熱力学 まとめ

2016 年 12 月 4 日
戸田昭彦
熱力学では温度が関与する巨視的な現象を扱う。
巨視的な現象とは,膨大な数(例えば 1 モル)の分子・原子・素粒子や,電磁波・光などの輻射の集
団が起こす現象である。
第1章 熱平衡と温度
熱平衡
熱力学で基本となるのが,「熱平衡状態」と呼ばれる最終的な安定状態である。
熱平衡状態とは,
十分長い時間放置したときに系が到達する巨視的な変化が起こらなくなった状態。
熱接触している2つの物体間に巨視的な変化が起こらなくなった状態。
熱接触とは,
分子・原子の微視的な熱運動あるいは輻射によるエネルギー移動が可能となる接触。
熱力学第0法則
「熱接触している2つの物体 A と C が熱平衡にあり,同じく B と C が熱平衡にあるとき,A と B
も熱平衡にある。」 (参考0 参照)
温度
熱接触して平衡にある物体同士でつり合い,等しい値となる物理量として定義される。
力学的な平衡は力(圧力)という物理量の釣合いとして表される。同様に考えると,熱接触して
いる2物体が熱平衡にあるとき,熱的な釣り合いを表す何らかの物理量を共有しているであろ
う。熱力学第0法則により,そのような物理量として温度が定義される。(参考0 参照)
F=F
T= T
温度の異なる2物体が熱接触すると伝熱し,温度が変化し,平衡に達すると等しくなる。
温度の高低は,熱接触により加熱される側を低温,加熱する側を高温とする。(第2法則より)
物体の温かさ,冷たさの指標である。
温かさ,冷たさとは,皮膚および粘膜で,伝熱により温度が上昇,下降したことを感じること。
膨大な数の分子・原子の「熱運動」の指標でもある。
1
温度の単位
摂氏( t/°C ): 1 気圧下での氷の融点を 0℃,水の沸点を 100℃とし,その間を等分。
特定の2つの状態で起こる水の相変化を用いており,根拠のある決め方である。
(参考) 華氏( °F ): tF / °F = (9 / 5) t/°C + 32 (例) 32°F = 0°C , 100°F ≅ 37.8°C
温度目盛の刻み方(等分の方法)
経験的(便宜的)温度目盛: 液体や気体の体積変化(熱膨張・収縮)
理想気体の温度目盛(ボイルの法則):
温度一定の下で,体積↘,壁への気体分子の衝突回数↗,圧力(圧縮に対する反発力)↗
圧力 p が体積 V に反比例する。 p ∝ 1 / V
(身近な例) 自転車の空気入れ
言い換えると,積 p V が温度 t の関数。 ( pV ) t
( pV ) t − ( pV )0
t/°C
=
100/°C ( pV )100 − ( pV )0
( pV )0
t+273.15
( pV ) t
⇒ ( pV )t = ( pV )0
⇒
=
273.15
t+273.15 273.15
実測で
500
(pV)t R-1 /K mol
400
H2 gas
( pV )100
( pV )0
300
200
100
0
-300
-200
−273.15
-100
o
0
100
200
t/C
絶対温度(K ケルビン): T / K = t/°C + 273.15
熱力学温度ともいう。(p.13 参照)
現在の定義: 水の三重点(p.41 参照)=(0.01℃, 611.73 Pa)の温度を 273.16 K とする。
近い将来の定義: ボルツマン定数の値を kB = 1.3806X × 10-23 J K-1 ( X は現在未定)と定め,熱
エネルギーを kB T /J 単位で表したときの温度を T /K とする。(参考4 参照)
ボイル-シャルルの法則:
pV = nRT
( pV ) T ( pV )273.15
=
= nR
T /K
273.15
ただし, 気体の物質量 n ,気体定数 R ≅ 8.314 J K-1 mol-1
この法則に厳密に従う気体を理想気体と呼ぶ。
気体の種類によらず,十分に高温でかつ密度の希薄な低圧極限で成り立つ。
ボイル-シャルルの法則に従い,絶対温度 T に直接比例する理想気体(低圧極限の気体)の温
度目盛 ( pV )T によって,温度を絶対測定することができる。すなわち,一意的に決まる水の三重
点での理想気体温度を 273.16 K とし,1/273.16 倍すれば 1 K となる。このような温度計を1次温度
計と呼ぶ。(参考1G 参照) 実際の気体温度計では,ヘリウム He や水素 H2 などを用い,理想気
体からのズレの補正を行い,絶対温度を決定する。(参考1 参照)
2
状態量(状態変数)
熱平衡状態で,ある一つの決まった値をもつ物理量のことを「状態量」あるいは「状態変数」と呼
ぶ。例えば, 圧力 p , 体積 V , 温度 T , 物質量 n (粒子数 N) は状態量である。
状態変数のさらなる分類として,
示量変数: 系の分量に比例する。例 V , n (N )
示強変数: 系の分量によらない。例 p, T
のように区別する。
状態変数の組(x, y)で状態が特定されているとき,状態量 f (x, y ) としては,下図のように経度と緯
度を x-y 軸,高度を z 軸とする,洞窟や崖のない,なだらかな地形図を思い浮かべればよい。
状態量 f (x, y ) の満たすべき性質として,
B
∆fA→B = ∫ df = fB − fA
A
∂f
∂f
df = ( )y dx + ( )x dy
∂x
∂y
(
∂ ∂f
∂ ∂f
( )y ) x = ( ( ) x )y
∂y ∂x
∂x ∂y
経路に依らない。 f (x, y )
∆fy = (
全微分可能。
∆fx = (
順序に依らず
結果は同じ。
∂f
) x ∆y
∂y
f
y
x
∂f
) y ∆x
∂x
∆f = ∆fx + ∆fy
∂f
∂f
= ( ) y ∆x + ( ) x ∆y
∂x
∂y
(参考2 参照)
状態方程式
平衡状態における温度を含む状態量間の関係式。
一般には, f ( p, V , T , n ) = 0 や T = T ( p, V , n ) のような形式。
例1) 理想気体の状態方程式: pV = nRT
n
例2) ファン・デル・ワールスの状態方程式: [ p + a ( ) 2 ](V − bn) = nRT
V
他の例は(参考3),(参考4),(参考5),(参考6)を参照
上記の状態方程式に従う流体(気体,液体)では,物質量 n が一定のとき,2つの状態変数によっ
て,その状態が特定される。
例えば p と V を決めると,状態方程式から T が自動的に決まる。
状態方程式を用いると,物質の性質を表す係数の計算ができるようなる。
例) 等温圧縮率 κ T = −
1 ∂V
1 ∂V
)p
(
) T , 体膨張率 α = (
V ∂T
V ∂p
κ T は常に正(p.31 参照)。つまり,熱平衡状態にある物体を加圧すると必ず収縮する。
α は通常正。つまり,昇温すると熱膨張する。ただし,負の場合もある。
例えば,大気圧下で 0~4℃の水では負となる。
理想気体では, κ T =
1
1
, α=
p
T
3
第2章 熱力学第1法則
仕事 W
向きと大きさが制御された巨視的な操作によるエネルギー移動を指す。
熱(の出入り) Q
温度の異なる物体を熱接触させると,伝熱する(加熱,冷却される)。
熱の出入りの3形態
伝導,放射,対流
熱の単位
熱(量)は加熱による物体の温度上昇の度合いによって測られる。⇒ 次項(熱容量)参照
カロリー(cal): 大気圧下で水 1 グラムの温度を 1℃上げるときの加熱量を基準とする単位。
熱の仕事当量
仕事と熱は,互いに変換可能である。
例) 仕事⇒発熱: 仕事による摩擦熱の発生(温度上昇) (ランフォード)
加熱⇒仕事: 加熱時の気体の膨張による仕事 (マイヤー)
仕事⇔熱: 気体の圧縮・膨張時の仕事と発熱・吸熱,その他の精密測定 (ジュール)
単位についても 1 cal15 = 4.1855 J と換算される。以下では単位をジュール J で統一する。
(calの定義は複数ある。cal15はそのうちの一つ。1 cal15は14.5-15.5℃の変化に要する加熱量)
すなわち,熱の出入りとは,加熱,冷却によるエネルギー移動のことである。
膨大な数の分子・原子の向きと大きさがでたらめな微視的な熱運動あるいは輻射により起こる。
内部エネルギー U
物体内に蓄えられるエネルギー。
物体を構成している膨大な数の分子・原子のもつエネルギーの総和。
加熱や圧縮されることで,熱運動が活発になり,温度が上がる。
状態量である。
熱力学第1法則: ∆U = U 2 − U1 = Q + W
内部エネルギーの増加量=外部からの加熱量+外部からの仕事量。
熱の出入り,内部エネルギーの増減も含めたエネルギー保存則である。
第1種永久機関(無からエネルギーを作り出すことのできる機関)の否定。
通常, Q と W は内部エネルギーが増える方向を正とする。
Q と W は,状態変化時のエネルギー移動量であり,状態量ではない。
微小な変化は dU = q + w と表す。
一般の教科書では dU = d ′Q + d ′W のように表記されているが, d′Q , d′W などの表記法
は状態量の全微分 dU などと混同しやすいので,以下では,このように表すことにする。
意味は同じである。
4
以下では,次章で扱う「理想気体のカルノーサイクル」の理解のための準備を行う。
準静的過程: 平衡状態を保ちながら,微小な変化を無限にゆっくりと行う仮想的過程。
通常,摩擦などのいわゆる「散逸」を伴わない可逆な過程を意味する。(参考7 参照)
準静的な仕事: 力学平衡が保たれたまま,圧力差なしで行う仕事
気体の場合,wr = − p dV
∵ wr = −F ∆L = −( pA ) ∆L = − p (A∆L) = − p dV
A
V = AL
その他の仕事の例は,参考3を参照。
p
L
準静的な伝熱: 熱平衡が保たれたまま,温度差なしで生じる熱の出入り
熱容量 C =
q
: 加熱(冷却)することで温度が変化したとき,その比例係数( q = C dT )。
dT
単位温度上昇に必要とされる加熱量(蓄熱量)。
常に正である。熱平衡状態にある物体の温度が加熱されて下がることはない。
単位: J K-1
(p.30 例1,p.31 例2 参照)
比熱 c : 単位質量あるいは1モル当りの熱容量。比熱容量。単位: J g-1K-1, J mol-1K-1
2物体が熱接触したときに釣り合い,等しくなる状態量が温度であった。温度の異なる2物体が
熱接触したときの伝熱量と温度変化の比例係数が熱容量である。2物体間の熱接触の場合に
は,平衡温度を Te として T1 < T2 のとき,熱容量が変化しなければ,伝熱量は
| Q |= C1 (Te − T1 ) = C2 (T2 − Te ) のように決まる。
以下で見るように,熱容量 C は変化経路によって異なる値をとる。そのため, q = C dT の表
式も,上式 wr = − p dV のような,経路に依らず一般的に成り立ち,状態変数のみによる表式
とは性格が異なる。次章以降では, wr = − p dV に相当する,熱の出入り q に関する表式が,
状態量である温度 T とエントロピー S を用いて, q r = T dS と表されることを示す。
なお,熱量-温度変化( q = C dT )の係数である熱容量 C と同様に,仕事-圧力変化の係
数として圧縮率 κ がある( w = pVκ dp )。熱容量と同様に,圧縮率も変化経路によって異なる
値をとる(等温圧縮率,断熱圧縮率)。
気体の熱容量
定積熱容量: CV = (
∂U
)V
∂T
定圧熱容量: C p = CV + {(
∂U
∂V
) T + p}( ) p > CV
∂V
∂T
証明)dU = q + w = q − pdV から,q = dU + pdV
∂U
∂U
∂U
∂U
)V dT + ( ) T dV を用いると,q = ( )V dT + [( ) T + p ]dV
∂T
∂V
∂T
∂V
∂U
∂U
上式より,定積(dV = 0)過程では q = ( )V dT なので,CV = ( )V
∂T
∂T
∂V
∂V
一方,dV = ( ) p dT + ( )T dp の関係を用いると,定圧(dp = 0)過程では,
∂T
∂p
∂U
∂V
q = {CV + [( ) T + p ]( ) p }dT
∂V
∂T
∂U
∂V
そこで,C p = CV + [( ) T + p]( ) p
(一般に C p > CV となることは p.33 参照)
∂V
∂T
dU = (
5
理想気体の性質:  pV = nRT

