俺は人を喰わない ID:103303

俺は人を喰わない
D.神威
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︻あらすじ︼
白日庭出の立華陽叉斗︵たちばなひさと︶はCCGでありながらも喰種と親密な関係
を築いてきた。その軌跡は誰もが歩めるような道のりではなかった。喰種である父を
持つ彼はその身体能力を色濃く引き継ぎ、人間である母を持つ彼はその抱擁力で多くの
者を魅了してきた。
奇しくも彼が歩む道は生と死の狭間。それでも捜査官である事を恨んだ事は一度も
ない。
彼の歩む道の先には一体何が待ち構えているのか。
1 ││││││││││││││
目 次 2 ││││││││││││││
1
10 │││││││││││││
9 ││││││││││││││
8 ││││││││││││││
7 ││││││││││││││
6 ││││││││││││││
5 ││││││││││││││
4 ││││││││││││││
3 ││││││││││││││
7
18
27
33
45 39
50
54
58
1
有馬は、何というか天然だ。的を射るような発言の次には突拍子もない事を口からも
らす。それで俺は何度振り回されてきた事か、と言ってもタケさんほどでも無いのだ
が・・・。
﹂
だからだろうか、あまり免疫のない俺に〟それ〟は止めてもらいたい。
﹂
﹁ヒサ、しばらくは上︵地上︶に出てみないか
﹁・・・は
それはモグラ叩きの最中、ふと思い出したかのように言い放たれた内容だった。
?
?
1
﹁今日らしいな、﹃例の捜査官﹄﹂
﹂
何かへまでもやらかしたのか
﹁あぁ、叩き上げの0番隊隊員の話しか
﹁よりにもよってウチに異動なんだ
訂正させてくれ。
﹂
?
?
と、まぁ心の中で訂正を加えながら局長の元へと道案内される。
これは出向だ。ここが一番大事だからな。
最後に﹃異動﹄についてだが。別に0番隊から追い出された訳ではない。言うなれば
た俺が形てきに下っ端という役回りだっただけ。
叩き上げと言うが別に0番隊の中は格差社会があった訳ではない。後から入って来
俺は〟例の〟なんてつくほど大物ではない。ただ歳が若いというだけ。
?
へ入る。
ここまで道案内してくれた綺麗なお姉さんとはここでお別れ、大きな扉を押し開き中
﹁こちらになります。それでは私はここで。﹂
1
2
そこにはCCG本局局長を務める和修吉時が鎮座してこちらを見ていた。暇なのか
?
﹂
?
本局では特等を務め〟屈服の篠原〟で名の知れる篠原特等がそこにいた。
﹁あ、篠原さん。﹂
﹁立華か
局を出ようとすると背後から声を掛けられた。
かな決まり事は配属先の流儀に乗っ取り行動するようにと言い渡された。
い。なので捜査官としての行動時は適当に誰かを連れて行ってもいいという。後の細
捜査時は基本二人一組での行動が規則だが俺の場合相手が今だ決まっていないらし
何でもOKらしい。大雑把すぎて逆に大丈夫かと思えるくらい。
とまぁ、こんな流れでこれから配属される場所やら役割を説明された訳だが。基本、
﹁初めまして、君が立華君だね。話しは有馬特等から聞いているよ。﹂
3
﹁ひさしぶりだね。入局以来か
﹁え
﹂
﹁・・・ありがとうね立華君。﹂
﹂
﹁動物園か、〟いい機会〟だし今度案内してもらおうかな∼。﹂
てからは鈴の目立った噂と言うものを耳にしなくなった気がする。
クに鈴を手なずけられるのは篠原さんしかいないからだろうか。アカデミーを卒業し
やっぱり。また単独行動か、篠原さんじゃないと怒鳴られる程度の話しなんだがギャ
﹁あぁ、またどっかほっつき歩いてるんだろ。どうせ今日も動物園だと思うけどね。﹂
ある程度予想はしているが一応確認を取ってみる。
﹁・・・鈴は一緒じゃないんですね。﹂
から顔見知りで何度か講義を聞いたこともあるくらいだ。
篠原特等と最後に会ったのは入局式以来である。と言っても俺とはアカデミー時代
﹁どうも。もうそんな経っちゃいますね。﹂
?
方を変えるほど俺は腐っちゃいない。それに・・・。
確かに鈴はアカデミー時代に何かと黒い噂が絶えなかった。だからと言って鈴の見
﹁君ぐらいさ、什造を人として見てくれているのは。﹂
?
﹁俺だって鈴と同じようなもんだし。第一、人を見る目ぐらい持ち合わせてるつもりで
1
4
すよ。﹂
そう言って俺は敬礼をする。
﹁そうなのか。・・・やっと有馬も。﹂
﹂
﹁え
﹁いえ、久しぶりに篠原さんの顔が見れてよかったです。鈴にもよろしく伝えといてく
﹁お、引き留めて悪かったな。﹂
﹁じゃ、俺今から用事あるんで。今日はもう上がりです。﹂
いって聞くし時間を見て休暇でももらおう、久しぶりの地上だし。
おっさん〟が目を光らせているってのもあるだろうけど。4区何て住めたもんじゃな
確かに20区は他と違って喰種の目立った行動は話しに上がることはない。まぁ、〟
は他の区と違って治安は安定している方だからな。﹂
いや、こっちの話しだ。それにしても20区か、暫くは体も休めるといい。あそこ
﹁ん
?
﹂
満足のいく返答だったのか篠原さんの顔色は先ほどとは変わって明るくなる。
〟24区〟はどうした
﹁そりゃそうだ。改まって言う事でもなかったな。﹂
そういや。立華はどうしてここにいるんだ
と言って肩を組み大いにご機嫌だ。
﹁ん
?
﹁あぁ、その事なら。明日から晴れて20区へ異動する事になりました。﹂
?
?
?
5
ださい。﹂
その顔話を最後に俺は20区へと直行した。
﹁そうだな、また時間がある時にでも寄ってくれ什造も喜ぶだろうからな。﹂
1
6
2
カランコロン。
軽快な鐘の音が店内に浸透していく。数か月ぶりに嗅いだその匂いは懐かしさのあ
﹂
まり店員から声を掛けられるまで、その場に立ち尽くしていた。
﹂
!
