
なお、直系尊属からの住宅取得等資金
■ 課税される遺産総額の計算(第二段階)
いて、その贈与によって取得した財産の
の贈与の非課税制度(302ページ)およ
第一段階で計算した各相続人等の課税
をいい、相続の放棄をした人があっても
価額が、贈与を受けた時点の評価額で加
び教育資金の一括贈与の非課税制度
価格を合計し、次の算式で計算した基礎
相続の放棄をしなかったものとして扱い
算されます。相続財産を少なくしようと
(303ページ)により贈与された財産は、
控除額を差し引いて「課税される遺産総
ます。なお、養子がいる場合には、計算
生前に贈与をしても、相続財産を取得し
死亡日前3年以内に贈与を受けたもので
額」を算出します。法定相続人の数とは
上特別な取扱いがされます(次ページの
た者に対する死亡日前3年以内の贈与分
あっても加算の対象となりません。
民法の相続人の規定に従った相続人の数
Check Point!参照)。
相 続 税
は相続財産に引き戻されることになりま
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
266
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基礎控除額は、定額部分(3,000万円)
人の数が配偶者と子供3人(全員実子)
と法定相続人の数に比例する変額部分と
の計4人のケースでは、基礎控除額は
からなっています。たとえば、法定相続
3,000万円+(600万円×4人)=5,400万
267
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● 相続税のABC
円となります。
次の表の通りです。
相続財産の価額が基礎控除額以下であ
相続人となるべき胎児が申告書の提出
■ 相続税の総額の計算(第三段階)
れば、相続税はかかりません。言いかえ
日までに出生していない場合、当初は法
第二段階までで、課税される遺産総額
相続税の総額の計算は、法定相続人が
れば、基礎控除額は相続税の非課税ライ
定相続人の数に胎児を含めません。この
が求められました。第三段階では、その
法定相続分通り財産を取得したと仮定し
ン(課税最低限)ということになります。
場合、出生後に更正の請求等を行うこと
遺産総額を、以下で説明する法定相続人
て計算します。相続人等が実際にどのよ
法定相続人の数に応じた非課税ラインは
になります。
がそれぞれ法定相続分に応じて取得した
うに遺産を取得したかは計算に影響しま
ものとして、各人ごとの取得金額を求め
せんし、相続の放棄などで遺産を取得し
ます(各人ごとの取得金額の1,000円未
なかった人がいても計算に影響しませ
満の端数は切り捨てます)。次に、取得
ん。このような計算を行うのは、遺産総
●相続税の非課税ライン(課税最低限)
法定相続人の数
法定相続人の数
0人
3,000万円
4人
5,400万円
金額に対して各人ごとに下記の速算表を
額は同一でも相続等の仕方(遺産の分割
1人
3,600万円
5人
6,000万円
用いて税額を算出します。こうして算出
など)によって納める税金の総額に差異
2人
4,200万円
6人
6,600万円
した税額を合計したものが相続税の総額
が生じることを利用して事実と異なるよ
3人
4,800万円
7人
7,200万円
になります(相続税の総額の100円未満
うな申告がなされたり、分割困難な資産
の端数は切り捨てます)。税率は、平成
が単独または少数の相続人等によって相
27年1月1日以後を相続開始日(262ペ
続等された際にその負担が過重になった
ージ参照)とする相続等から改正されて
りすることを防ぐためです。
被相続人に養子がいる場合の取扱い
相続において養子と実子の区別はありません。しかし、相続税の計算にお
いては養子がいる場合には特別の取扱いがされます。すなわち、生命保険金
等・死亡退職金等の非課税限度額、基礎控除額、相続税の総額の計算におい
て法定相続人の数に算入される被相続人の養子の数は次の人数が限度とされ
ています。
・被相続人に実子がいる場合 1人
・被相続人に実子がいない場合 2人