 ∂U
( ∂V )T = 0 状態方程式から導出可能 (p.26 参照)
理想気体では分子間相互作用はなく,内部エネルギーは運動エネ
ルギーのみで決まる(参考4 参照)ので,温度が一定でありさえす
れば,内部エネルギーの体積依存性はない。( dU = CV dT )
これらの性質により,理想気体では以下のマイヤーの関係式が成り立つ。
∂V
nR
C p − CV = [0 + p ]( ) p = p
= nR > 0
∂T
p
断熱変化: 熱接触を絶った条件下での変化のこと。
断熱変化では,内部エネルギーの増減は力学的仕事のみによる。
q = 0 ⇒ dU = w
熱接触なしで外部に仕事をすると,内部エネルギーが減少する。このとき通常は温度が下がる。
ただし,例外もある。(昇温により熱収縮する物体では,温度は逆に上がる。p.33 参照)
理想気体の準静的断熱変化:
p V γ = p0 V0γ
γ ≡ Cp / CV > 1
T p1 γ −1 = T0 p01 γ −1
T V γ −1 = T0 V0γ −1
例)単原子理想気体では γ = 5 / 3 (参考4 参照)
∂U
∂U
∂U
∂U
)V dT + ( ) T dV = q − pdV , ( )V = CV , ( ) T = 0, q = 0 から,
∂T
∂V
∂T
∂V
nRT
dU = CV dT = − pdV ⇒ CV dT = −
dV
V
C − CV dV
dT
nR dV
dV
⇒ =−
=− p
= −( γ − 1)
T
CV V
CV
V
V
証明)dU = (
V dV
dT
T
V
= −( γ − 1) ∫
⇒ ln( ) = −( γ − 1)ln( )
T0 T
V0 V
T0
V0
T
⇒ ∫
⇒ T V γ −1 = T0 V0γ −1
さらに,pV = nRT から,p V γ = p0 V0γ , T p1 γ −1 = T0 p01 γ −1
理想気体の等温変化と断熱変化のまとめ:
等温変化: p V = nRT = (一定)
⇒
p∝V
−1
断熱変化: p V γ = (一定)
⇒
p∝V
−γ
γ >1
理想気体は減圧・加圧により膨張・収縮するバネに相当する。変形時の仕事に要するエネルギ
ーの移動は,等温変化では熱源との熱の出入り( w + q = dU = CV dT = 0 )により,断熱変化
( q = 0 )では気体の内部エネルギー変化(温度変化)( w = dU = CV dT )により,なされる。
6
第3章 熱力学第2法則
・ 熱力学第1法則(エネルギー保存則)に反しない全ての変化が自然界で起こりうるとは限らない。
(起こらない例 低温物体から高温物体への自発的な熱伝導)
・ 起こりうる変化の基準を与えるのが,熱力学第2法則である。
熱力学第2法則: 「ある種の巨視的な変化は不可逆である。」
互いに等価な多くの表現(原理)がある。
高温熱源 T2
クラウジウスの原理:
「低温の物体から高温の物体に熱を移し,
他に何の変化も残さない過程は実現できない。」
Q
! "
温度差があるときの自然な(自発的な)熱伝導は一方向に不可逆的に進む。
同一条件下で向きが逆転することはなく,加熱される側が低温,加熱する側
が高温であり,伝熱により温度変化し,熱平衡に達すると温度が等しくなる。
Q
低温物体から高温物体への熱の移動を強制的に起こすためには,他に残る
変化として,外からの仕事が必要となる。
例)冷蔵庫,エアコン このような装置はヒートポンプと呼ばれる。
低温熱源 T1
熱と仕事との変換を行える装置を熱機関と呼ぶ。 熱機関に関する用語の定義として,
熱機関: サイクルにより熱を継続的に仕事に変換できる装置。
サイクル: 作業物体が,仕事や熱源との熱の出入りなど,一連の状態変化を辿った後に,
元と全く同じ状態に再び戻る過程のこと。
熱源(熱浴): 温度不変のまま可逆に熱を供給・吸収できる物体。
熱容量無限大の物体。
この章での約束事:
高温熱源 T2
仕事を行う動力機関を想定するため,外への仕事を正の量とする。
右図中の記号 Q1 , Q2 , W は正の量を表す。
Q2
Q2 は加熱量, W は外への仕事, Q1 は排熱量なので,元の状態に戻る
1サイクル前後の熱力学第1法則は 0 = ∆U = (Q2 − Q1 ) − W と表される。
W
(= Q2 − Q1 )
熱機関の効率: 供給された熱と外にした仕事との比。右図の熱機関では,
η=
Q1
W Q2 − Q1
Q
=
=1− 1
Q2
Q2
Q2
低温熱源 T1
トムソンの原理:
「1つの熱源から熱を受けとり,等量の仕事をして,
他に何の変化も残さない過程は実現できない。」
仕事による摩擦熱の発生は一方向に不可逆的に起こる。
加熱のみによる熱機関(熱を全て仕事に変換する熱機関)は実現不可能
であり,他に残る変化として,低温熱源への排熱が必要となる。すなわち,
サイクルにより熱を継続的に仕事に変えるためには,2つ以上の熱源が必
要とされる。第2種永久機関(効率=1となる熱機関)の否定を意味する。
7
熱源 T
Q
W
(= Q)
トムソンの原理 ⇔ クラウジウスの原理
クラウジウスの原理が成り立つことは日常経験からも明らかであろう。
トムソンの原理については自明ではないかも知れないからこそ,第2種永久機関の開発が試み続
けられて来たのであろう。
結合サイクルを用いた対偶による証明により,これら二つの原理が等価であることが示される。
対偶による証明では,一方の原理で不可能とされる過程が可能であると仮定すると,他方の原
理で不可能とされる過程も可能となってしまうことを示す。
クラウジウスの原理 → トムソンの原理
「熱→仕事が可能であれば,逆向きの熱伝導も可能となる」 ことを示す結合サイクルの例。
高温熱源 T2
Q
#$%&
'()*
高温熱源 T2
-./01
&%#$
'()*
W
(= Q)
Q
+,
'()*
Q
Q
低温熱源 T1
低温熱源 T1
トムソンの原理 → クラウジウスの原理
「逆向きの熱伝導が可能であれば,熱→仕事も可能となる」 ことを示す結合サイクルの例。
高温熱源 T2
Q1
2345
657
熱源 T2
Q2 − Q1
Q2
:;3<
Q1
W
(= Q2 − Q1 )
89
:;3<
W
Q1
低温熱源 T1
可逆,不可逆過程・サイクルとは,
第2法則の2つの原理の表現を用いることで,自発的な熱伝導や,仕事による摩擦熱の発生など,
いわゆる不可逆過程は,他に何の変化も残さずに逆行程を起こせない,すなわち完全には元に
戻せない過程として捉えることができる。以降では,これを不可逆過程の定義とする。
熱機関サイクルについては,1サイクル後に仕事と熱の出入りが残る過程として捉えることができる
ので,その可逆性は以下のように定義できる。
・ 不可逆サイクルとは,そのサイクルで生じた仕事,熱の出入りの変化を,他に何の変化も残さず
に,元に戻すことができないサイクル。
・ 可逆サイクルとは,同様な変化について,他に何の変化も残さずに,全て元に戻せるサイクル。
なお,可逆過程・可逆サイクルは,途中の無限小変化の各過程についても全て可逆なはずなの
で,経路をそのまま逆向きに辿って元に戻せる過程・サイクルとなる。
8
そもそも可逆サイクルは構成可能か?
第2法則で規定される不可逆変化を含まない過程として,高・低温の熱源とは温度差ゼロでの伝
熱(クラウジウスの原理)を,高温↔低温間の温度変化は例えば断熱下で,それぞれ準静的に摩擦
熱の発生なし(トムソンの原理)で行えばよい。(参考7 参照)
例1) 可逆サイクルの例としての理想気体のカルノーサイクル
作業物質として理想気体を用い,以下の行程を準静的に行うサイクルである。
力学平衡,熱平衡が保たれながら行われる。
(1)A→B 等温( T2 )膨張
p
↓
Q2
A
(2)B→C 断熱膨張( T2 → T1 )
WAB
↓
B
(3)C→D 等温( T1 )圧縮
WBC
WDA
↓
D
(4)D→A 断熱圧縮( T1 → T2 )
T2
C
T1
↓
WCD
(1)に戻り,繰り返し
Q1
=>
pV ?@
AB
pV CD
γ
V
(参考) http://home.hiroshima-u.ac.jp/atoda/Carnot74.gif
各行程での変化:
(1)等温 T2 で,膨張 V A → V B
・外への仕事 WAB = ∫
VB
VA
p dV = ∫
VB
VA
nRT2
dV = nRT2 ln(V B / V A ) > 0
V
・高温熱源からの加熱 Q2 > 0
・等温変化なので ∆U AB = Q2 − WAB = 0
故に, Q2 = WAB = nRT2 ln(VB / VA ) > 0
(2)断熱で,膨張 V B → VC ,降温 T2 → T1 (> 0)
・外への仕事 WBC > 0
・断熱条件 Q = 0, T2 VBγ−1 = T1 VCγ−1
・内部エネルギー変化 ∆U BC = U (T1 ) − U (T2 ) = 0 − WBC < 0
(3)等温 T1 ( > 0) で,圧縮 VC → VD
・外からの仕事 −WCD = ∫
VD
VC
p dV = nRT1 ln(VD / VC ) < 0
・低温熱源への放熱 −Q1 < 0
・等温変化なので ∆U CD = (−Q1 ) − (−WCD ) = 0 故に, −Q1 = −WCD = nRT1 ln(V D / VC ) < 0
(4)断熱で,圧縮 VD → VA ,昇温 T1 → T2
・外からの仕事 −WDA < 0
・断熱条件 Q = 0, T1 VDγ−1 = T2 VA γ−1
・内部エネルギー変化 ∆U DA = U (T2 ) − U (T1 ) = 0 − (−WDA ) > 0
9
以上より,
(1)外への仕事量 W (> 0) について,断熱過程では WBC = WDA = U (T2 ) − U (T1 ) なので,
W = WAB + WBC − WCD − WDA = nRT2 ln(VB / VA ) − nRT1 ln(VC / VD )
(2)出入りする総熱量 Q (> 0) について
Q = Q2 − Q1 = nRT2 ln(V B / V A ) − nRT1 ln(VC / V D )
(3)熱力学第1法則については,1サイクルで ∆U = Q − W = 0 が成立している。
(元の状態に戻る。)
(4)断熱条件から,
V B / VA = VC / VD が成立するので, Q1 / Q2 = T1 / T2 の関係が成り立つ。
高温熱源 T2
まとめると,理想気体の可逆なカルノーサイクルとは,
Q2
1.高温( T2 )熱源から Q2 だけ加熱され,
2.外へ総和 W (> 0) の仕事をして,
W = Q2 − Q1 = nRT2 ln(VB / VA ) − nRT1 ln(VC / VD )
3.余分な熱を低温( T1 > 0 )熱源に Q1 だけ排熱し,
4.元の状態に戻る可逆サイクルである。
5. Q1 / Q2 = T1 / T2 の関係が成り立つ。
可逆
W
カルノー
サイクル (= Q2 − Q1 )
Q1
低温熱源 T1 (> 0)
熱機関としての効率について,理想気体のカルノーサイクルでは,
Q1 T1
=
なので,
Q2 T2
ηC =
W Q2 − Q1
Q
T
=
=1− 1 =1− 1
Q2
Q2
Q2
T2
(参考)カルノーサイクルの4つの行程のうち等温膨張過程では,気体は熱源からもらった熱と等量の
仕事を外部に行っている。ただし,気体は膨張したままで元の状態に戻っておらず,トムソンの原理
に反してはいない。あくまでもサイクルの一部の過程である。引き続き等温に保ったまま,圧縮して元
の状態に戻してサイクルとした場合,1サイクル後の仕事の総量は差し引きゼロとなる。これは,バネ
係数が変化しないバネの伸長・収縮サイクルからは外部に仕事を取り出せないことと同じである。理
想気体は絶対温度に比例する係数をもつバネに相当し,温度を変える(高温膨張,低温収縮させ
る)ことで,熱機関の作業物質として利用することができる。
他の作業物質を用いたカルノーサイクルの例としては,(参考3)高分子鎖,(参考6)ファン・デル・
ワールス気体がある。特に,等温膨張・圧縮時に力が変化しない等圧変形が可能な例は(参考5)光
子気体,(参考6)ファン・デル・ワールス飽和蒸気がある。また,カルノーサイクルに相当する行程を
行える熱機関として,次項のスターリングサイクルや(参考8)のエリクソンサイクルがある。
10
例 2) 理想気体の可逆スターリングサイクル
等温変化と等積変化の合計4つの以下の行程を準静的に行うサイクルである。
圧力
p
等温 T2 ・膨張 VS → V E
↓
等積 V E ・冷却 T2 → T1
EF
V
(T2 − T1 )
W2
H
I
J
K
↓
等温 T1 ・収縮 V E → VS
↓
等積 VS ・加熱 T1 → T2
TUVW Q = C
Q2
T2
W1
GF
VS
LMNO
T1 pV = nRT PQRS
Q1
VE
体積 V
このうち等積冷却・加熱行程で起こる温度変化は,無限小の温度差をもつ無限個の熱源との熱の出
入りにより,可逆に行うことができる。(参考7,参考9 参照) その際の熱の出入りの総量は,定積熱
容量 C V を用いて ±C V ( T2 − T1 ) と表され,出入りの大きさは互いに等しい。すなわち,無限個の熱源
との熱の出入りは1サイクル後に全て相殺されている。そこで,これらの熱源もサイクルに含めて考え
ると,等積行程は外部との熱の出入りを必要とせず,サイクルの効率にも影響しなくなる。可逆スター
リングサイクルでは熱再生器と呼ばれる装置により,降温時の排熱を昇温時の加熱にそのまま用いる
こととしている。その結果,外部の熱源と熱の出入りを行うのは,等温行程のみとなる。理想気体の等
温行程では内部エネルギーが一定に保たれる( ∆U = Q − W = U (T ) − U ( T ) = 0 )ので,熱の出入り
Q と仕事量 W は等しく,以下の関係がある。
等温 T2 ・膨張 VS → V E
Q2 = W2 = ∫
VE
VS
p dV = ∫
VE
VS
nRT2
V
dV = nRT2 ln E
V
VS
等温 T1 ・収縮 V E → VS
VS
VE
VE
VS
Q1 = W1 = − ∫ p dV = ∫
nRT1
V
dV = nRT1 ln E
V
VS
等温膨張と等温収縮行程における体積変化は共に等しく V E ⇔ VS なので,上の2式から,以下の関
係が成り立つ。
VE
Q1
VS T1
=
=
なので,
V
Q2 nRT ln E T2
2
VS
nRT1 ln
ηS =
W Q2 − Q1
Q
T
=
=1− 1 =1− 1
Q2
Q2
Q2
T2
11
上記2つの理想気体を用いた可逆熱機関については,共に
ηr = 1 −
Q1
T
=1− 1
Q2
T2
あるいは
Q1 T1
=
Q2 T2
の関係が成り立ち,その効率が,加熱や仕事量に依らず,熱源温度のみで決まることが分かる。
一般の可逆熱機関については,以下の特性がある。
一般の可逆熱機関の効率について
「高温・低温熱源を共有する全ての可逆熱機関は等しい効率をもつ。」
証明) 熱源を共有し,当量の仕事 W = Q2 − Q1 = Q2′ − Q1′ を行う2つのサイクル A と B がある。下
図のように,A の順行程と B の逆行程とが結合すると,2つの熱源間の自発的な伝熱を表すサイク
ルとなる。クラウジウスの原理から,高温熱源から低温熱源への(図では下向きの)伝熱のみが可
能である。この条件は,伝熱が生じないときも含めて,以下のように表される。
Q2 − Q2′ = Q1 − Q1′ ≥ 0
すなわち,逆行程による熱の流れ Q2′ , Q1′ の方が大きくなることはない。
両サイクル A と B が共に可逆のとき,結合サイクルの逆サイクルも可能となる。そこで,順,逆どち
らかのサイクルで伝熱が生じると,その逆のサイクルは必ずクラウジウスの原理に反することになり,
そもそも,当量の仕事を行う可逆サイクル同士の結合サイクルに伝熱は起こらず,系全体には何
の変化も生じないことになる。すなわち, Q2 − Q2′ = Q1 − Q1′ = 0 であり, Q2 = Q2′ , Q1 = Q1′ なので,
可逆サイクル A と B は熱機関としては全く同じ働きをすることになり,等しい効率をもつ。
高温熱源 T2
熱源 T2
Q2′
Q2
^Y
Z[\]
W
A
XY
Z[\]
B
Q1
Q1′
低温熱源 T1
Q2 − Q2′
_`
Z[\]
Q1 − Q1′
熱源 T1
次に,異なる量の仕事を行う熱機関の比較を行う。先ず,同じ行程を n 回繰り返したとき, Q, W
全てが n 倍となるので,比 Q1 / Q2 すなわち効率 η は繰り返し回数に依らない。そこで,仕事量が
有理数比となる熱機関同士でも,互いの仕事量が等しくなるだけ繰り返したものを1サイクルとして
上記の比較を行えば,効率が等しいといえる。一般化して,任意の量(実数比)の仕事を行う熱機
関も等しい効率をもつと結論できるであろう。実際に,上記のように,理想気体を用いた可逆熱機
関では効率は仕事量に依らない。
補) 第2法則(上記の証明ではクラウジウスの原理)を前提とせずに,可逆サイクルの効率が互いに
等しくなることは結論できない。
補) 熱源が3つ以上の熱機関同士でも同様である。上記の別証も含めて,参考8 参照。
このように,可逆サイクルであれば,作業物質や仕事量,伝熱量によらず,効率は等しくなることが示
された。全ての可逆サイクルについて成り立つ,カルノーの定理として以下のようにまとめられる。
12
カルノーの定理
「高温・低温熱源による全ての可逆熱機関の効率は,2つの熱源の温度のみで決まる。」
すなわち,可逆熱機関の効率 ηr が熱源の温度 t1 , t2 (t1 < t2 ) のみの関数 F (t1 , t2 ) で表される。