さらだが私服で来た方が良かったと思う、本当に今さらだが。
確かによく見ると若い、アルバイトだろうか。だとしたら警戒されるのも分かる。今
続ける。
神対応な定員は一瞬だけ殺気を漏らしたがここは穏便にとすぐさま店の定員を演じ
﹁っ
んだ。その際、胸に付けてあるバッチが目に入ったのだろうか。
一応詫びを入れて一番店で香りを味わうことが出来る特等席、カウンターへと足を運
﹁あ、すいません。カウンターでいいです。﹂
動には出ず大人な対応で席を進められた。
出入り口に佇まれて迷惑だったのだろう。だからと言ってつまみ出す様な野蛮な行
﹁あの、お掛けになりますか
?
7
﹁・・・。﹂
暫く店内を見渡すと中はガランとしており、現にこの場にいるのは俺と定員の2人だ
け。
﹁あの。﹂
﹂
と中を見渡している俺に警戒しつつも声をかけてくる。
・・・あ、そっか。注文ね、注文。﹂
﹁ご注文は
﹁え
?
﹂
?
﹂
店の途中で外に出る事もあるんだな。あ、豆でも買いあさってるのかな。
?
﹂
﹁立華くん
あなた、どうしてここに。﹂
髪の長い定員が俺を見ていた。
するとカウンターの奥で女性の驚いたような声が聞えた。その先に視線を向けると
﹁え
外出
﹁・・・店長は今、外出中です。﹂
﹁えっと、店長っている
別に急かされているわけでは無いだろうが定員の無表情が何とも・・・。
?
!?
?
?
俺の名前を知っている事にもう一人の定員の口からも驚きの声が洩れた。
﹁え
2
8
﹁・・・あ、入見さん
﹂
﹂
?
は確実にあり得ない。そう断言できるほど人間と喰種の間にできた溝は深い物だった。
題。前例がない分どういった処罰を喰らうかわからないがとてもいい待遇を受ける事
題だ。いや、バレたとしても本局からもみ消されそうな気もするがどちらにしろ大問
CCG捜査官でありながら喰種とも関係を持つ人間。実際これが世間にバレれば大問
入見の話しを聞き霧島董香なる定員は半信半疑と言った感じだ。それもそうだろう、
﹁という事なんだ。﹂
﹁って言う事なの。﹂
﹁あ、彼はいいのよ。そう言えばトーカには話してなかったかしら。﹂
今度は初対面であろう俺が入見の名を口にした事でまたもや驚いている。
﹁え
?
9
いつしか俺がその溝に橋を掛けることが出来たら・・・何て思う時期もあったが今は
自分の事で手がいっぱいだ。それにやろうと決めてすぐに叶うほど簡単なものではな
い。
この先百年、おじいちゃんになって初めて夢が叶えられたら良しとしよう。
二階
ま、当たり前っちゃ当たり前か。自分の親玉をあっさりと敵の目の前に差し出
﹁店長は今、二階にいるわ呼んでくるから待ってて。﹂
﹁あ、はい。﹂
﹂
店長が来るまでの少しの間。会話に花を咲かせる。
﹁そう言えば。﹂
おい、人に誤る時は目をあわせなさい。
﹁・・・ごめんなさい。﹂
そう思い、霧島を睨む。
すほど馬鹿な奴はいないだろう。
?
﹁高校生って言ってたっけ
2
10
?
﹁大変だね、〟訓練〟もちゃんとやってる
﹂
まさか敵対する組織に属する人間が己の心配をするとは思ってもみなかっただろう。
?
切った時とか、喰種だから一瞬で直るだろ
﹁はぁ・・・。﹂
た方がいいぞ
つっても2、3人くらいな
それで周りから﹃アレ
﹂
﹄って思われたり。﹂
でも人間の生活に入り込むってのはそう言う事。あ、でも友達は作っとい
?
﹁お久しぶりです。芳村さん。﹂
クピクと動いた。
そこで漸く仲裁が入ったことに霧島は安堵し、俺は思わず喜びのあまり頬の筋肉がピ
﹁立華君、トーカちゃんが困ってるよ。﹂
事しか返してこなかった。
余りに口が達者なのか、それとも俺がCCGだからなのか知らないが霧島は曖昧な返
?
?
﹁・・・はい。﹂
?
﹁窮屈だろ
?
﹁ふーん。ま、〟食べる〟以外にもふとした事でバレるケースだってある。紙の端で指
﹁・・・い、一応。店長から教えられて。﹂
11
あ、はい。﹂
﹁変な子だったでしょ
﹁え
﹂
?
警戒していた自分が恥ずかしくてしかたない。
?
立華に興味を持ち始めているのが分かった。
感慨深く入見は昔の事を思い出していた。そんな入見に感化されてかトーカ自身も
くなるのね。﹂
だとしたらもう二年近
だ。しかし話してみると今まで対峙してきた捜査官とは真逆の印象で先ほどまで一人
確かに変な奴だ、CCGのバッチを見た時思わず戦慄した。昔の事を思い出したから
狂った。
私がコーヒーを淹れている中、入江さんが背後から声を掛けて来たので思わず手元が
?
﹁最後に来たのが丁度トーカが学校に通い始めた頃だったっけ
2
12
﹁これは、CCGの捜査範囲だね。いいのかい
としている。
﹂
あんていくはグレーゾーンで一応捜査官の目に触れない程度だ。これには俺もホッ
CCG捜査官が活動している範囲と規模が分かるようにまとめてある。
店長が手にしている地図にはそれぞれ地区ごとに色分けされており色を基準に現在
?
た。
そう言って大きな茶封筒を渡す、中を見た店長を驚いたように俺を見つめ口を開い
で。﹂
す。あ、この資料は役に立つんで取っておいてください。できれば人目に付かない所
﹁そういう事です。なんで何かとこれから先は﹃あんていく﹄にお世話になると思いま
﹁なるほど。じゃあ暫くはこの辺りにいるという事だね。﹂
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﹁芳村さんからは何かと恩恵を受けています。それももらいっぱなしじゃ悪いですし。
﹂
それに俺を生かしてくれている。普通なら手をかけてもいい所を。﹂
﹁それは〟お互い様〟じゃないかな
﹁確かに。﹂
ふと昔の事を思い出していた。
父と母、2人に囲まれて笑顔で笑っていた頃の話しだ。
?
