自由図書の部 次点 三川貫太郎さん 文学部国際文化学科 1 年

自由図書の部
次点
三川貫太郎さん
文学部国際文化学科 1 年
『ネバーランド』恩田陸著
集英社
少年たちの過去の闇から
「聞けよ!こういう話を聞きたがってたんだろう?…」
私は、この物語を読んだ後、心の奥から解放されたような、しかしそこにある闇のような
ものを見て見ぬふりしてるような感じがした。
舞台は田舎の伝統ある男子校の一角を占める松籟館。古く渋く何とも言えぬ雰囲気が漂っ
ている。冬休みを迎え帰省する生徒が多い中、事情があって松籟館に残ることを決心した
四人の少年たち。あたりさわりなく平穏無事に冬休みを過ごそうとしていたが、ある一人
の提案によりクリスマス・イヴの晩に始まった告白ゲーム。そのルールとして一つ話の中
に嘘を入れることになったが、まるでそのルールを本当に守っているのかわからない話。
嘘か真実かということより、それを超えてくる話に少年たちは驚きを隠すことができない。
七日間で四人の間にただただ闇と謎が深まっていく。
本書は四人の少年たちが繰り広げるとても色濃い青春グラフィティが際立っている。ま
るで、青春をただの青春で終わらせたくないように読んで取れる。ある意味この少年四人
の七日間は大人に向けての準備期間であり、青春を謳歌しきったのではないか。舞台とな
った松籟館は老獪な表情で四人の謎や闇を醸し、強調し、本ストーリーの中枢と言っては
過言でないほどの存在感を示している。少年の話の口調や外の風や雪、松籟館が物語る独
特の雰囲気など事細かい情景描写が巧みに描かれている。ホラー小説ではないが、読者に
張りつめたような恐怖を抱かせ、心臓から冷や汗が滴るように感じさせるほど、表現力が
多彩である。ホラーとはまた違った恐怖を味わうことができるかもしれない。甘い青春と
はいえないが、苦く、重く、もどかしさを覚え、決して華やかでない青春だってあるはず
だ。青春というものを一言で表すのは不可能であるということも示唆しているだろう。
四人の少年にはそれぞれ闇となる過去があった。私たち人間だったらどんな小さくても
過去の闇くらいはあるだろう。その過去に対しあなたはどうしているのか。忘れようとし
ているのか、克服しようとしているのか、他人と共有しあうのか。何にしろ、過去の自分
との対話というのが必要であろう。少年四人は闇を抱えながら生きてきた。それがまじま
じと綴られ、感慨深いものがあった。本書に四人の会話で時々入る沈黙というのは、非常
に良い場面で間合いを置いており、気まずさがじわじわと肌身にしみてきた。辛く、苦し
かった過去を他人に告白するとは、相当な覚悟で話さなければならない。彼らはこの冬休
みを通じて一皮剥け、大人になった。過去の闇という観点から、青年から大人に向けて歩
き始めた、成長を感じさせる作品であった。一年前の高校の自分と重ね合わせ、郷愁に浸
ることができた。みなさんは過去の自分の闇から逃げずに対話していますか。