ロボットメカトロニクス基礎・基礎演習 補足資料 東京電機大学 未来科学部 ロボット・メカトロニクス学科 鈴木 聡 ※本講義は黒板を中心に行い、本資料はその補足とい う位置づけです。従って本資料で、講義全体の細部を カバーしているわけではありません。注意してください。 © Satoshi Suzuki 2007,8,9- ロボットメカトロニクス基礎 第1回 力 ©2007-, Satoshi Suzuki 1・1 力 (1) 力とその表示 ・力(force) - 物体の運動の状態を変化させるもの - 物体の形状をかえるもの ・力の効果… “大きさ”、”方向”、”力の働く点”によって効果が異なる - 着力点 = 力の働く点 - 作用線 = 力の方向を示す線 ・ベクトル(vector)… 大きさ、方向と向きを持つ量 ex) 加速度、力のモーメントなど ・スカラー(scalar)… 大きさだけで、方向向きを持たない(普通の)量 ex) 長さ、時間、エネルギー、面積、質量… 1・1 力 (2) 力の単位 a) ニュートン - 質量1kgの物体に1m/s2の加速度を生じさせる力を、 1ニュートン(N)という 1 [ N] = 1 [kg ⋅ m/s 2 ] b) 重量キログラム - 質量1kgの物体を、重力に逆らって支える為の力 を、 1重量キログラムという - 重力単位系の力の単位 - 重力加速度g (地球上の場所によりごくわずか異なる) とすると、 1 [kgf] = 1 ⋅ g = 9.80665 [ N] (ただし、gの国際標準値=9.80665[m/s2]の場合) 1・2 1点に働く力の合成と分解 (1). 2力の合成 ・2つの力が1点に働くとき、この2力と同じ働きをする一つの力を求め ることを、 ”2力の合成 “ という。 ・合力(resultant force) = 求まった 一つの力 A 図式による解法 - 力の平行四辺形の法 - 力の三角形による法 B 計算による解法 1・2 1点に働く力の合成と分解 (2). 力の分解 ・1つの力を、それと同じ働きをする2つ以上の力に分解すること ・分力(component force) = 分解によって得られた力 ・ひとつの力を分解する方法は無数 ・次のどちらかで一意に分解できる i. 分解する力を含む平面内で2分力の方向を与えたとき ii. 一つの分力を与えたとき ・直交座標系での分解 Fx =| F | cos θ , Fy =| F | sin θ 1・2 1点に働く力の合成と分解 (3). 3力以上の合成 i) 図的解法 ・力の多角形を描く方法 ・図形的に”力の三角形法”を利用したもの ii) 計算解法 ・座標軸方向の分力の和を計算する方法 ロボットメカトロニクス基礎 第2・3回 モーメント 1・3 力のモーメント (1). 力のモーメント A. モーメント ・力のモーメント(moment of force) =物体を回転させようとする力の働き 力F 着力点A 軸O 腕l ・ N=F・l, N:モーメント [N.m], F:力 [N], l: モーメントの腕の長さ [m] (=モーメント中心への作用線からの垂線の長さ) 作用線 B. 合力とモーメント ・同一平面内で、”1点に働く複数の力による(任意の点に関する) モーメントの代数和”は、その”合力のモーメント”に等しい。 1・3 力のモーメント 力F (2). 偶力(couple) ・大きさが等しく、向きが反対の2つの平行力 偶力 力 -F ・偶力は物体を回転させる能力をもつ一組の平行力 ※物体を(並進)移動させる能力はない ・偶力が複数作用する場合も、 「各偶力のモーメント」の和 = 「各偶力の和」のモーメント が成立 1・3 力のモーメント (3). 力の置換え 力FB ・力FA = 力FB + 偶力のモーメント 移動 力FA 平行 A B モーメントM 平行移動 ・力を平行移動した場合、物体に及ぼす効果を変えないために は、さらに Fd の偶力モーメントを物体に加えればよい。 ⇔逆に、”偶力”と”力”を合成して、一つの力に変換できる 1・4 着力点の異なる力の合成 I.概略 3力以上合成するには… (1つめの)力F1 = 力F’1 + (O点回りの)偶力のモーメントN1 O点へ平行移動 準備5 準備4 (2つめの)力F2 = 力F’2 + (O点回りの)偶力のモーメントN2 O点へ平行移動 … (n番めの)力Fn = 力F’n + (O点回りの)偶力のモーメントNn O点へ平行移動 計 n ∑F i =1 i n = ∑ F 'i i =1 n + ∑ Ni i =1 本題step2 “各力の合力”は、”原点に働く力の総和”と、 ”偶力のモーメントの総和”との和 本題step3 ロボットメカトロニクス基礎 第4・5回 2章・力のつりあい 2.1 一点に働く力のつりあい ・物体に2力以上の力が作用しているとき、 “それらの力が働いているときの物体の状態 ” = “力が働いていないときの物体の状態 ” ならば、「つりあっている」という。 ・力がつりあうためには?…1点に働く力の合力が0 (i) 2力 F1,F2 の場合 1. F1,F2の着力点が同じ 2. F1,F2の大きさが同じ 3. F1,F2の向きが反対 (ii) 3力以上の場合の求め方 a) 図式法: “力の多角形”が閉じること b) 計算法: 任意の直交座標系O-X-Yを考え、 X, Y軸方向の分力の和が0 all つまり、 ∑ Fix = 0, i all ∑F iy i =0 2.2 接触点、支点に働く力 ・物体に働く力のつりあい問題を考えるとき、 - “物体と物体との接触点” - “支点(物体の運動を拘束する点)に働く力の知識” の2つが必要 ・反力: 反作用による力 - “接触面が滑らか”で“摩擦なし”ならば、 「反力の方向は接触面に垂直な力」 ・支点 1. 移動支点: 一定方向に移動可能な点 [実例: スライダ] 反力は移動方向に垂直な方向のみ(反モーメントなし) 2. 回転支点: 回転のみ自由な点 [実例: ベアリング] 反力の作用線は回転中心を通る(反モーメントなし) 3. 固定支点: 移動不可能な点 [通常の固定] 反力も反モーメントも発生する ロボットメカトロニクス基礎 第6回 3章・重心 3.1 重心と図心 ・直感的には、”重心=物体の質量的中心” ・密度が均一なら、「物体の体積中心位置 = 重心」 非均一なら定義式に従って計算 (1) 厳密な定義…”物体 = 微小部分の集まり” と考える i) 微小部分にはその微小質量に比例した重力が発生 ii) これらの重力は平行力 iii)平行力の合力の作用線は物体の姿勢を変えても、 常にある定まった点を通る → この定点を重心(center of gravity: COG)という ・この合力の大きさ=物体の重さ : weight [N] ( ≠質量 : mass [kg] ) 重さ:W = 質量:m × g ・通常は、質量も重心に集中していると考えてよい 3.1 (続き) (2) 重心の計算手順 1) 重力がz軸負の方向に働くとする 2) 物体をN個の(微小な)部分に分割する 3) 微小部分に働く重力を、w1, w2, … , wN とする 4) 微小部分の座標を、 ( x1, y1 , z1 ), …, ( xN, yN , zN ) とする N 5) 物体の全重量 W [N]は W = ∑ wi …① i =1 6) 重心Gの座標を仮に ( xG, yG , zG ) とする 7) “分力のモーメントの和”=“合力のモーメント”なので N N N i =1 i =1 i =1 W ⋅ xG = ∑ wi xi , W ⋅ yG = ∑ wi yi , W ⋅ zG = ∑ wi zi 8) 式①と②から重心座標: xG, yG , zG が求まる …② 3.1 (続き) (3) 均一な物体の重心 