第59回自動制御連合講演会, Kitakyusyu, Japan - Humanitech-Lab

ThB5-4
離散動的システムの安定性について
○奥山佳史( (株) ユマニテクラボ )
Some Considerations on the Stability of Discrete Dynamical Systems
Yoshifumi Okuyama
(Humanitech Laboratory & Tottori University, Emeritus)
Abstract– In the digital society, information, communication and control technologies are realized based
on a packet of signals (or a finite number of data). That is, control systems are operated by discretized
signals not only in the time domain, but also in the state space. In this paper, the stability of (nonlinear)
discrete dynamical systems is analyzed by using simultaneous linear inequalities for multiple metrics. Some
numerical examples of a 2nd order discrete dynamical system are presented to clarify the meaning of the
stability. It is also examined that periodic responses with different periods are appeared in those examples
because of finite state systems.
Key Words: Finite state systems, Time-invariant nonlinear elements, Simultaneous linear inequalities,
M-matrices, Relative stability
1
まえがき
デ ィジタル社会においては,情報の通信そして制御
は1つの信号のかたまり (packet) として扱われる.す
なわち,制御システムは時間的はもちろん空間的にも
離散値である信号によって伝送そして制御される.こ
の論文は,そのような格子上の (非線形) 離散動的シス
テムの安定性を多次元計量とその連立1次不等式をも
とに解析し 1, 2) ,いくつかの数値例を挙げて検証する.
そして,非線形フィード バックの数値例において,有
限状態であるがゆえの様々な周期の (カオスでない) 振
動の存在についても言及する.
2
と表される.固定非線形部 ϕ(·) は,たとえば,Fig. 1
の離散値化特性 ν(·) における変化部分,
離散動的システムの一般的表現
離散値による動的システムは
3, 4)
,一般に
x(tk+1 ) = f (x(tk ), e(tk ))
k ∈ N := {0, 1, 2, . . . , N }
と書かれる. これまでの離散動的システムの研究では
値は連続の場合が多いが 5, 6) ,ここでは値も不連続の
場合と考えている.ここで,Z は整数の有限集合であ
るが,現実の離散システムとの関連をも考慮して,分
解能 γ ≤ 1 をもって
(3)
ここに,g(x(tk ), e(tk )) は,固定非線形部と事象駆動
入力部で
g(x(tk ), e(tk )) = ϕ(x(tk )) + η(x(tk ), e(tk ))
(4)
(5)
である*1 .
この論文では,このような時不変非線形要素による
閉ループ離散システムと考える*2 .さらに,公称シス
テムの遷移行列も時不変
P := Φ(tk+1 , tk ) ∈ Zn×n , ∀k ∈ N
(7)
であると仮定する.なお,遷移行列はシステム構造の
みに単純化して
P ∈ In×n ⊆ Zn×n I := {−1, 0, 1}
(2)
と定義することも可能である 2) .
線形システムとくにその周期性との対比を明らかに
するため,(1) に対し,ここで,次のような半線形 (相
対的な非線形) システム表現を考える:
x(tk+1 ) = Φ(tk+1 , tk )x(tk ) + g(x(tk ), e(tk )).
ϕ(e) = ν(e) − e
(1)
x(tk ) ∈ Zn , e(tk ) ∈ Zm , f : Zn × Zm → Zn ,
Zγ := {−Nγ , . . . , −2γ, −γ, 0, γ, 2γ, . . . , Nγ }
Fig. 1: Discretization of a nonlinear characteristic.
(8)
と考えることもできる.明らかに,いずれにせよ
Φ(tk+1 , tk )x(tk ) = Px(tk ) ∈ Zn
(9)
である.
*1 入出力の離散値
言語で
⎧
⎨ ei =
ui =
⎩
vi =
e† , ν † は,連続値 e, ν に対して,たとえば C
dx ∗ (double)(int)(e/dx);
km0 ∗ ei + km ∗ sin(kst ∗ ei);
dy ∗ (double)(int)(ui/dy);
(6)
を考えている.この例では,ei = e† , vi = ν † そして dx = dy =
γ = 1.0,km0 = 1.0, km = 3.0, kst = 0.7 である.
*2 離散事象システムのような事象駆動入力のある場合については
今後の発表に譲る.
[No.16-14] 第59回自動制御連合講演会(2016.11.10-12 北九州市)
䠉253䠉
3
時不変非線形離散システム
4
時不変の公称システムについては,(7) より明らかに
(1) Φ(tk , tl ) = P k−l
(2) Φ(tk , tk ) = P 0 = I.