たとえば、基礎控除額などを増加させようと、養子を5人設けても、基礎
控除額は1人分(被相続人に実子がいる場合)
、または2人分(被相続人に
実子がいない場合)までしか認められません。
・民法上の特別養子(注)
・配偶者の実子または特別養子で被相続人の養子となった人
・実子または養子の代襲相続人となった
(実子または養子の)
直系卑族
(注)特別養子とは、養子をできるだけ実子と同じように取り扱うことを目的として創設され
た制度です。特別養子縁組をするには家庭裁判所の審判を受ける必要があり、養子とな
る子の年齢は原則として6歳未満に限られています。特別養子縁組が成立すると法律上
実親との関係は終了し、実親との間の相続関係はなくなります。戸籍上も実親の名前は
記載されません。そのほか、離縁が認められるのは家庭裁判所の審判による場合に限ら
れるなど、一般の養子に比べて強い保護が与えられています。
●相続税額の速算表
各法定相続人の取得金額(A)
1,000万円以下
1,000万円超 3,000万円以下
3,000万円超 5,000万円以下
5,000万円超 1億円以下
1億円超 2億円以下
2億円超 3億円以下
3億円超 6億円以下
6億円超 税率(B)
10%
15%
20%
30%
40%
45%
50%
55%
速算控除額(C)
―
50万円
200万円
700万円
1,700万円
2,700万円
4,200万円
7,200万円
(注)速算表の使い方 (A)×(B)−(C)=税額
◆ 法定相続人
法定相続人は、民法で配偶者と血族相
められないという意味です。たとえば、
続人とが定められています。配偶者は常
子がいる場合、配偶者と子が法定相続人
に法定相続人となります。血族相続人は、
となり、直系尊属である父母がいても、
配偶者と共同相続人となります。血族相
父母には法定相続分は認められないこと
続人では、子が第1順位、直系尊属が第
になります。
2順位、
兄弟姉妹が第3順位となります。
法定相続分は、血族相続人の順位に応
この順位とは、先順位の血族相続人がい
じて民法で次のように定められていま
る場合、先順位の者のみが法定相続人と
す。
相 続 税
ただし、次のような人は実子とみなされます。
います。
認められ、後順位の者は法定相続人と認
268
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269
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◆第1順位
ます。法定相続分は配偶者が2/3、直
被相続人に子がいる場合、子(子がすで
系尊属が1/3です。配偶者がいない場
に死亡している等のときはその代襲相続
合や相続の放棄をした場合、直系尊属が
人(下記のQ&A参照)を含みます)と配
全財産を相続します。
偶者が法定相続人となります。法定相続
◆第3順位
分は配偶者が1/2、残り1/2を子で分
被相続人に子も直系尊属もいない場合
けます。配偶者がいない場合や相続の放
や子の全員と直系尊属の全員が相続の放
棄をした場合、子が全財産を相続します。
棄をした場合、被相続人の兄弟姉妹(代
◆第2順位
襲相続人を含みます)と配偶者が法定相
被相続人に子がいない場合や子の全員
続人となります。法定相続分は配偶者が
が相続の放棄をした場合、被相続人の直
3/4、
残り1/4を兄弟姉妹で分けます。
系尊属(父母、父母がともにいないとき
配偶者がいない場合や相続の放棄をした
は祖父母)と配偶者が法定相続人となり
場合、兄弟姉妹が全財産を相続します。
●法定相続人のそれぞれの法定相続分
配偶者
①子がいる場合
②子がいない場合※
③子も直系尊属もいない場合
1/2
子
1/2
配偶者
2/3
直系尊属
1/3
配偶者
3/4
兄弟姉妹
1/4
※ 子がすでに死亡していても、その代襲相続人(下のQ&A参照)がいる場合は①の扱いとなります。
相続人である子などがすでに死
亡している場合
相続人である子などがすでに死亡している場合はどうな
りますか?
● 相続税のABC
非嫡出子等の法定相続分
たとえば、内縁関係の人や、内縁関係の人との間の子(非
嫡出子)がいる場合はどうなりますか?