詰まる所、俺の操作中に芳村さんが喰種として現れた際には﹃個人﹄としてではなく
とし対峙した時には己の役目を果たす事。
そして最後に・・・可能であればこの項目は実行したくはない所だ。それは互いが敵
俺は〟悪質〟な喰種を討ち、芳村さんは20区の安泰を保ち続けている。
俺と芳村さん達の間に交わした密約。それは双方が持つ情報の共有、これのおかげで
芳村さんは目を光らせる。
言った時もお互い様だ。﹂
﹁それに〟私達〟の関係はちゃんと契約に沿って結ばれている。必要とあれば・・・そう
2
14
﹃喰種捜査官﹄として対処する事。これは俺達の間にできた関係を他者に知られない事
を前提に芳村さんが言い出した事だ。確かに納得のいく内容ではあるが、あまり考えた
くはない。
コンコン
ノック音に気づき芳村さんは俺が渡した資料を目のつかない所へとしまう。
現役の捜査官も忙しいね。﹂
?
﹁そうかい、トーカちゃん立華君を案内してやってくれ。﹂
﹁いや、今日はもう用事ないんだけど。家に荷物届いてるだろうし、その片付け。﹂
芳村は俺の身を案じてか優しく終えをかけてくれる。
﹁おや、もう行くのかい
﹁あ、わるぃ俺もう行くから。﹂
そう言ってカップを俺の目の前に置く。
﹁コーヒーを持ってきました。﹂
礼儀正しくカップを手に入室してきたのは先ほど顔見知りとなった霧島だ。
﹁失礼します。﹂
﹁どうぞ、入ってもいいよ。﹂
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﹁はい。﹂
﹁霧島さん。﹂
﹁あ、トーカでいいですよ。みんなそう呼んでくれるし。﹂
﹁そっか、それもそうだな。んでトーカ、悪かったな急に押しかけてコーヒーも飲まない
で。﹂
﹁いやアレは、正直出来も良くなかったし。﹂
﹂
2人が一階に戻ると入見が留守番をしていた。
﹁ふーん。﹂
﹁あら。もう用事は済んだの
?
すると帰り際、ドアノブに手をかけた所でふと気になっていた事を思い出した。
﹁どうも、今日はこの辺で失礼します。﹂
﹂
﹁そうだ、トーカ。﹂
﹁え、はい
?
﹁お前、慣れない敬語は使わない方が良いぞ。逆に不自然だから。﹂
2
16
﹂
﹂
じゃあね。と立華の姿は扉に阻まれ姿を消した。
そんな、違いますよ
﹁あーら、もう下の名前で呼び合う仲
﹁ッ
!
﹂
?
﹂
?
﹁ふーん。﹂
こえてトーカはさらに興味をそそられる。
そのセリフは店長だけでなく入江自身も立華が信頼における人物であるようにも聞
な人間かってのを。﹂
﹁ま、初対面のトーカじゃそんな印象はなかっただろうけど。その内気づくは彼がどん
﹁え
﹁店長が彼をかう理由も今ならすごく分かるわ。﹂
入見からもその件に深く踏み込まれ何かグサリと心に来るものを感じた。
﹁そ。あの子トーカちゃんが普段敬語使ってないの見破ってたじゃない。﹂
﹁観察眼
﹁でも彼の観察眼も衰えてはいないみたいね。﹂
トーカは入見にからかわれ慌てて否定する。
!
?
17
3
﹁今日からお世話になります。立華陽叉斗です。﹂
という典型的な挨拶を何度したことか。
﹁パートナーが決まるまでは草場、中島達に同行してもらう。﹂
という訳でやってきました。
中島さんは背が高くたくましかった。
﹁お前が立華〟二等〟か、しばらくの間だがよろしく頼む。﹂
﹂
?
草場さんは俺が年下だからとか偏見を持たずフレンドリーな人だ。
﹁じゃ立ち話も何ですから今から飯行きます
﹂
﹁海老天セットかわし握りで。﹂
﹁え∼、またそれですか
3
18
?
中島さんがメニューを見ずに注文するもんだからちょっと焦った。でも草場さんの
反応から二人はどうやらここの常連みたいだ。というか対象も中島さんの顔を見て察
したのか既にそれっぽい物を調理している。なんか大人でかっこいい
!
﹂
?
は伊達ではないという事だ。
﹁有馬特等は・・・変態ですよ。﹂
﹂
意外な返答に草場が口をポカーンと開ける。
﹁・・・え
別に変な意味じゃないですよ。俺には理解できないというか。・・・そう
﹁いや、そんな事ないですよ。﹂
か。﹂
﹁確かに、俺なんてあの人には到底及ばないだろうな。ま、比べるのも有馬特等に失礼
!
?
での武勇伝も変態じみて逆にすごいなって話し・・・です。﹂
﹁あ
!
ちょっとその場しのぎにしては無理やり過ぎたが草場は納得と言った表情だ。
今ま
有馬の知名度はCCG内では群を抜いている。最年少で数々の功績を残してきたの
﹁実際、有馬特等ってどれくらい強いの
草場さんが料理が来るまでの間、会話に花を咲かせていた。
﹁立華君の話しはこっちにも伝わっているよ。〟あの〟有馬特等からの推薦だってね。﹂
19
﹁
﹂
﹂
!
ごちになります。﹂
!
﹂
﹁・・・草場、お前じゃない。﹂
﹁はい
﹁明日から改めて捜査の続きだ。ここは奢るから頑張って俺らを楽させてくれ。﹂
うまそうだ。
すると注文していた料理が目の前に出され俺もその匂いにつられ唾液がにじみ出る。
﹁はい、お待ち
中島さんはそんな俺を評価してくれた。
﹁立華、お前いい事言うな。﹂
俺はおかしな事を言ったのだろうか。二人は開いた口がふさがらない。
﹁・・・。﹂
﹁・・・。﹂
着く道は一緒じゃないですか。﹂
﹁皆同じ目標意識を持って捜査官になったんだし、目的や手段は違くても最後にたどり
?
?
かった時の草場さんの顔と言ったら、失礼だが面白かった。
草場さんが張り切っている様子だが奢られるのはどうやら俺だけのようだ。そうわ
﹁ええ
3
20
2人と別れ俺は一度あんていくへと足を運んだが、そこで面白い物を見つけた。
ドンッ
背は俺と同じくらい、顔立ちからしても俺と近い年の青年が肩にぶつかった。謝ろう
﹁お、﹂
ともしたが彼はぶつかった事も気づいてないようでブツブツと呟きながら一人夜の街
へと消えて行った。・・・何か寂しいな。
それより、も
そう思い彼の後を付けようとするがとある老人に引き留められる。
定な所を見ると一度話しを聞いた方が良いだろう。
さっき肩が触れた時に匂った鉄の匂い。あれはどう考えても血だ。彼事態情緒不安
!