Q1
f (t ) 
= 1 − F (t1 , t2 )  = 1 − 1 
Q2
f (t2 ) 

別な見方をすれば,上式により,出入りする熱の比 Q1 / Q2 を用いた温度 t の定義が可能となる。
ηr = 1 −
その際, F (t1 , t2 ) = f (t1 ) / f (t2 ) と表されることが以下のように示される。まず, t2 と t1 の熱源に,さらに
低温 t0 の熱源を加える。 t2 − t1 , t1 − t0 間の2つの可逆サイクルの効率は以下のように表される。
Q1
Q
, F (t0 , t1 ) = 0
Q2
Q1
この二つの可逆サイクルを結合したサイクルもやはり可逆であり, t1 の熱源とは差し引きで熱の出入り
F (t1 , t2 ) =
がなく, t2 と t0 の2つの熱源のみと Q2 と Q0 の熱のやりとりを行うサイクルとなる。そこで,この結合可逆
サイクルについて,その効率が以下のように表される。
Q Q Q
F (t0 , t2 )
F (t0 , t2 ) = 0 = 0 1 = F (t0 , t1 )F (t1 , t2 ) ⇒
= F (t1 , t2 )
Q2 Q1 Q2
F (t0 , t1 )
最終的に得られた関係式の右辺は t0 によらない。そこで,左辺の関数 F (t0 , t′) は t0 の関数 g (t0 ) と
t′ = t1 , t2 の関数 f (t′) とに分離できているはずである。
このとき例えば, F (t0 , t′) =
g (t0 )
F ( t0 , t2 ) g (t0 ) f (t1 ) f (t1 )
と書けるので,結局, F (t1 , t2 ) =
=
=
と表さ
f (t′)
F (t0 , t1 ) f ( t2 ) g ( t0 ) f (t2 )
れる。(すなわち, g (t) = f (t) であった。)
理想気体温度計で決められた絶対温度も,出入りする熱の比 Q1 / Q2 から決められた温度の一つで
あると見做すことができる。実際,以下の関係を満たす絶対温度は,関数 f ( t) をそのまま温度
T = f (t) とみなした場合の温度と定係数を除いて一致している。
ηr = 1 −
Q1
T
Q1 T1
= 1 − 1 (< 1) あるいは
=
( > 0)
Q2
T2
Q2 T2
理想気体温度計で決められていた絶対温度の比が,「理想気体」などの作業物質によらず,「全ての
可逆サイクル」において出入りする熱の比として決められることになり,熱力学的な根拠のある温度
(熱力学温度)として,絶対温度が再定義されたことになる。そこで,絶対温度は熱力学(的)温度とも
呼ばれる。絶対温度目盛りの定係数は水の3重点の温度を 273.16 K とすることで決められている。こ
の係数により 1 K と 1℃の温度変化は等しい。
補)関係式 Q1 / Q2 = T1 / T2 について,可逆熱機関では,出入りする熱 Q1 , Q2 よりも各熱源の温度で
割った量 Q1 / T1 = Q2 / T2 に重要な意味がある。(次章参照) また,低温熱源がより低温になるほど高
効率となり T1 → 0 で Q1 → 0 , ηr → 1 となることを意味している。ただし, T1 = 0 で Q1 = 0 , ηr = 1 とす
ると,1つの熱源とのみ熱のやりとりを行うトムソンの原理に反する熱機関となる。 T = 0 Kのいわゆる
絶対零度については,後述の熱力学第3法則により,到達不可能な極限の最低温度であることが示
される。すなわち, T1 = 0 Kの低温熱源は原理的に実現不可能となる。
13
一般の熱機関の効率 η の上限
「不可逆熱機関の効率 ηir は ηir < ηr となる。」
証明) 不可逆サイクルで生じた変化は,他に何の変化も残すことなく元に戻すことができない。そ
こで,前項図の結合過程について,順行サイクル A が不可逆,逆行サイクル B が可逆のとき,順
行サイクルで生じた変化を逆行サイクルで完全に元に戻すことはできないはずなので,この結合
過程には何らかの変化が必ず残ることになる。結合サイクルで起こりうる変化は熱の出入りのみな
ので, Q2′ − Q2 = Q1′ − Q1 ≠ 0 となるはずである。
このとき,結合過程が可能となる条件は, Q2 − Q2′ = Q1 − Q1′ > 0 であり,
∴ηA − ηB =
W W Q2 − Q1 Q2′ − Q1′ Q2 − Q1 Q2 − Q1 Q2 − Q1
−
=
−
=
−
=
(Q2′ − Q2 ) < 0
Q2 Q2′
Q2
Q2′
Q2
Q2′
Q2Q2′
つまり, ηA < ηB = ηr の関係が確認される。すなわち, ηir < ηr となる。
補)3つ以上の熱源による熱機関でも同様である。(参考8 参照)
可逆熱機関の場合も含めてまとめると,
「一般の熱機関の効率 η について, η ≤ ηr であり,可逆熱機関の効率 ηr が上限となる。」
ただし,等号は可逆熱機関で,不等号は不可逆熱機関で成り立つ。
14
第4章 エントロピーと熱力学第2法則,第3法則
クラウジウスの不等式
トムソンの原理 → カルノーの定理と熱機関の効率の上限( η ≤ ηr )
Q
T
( −Q1 ) Q2
→ 1− 1 ≤1− 1 →
+
≤ 0 (ただし,等号は可逆サイクル,不等号は不可逆サイクル)
Q2
T2
T1
T2
3つ以上の熱源をもつサイクルについても,以下の「クラウジウスの不等式」が成立する。
Qi
∑T
i
ただし, Qi は内部エネルギー上昇の向き(吸熱)を正。
≤0
また,等号は可逆サイクル,不等号は不可逆サイクル。
i
証明)以下のように,複数の熱源 Ti と熱の出入りがある一般のサイクル A と,複数の可逆サイクル
Ri ( i = 1⋯ N )とにより構成された結合サイクルを考える。
これら全てを結合したサイクルが可能となる条件は,トムソンの原理に反しないことであり,何の変
化も生じていないときも含めて,以下のように表される。
∑ W − W = −∑ Q′ ≥ 0
i
i
一方,各可逆サイクル Ri では Qi / Ti = Qi′ / T の等式が成立し,以下の関係が確認できる。
Q
Q′ 1
∑i Ti = ∑i Ti = T ∑i Qi′ ≤ 0
i
Q′1
W1
Q1
熱源 T
熱源 T1
R1
−∑ Q′i
Q1
⋮
jk
T
Q′i
Wi
⋰
Qi
熱源 Ti
Ri
⋮
cdef
g
Qi
⋱
W
QN′ N
RN
QN
hi T
W
(= ∑ Qi )
ab
cdef
∑W − W
i
(= −∑ Qi′)
QN
N
次に,上図の結合サイクルの逆行程を考える。逆行程では Q, W の全ての符号が反転する。
1. サイクル A が可逆のとき,逆行程も可能となる。そこで,順,逆どちらかの行程で変化が生じる
と,その逆の行程がトムソンの原理に反することになり,そもそも結合過程には何の変化も生じず,
∑ Q′ = 0 ,すなわち, ∑ Q / T
i
i
i
= 0 となる。
i
2. サイクル A が不可逆のとき,結合サイクルに関する前項と同様な議論により,
∑ Q′ < 0 ,すなわち, ∑ Q / T
i
i
i
< 0 となる。
i
15
A
エントロピー S
全ての可逆サイクルで成り立つクラウジウスの等式から,
Qr
=0 ⇒
A→B→C T
∑
→D→A
Qr
Qr
+ ∑
=0 ⇒
A→B→C T
C→D→A T
∑
Qr
Qr
= ∑
A→B→C T
A→D→C T
∑
D
lm
nopq
B
C
上式は,作業物体の状態がA→Cと可逆過程で変化するとき,この和が途中の経路に依らずに始
状態Aと終状態Cのみで決められることを意味する。
そこで,作業物体の各状態で決まった値を取るエントロピーと名付ける新たな状態量 S を,その
変化分 ∆S がこの和に相当する量となるように,定義することができる。
Qr
dS
= S (C) − S (A) = ∆S = ∫
A →C
A →C T
∑
(エントロピーの定義式)
エントロピーの性質: 単位は JK−1
・ 状態量であり,全微分 dS が存在する。可逆過程で出入りする熱量に比例し,示量変数となる。
q
・ 微小な可逆過程では dS = r である。可逆な伝熱過程なので温度差なしに起こり, T は作業物
T
体の温度に等しい。
・ 断熱可逆変化では dS = 0 ( S 一定)となる。
・ 熱力学第1法則が作業物体の状態量の関係式として以下のように表される。
dU = qr + wr = T dS − p dV
・ 熱の出入りに伴い温度が変化しても,微小な可逆過程であれば, qr = T dS の関係はそのまま
成り立つ。(参考9 参照) 一方で, q = C dT とも表されるので,可逆等温過程に加え,可逆な
昇・降温過程でも以下の関係がある。
q
Q
可逆等温過程
dS = r
∆S = r
T
T
C
C
可逆昇・降温過程
dS = dT
∆S = ∫ dT
T
T
・ 変化量として定義されているので,その値は定数分だけ未定となる。→ 熱力学第3法則
・ 熱 Q を供給(吸収)する温度 Te の熱源のエントロピー変化 ∆S は,等温熱源同士の間の可逆な
伝熱時には以下のように表される。
Q
Q
∆S = − < 0 (供給時), +
> 0 (吸収時)
Te
Te
熱源は常に等温( Te )に保たれており,その状態変化は熱の出入りによってのみもたらされる。そ
こで,熱接触する相手に依らず,等量 Q の熱の出入りは常に同一の状態変化を熱源にもたらし,
状態量であるエントロピーの変化量 ∆S も上式に等しくなる。
(参考) 熱力学エントロピーの定義
可逆熱機関一般に関するカルノーの定理によるエントロピー(本文の定義) (参考 10 参照)
理想気体のカルノーサイクルによるエントロピー (参考 10 参照)
断熱過程に関するカラテオドリの原理によるエントロピー (参考11 参照)
16
エントロピー増大の原理 (熱力学第2法則の表現のひとつ)
作業物体の状態変化サイクル(A→B→C→D→A)の前半(A→B→C)が不可逆,後半(C→D
→A)が可逆過程のとき,全体は不可逆サイクルなので,クラウジウスの不等式から
Q
∑
A → B →C → D → A T
rst
<0 ⇒
Q
∑
A → B →C T
rst
<
Q
∑ Tr = ∆SA→C
A → D →C
st
⇒
Q
∑
A → B →C T
uvrst
= 0 < ∆SA → C
となる。すなわち,前半の不可逆変化A→B→Cが断熱過程のとき,不等式左辺内で Q = 0 となり,
不等式が 0 < ∆SA→C となる。A→Cの不可逆変化が断熱過程として生じるとき,この作業物体のエ
ントロピーは ∆SA→C > 0 だけ変化することになる。
エントロピー増大の原理として,以下の内容が示されたことになる。
「断熱系で一方向に不可逆的に起こる状態変化ではエントロピーは必ず増加する。」
断熱系なので,エントロピー増加は熱の出入りなしに起こる。
前節でのエントロピーの定義の際の議論の通り,全体の状態変化サイクル(A→B→C→D→A)
が可逆,すなわちA→B→C も断熱可逆過程のときにのみ ∆SA→C = 0 となる。そこで,
断熱系で起こりうる変化として,
可逆変化とは
∆S = 0 の過程
不可逆変化とは ∆S > 0 の過程 のことである。
論理的な関係) トムソンの原理 ⇔ クラウジウスの原理 ⇔ エントロピー増大の原理
・ トムソンの原理→クラウジウスの不等式→エントロピー増大の原理 は上記通り。
・ エントロピー増大の原理→クラウジウスの原理 の証明
熱源2→熱源1の自発的な熱伝導における各熱源でのエントロピー変化は,
Q
Q
熱源2:∆S2 = −
,熱源1:∆S1 = +
T2
T1
熱源1と2の全体は外部に対して断熱系と見なせるので,エントロピー増大則から
Q
∆S = ∆S1 + ∆S2 =
( T2 − T1 ) ≥ 0 ⇒ T2 ≥ T1
T1 T2
∴自発的な熱伝導が低温側から高温側へと起こることはない。つまり,「クラウジウスの原理」が
示されたことになる。
以上のように,エントロピー増大の原理は他の原理と等価な関係にある。
17
理想気体の断熱自由膨張: 不可逆過程におけるエントロピー変化が熱の出入りに伴われない例