まず、内縁関係の人は、相
児は、まだ産まれていなくても、す
続人に含まれません。一方、
でに産まれたものとみなされ、相続
非嫡出子(法律上の婚姻関係にない
人に含まれます(なお、死産だった
男女から生まれた子)は相続人に含
場合は、最初からいなかったものと
まれ、法定相続分は嫡出子(法律上
して扱われます)。
の婚姻関係にある男女から生まれた
次に、父母の一方だけが同じ兄弟
子)と同等とされています
(注)
姉妹の法定相続分は、父母の双方を
。
そのほか、胎児や、父母の一方だ
同じくする兄弟姉妹の法定相続分の
けが同じ兄弟姉妹について、法定相
半分と定められています。
続分が規定されています。まず、胎
(注)平成25年9月4日以前に相続税額が確定している場合の法定相続分は、
「嫡出子の半分」です。
■ 各相続人等の相続税額の計算(第四段階)
第四段階では、相続税の総額をだれが
財産の割合に応じて相続税を負担しま
どれだけ負担するかを計算します。各相
す。各相続人等の相続税額は次の式によ
続人等は、それぞれ現実に取得した課税
り算出されます。
(
各相続人等の
= 相続税の総額 ×
負担する相続税額 各相続人等の課税価格
各相続人等の課税価格の合計額
)
按分割合(上の算式の分数式部分)に
相続人となるはずの子がす
合として扱われ、代襲相続の制度は
相続人が配偶者と子2人、現実の財産の
小数点以下2位未満の端数が生じた場合
でに死亡している等の場合
適用されません)
。
取得額は配偶者が50%で子2人がそれぞ
は、相続人等の全員が選択した方法によ
には、子の直系卑属(被相続人の孫
相続人となるはずの兄弟姉妹がす
れ25%ずつの場合には、100万円の税額
り、各相続人等について求めた値の合計
やひ孫)が代わりに相続人となりま
でに死亡している等の場合には、代
のうち配偶者の負担する税額はその50%
が1となるように端数を調整計算しても
す。これを代襲(だいしゅう)相続人
襲相続人は兄弟姉妹の子(甥・姪)
の50万円、子はそれぞれ25%の25万円と
差しつかえないとされています。
といいます。つまり、子の相続分を
に限られます。兄弟姉妹の子の直系
いうことになります。
その直系卑属が受けるということで
卑属(甥・姪の子や孫)が代襲相続
す(なお、前述のように、子が相続
することは認められません。
■ 各相続人等の納付税額の計算(第五段階)
権を放棄した場合は、子がいない場
270
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相 続 税
たとえば、相続税の総額が100万円で
第四段階までで算出した相続税額に、
ります。具体的には、贈与税額控除、配
一定の控除や軽減が認められる場合があ
偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者
271
16.10.31 5:00:04 PM
そう じ
控除、相次相続控除、外国税額控除、相
この税額控除・税額軽減および税額の
続時精算課税分の贈与税額控除です。逆
加算は、以下で説明する順序で行われま
に、税額の加算が行われる場合もありま
す。
す。
◆(1)相続税額の2割加算
● 相続税のABC
◆(4)未成年者控除
法定相続人が20歳未満であり、かつ、
す)
。
相続等により財産を取得したときに日本
控除額の算式は、次の通りです。
国内に住所を有する場合は、20歳になる
なお、年数の計算に際して、20歳から
までの年数に比例した税額控除を受ける
その者の年齢を引いたあとの年数に1年
ことができます(国外に住所を有する場
未満の端数が生じるときは、1年として
相続人等が被相続人の両親(養親を含
2割加算の対象となります。
合でも、279ページの国内財産・国外財産
計算します。
む)・子(養子、代襲相続人を含む)お
なお、相続人等が被相続人の直系卑属
ともに課税される人は適用を受けられま
よび配偶者以外の者である場合(被相続
で被相続人の養子となっている者である
人の兄弟姉妹など)には、その相続人等
場合、原則として2割加算の対象となり
について税額の2割が加算されます。
ますが、その者が代襲相続人である場合
例えば、代襲相続人ではない孫が、遺
には、加算の対象から除かれます。
贈によって財産を取得した場合などは、
◆(2)贈与税額控除
相続等により財産を取得した者が相続
相続税額から差し引きます。なお、相続
開始前3年以内に被相続人から贈与を受
時精算課税(296ページ)の適用を受け
けた財産は、相続財産に含めて計算しま
た贈与財産について納めた贈与税につい
す(266ページ参照)。相続税の計算に
ては、
(2)〜(7)の控除を行った後
際しては、すでに納めた贈与税(相続財
に(8)として控除します。
産に加えられた財産に対応する部分)を
◆(3)配偶者の税額軽減
出しなければなりません。配偶者の税額
関係なく大幅な税額軽減が認められてい
軽減を受けることによって納めるべき相
ます。この税額軽減が適用されると、配
続税額がゼロであっても申告が必要で
偶者の実際の取得額が、法定相続分以下
す。
