イオン液体を用いる新たな分離場の創成と機能解析

磁性研究グル-プ
イオン液体を用いる新たな分離場の創成と機能解析
平山 直紀
1. 研究目的
近年,イオン液体と称される一連の物質群が化学の各方面で大きな注目を集めている.イ
オン液体はイオンのみで構成された高極性液体であるため,水や各種有機溶媒とは根本的
に異なる反応場を創出しうる.本研究では,イオン液体を物質分離の場として用いることに
より,従来系では見られない分離機能の実現と,各種分離計測や,新規機能性材料合成にお
ける精製法開発などへの展開を図ることを目的として,さまざまな角度からイオン液体を
用いる新規物質分離場の創成と分離機能の解析を行う.
2.2015 年度の研究計画
2015年度は,おもに以下の項目について検討を行った.
1)
イオン液体キレート抽出における新規抽出剤の利用可能性
2)
イオン液体を抽出溶媒に用いる金属イオンの価数分離
3.2015 年度の研究成果
1)イオン液体キレート抽出における新規抽出剤の利用可能性
従来のキレート抽出で用いられている抽出剤は,疎水性有機
溶媒に溶解して用いることを想定して設計開発されたものであり,
これをイオン液体系にそのまま転用した場合,イオン液体への溶
解性の点で問題が生じ,結果的に実用困難となるケースがしばし
ば生じる.それゆえ,イオン液体への親和性を有した新規キレート
N
N
O
S
O
H
S
H
1
抽出剤の探索が急務である.そこで,イオン液体への親和性が比較的高い二座配位子2-メルカ
プトピリジンN-オキシド(HSPyO, 1)の利用可能性について基礎的な検討を行っている.
HSPyOはチオール基を有するが,互変異性によりチオン基として安定化することが可能な
ため,ジスルフィド形成による分解を引き起こすことなく安定に使用することが可能である.
イオン液体1-ブチル3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
([C4mim][Tf2N])を用いた検討の結果,Cu(II), Ni(II), Zn(II)の抽出に極めて有効であることが
確かめられた.また,比較的かさ高いCd(II)の抽出において,有機溶媒系で見られたアニオン性
錯体Cd(SPyO)3–の形成による抽出阻害が,イオン液体系ではそのアニオン交換抽出能により
-1-
一定程度解消されることが見いだされた。
2)イオン液体を抽出溶媒に用いる金属イオンの価数分離
イオン液体は一種の液状イオン交換体でもあることから,通常の疎
水性有機溶媒とは異なり,荷電錯体をイオン交換により抽出可能であ
る.金属元素の中には複数の酸化数を取りうるものがあり,酸化還元に
よりその価数が変化するが,適当な中性配位子と錯形成させることに
より酸化状態をある程度固定可能になる.そこで,中性配位子1,10-フェ
N
N
2
ナ ン ト ロ リ ン ( phen, 2 ) を 用 い て Fe(II) と Fe(III) の 酸 化 状 態 を そ れ ぞ れ FeII(phen)32+,
FeIII(phen)33+として固定し,イオン液体へのイオン交換抽出系を用いてこれらを相互分離す
ることを試みている.
FeII(phen)32+の方がより酸性条件で抽出されることから,酸性条件で抽出を行うことにより
両者を相互分離できる可能性が示された.さらにイオン液体相互間で分離機能を比較したと
ころ,[C4mim][Tf2N]よりカチオンの疎水性が低い1-エチル3-メチルイミダゾリウムビス(トリ
フルオロメタンスルホニル)イミド([C2mim][Tf2N])を用いた方が分離性能が高くなった.
この理由としては,カチオン交換抽出に関する[C2mim][Tf2N]の有利性のほかに,イオン液体
の粘性の違いによる速度論的寄与が大きいと考えられる.
4.成果公表リスト
原著論文
1) S. Kimura, Y.Shimizu, A. Eguchi, N.Hirayama
Extraction behavior of divalent metal cations with 2-mercaptopyridine N-oxide in ionic liquid
chelate extraction.
Solvent Extraction Research and Development, Japan, 23, 印刷中 (2016). (査読有)
著書
1)
平山 直紀
基礎分析化学 2. 容量分析,
3. 重量分析を分担
朝倉書店 (2015),pp.15-28, 36-42, 43-51.
学会発表 シンポジウム講演
1)
岡村 浩之, 水野 正義, 平山 直紀, 下条 晃司郎, 長縄 弘親, 井村 久則
Htta-TOPO-イオン液体協同効果系におけるランタノイドの抽出および付加錯体生成平
衡の定量的評価.
第 34 回溶媒抽出討論会 金沢工業大学扇が丘キャンパス 野々市 日本(2015.10)
2)
浅野 夏海, 森田 耕太郎, 平山 直紀
イオン液体抽出系における tpen 抽出剤の構造効果.
-2-
第 31 回イオン交換研究発表会 金沢工業大学扇が丘キャンパス 野々市 日本(2015.10)
3)
江口 綾乃, 森田 耕太郎, 平山 直紀
8-キノリノールを用いる鉄(III)のイオン液体キレート抽出におけるイオン液体カチオ
ンの効果.
第 34 回溶媒抽出討論会 金沢工業大学扇が丘キャンパス 野々市 日本(2015.10)
4)
江口 綾乃, 森田 耕太郎, 平山 直紀
8-キノリノールを用いる鉄(III)のイオン液体キレート抽出に及ぼす抽出剤分配平衡の
寄与.日本分析化学会第 64 年会 九州大学伊都キャンパス 福岡 日本(2015.09)
5)
岡村 浩之, 水野 正義, 平山 直紀, 下条 晃司郎, 長縄 弘親, 井村 久則
イオン液体協同効果系の抽出平衡解析法:ランタノイド(III)-Htta-TOPO 系
日本分析化学会第 64 年会 九州大学伊都キャンパス 福岡 日本(2015.09)
6)
平山 直紀
金属イオン抽出におけるイオン液体抽出相の機能(依頼講演)
日本分析化学会第 64 年会 九州大学伊都キャンパス 福岡 日本(2015.09)
7)
K.Morita, N.Yamada, M.Nakada, H.Nagatani, N.Hirayama, H.Imura
Photoluminescent properties of carbon nanodots prepared by pyrolytic synthesis.
Royal Society of Chemistry Tokyo International Conference 2015
幕張メッセ 千葉 日本(2015.09)
8)
N.Hirayama
Ionic liquids as extraction media.
2015 Toho Univ-GNU Joint Symposium on Advanced Chemical Science
東邦大学理学部 船橋 日本(2015.03)
-3-