21
﹁待ちなさい立華君。﹂
﹁店長。﹂
﹂
何も言わずただ俺と目を合わせる。どうやら彼はあんていく絡みの様だ。つまり〟
容易に手は出すな〟と。
﹁いらっしゃい。コーヒーでも入れよう。﹂
﹁引き留めて悪かったね。仕事中だったのかい
芳村店長は手際よく豆を挽いてくれている。
﹁いや、ちょっと寄っただけ。仕事じゃないよ。﹂
?
の話しを持ち込んで来た。
このまま目覚めのコーヒーだけ飲んで帰ろう。と思っていた所を店長からあの少年
﹁そうかい・・・。﹂
3
22
﹂
﹁さっきの少年。金木くんの事なんだが。﹂
﹁金木研、か・・・。﹂
も、そこに当たりハズレと言った概念は存在しない。
〟だって足枷であることに変わりない。結局は〟もう片方の種〟を引いていたとして
り。俺に関してはその中でも〟アタリ〟を引いた方だ。いや、どちらにしろ俺の〟寿命
それもそうだろう。〟生まれながら〟にして人間と喰種の血を引く者はほんの一握
﹁私もこんなケースは初めてだ。﹂
だという事と神代からの臓器移植により人間が︵半︶喰種へと変貌してしまった事に。
最後のに関してはトーカも初耳のようで驚きを隠せないでいた。それは神代が死ん
植されたという推理も。
話してくれた。最後に店長独自の考察で﹃神代リゼ﹄なる喰種の内臓の一部が金木に移
それから金木研にまつわる最近の出来事を踏まえ彼の体を蝕む〟異常〟についても
﹁彼、ちょっと特殊な事情があってね。﹂
と言う。その金木の名を口に出した時、トーカが眉間にしわを寄せる。
先ほどの少年は﹃カネキ﹄と言うらしい。後で知った話しだがフルネームは﹃金木研﹄
﹁あ∼、言っちゃうんだ。それで
?
23
﹁君は彼をどう見る
﹂
﹂
﹁俺は、アイツを生かす。﹂
を求めてくる。
店長もある意味人が悪い。自分でも﹁初めてのケース﹂だと言っているのに俺へ意見
?
店長もそれに同意してトーカに今日は帰るよう促す。
﹁トーカ、今日はもう上がっていいぞ。後はお兄さんで何とかするから。﹂
﹁・・・ッ。﹂
取っても扱いきれないだろうしな。﹂
﹁どっちにしろ今の段階では手は出せない。いや、出せない。あんな代物、ウチが引き
いだろうが。
そして初めて俺にタメ口をきいた。本人は無意識によるものもあって気づいていな
彼との間に衝突でもあったのかトーカはあまり好意的には見ていないようだ。
﹁あんな半端野郎、、なんで。﹂
思わずトーカが口を挟む。
﹁は
!?
と幸際に吐き捨て奥へ引っ込む。
﹁お兄さんとは思ってないけどな。﹂
3
24
﹁へへ、あれって照れてるんじゃない
﹂
?
?
が気になるけどな。﹂
﹁やっぱり君でもかい
﹂
﹁でも、今の進捗状況だとまだ先の話しみたいだよ。俺はぶっちゃけリゼより金木の方
﹁それは承知している。﹂
には案外あっさり割れるかもね。﹂
﹁だからって、ウチも馬鹿の寄せ集めじゃない。いつか准特等以上の捜査官が就いた時
﹁・・・。﹂
のは骨が折れるだろうな。﹂
う。リゼ自身、あの事故に遭ってんだからな。今までの情報だけで、死人を探し当てる
﹁ま、それは置いといて。ぶっちゃけ金木に関してはウチでも簡単に足は掴めないと思
﹁・・・。﹂
﹁・・・。﹂
﹁・・・私は本音だと思うけどね。﹂
25
﹁そりゃあね。〟実父が喰種〟ってんなら少しぐらい共感は持てるよ。現に俺の体の半
分は喰種の血が流れてるんだからね。だからって何かしてやれるわけでもないけど。﹂
店長は俺の話しを聞いてしんみりとしている。店長も思う所があるのだろう。思い
宿命を背負わせてしまった側に立つとどういった心境でいられるのだろうか。
気持を落ち着かせるためにコーヒーを一口含む。
今日のコーヒーも最高の出来だ。
﹁うん、おいしい。﹂
3
26
4
﹁案の定・・・ってやつか。﹂
あの後、店長のコーヒーは美味しくいただきました。今は遠目からトーカの様子を見
ているが。
とある喰種とやり合っており二人の端には金木がその戦闘風景を唖然として傍観し
ている。
トーカの俊敏な動きで相手を翻弄しスキを突いた動きに四方を思い出した。そう言
えば挨拶に行ってない事に気づき、四方の顔を思い浮かべると連鎖するようにウタとイ
トリの顔まで思い出した。・・・マスク屋さんって生活出来るもんなのか
﹂
!?
突然の俺の登場に金木は思わずまた喰種ではないかと後ずさりをする。
﹁立華さん
﹁トーカその辺にしてやれ。﹂
トーカが金木にちょっかいを出しておりそろそろ潮時だなと思い仲裁に入る。
?
27
﹁ふーん。﹂
それを他所に俺は金木を全身舐めるかのように見つめる。先ほどトーカから無理や
り肉を押し込まれていた、それを吐いたという事もあって顔色は良くない。
﹁大変だな少年。ま、悩む事が会ったらまた喫茶店︵あんていく︶にでもよりなさい。﹂
﹂
そう言って俺は金木の肩をポンポンと二回叩く。
﹁なに
﹂
ほっとくと飢えて﹁やさしいんだな。﹂っ
金木をあのまま放置し帰路に着いたところで何故かトーカが後ろを追いかけて来た。
﹁ねえ、 ねぇってば
!
﹁なにって、アイツあのままにしてていいの
そんなんじゃ。﹂
?
?
いつまでもマイペースな俺にトーカは頭を抱える。
金木って。﹂
﹁大丈夫だってそんな柔な奴だとは思わないけどな。・・・だからってタフさもないよな
!!
わかったもんじゃないし。﹂
﹁ま、とりあえず今日は大人しく帰りなさい。いつ俺達︵CCG︶に嗅ぎつけられるかも
4
28
私たちの味方なの
﹂
?
