NEDO 省エネルギー技術フォーラム 2016 戦略的省エネルギー技術革新プログラム フェーズ名:実証研究 <CMCタービン翼の開発> 事業実施法人名:株式会社IHI、シキボウ株式会社 共同研究先:東京大学,国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発期間:平成25年7月~平成28年2月 1-1.研究開発の背景 2 世界の航空旅客輸送量は年率4.8%で増加し、2031年には2011年の2.6倍 の輸送規模となる。それに伴い、狙う市場である航空機・エンジンの市場も拡大し、 2031年の運航機体数は、2011年の約2倍になる見通しである。 今後着実に伸びると予想される航空輸送において、喫緊の課題とされる地球温暖 化対策に加えて、原油価格の高騰による航空運賃の上昇を抑制する技術が求めら れている。 世界の航空旅客動向 世界のジェット機の運航機材構成予測 (出典:財団法人 日本航空機開発協会 平成23年度 民間輸送機に関する調査研究) 1-1.研究開発の背景 3 低温部であるファンには、従来はチタン合金が使われてきたが、より比重が小さいF RPが適用されてきている。 一方、高温部で使用環境が最も厳しいタービン翼は、従来から高温度場で強度を有 するニッケル合金が適用されてきた。ニッケル合金は比重が大きく、使用温度も耐熱 限界に近づいているため、今後大幅な耐熱温度向上(+100℃以上)は厳しく、新しい 材料の開発が望まれている。 1.航空エンジンの適用材料 2.環境温度と材料の強度/密度 FRP MMC TiAl Ti合金 Ni合 金 CMC 強 度 / 材 料 密 度 ( MPa /gr /cm3 ) 500 T i 500 1000 温 ファン 圧縮機 度 (C) アフターバー タービン ナー 燃焼器 1500 1-2.研究開発の目的、目標 4 目的 CMC(Ceramic Matrix Composites) *のうち、SiC繊維で強化されたSiC複合材は、 従来の航空エンジン用耐熱材料であるNi合金に比べ密度が約1/4と軽量であり、さ らにNi合金より200℃高い1200~1300℃の耐熱性を有する。 本研究では、日本でしか製造できない国産のSiC繊維、日本が得意とする3次元 複雑織物、さらに日本独自技術である低コストの固相含浸法を適用したCMC製ター ビン翼を開発する。 素材の差別化技術 ①SiC繊維の外観 複雑形状の差別化技術 ②3次元織物の構造 (出典:宇部興産(株)H.P.) 気孔 試作したタービン静翼 (出典: METI報告書) ③固相含浸(左)と通常のスラリー含浸(右)の含浸状態 (出典: SJAC報告書) 試作したタービン動翼 (出典: NEDO報告書) 1-3.研究開発の課題 5 課題 ①設計技術の確立 3バッチ分の材料データベースの取得、要素評価、部品評価を行い、CMCの強度 評価を各レベルにおいて可能とする。 ②製造技術の確立 世界に先駆けCMCタービン翼を工業的に製造可能とするため、製造難易度の高 いBN界面コーティング、加工、検査、織物において、製造速度を実証する。 ③エンジン試験による耐久性実証 CMCタービン翼をエンジン試験に供試し、エンジン要求寿命の2回分を満足するこ とを確認する。 BN-CVI (界面層形成) SiC繊維束 織物作製 CVI(気相)マトリックス 原料ガス 原料ガスの熱分解 SiC繊維束 (日本独占) 3次元、ブレーディング、2次元積層 SPI(固相)マトリックス 分散媒 PIP(液相)マトリックス 機械加工 表面コート 原料ポリマー溶液 原料粉末 含浸 含浸 (CVIマトリックスと同じ) 焼成 エンジン試験 ビルディングブロックの構築 焼成 CMC製造工程 BN; Boron Nitride CMC; Ceramics Matrix Composite CVI; Chemical Vapor Infiltration 1-3.研究開発の課題 6 BN界面コーティング(課題の補足) CMCの繊維とマトリックスの界面には界面コーティングと呼ばれる窒化ホウ素(BN) または炭素(C)の界面層が施工される。界面コーティングは、マトリックス中に入った クラックが繊維に伝搬しないようにクラックを逸らす働きを持つ。 BN界面はC界面より耐熱性が高いが、反応速度が速く、均質な施工が難しい。 繊維 マトリックス 繊維 マトリックス 界面コーティング 界面層 マトリックスクラック 共有結合 (強い) マトリックスクラック ファンデルワール ス結合(弱い) 10 μm CMCのミクロ構造 界面コーティングの概念 グラファイトの結晶構造 1-3.研究開発の課題 7 織物(課題の補足) CMCの強度発現のため、織物はXY方向に加えてZ方向にも繊維が配向された比 較的厚みのある三次元織物となる。