A) 密度一定 W = ρ ⋅V ⋅ g 基本はコレ! xG B) 均質で厚さ一様な板 W = ρ′⋅ A⋅ g xG x dV ∫ = ,y V x dA ∫ = ,y C) 均質で断面一様な棒 W = ρ ′′ ⋅ L ⋅ g xG = A G G y dV ∫ = ,z V G z dV ∫ = V …(3.7) y dA ∫ = A …(3.8) ∫ x dL L …(3.9) ・式(3.7)~(3.9)は物体の形状から決まる点 → 図心(centroid) ・均質な物体の場合のみ、「重心=図心」 3.2 物体の重心 (1) 規則的な図形の重心 ① 物体が対称軸を持つ → 重心は対称軸上 ② 物体が2つの対称軸を持つ → 重心は2つの対称軸の交点 ③ 物体が a) いくつかの部分に分けられて、 b) 各々の重心が分かっているなら、 “各部分の重心に働く平行力”の合力をもとめて、 “物体全体の重心”が分かる → 詳しくは例題で説明 ロボットメカトロニクス基礎 第7・8回 3章・重心 3.2 (2) 回転体の重心 ・”重心の位置”を利用すると、「回転体」の表面積や体積が分かる ※体積が分かる=重量が分かるということ ・本質: 表面積や体積の計算式の一部分に、重心の計算式と 一致する部分がある。 ・表面積 S …(3.11) S = 2πyG・ L =重心が軸の周りに回転してできる円周の長さ ×曲線の長さ ・体積 V …(3.13) V = 2πyG・ A =重心が軸の周りに回転してできる円周の長さ ×面積 3.3 物体のすわり ・機械=動くシステム 静 - 環境が変わる(例:車と斜面) →重力の作用が変わる 的 - 姿勢が変わる(例:脚型ロボ) →全体の重心位置が変わる 動 - 動的作用力があわられる →力のつりあいが時間で変わる 的 (例:遠心力、コリオリ力) ・静的なつりあい=“物体のすわり” ・3種類 = 安定(stable)、不安定(unstable)、中立(neutral) ・区別法 = 水平面上にある物体を少し傾けたとき、 i) 重心の位置が、最初の位置より上がる → 安定なすわり ii) 〃 〃 より下がる → 不安定なすわり ii) 〃 〃 と変わらない→ 中立なすわり 構造物と安定性 ・安定な物体:“重心を通る鉛直線”が、その物体の”基底”を通る ※”基底”=地面と接地している部分 ・不安定な物体:“その鉛直線”が “基底”から外れる ・安定余裕角度 = 基底の端点における、 「鉛直方向から重心位置まで」の角度 ・安定の度合いは、 a) 重心位置が下にある程、大きい。 … 安定余裕角度が大きくなるので。 b) 物体の重量が大きいほど、大きい。 … 偶力の絶対値が大きくなり、 回転に必要なモーメントが大きくなるので。 ロボットメカトロニクス基礎 第9回 4章 点の運動 4.1 速度と加速度 ・運動(motion)…点が時間の経過とともに、その位置を変える事 ・経路(path)……点が実際に通った道筋 (1). 速さと速度 ・速さ(speed)…スカラー量 (大きさのみ) : v (細字) ・速度(velocity)…ベクトル量 (“向き”と”大きさ”をもつ) : v (太字) [ 速度 = “速さ” + 向き ] (2). 加速度 ・速度vの時間変化量 & ・記号は慣例的に a か、速度ベクトル v の1階微分 v あるいは、位置ベクトル r の2階微分 &r& ・ホドグラフ(hodograph) …速度ベクトルのみを(位置を変えずに)描いた図 (つづき) (3). 接線加速度・法線加速度 ・(主に)曲線運動の場合 ・..続きは黒板で. ・接線加速度: Δv t = a t (4.5a)…速度の大きさに変化を与える Δt →0 Δt lim Δv n = a n (4.5a)…速度の方向を変える Δt →0 Δt 2 2 2 ⎞ ⎛ dv v ⎛ ⎞ 2 2 ・加速度の大きさは式(4.7)から a = at + an = ⎜ ⎟ + ⎜⎜ ⎟⎟ ⎝ dt ⎠ ⎝ ρ ⎠ ・法線加速度: lim 4.2 直線運動 ★直線運動の求め方 1. 