ここは適当にあしらって話しを誤魔化そう。
﹁立華は。何で私たち︵喰種︶を助けてくれるの
﹂
?
﹁さ、立華もそろったし始めるか。﹂
中島さんと草場さんに挨拶を済ませデスクに着く。
﹁おっはよーっす。昨日はごちそうさまでした。﹂
ジで。じゃあな。﹂
﹁・・・いや、何でもない。とりあえず帰れ。あんまり遅いと警察に補導されるから、マ
﹁ただ
﹁・・・味方ね。別にそんな大した奴じゃないよ。ただ、﹂
?
29
﹁そうですね、じゃ僕から。﹂
こうして笛口と名乗る喰種の捜査が始まる。
捜査は難航している・・・という訳ではなく現状は状況証拠が揃っているという事。既
に笛口の夫に当たる人物はこちらで裏取りの上、黒︵喰種︶だと判明。夫本人はウチで
処理しているので近親者である笛口が喰種であることは明らかだ。
これだけ物が揃っていればすぐにでも動いてよさそうだが草場さんと中島さんは慎
重な性格なのかあまり踏み切った決定は下さないでいる。というかそうしている間に
当局が見かねて助っ人を送ると言ってきた。つまり今は助っ人たる捜査官の待ち時間。
人が揃えば動けるようにこうやって情報を共有しあっている。
中島さんの号令で既に夕刻になっている事に気が付く。
﹁お、もうこんな時間か。草場、立華今日は上がっていいぞ。﹂
4
30
﹁あ、もうこんな時間か。はえーな﹁立華ちょっといいか
﹁なんですか
﹂
﹂あ、はーい。﹂
机上の書類をまとめていると中島さんから声が掛けられる。
?
﹁今度当局から来る助っ人。話しは聞いてるな ﹁はい あー、はい。﹂それでその人た
?
31
?
るんだろうか、一度でいいからそいつの感性にも触れてみたい。
﹃美食家﹄は、知らん。人を食うだけなのにそんな大層な名前を付けられるような奴がい
名らしい。何度も他所の食い場を荒らしてまわっているとか。
﹃大食い﹄は、リゼだな。芳村さんから聞いたが喰種界隈でもリゼの食欲旺盛っぷりは有
家﹄﹃喰種レストラン﹄と豊富なレパートリーだ。
と い う 事 で 選 択 権 は 俺 に 託 さ れ た。今 手 を 付 け ら れ る 案 件 は 3 つ。﹃大 食 い﹄﹃美 食
しょっちゅうだろう。
中島さんはちょっと名残惜しそうだったけど。同じ支部に居れば顔を合わせる事は
﹁そう言う事だ。話しが早くて助かる。﹂
﹁一人はぶれてる俺を別の捜査に当てるんですね。﹂
あー、そう言う事か。中島さんの言いたい事が分かった。
なんだ。﹂
ちを俺たちの捜査に加わるらしい。そんでもって、あまりこの件に人員は裂けないそう
?
﹃喰種レストラン﹄は、すべてが謎に包まれている。名前的に﹃美食家﹄とのつながりも
ありそうだが、実体は不明なだけに手を出しにくいという事もある。
までは基本コッチで待機という形になる。ま、もしもの時にも備えていつでも出れる準
﹁ま、直ぐに答えを出す必要はない。昨日も言ったようにお前のパートナーが見つかる
備はしておいてくれ。﹂
もちろん私服でだ。
を運ぶ。
てなわけで今日の所は以上なく終了。もはや日課になりつつある、あんていくへと足
おきます。﹂
﹁そぅですね。その方が俺も︵喰種側に︶立ち回り安いですし。しばらくは大人しくして
4
32
5
あんていくへ足を運ぶと何やら中が想像しい。
カランコロン
中の様子が気になりつつも扉を開けると信じられない物を見た。
﹁ちげぇよ
﹂
﹁お持ち帰りってやつか。﹂
あのトーカが意識が飛んだ金木を背負って二階へ運び入れている最中だった。
﹁トーカ、お前。﹂
33
!
・・・だれ
﹂
?
﹂
?
﹁へー、ほー。そんな事がね。って事は金木はもう赫子が使えるって事
﹁別に、ただその場の勢いでって感じだった。﹂
﹁ふーん。﹂
にしてもトーカのパンチは腹に効いたぜ。
﹁お友達の方も大丈夫みたいだ。怪我はないよ。﹂
お友達
そこで店長が二階から降りて来た。
﹁は
?
﹂
﹁何急に。﹂
﹁友達は大切にしろよ。﹂
﹁ん
﹁トーカ。﹂
た金木の友達とやらだろう。
話しを聞くにどうやら金木の学友みたいだ。コイツが先ほどトーカの説明に出て来
?
?
﹁別に、深い意味はない。﹂
5
34
それから数日間の出来事。金木はあんていくでバイトをする事に、俺は普段通り私服
でいるのでCCGとは思われていないようだ。だからと言ってわざわざ言うまでもな
いが。逆に金木の前で喰種の話しをしているくらいだ、もしかしたら俺は喰種だと思わ
れているのかもしれない。
そしてついに、本局から2名が捜査に加わった。
そしてもう一人が・・・。
に一人いれば十分な防犯対策になりえるだろう。
1人は俺よりも背が高く肉付もいい。まさに頼れる漢といった雰囲気の持ち主、一家
﹁真戸呉緒だ。﹂
﹁亜門鋼太朗です。﹂
35
﹁やぁ、立華君。〟雷鳴鬼〟の調子はどうだい
﹂
と言って手に持つクインケを大事そうに撫でまわす。怖っ
に溢れている所とか、というか溺れているって感じだけど。
亜門二等はアカデミーを首席卒業。だからとは言わないが同じ匂いがする。正義感
そう言って手を差し出してきたのでありがたく握手をする。手デカいな。
﹁君が立華くんか。いろいろと話しは聞いているよ。よろしく頼む。﹂
!
﹁それもそうだ。早く〟コイツ〟の性能を試したいもんだね。﹂
しましょう。﹂
﹁真戸さん、困ってますよ。メンテ中でしたら仕方のない事です。私たちは捜査に集中
圧を感じる。ある意味パワハラだ。
れば私に見せてはくれまいか。﹂
﹁おや、それは残念だ。君のクインケ捌きも中々の腕だからね。どうだね、今度時間があ
ます。メンテナンス中なんですよ。﹂
﹁どうも、相変わらずマッド・・・じゃなくて研究熱心ですね。アイツは今ラボに預けて
前を覚えていてくれただけ良しとしよう。
俺よりもクインケの調子を聞いてくるくらいだ。平常運転だな。・・・とりあえず名
?