の場合、あるいは、1億6,000万円以下
なお、適正な申告を確保するため、相続
の場合には、配偶者には相続税がかから
税についての調査があったことにより更
ないことになります(計算例については
正や決定を予知して期限後申告または修
274ページの「Q&A 配偶者の税額軽減」
正申告を行う場合には、仮装または隠ぺ
を参照してください)。
いされていた財産はこの軽減規定の対象
配偶者の税額軽減の適用を受けるため
となる財産に含まれないこととされてい
には、必要な書類を添付して申告書を提
ます。
272
16税金読本_p261-285_12.indd 272-273
◆(5)障害者控除
法定相続人が障害者であり、相続等に
きます(未成年者控除と異なり、国外に
より財産を取得したときに日本国内に住
住所を有する場合には原則として適用を
所を有する場合は、85歳に達するまでの
受けられません)。年数の計算に際して、
年数1年につき10万円(特別障害者の場
1年未満の端数が生じるときは、1年と
合20万円)の税額控除を受けることがで
して計算します。
障害者控除の金額=
(85歳−その者の年齢)
×10万円または20万円
◆(6)相次相続控除
短期間に何度も重ねて相続があった場
る遺贈を含みます)があった場合には、
合には、そのつど相続税がかかることに
2回目の相続の被相続人が1回目の相続
なり、相続税の負担が相当重いものにな
で課された相続税額の一定割合につい
ってしまいます。そこで、10年以内に2
て、2回目の相続税額から控除するこ
回目の相続(被相続人から相続人に対す
とができます。
相次相続控除の金額=A×
C
D 10−E
× ×
B−A C
10
相 続 税
配偶者については、婚姻期間の長短に
未成年者控除の金額=(20歳−その者の年齢)×10万円
A……前の相続において被相続人が課された相続税額
B……前の相続により被相続人が取得した財産の価額
C……後の相続によりすべての相続人等が取得した財産の価額の合計額
D……後の相続により相次相続控除対象者が取得した財産の価額
E……前の相続から後の相続までの年数(1年未満の端数は切捨て)
C
(注1)
が1を超える場合には1とします。
B−A
(注2)B、C、Dは債務控除をした後の金額です。
273
16.10.31 5:00:04 PM
● 相続税のABC
◆(7)外国税額控除(在外財産に対する相続税額の控除)
相続等によって外国にある財産を取得
す。ただし、
外国で課された税額のうち、
した場合で、日本の相続税に相当する税
課税価格に占める外国にある財産の価額
金を外国の法令により課された場合に
の割合に相当する相続税額を超える部分
は、国際的な二重課税を調整するため、
の金額は控除することができません。
外国で課された税額の控除が受けられま
配偶者の税額軽減額の計算例
相続人:配偶者と子一人
課税価格の合計額 2億円
相続税の総額 3,340万円
Ⅰ 配偶者の実際の取得額が1億円(法定相続分)の場合
A 1億6,000万円(>法定相続分1億円=2億円×1/2)
◆(8)相続時精算課税分の贈与税額控除
B 1億円
1億円
)
=1,670万円
2億円
1億円
配偶者の納付税額=3,340万円×(
)−1,670万円=0円
2億円
1億円
子の納付税額=3,340万円×(
)
=1,670万円
2億円
配偶者の税額軽減額=3,340万円×(
296ページを参照して下さい。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減額はどのように計算されるのですか?
納付税額の合計=0円+1,670万円=1,670万円
Ⅱ 配偶者の実際の取得額が1億6,000万円の場合
配偶者の税額軽減額は次の
算式によって求められます。
A 1億6,000万円(>法定相続分1億円=2億円×1/2)
B 1億6,000万円
A 各相続人等の課税価格の合計額×配偶者の法定相続分
1億6,000万円
)
=2,672万円
2億円
1億6,000万円
)−2,672万円=0円
配偶者の納付税額=3,340万円×(
2億円
4,000万円
)
=668万円
子の納付税額=3,340万円×(
2億円
(算出した金額が1億6,000万円未満の場合、Aは1億6,000万円)
納付税額の合計=0円+668万円=668万円
配偶者の税額軽減額=3,340万円×(
配偶者の税額軽減額=相続税の総額×
AまたはBのいずれか少ない金額
各相続人等の課税価格の合計額
B 配偶者の課税価格相当額(実際の取得額)
上の算式は、配偶者の課税価格相
法 定 相 続 分 以 下、 あ る い は、 1 億
当額(=配偶者の実際の取得額)が
6,000万円以下の場合には、
配偶者の税額軽減額=
(第五段階の(2)までに算出した)相続税額
となります。この場合、配偶者の納
は0となり、相続税がかからないこ
付税額(=相続税額−税額軽減額)
とになります。
274
16税金読本_p261-285_12.indd 274-275
Ⅲ 配偶者の実際の取得額が1億8,000万円の場合
A 1億6,000万円(>法定相続分1億円=2億円×1/2)