運動する方向に座標軸S( あるいは X軸)をとる 2. 運動する点の座標位置を s ( あるいは x )とする 3. S軸に対しては1次元なので、速度も加速度もスカラ値 (1次元変数)として計算式をたてて良い (1a) 等速度運動(uniform motion)…加速は0 s (t ) = s0 + v0 ⋅ t … (4.9) (2a) 等加速運動(uniform acceleration motion) a 2 v(t ) = v0 + a ⋅ t …(4.10) s (t ) = s0 + v0 ⋅ t + t …(4.11)’ 2 2 2 重要公式: v − v0 = 2as …(4.12) ロボットメカトロニクス基礎 第10回 4章 点の運動 (続き) 4.2節 直線運動 (つづき) (2) 落体の運動 ・加速度がgの等加速度運動 ・重力加速度 g=9.81m/s2 としてよい - 厳密には地球上の位置によって違う (自転の影響) 例) 東京:9.798m/s2、札幌:9.805m/s2 (a) 鉛直下方へ投げた場合 速度に関して:(4.10)→ v(t ) = v0 + g ⋅ t 2 位置に関して:(4.11)→ h(t ) = v0 ⋅ t + gt / 2 2 2 公式(4.12) → v − v0 = 2 gh (b) 鉛直上方へ投げた場合 速度に関して:(4.10)→ v(t ) = v0 − g ⋅ t …(4.15a) 2 位置に関して:(4.11)→ h(t ) = v0 ⋅ t − gt / 2 …(4.15b) 公式(4.12) → v 2 − v02 = −2 gh …(4.15c) 4.3 平面運動 ・ 運動が2次元平面内に限定される運動 (1) 放物線運動(parabolic motion) ・ 水平方向:等速運動 ・ 垂直方向:加速度gの等加速度運動 v x (t ) = vo cos θ v y (t ) = vo sin θ − gt (2) 円運動(circular motion) a) 角速度(angular velocity):ω [rad/s] b) 周速度v と角速度ω: v = r ω (r:回転半径) c) 角加速度(angular acceleration): ω& = d d ⎛d ⎞ ω = ⎜ θ ⎟ = θ&& dt dt ⎝ dt ⎠ (つづき) d) 等速円運動 ・ 角速度ω=一定、の円運動 ・ 接線加速度: at = 0 2 法線加速度: an = rω e) 等角加速度運動 ・ 角加速度 dω/dt =一定、の円運動 ・ ω (t ) = ω0 + ω& ⋅ t …(4.23) ・ θ (t ) = ω0t + ω& ⋅ t 2 / 2 …(4.24) 2 2 ・ ω − ω0 = 2ω& θ …(4.25) (つづき) f) 類似性 ・ (4.23): ω (t ) = ω0 + ω& ⋅ t ⇔ (4.10): v(t ) = v0 + g ⋅ t ・ (4.24): θ (t ) = ω0t + ω& ⋅ t 2 / 2 ⇔ (4.11): s (t ) = v0 ⋅ t + at 2 / 2 2 2 ・ (4.25): ω 2 − ω02 = 2ω& θ ⇔ (4.12): v − v0 = 2as 回転運動 直線運動 ・回転運動と直線運動の法則は酷似(式構造は同じ) ・対応関係 s θ - 角度 [rad] ⇔位置 [m] s&, v [m/s] θ& , ω [rad/s] ⇔速度 - 角速度 - 角加速度 θ&&, ω& [rad/s2] ⇔加速度 &s&, a [m/s2]
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