﹁笛口に関するデータなら中島さんと草場さんとで共有しています。俺も先日まで一緒
5
36
でしたけど、新しい情報が欲しいなら二人にきいた方が早いですよ。﹂
エンティストだ。
?
?
ろう。
﹁ま、真戸さん。そろそろ行かないと。ね
﹂
亜門も長々と続くクインケ話しに余計な話題を振ってしまったなと思っていた所だ
﹁・・・そのようですね。﹂
まーたクインケの話しかよ。それだと俺よりクインケの方がメインじゃないか。
うも気になってね。〟雷鳴鬼〟は実にいい代物だ。﹂
﹁そうだね、彼と初めて会ったのはアカデミーの卒業式だったよ。新人のクインケがど
﹁お二人はお知り合いなんですか
﹂
よかった、家族思いな所も健在だ。正直この人からこれを抜いたら本当にマッドサイ
﹁暁か、最近はラボに通い詰めだよ。体を壊さなければいいが。﹂
﹁そう言えば暁さんは元気ですか。﹂
相変わらずだなぁ。
﹁﹁・・・。﹂﹂
﹁笛口。クククククッ。﹂
﹁そうか、ありがとう。﹂
37
﹁そ、そうですよ。会議に遅れては予定が狂います。今日の所はこれで。﹂
﹁ふむ、そうだね。ではまた次の機会に。﹂
次があるのか・・・。
俺は肩を落としながらも2人を見送った。
﹁・・・あんていく、行くか。﹂
5
38
6
カランコロン
最近はこの音色も気に入りつつある私、立華が来店いたしました。
﹁いらっしゃ、あ・・・。﹂
出迎えてくれたのはトーカと安定の金木。今日こそはまともなコーヒーを淹れてい
﹁いらっしゃいませ。﹂
ただきたいものだ。
何故かトーカの方が落ち着きがない。店を見渡すと客は二人、母親と思われる女性
﹁あ、えっと。ちょっと今は。﹂
笑わせるな。だったらもう一
と、その子どもなのか女の子が服にしがみついてこちらを見ている。
﹂
別に普通じゃないか、何を焦ってるんだ。
﹁・・・え
?
落ち着け俺、クールに行こうぜ。落ち着きがないだと
?
39
度店内を見渡すといい。
それは危うくカウンターにある食器棚に
するとまたもや、親子らしき〟人〟と目が合う。俺はこの人たちを知っている。
何が危なかったかって
それは無意識によるつぶやきだった。
﹁笛口。﹂
危なかった。え
?
立華君って捜査官だったの
﹂
トーカを投げ飛ばしそうだったからだ。危うく店長からハチの巣にされる所だった。
?
!?
﹁待て、﹃捜査官﹄じゃない。﹃害のない捜査官﹄だと言え。ここ重要だぞ。﹂
そして隣ではやっと状況に追いついた金木が俺の素性に驚いていた。
﹁え
?
素直に首を縦に振る金木。その光景にトーカは﹁納得するな。﹂と言いたげな眼差しを
﹁え、うん。﹂
6
40
送ってくる。
なった
﹂ちげぇよ
﹂
!
あったり前だろ。﹂
?
﹁何やら賑やかそうだね。﹂
金木の声に一同は二階に続く階段へと視線を向ける。
﹁あ、店長。﹂
んだ、女って怖いね。
まだまだ俺とトーカの信頼関係は築かれてはいないようだ。あの神対応は何だった
﹁はぁ
﹁ってゆーかさ。お前まだ俺の事疑ってるだろ。﹂
性に溢れたお方の様だ。
〟笛口〟リョーコなる喰種は微笑ましそうに俺たちを交互に見る。うん、写真通り母
なくて。﹂
﹁ごめんなさい。芳村さんから聞いていたんだけど、まさかこんなに若い子だとは思わ
揉め事にはならなかった。赫眼で来るもんだからマジで詰んだかと思った。
結果的に危険を感じた俺に飛びかかったトーカは俺に羽交い絞めされあまり大きな
?
﹁リ ョ ー コ さ ん も 知 っ て た な ら 教 え て く だ さ い よ。て っ き り 私﹁俺 を 押 し 倒 し そ う に
41
﹁つーわけで、金木に俺の事ちゃんと説明しとけ。いいな
﹁はーい。﹂
﹁ん
﹂
﹁あの、﹂
どころじゃないな。バレずに頑張ろう。
﹂
いい機会なので笛口さんに捜査の進捗を掻い摘んで教えとこう。あ∼、こればれたら首
あまり聞き分けのよさそうな返事ではないがやる時はやる子だ。﹃YDK﹄だ。丁度
?
﹂
?
予想もしない反応に思わず思考がフリーズする。こいつ・・・。
﹁フフッ、お兄ちゃん全然怖くないよ。﹂
に楽しそうに笑い出した。
小さい子供にはちょっとした悪戯の気分で遊んでやったんだが、怖がられるよりも逆
﹁そーだよー、お兄ちゃんはコワーイ喰種捜査官だぞー。﹂
﹁お兄ちゃんは喰種捜査官なの
相も変わらず母を盾に警戒している女の子﹁笛口ヒナミ﹂は恐る恐る口を開く。
?
﹁めっちゃエエ子やん。﹂
6
42
思わず頭を撫でまわそうと手を伸ばしたが、流石にそれは警戒してしまったのか、ま
た母親を盾にこちらを覗き込むように見つめる。ちょっと反省。
﹁フフ、立華君。これからはヒナミの事もよろしくね。﹂
﹂
と、俺達を見ていたリョーコさんは微笑ましい顔で言ってきた。
﹁よろしくって、俺が捜査官だって事知ってて言ってます
しくなる。
思わず口に出てしまった言葉。自然とヒナミに視線を向けてしまった事にも胸が苦
﹁俺には、勿体ない言葉です。いつかは俺より小さな〟芽〟を摘むかもしれないのに。﹂
ているのか、その片鱗に少しでも触れられた瞬間でもあった。
葉に思わず眼がしらが熱くなる。自分と言う存在がいかに喰種の世界で受け入れられ
余りに過大評価し過ぎではないかと言いたくもなるが滅多にかけられない労いの言
ても〟あなた〟という人がいてくれるだけで私は立華君を誇りに思うわ。﹂
﹁自分を責める事ないわ、誰にだって役割がある。それがたまたま対立的な立場であっ
男ですよ。﹂
﹁そんな事・・・。俺だって、もし〟仕事〟でここにいたら店長相手でも爪たてるような
良かったわ。﹂
﹁えぇそうよ。あなたの話しは店長から聞いているし。・・・あなたの様な人が捜査官で
?
