41.模擬実験・摸擬生産によるSQCの模擬体験教育(2)

「模擬実験・摸擬生産による SQC の模擬体験教育(2)
」
目白大学教授・慶應義塾大学客員教授 高橋 武則 (41BC・T 修了)
BC ではいろいろな講義を経験させていただいた後、回帰分析(その中の重回帰分析)を主に担当す
ることになりました。そこでは前述(BC-News Vol.40)の「紙ヘリコプター」実験を採用していま
す。講義は1日(4 コマ)ですので、最初の 1 コマで「紙ヘリコプター」実験を行い、回帰の有用性
(最も使われる手法の一つで成功事例も多い)と注意点(誤用・乱用による失敗事例も少なくない)
について模擬体験を通して理解してもらっています。特筆すべきことは誤差の低減・管理と外挿の危
険性の 2 点です。
まず誤差の低減・管理についてですが、この実験の誤差の構造は明解で、
「製作誤差」と「飛行誤差」
と「計測誤差」で構成されています。誤差管理を何もせずにいきなり実験に入ることはとても危険で
す。同じデザインの機体を複数機製作してデータをとると明らかになるのですが、データは極端にば
らつくからです。
そこで、
「分散の加法性」を逆手にとってばらつきを製作・飛行・計測の 3 つの要素に分解し、大き
なものを低減します。ばらつき分解の実験は、3 種類の実験を行って 3 種類の不偏分散を求めてそれ
ぞれの差をとれば良いのです。実験①は 15 機前後を製作・飛行・計測します。実験②は唯一の機体
を 15 回前後繰り返し飛行・計測します。実験③は 1 機体を 1 回飛行した VTR シーンを 15 回前後計
測します。V①はまさに全体のばらつき(現状のばらつき)で、V①-V②で製作のばらつき、V②-
V③で飛行のばらつき、V③はもともと計測のばらつきというわけです。このプログラムを通して QC
の本質(ばらつきを低減し特性値を保証する)や回帰の誤差の前提(独立性、不偏性、等分散性、正
規性)を体験的に理解することができます。
続いて、回帰の注意点として外挿の危険性を理解してもらうことも重要です。データに基づいて作成
した式であるということで、回帰式を過大に信じて安易に外挿したことにより失敗したケースが少な
くないからです。
「紙ヘリコプター」実験では翼長 3 水準(短翼・中翼・長翼)の実験を行って単回
帰式を求めます。
その上で内挿機(中翼前後の機体)と外挿機(長翼よりも更に長い機体)を製作して飛行計測して再
現性を確認します。実験がきちんと行なわれている場合には内挿機のデータは見事に予測区間に入り
ますが、外挿機のデータは予測区間から外れます。長過ぎた翼長の場合には紙の強度が保てずに垂れ
ることで滞空時間は実は短くなってしまうのです。多くの受講生は外挿機がうまく飛行しないことを
目の当たりにするまでは外挿の危険性に気づいていません。この実験の直後に外挿の危険性の講義を
するのはとても効果的です。4 コマの内の 1 コマを模擬体験の実技に割くのは講義をする側として辛
いところがありますが、座学のみよりは効果的と考えて、1990 年代から現在まで 20 年近く BC の回
帰分析の講義の中で継続して実施しています。
BC は様々な会社から各社を代表して受講される皆さんが対象ですから、
「問題解決・課題達成のため
の SQC」が重要であると考えています。その一助になればと上記のスタイル(模擬実験・模擬生産に
よる模擬体験教育)の講義を長年にわたり行っております。この講義は事前の準備が必要なため、BC
事務局の方には毎回早朝から温かいご協力をいただいておりまして、ここに改めてお礼を申し上げま
す。
最後になりますが、本稿で述べた各種の模擬体験教育の全体を整理した文献として日本品質管理学会
の学会誌「品質」に掲載の原稿[3]があります。そして[1],[2],[3]を書く背景に[4]と[5]があります。も
し SQC の模擬体験教育にご関心をもっていただける方がいらっしゃいましたら、これらをご覧頂け
れば幸いです。
【参考文献】
[1] 高橋武則(1992):
「統計的方法と管理・改善」, 品質月間委員会 .
[2] 高橋武則(1998):
「模擬生産・模擬実験と統計的品質管理」, 品質月間委員会.
[3] 高橋武則(2014):
“模擬体験による認識・創造・経営の教育-質を中核とした
データ・マネジメントの体験教育-” ,品質誌, V0l.44, No.1,pp.49-57.
[4] 高橋武則(1986):
「統計的推測の基礎」, 文化出版局 .
[5] 高橋武則(1993):
「統計モデルと QC 的問題解決法」, 日本規格協会.