理想気体の真空中への断熱自由膨張では,気体は仕事を行わない。断熱下であり,熱の出入り
もないので,第1法則より,気体の内部エネルギーは変化しない。そこで理想気体では,温度も変
わらない。すなわち, T2 = T1 , V2 > V1 なので,理想気体のエントロピー変化の表式
∆S = CV ln(T2 / T1 ) + nR ln(V2 / V1 ) から, ∆S = nR ln(V2 / V1 ) > 0 となる。
このように,理想気体の真空中への断熱自由膨張は,断熱系でエントロピーが増加する現象とな
り,エントロピー増大則(第2法則)から,不可逆変化であるといえる。
自由に運動している多数の分子からなる理想気体が一旦拡がった状態から気体として自発的に
収縮することは通常起こりえないことは容易に納得できるであろう(参考12 参照)。
論理的な関係) 「エントロピー増大則」 ⇒ 「断熱自由膨張は不可逆」 は上記の通り。
「断熱自由膨張は不可逆」 ⇒ 「トムソンの原理」 の対偶による証明:
熱源 T
Q
W
反トムソン
p
Q
(= Q)
断熱
自由
収縮
等温
圧縮
}~
€
wxyz
{|
T
V
上図のようにトムソンの原理を否定すると,熱源も含めた全体は,周りに何の変化も生じさせること
なく(∴断熱+外部からの仕事なしに孤立した状態で),気体の体積を自由に収縮させることが可
能になる。
以上より,「理想気体の断熱自由膨張は不可逆」 は第2法則の等価な表現のひとつとなる。
なお,このときのエントロピー変化 ∆S に対応しているのは,あくまでも可逆過程としての等温圧縮
時の排熱 Q = T∆S である。
補) 気体分子間に相互作用がある実在気体の場合,断熱自由膨張により降温する(参考1,参考6
参照)ことで,液体へと凝縮して,自発的に一か所に集まることは起こり得る。
18
可逆過程におけるエントロピー変化の2つの側面(熱運動変化,体積変化) (参考12)
1
p
dS = dU + dV
T
T
例)理想気体のエントロピー(参考4 参照)
C
1
p
1 ∂U
∂U
p
nR
dU + dV = [( )V dT + ( ) T dV ] + dV = V dT +
dV
∂V
T
T
T ∂T
T
T
V
T2 dT
V2 dV
T
V
∆S = S (T2 , V2 ) − S ( T1 , V1 ) = CV ∫
+ nR ∫
= CV ln 2 + nR ln 2
T1 T
V1 V
T1
V1
dS =
1)等積昇温時: ∆S = CV ln(T2 / T1 ) > 0
加熱による昇温 ⇒ 気体分子の熱運動の激化
= エントロピー増加
2)等温膨張時: ∆S = nR ln(V2 / V1 ) > 0
加熱による膨張 ⇒ 気体分子の占める体積の増加 = エントロピー増加
3)熱の出入りを伴わない断熱系での体積変化時: T2 V2γ−1 = T1 V1γ−1 であり,
∆S = CV ln(T2 / T1 ) + nR ln(V2 / V1 ) = CV ln[(T2 / T1 )(V2 / V1 ) γ −1 ] = 0
熱運動変化 と 体積変化
の寄与がちょうど打ち消し合う。
上記1-3)の例は全て可逆過程である。 qr = T dS で示される通り,可逆過程では,熱の出入りが生
じたときに限りエントロピーが変化する。このとき,熱運動や体積の変化が起こる。
可逆断熱過程では,エントロピーは変化せず一定に保たれる。
不可逆過程では熱の出入りに伴われないエントロピー変化がある。
不可逆過程におけるエントロピー増大の2つの側面(エネルギーの散逸,物質の拡散) (参考12)
自発的な熱伝導や気体の自由膨張の例のように,不可逆過程におけるエントロピー増大にも以下の
2つの側面がある。
1)伝熱や摩擦熱に伴うエネルギーの散逸
2)膨張や混合などの物質の拡散
これらは,前記「可逆過程におけるエントロピー変化の2つの側面(熱運動変化,体積変化)」に対応
する不可逆変化であり,自発的な変化では決して元に戻ることはない。
19
補) 複数の熱源と熱の出入りを行う作業物体に ∆S の状態変化が起こるとき,熱源と作業物体を含
む全体を断熱系と見なすことで,エントロピー増大の原理から,
0 ≤ −∑ (Q / T ) + ∆S ,すなわち, ∑ (Q / T ) ≤ ∆S
が導かれる。エントロピー増大の原理を導く際の他の関係,効率の上限やクラウジウスの不等式につ
いても同様である。すなわち,これらも第2法則の等価な表現であり,エントロピー増大の原理との,ど
ちらかがより基本的であるという論理的な包含関係はない。
なお,上記不等式内の T は熱源の温度である。作業物体とは異なる温度にある1つの熱源と不可
逆な伝熱を行うときの不等式 q / T < dS を q < T dS = C dT のように変形することはできない。
むしろ,温度差のない可逆な伝熱時に成り立つ関係 q = T0 dS から,
不可逆加熱時( q , dS > 0 )には, 0 < q / T = T0 dS / T < dS ∴ T0 < T
不可逆冷却時( q , dS < 0 )には, q / T = T0 dS / T < dS < 0 ∴ T < T0
の関係が得られる。これらは,等量の熱 q を伝熱して同一の状態変化 dS = q / T0 を起こすとき,不可
逆伝熱とは,より高温( T > T0 )の熱源による加熱や,より低温( T < T0 )の熱源による冷却であるとい
う,自明な関係がエントロピー増大の原理で確認されたことを意味する。1次相転移における過冷却
や過加熱も同様に解釈されるべき不可逆な現象となる。(p.41 参考 参照)
補) ある経路に沿っ状態変化により,作業物体の温度が T1 → T2 と変化したときのエントロピー変化
∆S を求めたい場合もある。このとき,エントロピーは状態量なので,この状態変化の可逆性に拘わら
ず,可逆過程における変化量として求めればよい。そこで,2つの状態を結ぶ経路上での熱容量 C
(例えば,定積熱容量,定圧熱容量)が既知であれば,可逆過程で成り立つ dS = (C / T ) dT の関係
T2
T2
T1
T1
から, ∆S = ∫ dS = ∫ (C / T ) dT と積分することで変化量を見積ることができる。
補) クラウジウスの(不)等式の導出やエントロピーの定義の際には,可逆で準静的な過程として,熱
平衡を保った温度差なしの熱の出入りを等温下で行うことを前提とした。不可逆過程とされる仕事に
よる摩擦熱の発生,有限の温度差下の伝熱や昇温・降温過程について,熱源も含めた全体のエント
ロピー変化を具体的に求めることで,微小な変化を無限にゆっくりと行う極限では,確かにエントロピ
ー変化をゼロとすることができ,可逆過程となることを確認することができる。(参考7 参照) 前章にあ
った理想気体の可逆スターリングサイクルにおいて,等積過程で想定された,無限小の温度差をも
つ無限個の熱源との熱の出入りによる昇・降温も,そのような例の一つである。
20
(参考) n モル(アボガドロ定数を N A ≅ 6.0221 × 1023 mol -1 として,分子数 nN A 個)の相互作用しない
質点からなる(重なり合いを許す)理想気体では,[1個の気体分子の可能な配置数 wi ]∝[容器の体
積 V ] であるから,全分子の配置数が W = ∏ i wi ∝ V nN A となる。
そこで,理想気体の断熱自由膨張時の ∆S について,
∆S = nR ln(V2 V1 ) = kB ln(V2 V1 )nN A = kB ln(W2 W1 ) = kB ln W2 − kB ln W1
ただし,R = N AkB
つまり,ボルツマンの関係式 S = kB ln W が成立している。 → 統計力学へ(参考12 参照)
ただし, S = nR ln V + S0 としてしまうと, S が示量変数ではなくなる。
∵ nR ln(n v ) + n s0 = nR ln n + nR ln v + ns0 = nR ln n + n(R ln v + s0 ) = nR ln n + ns ≠ ns
むしろ, S = nR ln v + S0 = nR ln(V / n) + S0 とすべきである。
→ ギブズのパラドックス, 同種分子の区別?, (量子)統計力学へ
実空間での体積変化と同様に,熱運動変化に伴う ∆S についても,運動量空間で分子集団が占める
ことのできる"体積"の変化と捉えることができる。 → 統計力学へ(参考12 参照)
統計力学では,実空間と運動量空間を併せた相空間で分子集団が占めることのできる"体積"を,
状態数 W と呼ぶ。上記の配置数は実空間分の状態数となる。ボルツマンの関係式により,エントロピ
ーは状態数すなわち相空間内の"体積"に相当する。エントロピー増大則は,相空間内で分子集団
が占めることのできる"体積"が自発的に縮むことがないことを意味する。
21
熱力学第3法則
プランクによる表現
「化学的に一様な有限密度の物体のエントロピーは,絶対零度 T = 0K に近づくと,圧力,密度,
集合状態によらず,一定の値に近づく。」
T = 0K で, lim S = 0 とする。 エントロピーの原点 → 統計力学
T →0
C
dT と表したときの C > 0 (p.30,31 参照)であるため,
T
T C
T C
S (T ) は常に正となる。 ∵ S ( T ) = S (0) + ∫
dT = ∫
dT > 0 0 T
0 T
C
S (T ) が有限値であるためには,lim < ∞ ⇒ 熱容量 C → 0
T →0 T
T →0
S が一定値ゼロに近づくことから, dS =
i C = C0 (一定) のとき,S ( T ) = ∫
T
0
C0
dT = C0 [ln T − ln 0] → ∞
T
単原子理想気体の熱容量は定数: CV = (3 2)nR
理想気体モデルは 0K 近傍で破綻している。
実在気体では,低温で気体から液体への凝縮が必ず起こる。
i C = aT m (m > 0) のときには,S (T ) = ∫
T
0
T
C
a
dT = a ∫ T m −1 dT = [T m − 0] < ∞
0
T
m
以下は第3法則に適った系の例である。
結晶格子振動による熱容量: CV = aT 3nR(T ≪ TD ∼ 数百K,量子統計力学)
金属中の自由電子の熱容量: CV = aT nR (T ≪ TF ∼ 数万K,量子統計力学)
電磁波,光の輻射場の熱容量: C V = aT 3V (電磁気学,参考5参照)
圧力,密度,集合状態によらず一定の値に近づくことから,
⇒ lim (
∂S
1 ∂V
1 ∂S
) T = 0 ⇒ 体膨張率 α = ( ) p = − ( ) T → 0
∂p
V ∂T
V ∂p T →0
⇒ lim (
∂S
∂p
∂S
) T = 0 ⇒ 圧力係数 ( )V = ( ) T → 0
∂V
∂T
∂V T →0
T →0
T →0
Maxwell の関係式(p.26 参照)を用いた。
(参考) 第3法則の原型となったネルンストの熱定理の導入過程とその実験的な根拠,絶対零度に
おける残余エントロピーの可能性については,参考13を参照のこと。
22
絶対零度 T = 0K の到達不可能性について
1.伝熱など,熱の移動による冷却には,より低温の熱源が必要となる。しかし,絶対零度より低い温
度の熱源は定義上存在しないので,熱の移動による冷却では絶対零度には到達できない。
2.熱の移動によらない冷却法として,断熱変化(例:気体の断熱膨張)により温度を下げることができ
る。ただし第2法則により,断熱変化ではエントロピー S (> 0) が減少することはない。一方,第3法
則により,絶対零度は S = 0 の状態にある。そのため断熱変化でも絶対零度には到達できない。
なお,気体の等温圧縮などに伴う熱源への排熱で,エントロピーを減少させることは可能であるが,
上記1.のように, T > 0K の熱源で T = 0K の状態でもある S = 0 に到達することはできない。
以上の状況を図示すると,断熱変化と等温変化の組み合わせによる降温過程の有限回の操作
では,第3法則が規定する下左図のような場合には絶対零度に到達できないことが分かる。