43
﹂
﹁その時は・・・貴方で良かったと私は思うわ。﹂
﹁ッ
もう限界だ。
﹂
大人気ないな・・・仮にも、駆逐される側からかけられた言葉に思わず涙をこぼした。
﹁お兄ちゃん、泣いてるの
?
!
あぁ、生きててよかった。
り笑みを隠している。
その場しのぎの嘘にリョーコさんは笑ってはいけないと思いながらも口元に手をや
﹁ちげぇーし。欠伸だし。﹂
6
44
7
その後、リョーコさんには警告を促した。20区に鳩が集まっている事を、それも目
的は笛口を名乗る喰種である事も。
それを耳にした上でリョーコさんはというと。
と、一言だけ言い残し店を去っていった。
﹁心配ありがとう。﹂
店長曰く旦那さんを鳩に葬られ今は転々としているらしい。捜査資料では既に承知
の事実ではあったが流石に女手一つで子供を養うには苦労は絶えないだろう。現にC
CGから的にされている上に本局からは真ッ戸サイエンティストが召喚された。もは
や時間の問題だろう。職業上あまり口にしたくないが笛口さん達には早く20区から
立ち去ってもらいたい。
﹂
てか﹃真ッ戸サイエンティスト﹄って上手くね
トーカは
?
しくて姿を暗ましたに違いない。
カウンターに座るとトーカがいない事に気が付く。さてはアイツ、俺に負けたのが悔
﹁あれ
?
?
45
﹁あ、トーカちゃんなら先に・・・本当は試験勉強中らしいんだけど今日は笛口さんが来
るからって。﹂
金木が丁寧に説明してくれる。
﹁・・・そうなんだ。﹂
的外れもいい所だ。あまりに自信過剰すぎたな、恥ずい。
﹁・・・。﹂
﹁・・・。﹂
金 木 と の 間 に 流 れ る 微 妙 な 空 気。一 応 ト ー カ か ら は 俺 の 事 を 聞 い て い る み た い だ。
﹁﹁・・・。﹂﹂
﹂
まぁそれを踏まえてのこの距離間何だろうが。
うわ
?
ごめんボーっとしてて。﹂
﹁ねぇ、コーヒー溢れてるよ
﹁え
!
﹁本当にごめん、直ぐ淹れなおすから。﹂
いや、俺じゃなくてコーヒーに謝れ。
?
しいなんて事もあるからな。それとなく期待だけしておこう。
金木は渋々できの悪い一品を俺の前に差し出す。まぁ見た目はアレだが意外と美味
﹁いいよそれで。下の皿ごと頂戴。﹂
7
46
﹁・・・うん。﹂
慣れ・・・はしないよね。﹂
一口、口に含んだ瞬間分かった。
﹁心がこもってないな。﹂
喰種初めてどんな感じ
わかってたけどね。
﹁それで
?
いた方が良いだろう。
識はまだ赤ん坊レベルだ。急ぐ必要もないがその内喰種間でのルールも植え付けてお
少なくとも俺の目の前にいる喰種は言葉は喋れても〟あっち〟の世界に関しての知
有馬とか有馬とか、後は有馬とか。
運 動 能 力 も 手 に 入 る。ま ぁ 人 並 み 外 れ た 奴 な ら 〟 コ ッ チ 〟 の 世 界 に も 心 辺 り が あ る。
切り落とされても死にはしない、むしろ生え変わるほどの再生能力に加え人並み外れた
一見デメリットでしかないが、それなりの恩恵も受けられる。個人差はあるが腕一本
れるらしい。
喰種は常人の食事が出来ない。例え一口でも後から吐き気や運動機能の低下が見ら
?
47
﹁・・・だったんだよね。﹂
と、このように金木の話しを聞いてみたわけだが。本が超絶好きらしいな。そのせい
か語彙も豊富で内容が伝わりやすい。
喰種になって初めて食べた病院食の話しなんて、表現豊か過ぎて想像を絶する。なん
だ、ブタの腸みたいって、食った事ないわ。
﹂
﹁俺さ、お前みたいな奴がいて正直安心したよ。﹂
﹁え
﹁・・・。﹂
?
﹂
?
とうとう俺もあのオヤジに毒されたって証拠だな・・・悪いとは思わない。
﹁店長が
﹁あ、いや御免。前にも店長から同じような事を言われたから。﹂
﹁どうした
﹂
て世界中探しても金木だけなんだって。﹂
﹁あ、わりぃ。不謹慎だよな。・・・でも、思うんだ。﹃二つの世界に居場所が持てる﹄奴っ
金木は首をかしげる。
?
お代を置いて席を立つ。明日からは笛口の捜査にちょっかい出して見るのもいいか
﹁まー、お前もその内わかるよ。〟人も喰種も紙一重〟ってな。﹂
7
48
もしれないな。
﹂
?
最後にアドバイスを残して立ち去る。うん、俺っていい人っぽいな。
﹁コーヒー入れるの、もっと時間かけた方がいいぞ。じゃあね。﹂
﹁なに
﹁あっ、ついでだけどさ。﹂
49
8
あ れ か ら 数 日 が た っ た。操 作 の 方 は 相 変 わ ら ず パ ー ト ナ ー 不 在 で 事 務 処 理 が 多 い。
と 言 っ て も 先 日 ま で 2 4 区 で の モ グ ラ 叩 き と 比 べ た ら 束 の 間 の 急 速 に 過 ぎ な か っ た。
現場に赴く事は少なく危険のない聞き取り調査や宣伝活動、そしてアカデミーへの講師
などで一日は終わる、後は書類整理。
まぁ、一人で出来る事といったらこれくらいだろう。クインケの調整が終われば自動
的にパートナーも付けて貰えるはずだ。
そんな矢先の出来事であった。
け入れがたい現実でもあった。
ここは喰種捜査官として歓喜に満ちる瞬間であろうが、〟立華陽叉斗〟にとっては受
﹃笛口の討伐成功﹄の一報を受けたのは。
8
50
先週まで晴天続きだった空が今日は大粒の涙を降らせていた。まるで俺の心境を体
現しているように。
あんていくへと足を運ぶと﹃CLOSE﹄の看板が掛けられているが、中には人の気
配と言い争う声が聞こえる。十中八九トーカが荒れている気しかしないのは俺だけだ
ろうか。
店内に入ると中は暗くガランとしていた。重い足取りで二階へ続く階段に足をかけ
る。分かっていたこととはいえ、みんなにどんな顔をして会えばいいんだろう。
テッメェ
﹂
扉の前に立ち一呼吸置く。覚悟を決めてドアノブへ手を伸ばす。
﹁ッ
!