多次元計量による安定性判定
状態空間における計量 (metric) は,通常,スカラー
量でで定義されるが,安定性の判定においては,しば
しば厳しすぎる条件となる.そこで,多次元計量で考
えることが有効な場合が多い 2) .
いま,∞ 空間を考え,計量 (ノルム) として
xi (tk )∞ := sup |xi (tk )| ∈ Z+
である.なお,公称システムが周期的な場合は
(3) Φ(tk+h , tk ) = P h = I,
k∈N
h:周期
となる.
再帰方程式 (3) より, 固定非線形特性 ϕ(x(tk )) のみ
による離散システムについては,
x(tk ) = Φ(tk , t0 )x(t0 ) +
k
Φ(tk , tl )ϕ(x(tl−1 )) (10)
l=1
x(tk ) = P k x(t0 ) +
このような考え方をもとに,(11) より不等式
k
x(tk )∞ P k x(t0 )∞ + Ψ(k, l)x(tl−1 )
と展開される.よって,(7) の表現によれば,
k
を定義する.このとき,多次元計量としては
⎡
⎤
x1 (tk )∞
⎢ x2 (tk )∞ ⎥
⎢
⎥
x(tk )∞ = ⎢
⎥ ∈ Zn+ ,
..
⎣
⎦
.
xn (tk )∞
P k−l ϕ(x(tl−1 ))
(11)
x(tk )∞ P k ∞ |x(t0 )|
k
+
|Ψ(k, l)| · x(tk )∞ .(16)
である.
ここで,固定非線形部については,各成分に関して
ϕi (x(tk ))
∈ R, i, j ∈ {1, 2, . . . , n}. (12)
εij (tk ) =
xj (tk )
を考え,行列
...
..
.
εn1 (tk ) . . .
ε11 (tk )
⎢
E(tk ) = ⎣ ...
⎤
ε1n (tk )
.. ⎥
. ⎦
x(tk ) = P k x(t0 ) +
が与えられる.ここで, はベクトルの各成分に対す
る不等号,さらに | · | は各成分の絶対値のベクトルあ
るいは行列を意味する.よって,
k
I −
x(tk )∞
|Ψ(k, l)
ただし,
(13)
l=1
ψn1 (k, l)
ここで,公称システム y(tk ) = P k x(t0 ) は
⎤
ψ1n (k, l)
⎥
..
⎦
.
ψnn (k, l)
(18)
∞
k
行列ならば *3 (逆行列の各要素が有界で非負ならば )8, 9) ,
Ψ(k, l)x(tl−1 )
*3 上記の行列が
(14)
l=1
である.
∈ Rn×n
.
+
定義 1 公称システムの有界性 (18) が満たされる,
すなわち,y(tk )∞ Ȳ に対し ,x(tk )∞ X̄
(∀k ∈ N) ならば,離散事象システムは (相対的な意味
で 7) ) 安定である.ここで,Ȳ ,X̄ は有限な正数のベ
クトルである.
結局,次の定理 1 が得られる.
k
行列 I − l=1 |Ψ(k, l)| , (∀k ∈ N) が M
定理 1 を定義するならば,
x(tk ) = P k x(t0 ) +
(17)
と有界であると仮定する.
そこで,安定性の定義は次のように定められる.
各成分に関しては,
...
..
.
...
∞
y(tk )∞ P k ∞ · |x(t0 )| Ȳ
Ψ(k, l) := P k−l E(tl−1 ),
ψ11 (k, l)
⎢
..
Ψ(k, l) = ⎣
.
k
|Ψ(k, l)|
l=1
と書くことができる.ここで,新たに行列
⎡
∞
P k ∞ |x(t0 )|.
εnn (tk )
P k−l E(tl−1 )x(tl−1 )
∞
l=1
l=1
を定義する.(11) は,よって
k
(15)
そして
l=1
⎡
∞
l=1
M 行列であることは,
k
I−
X=Y
|Ψ(k, l)|
l=1
∞
において 0 Y < ∞ に対し 0 X < ∞ が定まることである 1) .
䠉254䠉
*4
離散事象システムは
(相対的な意味で
) 安定である .
k
(証明) 行列 I − l=1 |Ψ(k, l)| の逆行列の各要
∞
素が有界で非負ならば,(17) より
k
x(tk )∞ I − |Ψ(k, l)|
l=1
−1
∞
· P k ∞ |x(t0 )| < ∞.
(19)
よって,定義 1 は満たされる.
もっとも,展開 (16)-(17) によって得られた定理 1 は,
遷移行列が減衰モードの場合は適用が容易であるが,周
期的システムなど 減衰しない場合は適用が難しくなる
(言い換えれば,厳しすぎる条件となる).