V1 > V2
S
O
S
V1 > V2
O
T
T = 0K ⇔ S=0 の場合
T
T = 0K で S > 0 も可 の場合
S
O
V1 > V2
T
T = 0K ⇔ S=S0 > 0 の場合
断熱膨張と等温圧縮の繰り返しによる降温の例
3.上左図の場合でも, T = 0K に限りなく近づくことはできる。
断熱膨張以外にも,断熱消磁(磁気冷却,参考3 参照),分子間相互作用を利用した相転移の潜
熱(7章)や気体のジュール-トムソン効果(参考1 参照)による有限温度で有効な冷却,浮遊する
原子の動きを光で止めるレーザー冷却などがある。
実際につくりだされたとの報告のある超低温の例:
2.8 × 10−10 K = 280 pK (2000年) ロジウム核スピンの断熱消磁による冷却と,関係式 T = Q / ∆S
に基づく温度の決定
TA Knuuttila et al., Report TKK-KYL-002 (2000) 1.
補) 上右図で明らかなように,絶対零度に到達不可能であることと,第3法則( T = 0K ⇔ S=0 )は等
価ではない。
補) T と S は共に状態量なので,状態変数のつくる空間は T 一定や S 一定の曲線(曲面)の集まり
で埋め尽くされている。そこで,可逆な等温変化( dT = 0 )と断熱変化( dS = 0 )との組み合わせ
により,全ての状態に辿り着くことができる。ただし,等温線(面)と断熱線(面)が完全に一致して
いる状態を除く。絶対零度では T = 0K ⇔ S=0 なので,この例外の状態となる。
ln T
C
dT = ∫ C d (ln T ) と表すと,絶対零度が極限の最低温度であることが実感できる
0 T
−∞
かも知れない。
補) S (T ) = ∫
T
23
第5章 可能な変化と熱力学関数
第1法則: ∆U = Q + W
第2法則: 断熱系でのエントロピー増大の原理( 0 = q ≤ TdS )
を前提とする可能な変化を,以下の条件で分類する。
1.断熱系( Q = 0 )での可能な変化:
可能な変化:エントロピーが増大する向き ∆S ≥ 0
1-1 断熱・等積系( Q = 0 , W = 0 ): ∆U = 0 孤立系とも呼ばれる。
1-2 断熱・等圧系( Q = 0 , W = − pe ∆V ): ∆U = W → U 2 − U1 = − pe (V2 − V1 )
∆H = (U 2 + peV2 ) − (U1 + peV1 ) = 0
エンタルピー H ≡ U + pV
2.等温系( Te )での可能な変化
(系+熱源)全体を断熱系と考えてエントロピー増大の原理を適用。
系の状態:( U1 , S1 )→( U 2 , S2 )
第1法則: U 2 − U1 = Q + W
Q
Q
→ 全体のエントロピー変化: (S2 − S1 ) −
≥0
Te
Te
1
∴ (S2 − S1 ) − (U 2 − U1 − W ) ≥ 0 → ∆F = (U 2 − Te S2 ) − (U1 − Te S1 ) ≤ W
Te
ヘルムホルツ自由エネルギー F ≡ U − TS
熱源のエントロピー変化: −
等温系の可能な変化:
(ヘルムホルツ自由エネルギー増加量 ∆F )≦(外部からの仕事 W )
不等式の左右両辺を入れ替えて,
(外部への仕事 −W )≦(ヘルムホルツ自由エネルギー減少量 −∆F )
と読み替えると,等温系における状態変化で外部への仕事として取り出せるエネルギーの上限が,
エネルギー減少分ではなく,自由エネルギー減少分で与えられることを意味する。
「最大仕事の原理」と呼ばれる。
仕事として使える「自由」エネルギーという名前の由来でもある。
論理的な関係) 「エントロピー増大の原理」 ⇒ 「最大仕事の原理」 は上記の通り。
一方で以下のように,「最大仕事の原理」 ⇒ 「トムソンの原理」 も示すことができ,「最大仕事の原
理」も第2法則の等価な表現のひとつとなる。
証明:熱機関の1サイクル後には系は元の状態に戻り ∆F = 0 となり,「最大仕事の原理」から,
(外部への仕事 −W )≦0
すなわち,1つの熱源からの加熱のみで外部へ仕事を行う熱機関(サイクル)は作れないことが示
される。
(参考書) 佐々真一 「熱力学入門」共立出版(ISBN:4320033477)
田崎晴明 「熱力学―現代的な視点から」培風館(ISBN:4563024325)
24
2-1 等温・等積系( W = 0 )
∆F = (U 2 − Te S2 ) − (U1 − Te S1 ) ≤ 0
可能な変化: ヘルムホルツ自由エネルギーが減少する向き。
2-2 等温・等圧系( W = − pe ∆V )
∆G = (U 2 − Te S2 + pe V2 ) − (U1 − Te S1 + pe V1 ) ≤ 0
ギブズ自由エネルギー G ≡ U − TS + pV
可能な変化: ギブズ自由エネルギーが減少する向き。
定義から明らかなように, H , F , G も U と同様に状態量であり, U と同じ単位 J であらわされ,示量
変数となる。
U (S , V ), H (S , p), F (T , V ), G(T , p) は(完全な)熱力学関数である。
例えば,内部エネルギー U が状態量 S と V の関数として U (S , V ) のように与えられるとき,
dU = T dS − p dV = (
∂U
∂U
)V dS + ( )S dV
∂S
∂V
, T=(
∂U
)V
∂S
, −p=(
∂U
)S
∂V
であり,他の状態量 T と p が微分係数として決められる。
このような U (S , V ) を(完全な)熱力学関数とよぶ。 S (U , V ) も同様。
以下,他の(完全な)熱力学関数。
エンタルピー H (S , p) = U + pV :
dH = T dS + V dp = (
∂H
∂H
) p dS + (
)S dp
∂S
∂p
, T=(
∂H
)p
∂S
, V =(
∂H
)S
∂p
ヘルムホルツ自由エネルギー F (T , V ) = U − TS :
dF = −S dT − p dV = (
∂F
∂F
∂F
∂F
)V dT + ( ) T dV , −S = ( )V , − p = ( ) T
∂T
∂V
∂T
∂V
ギブズ自由エネルギー G(T , p) = U − TS + pV :
dG = −S dT + V dp = (
∂G
∂G
) p dT + ( ) T dp
∂T
∂p
, −S = (
∂G
∂G
) p , V = ( )T
∂T
∂p
熱関数 H : エンタルピーの別名。
dH = T dS + V dp = q + V dp より,等圧下( dp = 0 )で, q = dH ∴定圧熱容量 C p = (
25
∂H
)p
∂T
(参考) ギブズ-ヘルムホルツの式
U = F − TS = F − T (
∂F
∂ F
)V = − T 2 (
)V
∂T
∂T T
H = G − TS = G − T (
∂G
∂ G
) p = −T 2 (
)p
∂T
∂T T
同様な関係式として,
H = U + pV = U − (
G = F + pV = F − (
∂U
∂ U
)S V = −V 2 (
)S
∂V
∂V V
∂F
∂ F
) T V = −V 2 (
)T
∂V
∂V V
マクスウェルの関係式
全微分可能の条件: df = (
∂f
∂f
∂ ∂f
∂ ∂f
)y dx + ( )x dy で,
( )=
( )
∂x
∂y
∂y ∂x
∂x ∂y
例えば, dU から, dU = T dS − p dV = (
∂T
∂p
)S = − ( )V
∂V
∂S
∂S
∂p
( ) T = ( )V
∂V
∂T
すなわち, (
dFから,
(応用例) 「エネルギーの式」 (
∂U
∂U
∂ ∂U
∂ ∂U
)V dS + ( )S dV で,
( )=
( )
∂V ∂S
∂S ∂V
∂S
∂V
∂T
∂V
)S = ( ) p
∂p
∂S
∂S
∂V
dGから, − ( ) T = ( ) p
∂p
∂T
dHから,
(
∂U
∂p
) T = T ( )V − p
∂V
∂T
∵ dU = T dS − p dV およびマクスウェルの関係式 (
∂S
∂p
) T = ( )V より,
∂V
∂T
∂U
∂S
∂p
) T = T ( ) T − p = T ( )V − p
∂V
∂V
∂T
∂p
nR
∂U
理想気体( pV = nRT )では, T ( )V = T
= p なので, ( )T = 0
∂T
V
∂V
(
26
(参考) dz = (
∂z
∂z
∂z ∂x
)y dx + ( )x dy のとき,dy = 0 で, ( )y ( )y = 1
∂x
∂y
∂x ∂z
dz = 0 で,(
また, df = (
∂z ∂x
∂z
) y ( )z + ( ) x = 0
∂x ∂y
∂y
∴ (
∂x ∂y ∂z
)z ( )x ( )y = −1
∂y ∂z ∂x
∂f
∂f
∂y
∂y
)y dx + ( )x dy , dy = ( )z dx + ( )x dz のとき,
∂x
∂y
∂x
∂z
∂f
∂f ∂y
∂f ∂y
)y + ( )x ( )z ]dx + ( )x ( )x dz
∂x
∂y ∂x
∂y ∂z
∂f
∂f
∂f ∂y
∴ ( )z = ( ) y + ( ) x ( )z
∂x
∂x
∂y ∂x
∂f
∂f ∂y
( ) x = ( ) x ( )x
∂z
∂y ∂z
df = [(
3 変数(以上)で状態が指定される場合には,
(
∂x
∂y
∂z
∂f
∂f
∂f
∂y
∂f
∂f
∂y
)z , w ( )x,w ( )y , w = −1 , ( )z , w = ( )y , w + ( )x,w ( )z , w , ( )x, w = ( )x, w ( )x,w
∂y
∂z
∂x
∂x
∂x
∂y
∂x
∂z
∂y
∂z
(参考)体積変化以外による仕事 W ′ がある場合,等温・等積系では −W ′ ≤ −∆F ,等温・等圧系では
−W ′ ≤ −∆G で,体積変化以外による外部への仕事 −W ′ の上限が決まる。
(例) 水飲み鳥: あたかも水を飲んでいるかのように,頭の上下を繰り返す熱機関。
27
粒子数が変化する系: 化学ポテンシャル µ( T , p ) = G(T , p, 1) : 粒子1個(1 モル)当たりの G
示強変数: T , p
示量変数: V , N , U , S , H , F , G について,
粒子1個当たりの状態を変化させずに粒子数を増やすとき,示量変数は必ず粒子数に比例して変化
する。そこで例えば示量変数 S , V の熱力学関数 U (S , V , N ) は,粒子1個当たりの U (S , V , 1) の単純
な粒子数( N )倍とはならない。粒子数を N 倍すると, S , V も同時に N 倍となるので,
U (S , V , 1) N = U (NS , NV , N ) ≠ U (S , V , N ) となるからである。
示強変数 T , p の関数のみ,粒子1個当たりの量の単なる粒子数倍となる。
そこで, T , p の(完全な)熱力学関数である G は,粒子1個当たりの G の単なる粒子数( N )倍となる。
G(T , p, N ) = G(T , p, 1) N = µ(T , p) N
この µ(T , p) を化学ポテンシャルという。
G(T , p, N ) に対して, dG = − SdT +Vdp +µ dN
⇒ dF = − SdT − pdV +µ dN
dH = TdS +Vdp +µ dN
dU = TdS − pdV +µ dN
ただし, µ は各拘束条件下で粒子数 N が1個増減したときの変化量である。
µ=(
∂G
∂F
∂H
∂U
)T , p = (
) T ,V = (
)S , p = (
) S ,V
∂N
∂N
∂N
∂N
dG = d (µN ) = µdN + Ndµ より,関係式 Ndµ + SdT − Vdp = 0 があり, dµ, dT , dp は独立ではない。
1 粒子当たりの量の関係式として書き直すと,