B 1億8,000万円
相 続 税
(注1)相続税の総額は、
「相続税計算の順序」で示した第三段階までの計算で得
られる金額です。
(注2)Bの値には、申告期限までに実際に分割されている相続財産のみが集計さ
れます。ただし、分割されていない財産について申告期限から3年以内に
分割が行われたときには税額軽減の適用があります。
1億6,000万円
)
=2,672万円
2億円
1億8,000万円
配偶者の納付税額=3,340万円×(
)−2,672万円=334万円
2億円
2,000万円
子の納付税額=3,340万円×
(
)
=334万円
2億円
配偶者の税額軽減額=3,340万円×(
納付税額の合計=334万円+334万円=668万円
(注)課税価格の合計額が3億2,000万円以上のときは、配偶者の実際の取得額を課税価
格の合計額の1/2とすれば、配偶者の納付相続税額は0となります。
275
16.10.31 5:00:05 PM
12 -2
● 相続税のABC
相続税の申告と納税
相続税額の計算例
相続開始日 平成28年×月×日
課税価格の合計額 40,000万円
法定相続人 妻 長男(26歳)
長女(18歳)
遺産の分割 妻20,000万円 長男12,000万円 長女8,000万円
○課税される遺産総額の計算(第二段階)
40,000万円−(3,000万円+600万円×3人)=35,200万円
○相続税の総額の計算(第三段階)
配偶者 35,200万円×1/2=17,600万円
長男 35,200万円×1/2×1/2=8,800万円
長女 35,200万円×1/2×1/2=8,800万円
速算表による各人の税額
配偶者 17,600万円×40%−1,700万円=5,340万円…①
長男 8,800万円×30%−700万円=1,940万円…②
長女 8,800万円×30%−700万円=1,940万円…③
相続税の総額は①+②+③=9,220万円
○各相続人の相続税額の計算(第四段階)……按分計算
按分比率の計算 (割合)
妻 20,000万円 0.50
長男 12,000万円 0.30
長女 8,000万円 0.20
各相続人の相続税額の計算
妻 9,220万円×0.50=4,610万円
長男 9,220万円×0.30=2,766万円
長女 9,220万円×0.20=1,844万円
したすべての人には、各相続人等が受け
したがって計算し、相続税額の2割加算
た利益の価額を限度として相続税の連帯
および各種の税額控除を行った後におい
納付の義務があります。
ても納付すべき税額がある場合には、相
同一の被相続人から相続等を受けた他
続税の申告をする必要があります(ただ
の共同相続人等がいる場合、相続人等は、
し、次のQ&Aのように、相続税額が0
原則として被相続人の死亡時の住所地の
でも申告が必要な場合もあります)。
税務署長に対して、相続が開始される前
相続開始のあったことを知った日の翌
3年以内にその共同相続人等が被相続人
日から10ヵ月以内に申告を行い、同じ期
から取得した財産または相続時精算課税
限までに納税も行わなければなりませ
制度の適用を受けた財産について、贈与
ん。
税の申告書に記載された贈与税の課税価
申告書の提出先は、被相続人が死亡時
格の合計額の開示を請求することができ
に住んでいたところの税務署です。財産
ます。ただし、この開示請求ができるの
のあるところの税務署や相続人等が住ん
は、相続税の期限内申告書、期限後申告
でいるところの税務署ではありません。
書、修正申告書の提出または更正の請求
相続人等が2人以上の複数である場
が必要なときに限られます。
合、1通の申告書に連署して提出するこ
なお、平成28年1月1日以降の相続等
とができます。申告書には、被相続人の
に係る申告書(例えば、平成28年1月1
死亡時の財産等についての明細書や相続
日に相続等があったことを知った場合は
人の確認のための戸籍謄本や除籍謄本な
同年11月1日までに提出)から、個人番
どを添付しなければなりません。同一の
号(マイナンバー)の記載が必要です。
被相続人から相続等によって財産を取得
相 続 税
○各相続人の納付税額の計算(第五段階)
前項で説明した相続税の計算の順序に
妻 4,610万円−4,610万円(配偶者の税額軽減)=0円
長男 2,766万円
長女 1,844万円−20万円(未成年者控除)=1,824万円
(注1)按分割合は、各相続人等について求めた値の合計が1になるよう各相続人等の値を小数
点以下第2位にとどめて計算しても差し支えないとされています。
(注2)配偶者の税額軽減は次のように計算されます(286ページ参照)。
A.40,000万円×1/2=20,000万円(>16,000万円)
B.20,000万円
20,000万円
税額軽減額=9,220万円×
=4,610万円
40,000万円
(注3)未成年者控除の金額=(20歳−18歳)×10万円=20万円
(注4)課税価格は1,000円未満を切り捨て、納付税額は100円未満を切り捨てます。
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