そこで,(15) をもとに次の行列
⎡
⎤
θ11 (tk ) . . . θ1n (tk )
⎢
.. ⎥
..
Θ(tk ) = ⎣ ...
(20)
.
. ⎦
θn1 (tk ) . . . θnn (tk )
Fig. 2: Example of triangular trajectories: x1 (0) =
2.0, x2 (0) = 3.0 ∼ 7.0.
この例では,展開式 (13) は
k 0
1
x1 (tk )
x1 (t0 )
=
−1 −1
x2 (tk )
x2 (t0 )
k
k−l
0
1
0 ε(tl−1 ) x1 (tl−1 )
+
−1 −1
0
0
x2 (tl−1 )
l=1
k 0
1
x1 (t0 )
=
−1 −1
x2 (t0 )
k
ψ11 (k, l) ψ12 (k, l) x1 (tl−1 )
(. 25)
+
ψ21 (k, l) ψ22 (k, l) x2 (tl−1 )
を定義する.ここで,
θij (tk ) :=
k
ψij (k, l)xj (tl−1 )/xj (tk )∞
l=1
i, j = 1, 2, · · · , n
(21)
である.
定理 2 行列 I − Θ(tk ) , ∀k ∈ N が M 行列なら
∞
ば (逆行列の各要素が有界で非負ならば ),離散事象シ
ステムは (相対的な意味で ) 安定である.
(証明) 不等式 (15) の展開にあたって,行列 (20),(21)
を考え,(17) 対して
I − Θ(tk ) x(tk )∞ P k ∞ |x(t0 )| (22)
∞
l=1
(21) の表現によれば,
k 0
1
x1 (tk )
x1 (t0 )
=
−1 −1
x2 (tk )
x2 (t0 )
θ11 (tk ) θ12 (tk ) x1 (tk )
+
(26)
θ21 (tk ) θ22 (tk ) x2 (tk )
となる.ここで,
を定める.ただし ,Θ(tk ) ∈ Rn×n
である.よっ
+
∞
, (∀k ∈ N) が M 行列ならば
て,行列 I − Θ(tk )
θij (tk ) =
∞
2 次離散システムの数値例
ψij (k, l)xj (tl−1 )/xj (tk )∞
l=1
定義 1 の意味で相対安定であることがわかる.
5
k
i, j = 1, 2
である.
よって,定理 2 の行列は
1 − θ11 (tk )∞
I −Θ(tk )∞ =
−θ21 (tk )∞
(27)
定理 2 の意味を明らかにするため,公称システムが振
動的な 2 次の離散動的システム,
−θ12 (tk )∞
x1 (tk )
0
1
ϕ(x2 (tk ))
x1 (tk+1 )
1 − θ22 (tk )∞
.
=
+
−1 −1 x2 (tk )
x2 (tk+1 )
0
となる.主座小行列式が正の安定条件は,したがって,
(23)
⎧
そして
⎪
Δ (t ) = 1 − θ11 (tk )∞ > 0
⎪
⎨ 1 k
x1 (tk )
0
1
0 ε(tk ) x1 (tk )
x1 (tk+1 )
=
+
Δ2 (tk ) = (1 − θ11 (tk )∞ )(1 − θ22 (tk )∞ )
−1 −1 x2 (tk )
x2 (tk+1 )
0
0
x2 (tk )
⎪
⎪
⎩
− θ12 (tk )∞ θ21 (tk )∞ > 0, k ∈ N
(24)
を考える.ここで,ε(tk ) = ϕ(x2 (tk ))/x2 (tk ) である.
(28)
遷移行列は,この例では
と書くことができる.
ただし,この例題のような単一非線形フィードバック
0
1
−1 −1
1 0
, P2 =
P3 =
= I では θ11 (tk ) = θ21 (tk ) = 0 となるので,安定条件 (28)
P=
−1 −1
1
0
0 1
は,結果的に
よって,公称システムの周期は h = 3 であり,その応
Δ2 (tk ) = 1 − θ22 (tk )∞ > 0
(29)
答は Fig.2 に示すような 3 角形 (の集合) となる.
*4 厳密には有限時間安定といえよう.
のみとなる.
䠉255䠉
Fig. 3: Discretized nonlinear (saturation, arctangent
curve) characteristic for Example 5.1, ϕ(e) = ν − e,
and traced points •.
Fig. 7: Discretized nonlinear (tangent curve) characteristic for Example 5.2, ϕ(e) = ν − e, and traced
points •.
Fig. 4: Phase-plane trajectories and limit cycles for
Example 5.1: (x1 (0), x2 (0)) = (1, 2) & (1, 6) • and
(x1 (tk ), x2 (tk ))1 & (x1 (tk ), x2 (tk ))2 .