dµ = −sdT + v dp
多種類の粒子がある(多成分系の)場合: 上式を以下のように置き換える。
µ N ⇒ ∑ µi N i
µ dN ⇒ ∑ µi dN i
i
N dµ ⇒ ∑ N i dµ i
i
i
特に, ∑ N i dµi + S dT − V dp = 0 (あるいは等温・等圧下での ∑ N i dµi = 0 )を,ギブズ-デュエ
i
i
ムの関係式という。(参考14 参照)
28
第6章 熱平衡条件と熱力学不等式
熱平衡条件: 非可逆変化を経た後に最終的に到達する熱平衡状態に関する条件。
1.断熱系
エントロピー S 最大
断熱・等積系(孤立系)
内部エネルギー一定
∆U = 0
断熱・等圧系
エンタルピー一定
∆H = 0
2.等温・等積系
ヘルムホルツ自由エネルギー F 最小
3.等温・等圧系
ギブズ自由エネルギー G 最小
4.等エントロピー系 (参考15 参照)
次項以下に示す項目のまとめ
熱力学不等式
各条件下で熱平衡へと向かう変化が保証されるために必要な条件を表す。
dT − dS 間の係数である熱容量 C や, dp − dV 間の係数である圧縮率 κ が,常に正の量となるこ
とが示される。
異なる視点からの導出については,(参考12-E)状態量の揺らぎ 参照。
2つの部分系 A と B 間の熱平衡条件
各量 TA = TB ,pA = pB ,µA = µB の釣り合いが条件となる。
平衡の種類
平衡の指標となり,
示強変数となる状態量
平衡が崩れたときに移動
するエネルギーの種類
状態変化を表す
示量変数
熱平衡
温度 T
熱 Q = T∆S
エントロピー S
力学平衡
圧力 p
仕事 W = − p∆V
体積 V
相平衡
化学平衡
化学ポテンシャル µ
粒子の出入り µ∆N
粒子数 N
29
1.エントロピー S (U , V ) について
1
p
1
p
∂S
∂S
dS = dU + dV より, S は U , V の増加関数: ( )V = > 0 , ( )U = > 0
T
T
∂U
T
∂V
T
断熱下で起こりうる変化は, S が増加する向きである。
各々が熱平衡状態 S (U1 , V1 ) , S (U 2 , V2 ) にある粒子数 N1 , N2 の2つ
の部分系が,断熱下で V1 + V2 = V を固定して合体したとき,外部からの仕
1
2
事がない断熱変化となり, U1 + U 2 = U も一定に保たれるが,熱平衡状態
へと向かう過程で S (U , V ) は増加する。
1粒子当たりの量( s, u, v )で表すと,
1
N1
合体後
=N
2
+ N2
N1u1 + N2 u2 = Nu3 = U
1
2
合体後
N1v1 + N2 v2 = Nv3 = V
3
N1s1 + N2s2 < Ns3 = S
そこで, s(u, v ) 上で2つの状態間を結んだ下左図のような断面を考えると,上の条件は, s の曲線が
上に凸であれば満たされる。 s は u, v の増加関数であるから, s(u, v ) の全体図は下中図のような上
に凸の曲面となる。このとき,2変数の凸関数の性質(参考16 参照)により,また N 倍することで
s(u, v) N = S (u, v, 1) N = S (Nu, Nv, N ) = S (U , V , N ) でもあるので,
(
∂ 2S
∂ 2S
∂ 2S
2
U
U
V
)(
∆
)
+
2
(
)(
∆
)(
∆
)
+
(
)(∆V )2 < 0
2
2
U
V
∂
∂
∂U
∂V
の不等式が任意の ∆U , ∆V について常に成り立つ。そのため,以下の3つの不等式が満足される。
(
∂2 S
)V < 0 ,
∂U 2
このうち, (
(
∂ 2S
)U < 0 ,
∂V 2
(
∂ 2S 2
∂2 S ∂2 S
) − ( 2 )( 2 ) < 0
∂U∂V
∂U ∂V
∂2 S
)V < 0 から,
∂U 2
∂2 S
∂T −1
1 ∂T
1 1
0 > ( 2 )V = (
) V = − 2 ( )V = − 2
∂U
T ∂U
T CV
∂U
⇒
定積熱容量 CV > 0
s2
s
s
s3
s1
N1s1 + N 2s2
N
u
u
1 3
2
v
v
(u, v )
さらに上中図の s 一定下での u vs. v の関係から,上右図のように, s 一定下では u は v の下に
凸の減少関数となるはずである。
30
すなわち, S が一定に保たれる可逆な断熱変化では,
∂U
U は V の減少関数: ( )S = − p < 0
∂V
下に凸 ⇒ 0 < (
∂ 2U
∂p
1 1 ∂V
1 1
) = −( )S = − / ( )S =
⇒ 断熱圧縮率 κS > 0
2 S
∂V
V V ∂p
V κS
∂V
2.エントロピー S (H , p) について
1
V
∂S
1
∂S
V
dS = dH − dp より, S は H の増加関数, p の減少関数: (
) p = > 0 , ( )H = − < 0
T
T
∂H
T
∂p
T
断熱下で起こりうる変化は, S が増加する向きである。
各々が熱平衡状態 S (H1 , pe ) , S (H2 , pe ) にある,粒子数 N1 , N2 の2つの部分系が,断熱・等圧
( pe )下で合体したとき, H1 + H2 = H は一定に保たれるが,熱平衡状態へと向かう過程で S (H , pe )
は増加する。
1粒子当たりの量( s, h )として表すと,
N1 + N 2 = N
N1h1 + N2h2 = N h3
N1s1 + N2s2 < N s3
そこで, S (H , pe ) vs. H の曲線が上に凸であればよい。
⇒ 0>(
∂ 2S
∂ 1
1 ∂T
1 1
) =(
)p = − 2 (
)p = − 2
⇒ 定圧熱容量 C p > 0
2 p
∂H T
∂H
T ∂H
T Cp
S(H, pe )
H
3.ヘルムホルツ自由エネルギー F (T , V ) について
∂F
∂F
)V = −S < 0 , ( ) T = − p < 0
∂T
∂V
等温( Te )下で外部からの仕事がないときに起こりうる変化は, F が減少する向きである。
dF = −S dT − p dV より, F は T , V の減少関数: (
各々が熱平衡状態 F (Te , V1 ) , F (Te , V2 ) にある,温度 Te の等しい粒子数 N1 , N2 の2つの部分
系が,外部からの仕事なしで合体したとき, V1 + V2 = V は一定に保たれるが,熱平衡状態へと向か
う過程で F (Te , V ) は減少する。
1粒子当たりの量( f , v )として表すと,
N1 + N 2 = N
N1v1 + N2 v2 = N v3
N1f1 + N2f2 > N f3
そこで, F (Te , V ) vs. V の曲線が下に凸であればよい。
⇒ 0<(
∂2 F
∂p
1 1 ∂V
1
) = −( ) T = − / ( ) T =
2 T
∂V
V V ∂p
Vκ T
∂V
31
⇒ 等温圧縮率 κ T > 0
補) T1 ≠ T2 の2つの部分系 F (T1 , V1 ) , F (T2 , V2 ) が合体したときには,等温変化ではないので同様
な議論は成り立たない。実際, F (T , V0 ) vs. T の曲線は,下に凸ではなく,上に凸である。
(
C
∂ 2F
∂S
) = − ( )V = − V < 0
2 V
∂T
T
∂T
(参考) F の T 依存性が減少関数 (∂F / ∂T )V = −S < 0 となるのは,第3法則( S > 0 ,p.21 参照)の帰
結である。 T 依存性の曲線が上に凸でありさえすれば第2法則には反しない。
F(T,Ve )
F(Te ,V )
T
V
4.ギブズ自由エネルギー G(T , p) について
dG = −S dT + Vdp と,熱力学不等式より,
G は, T の減少関数で上に凸であり, p の増加関数で上に凸である。
∂G
∂G
( ) p = −S < 0
( )T = V > 0
∂T
∂p
Cp
∂2 G
∂S
∂2 G
∂V
( 2 ) p = −( ) p = −
<0
( 2 ) T = ( ) T = −Vκ T < 0
∂T
T
∂p
∂T
∂p
GG(T
( p,0p,eT),) µ(T , pe )
( pe , T
GG(T
p0),) µ( Te , p )
p
T
32
∂U
∂V
TVα2
) T + p ]( ) p =
> 0 について
∂V
∂T
κT
∂U
∂p
エネルギーの式(5章 p26)より, ( ) T + p = T ( )V
∂V
∂T
∂p
∂p
∂V
p.27 の(参考)から, ( )V = −( ) T ( ) p
∂T
∂V
∂T
∂U
∂p
∂V
∂V
∴ ( )T + p = −T ( )T ( ) p
この項の正負も ( ) p の符号で決まる。
∂V
∂V
∂T
∂T
∂p
∂V 2
1
1 ∂V 2 TVα2
C p − CV = − T ( ) T [( ) p ] = TV
[ ( )p ] =
>0
1 ∂V
∂V
∂T
κT
[ − ( ) T ] V ∂T
V ∂p
補) C p − CV = [(
なお,通常の物質は熱膨張 (
断熱下 q = CV dT + [(
∂V
∂U
) p > 0 するので,( ) T + p > 0 となり,
∂T
∂V
∂U
) T + p] dV = 0 で膨張(dV > 0)して外に仕事を行うと,
∂V
∂U
) T + p]/ CV }dV < 0 から,温度は低下する。
∂V
∂V
ただし,大気圧下で4℃以下の水のように熱収縮 ( ) p < 0 する状態では上昇する。
∂T
膨張で行う仕事以上に分子間エネルギーが減少し,余剰分が熱エネルギーとなるからである。
dT = −{[(
また, (
∂V
) p = 0 のときには,断熱等温変化となるので,断熱線と等温線が接している。
∂T
(参考) κ T − κS = −
1 ∂V
∂V
TVα2
[( ) T − ( )S ] =
> 0 について
V ∂p
∂p
Cp
∂V
∂V
∂V
∂S
∂V
∂T
∂V
∂V 2 ∂T
TVα2
( ) T − ( )S = ( ) p ( )T = [( ) p ( ) p ][−( ) p ] = −( ) p ( ) p =
∂p
∂p
∂S
∂p
∂T
∂S
∂T
∂T
∂S
Cp
∂V
∂V
∂V
∂S
∂V
∂V
∂T
) T = ( )S + ( ) p ( ) T , ( ) p = ( ) p ( ) p ,
∂p
∂p
∂S
∂p
∂S
∂T
∂S
∂S
∂V
Maxwell の関係式から, ( ) T = −( ) p が成立。
∂p
∂T
ただし,p.27 の(参考)から, (
(参考)
κS CV
=
< 1 について
κT C p
κS
1 ∂V
1 ∂V
∂V
∂V
∂p
∂T
∂p
∂S
= [ − ( )S ]/[− ( ) T ] = ( )S /( ) T = ( )V ( ) p /( )V ( ) p
κT
V ∂p
V ∂p
∂p
∂p
∂T
∂V
∂S
∂V
=(
C
∂S
∂p
∂S
∂V
∂S
∂S
∂S
∂S
)V ( )V /( ) p ( ) p = ( )V /( ) p = T ( )V / T ( ) p = V
∂p
∂T
∂V
∂T
∂T
∂T
∂T
∂T
Cp
ただし,p.27 の(参考)から, (
∂V
∂p
∂T
∂S
∂p
∂S
) T ( )V ( ) p = −1 , ( )V ( )V = ( )V などが成立。
∂p
∂T
∂V
∂p
∂T
∂T
33
(参考)単原子理想気体における熱力学関数の例
S (U , V )
U (S , V )
F (T , V )
H (S , p)
G( T , p )
34
2つの部分系 A と B(例えば共存している気相-液相)間の熱平衡条件:
TA = TB ,pA = pB ,µA = µB 各量の釣り合いが条件となる。
1.断熱・等積系(孤立系)
等積:V A + VB = V (一定)
断熱 + 等積:U A + U B = U (一定)
全粒子数一定:N A + N B = N (一定)