有機繊維や炭素繊維と比較して小さな曲率半 径で曲げることが出来ないSiC繊維をBN界面コーティングを痛めないように製織す る技術が必要である。 製織時の繊維の毛羽防止や滑りをよくするために用いられるサイジング剤(糊剤) の工夫も重要である。 X Y Z 使用繊維による製織技術の比較 1-4.事業最終目標 全体目標 (主目標) CMC製タービン翼の開 発 研究課題目標 8 開発当時の 技術レベル 達成目標(値)と設定理由 (目標値)燃費改善10.6%の効率改善となる省エネ ルギー量の目途を得る。 達成目標(値)と設定理由 - 開発当時の 技術レベル (1) 設計技術の確立 (目標値)・3バッチ分の材料データベースを取得する。 設計・評価手法が確立されていない。 (IHI) ・事前に予測した破壊モードと、部品試験の結果が 合致することを確認する。(IHI、宇宙航空研究開発 機構) (2)-1製造技術の確立 (BN界面、加工、検査) (目標値)各工程の速度を実用化開発時の速度に比 べ、5倍以上とする。(IHI、東京大学) 工業的な生産技術が確立できていない。 (2)-2製造技術の確立 (織物) (目標値)製織工程の速度を実用化開発時の速度に 比べ、5倍以上とする。(シキボウ) 工業的な生産技術が確立できていない。 (3) エンジン試験による 耐久性実証 (目標値)CMCタービン翼をエンジン試験に供試し、 エンジン要求寿命の2回分を満足することを確認す る。(IHI) エンジン試験による耐久性実証が実施されて いない。 2-1.研究開発体制 研究開発責任者 株式会社IHI 航空宇宙事業本部 技術開発センター エンジン技術部 研究開発責任者 シキボウ株式会社 中央研究所 共同研究 9 株式会社IHI 分担テーマ名 ・エンジン試験による耐久性実証 ・設計技術の確立 ・製造技術の確立(BN界面、加工、検査) シキボウ株式会社 分担テーマ名 ・製造技術の確立(織物) 国立大学法人 東京大学 研究項目: ・検査(画像解析技術の開発) 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究項目: ・部品/要素試験(評価技術の開発) 2-2.研究開発内容 2-2-1. 材料データベース取得 10 成果:3バッチ分の材料試験実施し,特に機械特性(一発破壊・疲労・クリープ)についてデータを取得 した。また、その他熱物性についても材料データを取得し,CMCタービン翼の設計・製造に必要な材 料データを取得した。 Normalized Stress (%) 100 中温域 高温域 10 1 2-2.研究開発内容 2-2-2. 部品試験 11 成果:実機形状を模擬した部品試験を実施し、解析により予測した破壊位置および破壊モードが試験 結果と合致すること、解析による予測結果と試験結果の誤差が±30%以内であることを確認した。 荷重 試験における損傷モード 部品試験の外観 +30% -30% 破壊位置と破壊モードの予測 (面外引張応力分布の解析結果) ひずみ分布の解析と試験の比較 2-2.研究開発内容 2-2-3. BN界面コーティング 12 成果:温度・圧力・流量等の検討及び繊維送り機構を見直す事で,施工速度を実用化開発時の6倍に できることを確認した。また、コーティング膜厚が均一に施工されることおよび施工後の繊維強度が目 標強度を満足することを確認した。 SiC繊維 BN界面 強度低下10%以内 110 Bを検出 (青色部) BN施工後の繊維 Nを検出 (青色部) 繊維強度 (%) 100 90 目標強度 80 70 60 50 BN施工前 BN施工結果 (定性分析によるBNの検出) BN施工後 BN施工前後の繊維強度試験結果 2-2.研究開発内容 2-2-5. 検査 13 成果:X線CT検査結果を評価するアルゴリズムを構築し、解析ソフトウェアを開発した。これにより、検 査速度を実用化開発時の6倍にできることを確認した。さらに、気孔については、閉気孔と開気孔の種 別および気孔寸法の解析結果が実測とほぼ一致することを確認し、繊維束蛇行については、部品検 査に必要な精度で欠陥を検出できることを確認した。 蛇行度1.0以上 が検出対象 正常な織物 蛇行程度1.0以上 が検査対象 1.2 R² = 0.9684 CMC試験片のX線CT画像 1 検出確率 0.8 アルゴリズムの適用 異常を含んだ織物 0.6 0.4 0.2 N>20 0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 蛇行程度 アルゴリズムの開発により気孔をマッピング 赤:閉気孔 青:開気孔(外部とつながっている気孔) 画像解析技術 配向 CT画像 画像解析技術 試験片を用いた分解能確認 気孔検出アルゴリズム 画像解析技術 実体と画像との対応 実態と画像との対比 繊維束蛇行検出アルゴリズム 2-2.