Fig. 8: Convergent and divergent trajectories for Example 5.2: (x1 (0), x2 (0)) = (1, 5) & (1, 6) • and
(x1 (tk ), x2 (tk ))1 & (x1 (tk ), x2 (tk ))2 .
Fig. 5: Time-responses for Example 5.1: x1 (tk ) and
x2 (tk ).
Fig. 9:
x2 (tk ).
Time-responses for Example 5.2:
x1 (tk ),
x2 (tk ) の時間経過,さらに Fig. 6 は Δ1 (tk ),Δ2 (tk )
の時間経過を示している.
この例においては,連続システムのリミットサイク
ル 10) に相当する 3 角形( 周期:h = 3 )が,初期値の
選び方によって複数生ずることがあることが興味深い.
もっとも,いずれの場合も,Fig. 6 より定義1の意味
での相対安定性は保証されていることは明らかであろ
う.なお,Fig. 3 において,点列 • は応答が実際に離
散値化非線形特性上を辿った ‘足’ 跡を示している.
Fig. 6: Δ1 (tk ), Δ2 (tk )1 and Δ2 (tk )2 trajectories for
Example 5.1.
5.1
飽和型非線形特性
まず,非線形特性が Fig. 3 のような飽和 (逆正接,
arctangent) 曲線である場合を考える.Fig. 4 は位相
平面上 (x1 , x2 ) の状態の軌跡,Fig. 5 は状態 x1 (tk ),
5.2
拡散型非線形特性
非線形特性が正接 (tangent) 曲線である Fig. 7 のよ
うな例を考える.Fig. 8 は位相平面上 (x1 , x2 ) の状態
の軌跡,Fig. 9 は状態 x1 (tk ), x2 (tk ) の時間経過,さ
らに Fig. 10 は Δ1 (tk ),Δ2 (tk ) の時間経過を示して
いる.この場合においても,Fig. 3 の点列 • は応答が
実際に離散値化非線形特性上を辿った ‘足’ 跡を表して
いる.この例では,初期値のわずかな違いによって応
䠉256䠉
Fig. 10: Δ1 (tk ), Δ2 (tk )1 and Δ2 (tk )2 trajectories for
Example 5.2.
Fig. 11: Discretized nonlinear (inclined sine) characteristic for Example 5.3(1), ϕ(e) = ν − e, and traced
points •.
答は収束したり発散したりする.それは,連続システ
ムの場合の不安定なリミットサイクルに相当するので
あろう.
これらの計算にあたっては発散する場合は,敢えて
軌跡の描写を途中で止めている.Fig. 10 において,
Δ2 (tk )1 については安定性は保証されるが,Δ2 (tk )2 に
関しては保証しえないことは,この図からも明らかで
あろう.
5.3 波動型非線形特性
非線形特性が 傾斜正弦 (inclined sine) 曲線である
Fig. 11 のような例( 註 (6) のパラメータでは:km0 =
1.0, km = 2.9, kst = 0.7 の場合)を考える.
(1) 初期値 x1 (0) = 4.0, x2 (0) = 5.0 の場合
Fig. 12 はその位相平面上 (x1 , x2 ) の状態の軌跡,
Fig. 13 は状態 x1 (tk ), x2 (tk ) の時間経過,さら
に Fig. 14 は Δ1 (tk ),Δ2 (tk ) の時間経過を示し
ている.Fig. 12 より,状態 (x1 (tk ), x2 (tk )) の応
答は,7 ステップ後に 3 角形( h = 3 )のリミット
サイクルに到達,吸収されていることがわかる*5 .
ここでも,Fig. 11 の点列 • はこのような応答の
場合の ‘足’ 跡を記してある.
(2) 初期値 x1 (0) = 4.0, x2 (0) = 4.0 の場合
次に,同じ非線形特性に対し,わずかに初期値が
変わった場合を確かめてみる.Fig. 16 は,この
ときの位相平面上 (x1 , x2 ) の状態の軌跡,Fig. 17
は状態 x1 (tk ), x2 (tk ) の時間経過,さらに Fig. 18
は Δ1 (tk ),Δ2 (tk ) の時間経過を示した.Fig. 16
より,状態 (x1 (tk ), x2 (tk )) の応答は,複雑な経過
の後,5 ステップ 後に周期振動( h = 14 )となっ
ている.その軌跡はまさに複雑で,カオス (chaos)
に通ずるようにも見えるが,最終的には周期振動
に帰着している.その応答の非線形特性上は,Fig.