 ⇒


断熱下の熱平衡で SA + SB = S 最大
熱平衡条件であるから,2つの部分系は少なくとも熱接触している必要がある。
(A) まず,固定壁により, A − B 間で熱接触のみを行う場合には, U A , U B のみが変化しうる。
∂S
1
p
µ
1
1
⇒ 極値条件
= 0 と dS = dU + dV − dN より, =
⇒ TA = TB
∂U A
T
T
T
TA TB
∵
∂S
∂S
∂S
∂S
∂S
1
∂S
∂S
1
= A + B = A − B = 0 (∵ dU = dU A + dU B = 0) ⇒
= A = B =
∂U A ∂U A ∂U A ∂U A ∂U B
TA ∂U A ∂U B TB
(B) 加えて,可動壁により, V A , VB も変化するとき, ⇒
(C) さらに加えて, N A , N B も変化するとき, ⇒
極大条件 (
p
p
∂S
= 0 より, A = B ⇒ pA = pB
∂V A
TA TB
µ
µ
∂S
= 0 より, − A = − B ⇒ µA = µB
∂N A
TA
TB
∂2SA
∂2SB
∂ 2S
)
=
(
)
+
(
)V , N < 0 などは,以下により満足されている。
V ,N
V ,N
∂U A2
∂U A2
∂U B2
∂ 2S
∂ 2S
( 2 )V , N < 0 , ( 2 )U , N < 0 (p.30 例1参照)
∂U
∂V
2
2
∂S
∂S
∂ 2S
∂ 2S
( 2 )U ,V = u2 ( 2 ) + 2uv (
) + v2 ( 2 ) < 0 (参考17および p.30 例1参照)。
∂U∂V
∂N
∂U
∂V
以上の条件を,1粒子当たりの量 (u, v, s) で考える。
uAN A + uBN B = uN , vAN A + vBN B = vN , sAN A + sBN B = sN を満たす共存状態は,
点 A (uA , vA ,sA ) と点 B (uB , vB , sB ) を結ぶ線分を N B : N A の比に内分する点である。 TA = TB = T0 ,
pA = pB = p0 , µA = µB であり, µ = u − Ts + pv なので, uA − T0sA + p0vA = uB − T0sB + p0vB となり,
2点 A,B は, (u − uB ) − T0 (s − sB ) + p0 (v − vB ) = 0 の平面上にある。さらには,傾き (∂s / ∂u)v = 1 / T0 ,
(∂s / ∂v)u = p0 / T0 も平面と等しく,2点 A,B は,この平
面に接している。すなわち, (u, v, s) で表される部分系
s(u, v )
共通接平面
A と B(1と2)の共存状態は共通接平面上にある。
共存状態以外の可能な状態は,状態1あるいは2で単
独に存在する場合であるが, s1 (u, v ) , s2 (u, v ) の各曲面
は上に凸なので,単独に存在しているときよりも共存状
態の方が s は大きくなり,確かに共存状態で s は最大値
をとる。
35
(u, v, s)
B(uB , vB , sB )
A(uA , vA , sA )
v
1
2
u
2.断熱・等圧( pe )系
断熱 + 等圧:HA + HB = H (一定)
全粒子数一定:N A + N B = N (一定)
⇒ 極値条件 (

 ⇒

断熱下の熱平衡で SA + SB = S 最大
1
V
∂S
∂S
µ
) p ,N = (
)H , p = 0と,dS = dH − dp − dN より,TA = TB , µA = µB
T
T
T
∂HA
∂N A
∂ 2S
) p ,N < 0 (p.31 例2参照)
∂H 2
∂ 2S
∂ 2S
( 2 )H , p = h2 ( 2 ) p ,N < 0 (参考17 参照)
∂N
∂H
極大条件も満足されている。 (
このとき1と同様に1粒子当たりの量 (h, s) で考えると,共存状態は,2点 A (hA , sA ) - B (hB , sB ) を
N B : N A の 比 に 内 分 す る 点 で あ る 。 TA = TB = T0 , µA = µB で あ り , µ = h − Ts な の で ,
hA − T0sA = hB − T0sB となり,2点 A,B は, (h − hB ) − T0 (s − sB ) = 0 の直線上にある。さらには傾き
(∂s / ∂h) p = 1 / T0 も直線と等しく,2点 A,B は,この直線に接している。すなわち,部分系 A と B(1と
2)の共存状態である s(h) は共通接線上にあり, s1 (h) , s2 (h) の各曲線は上に凸なので,確かに共
存状態で s は最大となる。
s(pe ,h)
B
sB
s2
s(h)
A
sA
s1 (h)
s2 (h)
s1
xB
hA
hB
NA
N
, xB = B
N
N
⇒ xA + xB = 1
xA =
i N AhA + N BhB = Nh
xA
h
i NA + NB = N
h
⇒ xAhA + xBhB = h
i N AsA + N BsB = Ns
⇒ xAsA + xBsB = s
i s(h) > s1 (h) , s2 (h)
36
3.等温( Te )・等積系
等積:V A + VB = V (一定)

 ⇒ 等温・等積下の熱平衡で FA + FB = F 最小
全粒子数一定:N A + N B = N (一定) 
⇒ 極値条件 (
∂F
∂F
)T ,N = (
) T ,V = 0 と dF = −SdT − pdV + µdN より,pA = pB , µA = µB
∂V A
∂N A
∂ 2F
) T , N > 0 (p.31 例3参照)
∂V 2
∂ 2F
∂ 2F
( 2 ) T ,V = v2 ( 2 ) T , N > 0 (参考17 参照)
∂N
∂V
極小条件も満足されている。 (
このとき2と同様に1粒子当たりの量 (v, f ) で考えると,共存状態は,2点 A (vA , fA ) - B (vB , fB ) を
xB : xA の比に内分する点が共存状態となる。 pA = pB = p0 , µA = µB であり, µ = f + pv なので,
fA + p0vA = fB + p0vB となり,2点 A,B は, (f − fB ) + p0 (v − vB ) = 0 の直線上にある。さらには傾き
(∂f / ∂V ) T = − p0 も直線と等しく,2点 A,B は,この直線に接している。すなわち,部分系 A と B(1と
2)の共存状態である f (v ) は共通接線上にあり, f1 (v) , f2 (v ) の各曲線は下に凸なので,確かに共存
状態で f は最小となる。
i NA + NB = N
f(Te , v)
f1
fA
fB
f2 (v)
A
f1 (v )
f (v )
xB
vA
NA
N
, xB = B
N
N
⇒ xA + xB = 1
xA =
B
xA
v
vB
f2
i N AvA + N BvB = Nv
v
⇒ xAvA + xBvB = v
i N AfA + N BfB = Nf
⇒ xAfA + xBfB = f
i f (v) < f1 (v ) , f2 (v)
4.等温( Te )・等圧( pe )系
全粒子数一定:N A + N B = N (一定) ⇒ 等温・等圧下の熱平衡で GA + GB = G 最小
G(Te , pe ) = µA (Te , pe ) N A + µB (Te , pe ) N B : 等温・等圧下では, µA (Te , pe ) と µB (Te , pe ) は一意
的に値が決まっている。
・ µA (Te , pe ) ≠ µB (Te , pe ) のとき,より低い方の部分系のみの状態 (N A , N B ) = (N , 0) or (0, N )
が, G 最小の最安定状態となり,部分系 A と B は共存しない。
・ µA (Te , pe ) = µB ( Te , pe ) のとき,任意の N A / N B 比で G(Te , pe ) は変化せず,部分系 A と B が共
存する。
37
第7章 相平衡
相: 体積(密度)やエントロピーなどで特徴づけられる物質の状態。 例)固体,液体,気体
相転移: 物質の状態に質的な変化が生じ,別な相へと変わる現象を相転移と呼ぶ。特定の温度,
圧力で不連続的に起こる相変化を1次相転移と呼ぶ。1次相転移では G(T , p) に交差が生じ,体積
やエントロピーに相当する G の1次の微分係数(接線の傾き)に不連続的変化である飛びが生じる。
一方,連続的な状態変化による相転移を連続転移と呼ぶ。2次相転移もその一つであり,1次の微分
係数は連続的に変化し,2次の微分係数に飛びや発散などの不連続的変化が生じる。(参考6-K 参
照)
1次相転移の例:
‚→ 液体 
ƒ„→ 気体 
…†→ 固体

固体 ←

←

←
‡ˆ
‡‰
…†
固体(結晶):3次元的に分子・原子が規則正しく配列した状態

液体
対称性の違い: 
流体:不規則な配列
密度の違い



気体
結晶
液体
気体
相図:
p - T 相図: 等温等圧系では, µ(T , p) が最小の相(状態)が現れる。(p.37 参照)
共存曲線(融解曲線,蒸気圧曲線,昇華曲線),3重点,臨界点
p
A相
µA < µB
p
共存曲線
µA = µB
臨界点
固相
液相
B相
気相
µA > µB
三重点
T
典型例
38
T
1次の相転移では化学ポテンシャル(ギブズ自由エネルギー)の交差により,安定相が交代する。
1)温度変化による1次相転移: 接線(1次導関数 S )の不連続的変化。(p. 32(4) 参照)
G(T , p0 )
S (T , p0 )
SB
GA
GB
Ttr
∆S
SA
Ttr
T
T
低温相(A相) SA < SB 高温相(B相)であり,必ず,高温相が高エントロピー相となる。
S の不連続的変化は潜熱 L (= Ttr ∆S ) の吸発熱を意味する。昇温で吸熱,降温で発熱。
なお,右上図のA,B 相単独域での S (T ) は,増加関数 (∂S / ∂T ) p = C p / T > 0 となる。
2)圧力変化による1次相転移: 接線(1次導関数 V )の不連続的変化。(p. 32(4) 参照)
G(T0 , p)
V (T0 , p)
GA
VB
∆V
VA
GB
p
ptr
ptr
p
低圧相(B相) V B > VA 高圧相(A相)であり,必ず,高圧相が小体積(高密度)相となる。
なお,右上図のA,B 相単独域での V ( p) は,減少関数 (∂V / ∂p) T = −κ T V < 0 となる。
G(1atm, T )
G( p, 300K)
氷
diamond
水
graphite
水蒸気
0
100 T / ℃
1.5
39
p /GPa
クラペイロン-クラウジウスの式
dp ∆S
L
共存曲線の接線:
=
=
dT ∆V Ttr ∆V
共存曲線
µA (T , p)
p
A相
dp
ただし, Ttr は相転移温度, L = Ttr ∆S は潜熱。
= µB (T , p)
dT
証明)共存線上の2点 ( T , p) と (T + dT , p + dp) で,
B相
µA (T + dT , p + dp ) = µB (T + dT , p + dp)

µA (T , p) = µB ( T , p )
T
dµ = µ( T + dT , p + dp) − µ(T , p) = −sdT + v dp なので, −sA dT + vA dp = −sBdT + vBdp 。
すなわち,
dp sB − sA ∆S
=
=
dT vB − vA ∆V
2相共存領域: p − V 相図(左下図: 前項右図の x − y 軸を入れ替えたもの)における等温線上の2
相共存領域では, V A < V < V B の体積 V でA,B2相が共存する。等温・等圧( T0 , ptr )下の共存で
あり, µA = µB なので,どのような割合でもA,B2相は共存できる。全体積が V = xVA + (1 − x) VB を
満足する割合 x : 1 − x で共存すればよい。
例えば,等温 T0 下でピストンを引くことで体積を膨張させる操作を行うとき,A相安定域では圧力が
単調に低下していくのみであるが,相転移圧力 ptr に達すると圧力は一旦下がらなくなり,A,B2相
が共存し始める。等温等圧下でピストンを引き続けるとB相の割合が増え,最終的にB相安定域に達
した後は,再びは圧力が単調に低下していく。
p
ptr
T0
A相
p0
T
2相共存
2相共存 B相
Ttr
B相
1−x
VA V
A相
1−x
x
VB
SA S
V
x
SB
S
T − S 相図(右上図)でも同様に,等圧 p0 下で加熱することでエントロピーを上昇させる操作を行う
とき,A相安定域では温度が単調に上昇していくのみであるが,相転移温度 Ttr に達すると温度は一
旦上がらなくなり,A,B2相が共存し始める。等温等圧下で引き続き加熱するとB相の割合が増え,
最終的にB相安定域に達した後は,再びは温度が単調に上昇していく。
ル・シャトリエの法則(平衡移動の法則): 相平衡や化学平衡(次章)などの平衡状態にある系に外
部から操作を行うとき,その影響による変化を打ち消す向きに自発的な変化が起こり,平衡が移動す
る現象を指す。熱平衡状態の安定性を意味する。上記のような2相共存状態にある系では,
1) 等温下でピストンを引いた(押した)とき,各相が減圧(加圧)される代わりに,相転移による膨張
(収縮) ∆V が起こり,2相の分率が変化する(相平衡が移動する)。
2) 等圧下の加熱(冷却)により,温度が上昇(低下)する代わりに,相転移による吸熱(発熱)
Ttr ∆S が起こり,2相の分率が変化する(相平衡が移動する)。
40
ギブズの相律: 多成分系の多相の共存境界の次元 f = ν − n + 2
ただし,ν種類の成分 (j=1,2,…,ν), n 個の相 (i=1,2,…,n)
例)1成分系( ν = 1 )では, 2相共存( n = 2 )は,共存線( f = 1 ),
3相共存( n = 3 )は,三重点( f = 0 )となる。
(参考)水の三重点(273.16 K, 611.73 Pa)は,絶対温度の定義に用いられている。
証明)共存境界の自由度の数は,(変数の個数)-(関係式の個数)となるはずである。
変数の個数は,各相内の各成分の濃度 C ji と, p, T の,合計 νn + 2 個ある。
一方で,各相内での濃度の間には,以下の n 個の自明な関係式(定義式)がある。
C1i + C2i + ⋯ Cνi = 1
(i=1,2,…,n)
また, p, T , C ji の関数である各成分の化学ポテンシャル µij ( p, T , C ji ) は,共存状態の相の間で互
いに釣り合っている。そこで, ν 個の各成分について,以下の n − 1 個の関係がある。
µ1j = µ2j ⋯ = µnj
(j=1,2,…,ν)
以上より,関係式の総数は n + ν(n − 1) 個となる。
すなわち,独立な変数の個数(次元)は f = (νn + 2) − [n + ν(n − 1)] = ν − n + 2 となる。
(参考)1次相転移の過冷却・過加熱について
1)昇温による相転移( ∆S > 0 )では,潜熱は吸熱 ∴ L = Ttr ∆S > 0
L T
過加熱( T > Ttr )が起きれば, 0 < = tr ∆S < ∆S
T
T
2)冷却による相転移( ∆S < 0 )では,潜熱は発熱 ∴ L = Ttr ∆S < 0
L T
過冷却( T < Ttr )が起きれば, = tr ∆S < ∆S < 0
T
T
何れの過程でも Q / T < ∆S の関係があり,過冷却や過加熱が確かに不可逆過程であることを確
認することができる。
41
(参考)
片対数グラフによる p - T 相図 の表示例
104
p/気圧
73
CO2
104
˜™
–—•
š™

