小田原市庁舎 - 一般社団法人 日本建設業連合会

【要約】
小田原市による公募型の耐震改修事業プロポーザルで唯一の免震改修提案であった本計画は、既存ピット内に免震装置を
組み込む「基礎ピット内免震化工法」を採用している。これにより耐震補強範囲を基礎部分に限定し、建物の機能、外観お
よび工事期間中の利便性を確保しつつ、工期・コスト面でも優れた費用対効果をもたらすことができた。
【耐震改修の特徴】供用しながらの補強、既存ピット利用、長周期地震動対策、資産価値向上、BCP(事業継続性)向上
【耐震改修の方法】強度向上 靭性向上 免震改修 制震改修
仕上げ改修 天井改修 設備改修 液状化対策 その他(
)
小田原市庁舎
12-013-2016 作成
種別 耐震改修
建物用途 庁舎
発 注 者 小田原市
改修設計 鹿島建設株式会社
改修施工 鹿島・安池特定建設工事共同企業体
所 在 地
竣 工 年
改修竣工
神奈川県小田原市
1976 年(昭和 51 年)
2016 年(平成 28 年)
基礎ピットを利用した
居ながら免震レトロフィット
免震材料には、天然ゴム系積層ゴム、鉛プラグ入り積層ゴム、低摩擦
STEP1
梁中央
側面補強
弾性すべり支承、オイルダンパの計 4 種類を組み合わせて使用した。
STEP2
STEP3
梁端
水平ハンチ
ジャッキ
●施工手順
●建物概要
免震化工事は図-4に示すSTEP1~STEP5の手順で行った。
建物規模 地上 7 階・塔屋 2 階
柱主筋
STEP1:梁際に開口を設ける
2
敷地面積約 32,146m ,建築面積 5,198 m ,延床面積約 23,463 m
STEP2:梁端水平ハンチと梁中央側面補強部を施工する。
構造種別 鉄筋コンクリート造(基礎・1 階)
開口
STEP4:下部基礎施工後、免震部材を設置する。
構造形式 耐震壁付きラーメン構造
写真-1 小田原市役所鳥瞰写真
STEP5:免震部材上部に高強度無収縮モルタルを圧入後、
●改修経緯
本建物は 1976 年に竣工した地上 7 階建ての庁舎である(写真-1)
。構
水平スリットを設けてからジャッキダウンを行う。
造は 1 階が鉄筋コンクリート造、2~7 階が鉄骨鉄筋コンクリート造で、
柱際の基礎梁開口を小さくするため、免震部材を 45°回転させて設置
両方向とも耐震壁付きラーメン架構である。
●免震改修の効果
補強範囲
(地下ピット内)
境への影響を最小限にし、経費の節減も図れる耐震工法が求められ、唯
図-1 改修範囲図
下回る結果となっており、耐震性能不足が判明した。免震改修後の補強
免震部材
考えられる東海・東南海・南海地震による 3 連動地震、大正関東地震、
一般的な既存建築物の免震化工法には、基礎下免震と中間階免震があ
るが、基礎下免震工法では地下掘削および耐圧版の構築に多大な工期と
神綱・国府津-松田地震動を用いて時刻歴応答解析を行った。地震応答
コストを要すること、中間階免震工法では庁舎内の継続的な使用が制限
解析の結果を図-6に示す。
レベル2地震に対する最大応答層せん断力は、
下部基礎
弾性限耐力以内かつ設計せん断力以内、最大応答層間変形角は 1/200 以
されることから、本事業における免震工法の採用は困難であると想定さ
●設計者コメント
40
150
950
範囲を基礎部分に限定し、建物の機能、外観および工事期間中の利便性
できた。本建物の免震改修を通じて得られた知見は、他の耐震改修事業
60
3,000
1,500
450 300 300 450
を確保しつつ、工期・コスト面でも優れた費用対効果をもたらすことが
梁側面補強
柱貫通鉄筋
1,500
事」が可能となり、既存建物の外観を損ねることなく免震改修による高
1,900
においても展開可能であり、今後の活用が期待できるものである。
200
ジャッキ
F
250
950
b)梁端部断面
c)梁中央部断面
ダブルビームを設ける補強を行った。
950
下部基礎
250
850 500 500
4
写真-2 積層ゴム設置状況
積層ゴムの場合
め、工事動線・作業環境の確保、免震材料の設置作業手順をモックアッ
3,000
6
図-5 免震部材の設置
これまでに前例の無い閉鎖されたピット内での改修工事であったた
7F
a)梁際部断面
B
下部基礎
パイルキャップ
●施工者コメント
350
本工法により 1 階床上から上部の補強工事が不要となる「居ながら工
本建物では「基礎ピット内免震化工法」を発案、実現することで補強
600 300 300 600