研究開発内容 2-2-6. 織物 14 成果:最適なサイジング剤を開発し、製織時のBN界面コーティングへのダメージを抑制することによ り、製織後の膜厚を確保できるようになった。さらに、開口の制御、緯糸入れ機構の開発、最適化を図 ることにより、実用化開発時の8.5倍の製織速度で繊維蛇行および表面の毛羽立ちを抑えた3次元 織物を製造することが可能となった。 上限 SiC繊維 (毛羽改善前) BN膜厚 BN層 下限 SEM観察画像 視野1 視野2 視野3 視野毎BN膜厚 (毛羽改善後) 3次元複雑織物外観 製織後のBN界面コーティング厚の状況 視野4 2-2.研究開発内容 2-2-7.エンジン試験による耐久性実証 15 成果:強度や製造性を考慮した上でエンジン試験に供試するCMCタービン翼を設計し、解析によりエ ンジン試験に供試可能であることを確認した。さらに、エンジン搭載部品を製造し、エンジン要求寿命 の2回分のエンジン試験を行い、分解後の点検でCMCタービン翼に損傷がないことを確認した。 CMCタービン翼 搭載エンジン エンジン試験後のCMCタービン翼 3-1.成果 全体計画 CMC製タービン翼の開発 個別研究項目 16 到達レベル エンジン試験による耐久性実証、設計技術の確立、製造技術の確立が完了し、 10.4%の効率改善となる省エネルギー量の目処が得られた。 到達レベル (1) 設計技術の確立 ・3バッチ分の材料データを取得した。 ・部品試験を実施し、事前に予測した破壊モードと、部品試験の結果が合致する ことを確認した。 (2)-1製造技術の確立(BN界面、加工、 検査) ・BN界面、加工、検査の速度を実用化開発時の速度に比べ、5倍以上を達成し た。 (3)-2製造技術の確立(織物) ・織物の製造速度を実用化開発時の速度に比べ、5倍以上を達成した。 (4) エンジン試験による耐久性実証 ・CMCタービン翼を設計し、解析によりエンジン試験に供試可能であることを確 認した。 ・エンジン搭載部品の製造、エンジン組立を行い、エンジン要求寿命の2回分の エンジン試験を完了した。エンジン試験後の点検でCMCタービン翼に損傷がな いことを確認した。 3-2.今後の展望 17 本研究開発により、実用化に向けて不可欠であるデモエンジンによる技術実証が完了 し、実機開発フェーズに移行できる。本研究開発成果と既に取り組んでいる修理技術、 ISO等におけるCMC材料試験の国際標準化の成果を合わせ、実機開発フェーズに移行 する。本研究開発後の実機開発では、大型エンジンおよび小型エンジンにCMCを適用 し、それぞれ2025年、2030年の市場投入を目指す。 前述の事業化シナリオに従い、事業化・製品化することで2027年、2030年の普及 機体数として、それぞれ13機(国外:276機)、27機(国外:573機)が見込まれる。 2015 (H27) 2013 (H25) 2010 (H22) 2018 (H30) 実機開発 当該研究開発 エンジン技術実証 ビルディングブロック構築 NEDO省エネルギー革新技 術開発事業(動翼) METI研究開発事業(静翼) 製造技術確立 長時間運用時の損傷許容評価技術・修理技術、 材料試験の国際規格化 3-3.省エネルギー効果 18 省エネ効果算定式 大型エンジンの低圧タービンにCMCを適用し、2025年に市場投入した場合の省エネ効果算定式を以 下に示す。 指標A : 単位あたりの省エネルギー効果量 (燃費改善効果) 年間機体1機あたりの燃料使用量削減量 :1392kL/機・年 (タービン翼製造に必要なエネルギー削減効果) エンジン1台あたりのタービン翼製造エネルギー削減量 :3.2kL/台 指標B : 市場規模(導入量) (燃費改善効果) 2027年 2030年 国内 13機 27機 国外 276機 573機 (タービン翼製造に必要なエネルギー削減効果) 2027年 2030年 国内 197台/年 212台/年 3-3.省エネルギー効果 19 原油換算省エネ効果 大型エンジンの低圧タービンにCMCを適用し、2025年に市場投入した場合の省エネ効果量 を以下に示す。 2027年 2030年 国内 国外 国内 国外 指標A(効果量) 1392kL/機・年 3.2kL/機 1392kL/機・年 1392kL/機・年 3.2kL/機 1392kL/機・年 指標B(導入量) 13機 197台/年 276機 27機 212台/年 573機 省エネルギー効果量(kL/年) 1.9万 39万 3.9万 80万 なお、小型エンジンにCMCを適用し2030年に市場投入した場合、2035年における省エネ効 果として、国内6.4万kL/年(国外305万kL/年)が見込まれる。
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