“”•
›™
5.1
1
10−2
-78.5 -56.6
‘
1
H2O
0.006
31.1
ŽŒ
p /気圧 218
Š‹Œ
10−4
’
0.01 100
o
t/ C
374.15
p - T 相図 以外の相図)
p3
T
p2
液
固
気
p1
V
T
固相
液相
p
気
相
p
V1
固
p
固
V2
液
気
液
T3
気
T1
V
T
T2
V
42
V3
t /oC
第8章 化学平衡
気体の化学反応を考える。
1.理想気体のエントロピー(p.19)の温度,体積,圧力依存性:
T
V
T
p
S (T , V ) = S ( T0 , V0 ) + CV ln( ) + nR ln( ) ⇒ S ( T , p ) = S ( T0 , p0 ) + C p ln( ) − nR ln( )
T0
V0
T0
p0
µ0 ( T , p) = u + p V − T s = cv T + RT − T s = c p T − T s = µ0 ( T ) + RT ln p
2.2種類の理想気体の混合のエントロピーについて,
混合過程を V i → V1 + V2 への各理想気体の断熱自由膨張(p.17)と捉える。
V + V2
V + V2
∆S = n1R ln 1
+ n2R ln 1
= −R (n1 ln x1 + n2 ln x2 ) > 0
V1
V2
ni
Vi
ただしここで,各成分の濃度を xi =
=
(i = 1, 2) とした。
n1 + n2 V1 + V2
3.多成分混合系についても,
k
混合のエントロピー ∆S = −R ∑ ni ln xi
i=1
ギブズ自由エネルギー
k
k
i =1
i =1
G = ∑ µi (T , p) ni = ∑
µ0i (T , p) ni
k
− T ∆S = ∑ [µ0i (T , p) + RT ln xi ] ni
i =1
∴ µi (T , p) = µ0i (T , p) + RT ln xi
ν1′ A′ + ν′2B′ + ⋯ ν′jJ ′ + ⋯ について,
4.化学反応 ν1A + ν2B + ⋯ ν iI + ⋯
等温・等圧下での平衡条件: 混合系のギブズ自由エネルギー最小
→ 極値条件 0 = ∆G = ∆[∑ (µ0i (T , p) + RT ln xi )ni + ∑ (µ′j0 (T , p) + RT ln x′j )n′j ]
i
j
0 = ∑ [(µ0i + RT ln xi )∆ni + RT∆(ln xi )ni ] + ∑ [(µ′j0 + RT ln xj′ )∆nj′ + RT∆(ln x′j )n′j ]
i
j
= ∑ (µ0i + RT ln xi ) ∆ni + ∑ (µ′j0 + RT ln xj′ )∆n′j + RT (∑
i
=∑
i
j
(µ0i
+ RT ln xi ) ∆ni + ∑
i
(µ′j0
∆x′j
∆xi
ni + ∑
n′j )
xi
j xj′
+ RT ln xj′ )∆n′j
j
∑ nk + ∑ nℓ′
∆xi
ℓ
ここで,∑
ni = ∑ ∆xi k
ni = (∑ nk + ∑ nℓ′ )∑ ∆xi
ni
i xi
i
k
ℓ
i
∆xj′
∆xi
∴∑
ni + ∑
nj′ = (∑ nk + ∑ nℓ′ )(∑ ∆xi + ∑ ∆xj′ )
i xi
j xj′
k
ℓ
i
j
= (∑ nk + ∑ nℓ′ )∆(∑ xi + ∑ xj′ ) = (∑ nk + ∑ nℓ′ )∆(1) = 0
k
ℓ
i
43
j
k
ℓ
∆n′
∆n
また,化学反応式から, i = − j
νi
ν′j
∴ 0 = ∑ (µ0i + RT ln xi )ν i − ∑ (µ′j0 + RT ln x′j )ν′j
i
j
1
∑ ν′j ln xj′ − ∑ νi ln xi = − RT (∑ ν′j µ′j0 − ∑ νi µ0i )
j
i
j
i
化学平衡の法則 (質量作用の法則):
ν′j
∏ j (x′j )
∏ i (xi )ν
i
= exp[−
1
(∑ ν′j µ′j0 − ∑ νi µ0i )] ≡ K ( T , p)
RT j
i
ここで,µ0i (T , p) = µ0i (T ) + RT ln p より,
( ∑ νi − ∑ ν j )
1
1
j
(∑ ν′j µ′j0 − ∑ ν i µ0i ) = −
[∑ ν′j µ′j0 (T ) − ∑ νi µ0i (T )] + ln p i
RT j
RT
i
j
i
′
−
exp[−
1
1
(∑ ν′j µ′j0 − ∑ ν i µ0i )] = p ∆ν exp[−
{∑ ν′j µ′j0 (T ) − ∑ νi µ0i (T )}]
RT j
RT
i
j
i
∴ K (T , p) = p ∆ν K p (T )
ただし,∆ν = ∑ ν i − ∑ ν′j
i
j
分圧 pi (= pxi ) に関する平衡定数として,
ν ′j
∏ j ( p′j )
∏ i ( pi )ν
i
= K p (T )
反応熱 ∆h : 反応に伴うモル当たりのエンタルピー変化
∆h
d
=
ln K
RT 2 dT
d
d
1
ln K =
[−
{∑ ν′j µ′j0 (T ) − ∑ ν i µ0i (T )}]
dT
dT RT j
i
d 0
d 0
1
1
0
0
=
[ ν′ µ′ − ∑ ν i µ i ] −
[∑ ν ′j
µ′j − ∑ ν i
µi ]
2 ∑ j j
RT
dT
dT
RT
j
i
j
i
1
1
=
[ ν′ µ′0 − ∑ ν i µ0i ] −
[∑ ν ′j (−sj′0 ) − ∑ ν i (−si0 )]
2 ∑ j j
RT
RT
j
i
j
i
1
0
0
0
0
′
′
′
=
[
ν
(
µ
+
Ts
)
−
ν
(
µ
+
Ts
)]
∑ j j
∑ i i i
j
RT 2 j
i
1
1
0
0
=
[ ν′ h′ − ∑ ν i hi ] =
∆h
2 ∑ j j
RT
RT 2
j
i
ただし,右向きの反応が吸熱反応のとき, ∆h > 0 である。
ln K = −
1
(∑ ν′j µ′j0 − ∑ ν i µ0i ) の右辺の分子は,反応に伴うモル当たりのギブズ自由エネルギー
RT j
i
変化なので,ギブズ-ヘルムホルツの式(p.26 参照)から得られる等式 (
用しても同じ表式が得られる。
44
∂ ∆G
∆H
) p = − 2 を直接適
∂T T
T
2A の例:
5.化学反応 A2
等温・等圧下での平衡条件: 混合系のギブズ自由エネルギー最小。
G = [µ10 (T , p) + RT ln x1 ]n1 + [µ20 (T , p) + RT ln x2 ]n2
→ 極値条件 ∆G = 0
(右下図参照)
0 = (µ10 + RT ln x1 )∆n1 + RT∆(ln x1 )n1 + (µ20 + RT ln x2 ) ∆n2 + RT∆(ln x2 )n2
∆x
∆x
= (µ10 + RT ln x1 )∆n1 + (µ20 + RT ln x2 ) ∆n2 + RT ( 1 n1 + 2 n2 )
x1
x2
= (µ10 + RT ln x1 )∆n1 + (µ20 + RT ln x2 ) ∆n2
∆x
∆x
n + n2
n + n2
ここで, 1 n1 + 2 n2 = ∆x1 1
n1 + ∆x2 1
n2 = (n1 + n2 )(∆x1 + ∆x2 )
x1
x2
n1
n2
= (n1 + n2 )∆(x1 + x2 ) = (n1 + n2 )∆(1) = 0
∆n
∆n
また,化学反応式から, 1 = − 2
1
2
0
0
∴ 0 = (µ1 + RT ln x1 ) ⋅ 1 − (µ2 + RT ln x2 ) ⋅ 2
1
2 ⋅ ln x2 − 1 ⋅ ln x1 = −
(2 ⋅µ20 − 1 ⋅µ10 )
RT
G
0
化学平衡の法則 (質量作用の法則):
N
n1 = N のとき n2 = 0
n1 = 0 のとき n2 = 2N
2
(x2 )
1
= exp[−
(2 ⋅ µ20 − 1 ⋅ µ10 )] ≡ K (T , p)
1
RT
(x1 )
ここで,µ0i (T , p) = µ0i (T ) + RT ln p より,
−
1
1
(2 ⋅ µ20 − 1 ⋅ µ10 ) = −
[2 ⋅ µ20 (T ) − 1 ⋅ µ10 (T )] + ln p (1− 2)
RT
RT
∴ K (T , p) = K p (T ) p ∆ν
1
n2
ただし,∆ν = 1 − 2
分圧 pi (= pxi ) に関する平衡定数として,
( p2 )2
= K p (T )
( p1 )1
反応熱 ∆h : 反応に伴うモル当たりのエンタルピー変化
∆h
d
=
ln K
2
dT
RT
d
d
1
ln K =
[−
{2 ⋅µ20 (T ) − 1 ⋅ µ10 (T )}]
dT
dT RT
1
1
d 0
d 0
=
[2 ⋅µ20 (T ) − 1 ⋅µ10 (T )] −
[2 ⋅
µ2 ( T ) − 1 ⋅
µ1 (T )]
2
RT
dT
dT
RT
1
1
=
[2 ⋅µ20 (T ) − 1 ⋅µ10 (T )] −
[2 ⋅ (−s20 ) − 1 ⋅ ( −s10 )]
RT
RT 2
1
=
[2 ⋅ (µ20 + Ts20 ) − 1 ⋅ (µ10 + Ts10 )]
RT 2
1
1
=
[2 ⋅ h20 − 1 ⋅ h10 ] =
∆h
2
RT
RT 2
ただし, A2 → 2A が吸熱反応のとき, ∆h > 0 である。
45
2
6.ル・シャトリエの法則(平衡移動の法則): 化学反応に伴う反応熱,粒子数変化により成り立つ。
以下のそれぞれの向きに化学平衡が移動する。
1) 等圧加熱(冷却)したときの温度上昇(低下)を防ぐように,吸熱(発熱)反応が進む向き。
A2 → 2A が吸熱反応のとき, d ln K dT > 0 ∴ T ր ⇒ K ր ⇒ A2 → 2A (吸熱)
2) 等温膨張(圧縮)したときの圧力低下(上昇)を防ぐように,総粒子数が増加(減少)する向き。
p ց ⇒ K = K p ( T ) / p ր ⇒ A2 → 2A (総粒子数増加)
46
結 語
物体が分子や原子で構成されていることを当然のこととして受け入れている現代の我々にとって,物
体の内部エネルギーや,分子・原子の熱運動に伴う熱としてのエネルギー移動を含めたエネルギー
保存則,すなわち熱力学第1法則は,素直に受け入れ易い法則であろう。また,第2法則の表現の
一つであるクラウジウスの原理で主張される熱伝導の方向性についても,誰もが常日頃経験している
現象である。
このように,熱力学では我々が日常経験している身近な現象を論理的に整理し直すことで,第1,第
2法則が纏め上げられている。エントロピーという直接測定することが難しく,把握しにくい新たな物理
量も,これらの現象からの自然な帰結として導入された概念である。エントロピー増大則は巨視的な
世界における変化の向きを指定する唯一の自然法則であり,今後もその価値を減じることはない。更
には,これらの基本法則の直接の応用として,自由エネルギーという概念が新たに導入され,相平衡
や化学平衡といった現象が熱力学の言葉を用いて理解されることとなった。
身近な経験に基づき,誰もが納得しうる現象から纏め上げられたのが熱力学の基本法則であり,高
度な応用の目を見張る成果にまで発展してきた学問体系であることを認識して欲しい。
ここまでの熱力学の内容は,準静的過程など平衡状態に限りなく近い現象を基本として述べられてき
た。変化の向きを指定する第2法則も変化前後の熱平衡状態間の比較についてである。一方,我々
の住む世界は平衡状態からは大きく離れた非平衡状態にある。温度差のある熱伝導や摩擦を始め
とする,実際に起こっている現象を本当の意味で理解し予測するためには,現在でも発展途上にあ
ると認識されている非平衡過程を記述する熱力学が必要とされる。平衡状態を対象とする熱力学の
基本法則のように,巨視的な現象に基づいた身近で平易な言葉で表現できる基本原理は非平衡過
程の熱力学にはないのかもしれないが,生命活動やナノテクノロジーの基本となるような,「不可逆で
マクロな系」と「可逆でミクロな系」の中間的な(メソスコピックな)系における現象を通して,近年理解
が急速に進んでいる分野でもある。
47