免震部材
免震部材
1,450
1,900
450 500 500 450
し適用した。
下であることを確認している。
ジャッキ
b)免震改修後
図-2 免震改修前後図
上下に分断して免震材料を組み込む「基礎ピット内免震化工法」を発案
図-4 免震化工事の施工 STEP
1,450
a)免震改修前
かった、床下にある高さ 3m の空調用の蓄熱ピットに着眼し、ピットを
スリット
免震部材
200
高さ 3m の既存ピット
れていた。この難問に対し、空調方式の変更に伴い暫く使用されていな
滑り支承の場合
7F
図-11.積層ゴムと滑り支承の柱廻り開口とジャッキ位置
EL Centro NS
7F
EL Centro NS
7F
Taft EW
Taft EW
Taft EW
6F
プにより事前確認するなど、施工計画を十分に検討し工事に着手した。
6F
また、工事中の騒音・振動には特に留意し、居ながら工事を無事に完工
5F
柱貫通鉄筋
梁貫通鉄筋
Hachinohe
NS NS
Hachinohe
6F八戸位相
告示波告示波
八戸位相
650
時荷重を負担している。補強大梁は下端に主筋を配置するとともに、端
●発注者コメント
300
300
1,900
部は水平ハンチを設けて補強している。端部の水平ハンチは、免震装置
免震材料より下部の範囲では、施工時の応力や免震化後の付加応力等
ジャッキ位置
梁端水平ハンチ
に対して既存のマットスラブや多本杭の基礎部材で負担可能であるた
d)梁際上端
650
300300
650
告示波3連動
乱数位相
関東地震NS
5F
3連動 神縄・国府津EW
4F
Hachinohe
NS
Hachinohe
6F
4F
告示波 八戸位相
告示波 神戸位相
のであった。また、耐震性能については、設備や非構造部材を含む大地
3F
震時の庁舎内の安全性や大地震直後においても市庁舎が防災拠点とし
e)梁際下端
て機能できるよう考慮されている。
告示波告示波
乱数位相 神戸位相
5F
3連動
告示波 乱数位相
関東地震NS
4F
神縄・国府津EW
3連動
設計せん断力
関東地震NS
弾性限耐力
神縄・国府津EW
4F
3F
3F
神縄・国府津EW
▼
2F
2F
1F
3F
(rad)
1F
0
2F
0.001
(kN)
ISO
F
0.002
a)最大層間変形角
0
2F
20000
40000
60000
b)最大応答層せん断力
1,900
図-6(rad)改修後の地震応答解析結果(レベル 2)
(rad)
柱際上端平断面図
図-3 基礎ピット内免震改修工法
1F
1F
0
0.001
日建連 耐震改修事例集
ℂ2016 日本建設業連合会
当事例集の二次利用を禁止します。
0.002
NS
告示波 八戸位相
関東地震NS
工事期間中も含め工事後も執務スペースは変わらず使用ができるも
650
設置時にジャッキを受けるキャピタルの役割も担っている(図-3)
。
することができた。
告示波告示波
神戸位相
乱数位相
5F
EL Centro NS
EL Centro NS
Taft EW
告示波 神戸位相
既存基礎梁上端筋を利用した補強大梁は、床上の長期荷重および地震
め、補強は最小限に抑えられた。
下部基礎
効果を確認するため、既往波、告示波に加え、本敷地に影響が大きいと
●免震改修計画
ている。水平スリットにより分断される上部の既存梁に対し、梁側面に
モルタル
スリット
既存建物の耐震診断では、1、2 階で Is 値及び CTU・SD 値が判定指標を
一の免震改修提案であった本計画が採用された。
本工法では既存基礎梁を上下に切断し、その中間部に免震部材を設け
STEP5
免震部材
ことができた(図-5)
。
震性能を得ることに併せ、工事中や改修後の市庁舎内での業務や周辺環
●基礎ピット内免震化工法の概要
STEP4
した。これにより、通常設置に比べて既存躯体の切り出し量を低減する
無補強範囲
小田原市による公募型の耐震改修事業プロポーザルにより、優れた耐
い耐震性能の確保が可能となった(図-1、図-2)
。
ジャッキ
柱主筋
STEP3:ジャッキ設置後、柱を切断する。
鉄骨鉄筋コンクリート造(2~7 階)
、一部鉄骨造
1,300
2
700 500 500
2
開口
0
0.001
0.002
お問い合わせ先 一般社団法人日本建設業連合会 建築部
〒104-0032 中央区八丁堀 2-5-1 東京建設会館 8 階
TEL 03-3551-1118
FAX 03-3555-2463