総 合 所 見 概 要 【まとめ】 耐震性については、大地震時(震度6強~7)において「地震の地震動及び衝 撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。」と判明した。 耐久性については、柱鉄筋位置までコンクリートのアルカリ性が失われてお り、コンクリートが鉄筋を保護する機能が低下している。さらに、鋼材腐食限 界塩化物イオン量の2倍を上回る塩化物イオン量がコンクリート中に含まれて いる。そのため、鉄筋腐食に伴うコンクリートのひび割れが生じており、コン クリート片が剥離・落下している。これは、建物全体におよぶ進行性のもので あることが各種試験結果より判明した。 【耐震性について】 全階にわたって所定の耐震性能を満足していない。その主な原因として、建 物強度が不足していること、建物変形性能が乏しいこと及び壁の配置バランス が悪いこと等が挙げられる。 具体的には、強度不足の要因として壁量の不足が挙げられる。また、柱フー プ筋が 90°フックの形状で施工されており(現行規準では 135°フック)、脆い 壊れ方をするせん断破壊を引き起こしやすく、物変形性能が乏しい要因となっ ている。 これらの背景には、1968 年設計当時の耐震基準においては、中地震(震度5 程度)に対しての安全性の確認は行っていたが、大地震(震度6強~震度7) に対する安全性の確認は行われていなかったことが背景にある。 2次要素として、鉄骨置屋根を支える柱が大地震時に抵抗できないため、鉄 骨置屋根も落下する危険性がある。 また、アマハジを支える片持ち梁の強度が不足しているため、大地震時には、 アマハジが崩落する危険性がある。 (参考)大地震時に劇場観客席の吊り天井が落下する危険性がある。 【耐久性について】 建物には、鉄筋腐食に伴うコンクリートのひび割れが発生しており、コンク リート片が剥離・落下している。鉄筋腐食の段階としては、強度・靭性低下を 伴う断面欠損(鉄筋腐食グレードⅢ~Ⅳ)まで進行している部分もある。鉄筋 腐食は建物全体におよぶ進行性であることが各種試験結果より判明した。 柱はつり調査・コア抜取調査では、柱鉄筋位置までコンクリートのアルカリ 性が失われおり、鉄筋腐食を保護する機能が低下していることが判明した。主 にコンクリートのアルカリ性が失われている部分は、塗膜防水層等でコンクリ ートが保護されていない箇所で確認された。これは屋外だけでなく室内でも同 様な傾向を示す。 コンクリート含有塩化物調査の結果では、外的要因の影響が少ない建物内部 においても塩化物イオン量 2.63kg/㎥(測定平均値)がコンクリート中に含まれ ていることが判明した。この数値は、鋼材腐食発生限界塩化物イオン量 1.20kg/ ㎥の2倍を上回る検出結果であり、鉄筋の不動態被膜を破壊する十分な量が含 まれている。 ひび割れの少ない室内の柱でも、はつり試験により鉄筋腐食グレードⅢ~Ⅳ まで進行している部分も確認した。鉄筋腐食グレードがⅢ~Ⅳである場合、鉄 筋の伸び能力は、健全な状態から5割~3割まで低下している段階にある。す なわち、柱靭性能の低下を招いている状態である。
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