11 に対し,敢えて別の図として Fig. 15 に点列 •
で記した.
さらに別の初期状態からも h = 3 そして h = 14
の周期振動が得られたが,それ以外の周期の振動
が生ずるかど うかについては確かめていない.非
線形特性 Fig. 1, Fig. 11 そして初期状態などはい
かようにもとり得る.したがって,このシステム
によって様々な有限周期の振動を発生させること
が可能と思われる.
*5 もっとも同じ初期値でも,わずかに km が異なる Fig. 1 の非線
形特性では異なった (長い) 周期の振動が生ずることがわかった.
Fig. 12: Phase-plane trajectories for Example 5.3(1):
(x1 (0), x2 (0)) = (4, 5) • and (x1 (tk ), x2 (tk )).
Fig. 13: Time-responses for Example 5.3(1): x1 (tk ),
x2 (tk ).
Fig. 14: Δ2 (tk ) trajectories for Example 5.3(1).
6
あとがき
現在,自動制御システムは時間的はもちろん空間的に
も離散値である信号によって伝送そして制御される.こ
の論文では,そのような格子上の (非線形) 離散動的シ
ステムの相対的な意味での安定性を多次元計量とその
連立1次不等式をもとに解析した.数値例として,飽
䠉257䠉
(i) 飽和型非線形フィード バックにおけるリミットサ
イクルが必ずしも一つの周期振動に収束とは限ら
ない.
(ii) 傾斜正弦非線形フィード バックにおいて,連続シ
ステムのリミットサイクルに相当する振動の周期
は,公称システムのそれ h = 3 より極めて長いも
のも存在する.
Fig. 15: Discretized nonlinear (inclined sine) characteristic for Example 5.3(2), ϕ(e) = ν − e, and traced
points •.
この研究では,どのような非線形特性そして分解能 γ
に対して,ど ういう周期振動が得られるかわからない
が,いずれにせよ有限状態システムであるから様々な
有限周期の振動の存在が想定される.なお.分解能を
小さく γ : 1.0 → 0 とすることにより,無限 (極めて
長い) 周期の振動が生ずることも考えられる.
なお,離散時間に対してこの種の問題の数値計算を
最初に試みたのは Rudolf E. Kalman11) (1930-2016) で
ある.すなわち,カオス (chaos) 理論の基である.
参考文献
1) Y. Okuyama, Discrete Control Systems, Springer
-Verlag, London (2014)
Fig. 16: Phase-plane trajectories for Example 5.3(2):
(x1 (0), x2 (0)) = (4, 4) • and (x1 (tk ), x2 (tk )).
2) Y. Okuyama, “Stability Analysis of Discrete
Event Systems Using Multiple Metrics and Simultaneous Linear Inequalities,” SICE Anual Conference, Tsukuba (2016) (to appear)
3) R. E. Kalman, P. L. Falb, and M. A. Arbib, Topics in Mathematical System Theory, McGrawHill, New York (1969)
4) 深尾毅,システム理論入門,昭晃堂 (1972)
5) M. Martelli, Discrete Dynamical Systems and
Chaos, CRC Press LLC, Boca Raton (1992);浪
花,有本 (共訳),離散動的システムとカオス,森
北出版 (1999)
Fig. 17: Time-responses for Example 5.3(2): x1 (tk ),
x2 (tk ).
6) O. Galor, Discrete Dynamical Systems, SpringerVerlag, Berlin (2007)
7) 奥山佳史,有界な不確かさをもった線形動力学系
の相対安定性,計測自動制御学会論文集,10-5,
527/532 (1974)
8) A. M. Ostrowski, Note on Bounds for Some Determinants, Duke Mathematical Journal, 22-1,
95/102 (1955)
9) 奥山佳史,時変パラメータを含む線形系の L2 -安定
について,計測自動制御学会論文集,3-2, 252/259
(1967)
Fig. 18: Δ2 (tk ) trajectories for Example 5.3(2).
和型 (arctangent),拡散型 (tangent) そして傾斜正弦
(inclined sine) の場合を示し ,相対的な意味での安定
性と連続システムにおけるリミットサイクル相当する
周期振動の存在を確かめた.その結果,離散動的シス
テムの場合,連続システムとは異なる次のような性質
があることがわかった.
10) M. Vidyasagar, Nonlinear Systems Analysis (2nd
ed.), Prentice-Hall, New York (1993), republished
by SIAM, Philadelphia (2002)
11) R. E. Kalman, “Nonlinear Aspects of SampledData Control Systems,” Proc. of the Symposium
of Nonlinear Circuit Analysis, Polytechnic Press,
New York, VI, 273/313 (1956)
䠉258䠉