お前何か、お前何か
!
!!
を伸ばされ胸ぐらを掴まれた。
﹁どの面下げて来やがった
﹂
部屋へ入るとみんなの視線が俺へと集まる。そして案の定トーカから怒号と共に手
!
51
四方さん
﹂
握りこぶしを振り上げ今にも一撃もらおうとした所だった。
﹁
﹁冷静になれ。﹂
四方の重い一言に流石のトーカでさえグゥの音も出なかった。
﹁・・・ヒナミはどこだ。﹂
﹁カンケーないだろ。とっとと出﹁ヒナミちゃんは別室で寝かせている。﹂ッ
トーカが出て行けと言う前に店長が口を挟む。
店長
!
寸手のところで四方から手首を捕まれトーカの拳は俺に届く事はなかった。
!
俺は頭を下げるが。店長は肩を優しく叩いてくれる。
﹁いえ、リョーコさんに関しては申し訳ありません。俺の注意喚起不足です。﹂
﹁わざわざご苦労だったね。﹂
俯いたトーカは何も言わず部屋から立ち去る。
﹁ッ・・・。﹂
店長・・・芳村さんは目を光らせてトーカに言い放った。
〟という役目を果たしたまで。・・・誰であっても彼を責める事は出来ない。﹂
﹂
﹁リョーコさんを葬ったのは立華君ではない。仮にそうであったとしても、彼は〟仕事
!
!
﹁さっきも言っただろう。誰も君を責める事は出来ない。﹂
8
52
53
店長はそう言ってくれているが俺は涙が止まらなかった。こんな俺を受け入れてく
れている店長にも顔を合わせる事は出来なかった。
9
﹁娘の方は未だに行方知れず。しばらくは他の捜査にも手を伸ばして並行して続けてい
きましょう。﹂
会議で亜門さんが提言したとおり真戸さんもそれに同意し今は勝利の余韻に浸る事
となった。ついでに何故俺も参加しているかというと二人が来るまでは俺もチームに
﹂
含まれていたからだ。娘︵ヒナミ︶の方が姿を暗ましている為、捜査は終了と言ったわ
顔色が悪いぞ、気分でも悪いのかね
?
けではない。今日は中間報告という形で俺も召集された次第だ。
と、真戸さんに心配されるが。
﹁・・・立華君、だいじょうぶかね
﹁いや、真戸さん程ではないですよ。﹂
?
といった形で今日の会議は終了。
のだろう。今の真戸さんはいつも以上に笑顔が眩しい。
だ。何せ新しい赫包が手に入ったものだからクインケが新調出来ることに喜んでいる
結構本気で皮肉ったつもりだったのだが、今の真戸さんには通用しなかったみたい
﹁ははは、キミも冗談を言えるようになったもんだな。今のは実に面白かったよ。﹂
9
54
俺が荷物をまとめている所に中島さんからお声が掛かった。今日は草場さんと一緒
﹁立華。﹂
にいつもの店に食べに行くらしい。あまり気も乗らなかったが同じ職場という立場、こ
亜門さんじゃないですか
﹂
ういう付き合いもあって仕方がないだろう。
﹁あれ
?
るよ。でもこれも仕事の内だからね
中島さん。﹂
﹁エビ天セットかしわ握り。﹂
﹁またそれですか
﹁・・・。﹂
?
?
んもこれから食事の様だ。草場さんから一緒にどうかと言われた時の顔。わかる、わか
道中、草場さんが道に突っ立っている亜門さんを見つけ声を掛ける。どうやら亜門さ
?
草場さんも飽きないのかな
?
55
9
56
三人は仕事の話しやアカデミーでの話し、そこから派生して同期の話しになった。亜
門さんの同期に女性の人がいたらしいが既に二名殉職しているようだ。確かに喰種捜
査官と言えど女性は捕食の対象にされやすい。喰種界隈での男女間はどういったモノ
かは知らない。人間社会の様に﹃男は女の尻に敷かれる﹄のか、それとも﹃女は男をた
てる﹄ものなのか。
少なくともあんていくでは前者の光景が良く見受けられる。金木はひ弱な上、年下の
トーカはあんな性格だからかよく先輩後輩の位置関係を間違えてしまう。
同期か・・・。俺のアカデミー時代はあまり良いとは言えなかった。鈴にあんな〟噂
〟が流れてからアイツと良くつるんでいた俺にまで飛び火したもんだ。鈴は確かにあ
んな性格だけど蓋を開けてみれば全くのデマだったわけだが、誰もその蓋を知っていて
も開けようとは思わなかった。いや、開けた上で蓋をしたと言う表現が正しかっただろ
う。
あー、でも安久姉妹は違ったな。中でもまともな人と言えばあの二人だけだった気が
する。座学では勝てなかったが剣道や組手など体術的な所においては俺が一歩リード
していた。・・・相手が女の子だってところが少しだけ情けない所だ。
俺は〟庭〟出身という事もあり卒業間際は良く有馬や宇井と言った面子に同行して
57
いたためあまり顔を合わすことはなかった。だからだろう、卒業を迎えふと安久姉妹の
顔を拝みに徘徊した際に﹃行方不明﹄だと聞かされた時は耳を疑った。
2人はある日忽然と消え、その後アカデミーには戻らなかったという。
2人は以前親を喰種に殺されたと話してくれた。物心ついた時には既に親がいない
俺にとってはあまり共感しずらい内容ではあったが今ではよくわかる。﹃大切な人﹄が
居なくなる瞬間に自分の弱さ、喰種への憎しみ、弱肉強食の世界に生きている今の俺に
はよくわかる。
結局あの日以来、安久姉妹の話しは耳にしないまま今日を迎えて来たわけだが。どう
にか無事でいてほしいものだ。
うん、かき揚げ美味い。
10
その後三人とは別れ夜道をフラフラと歩いて帰る。
PPPP
途中携帯が鳴ったので画面を見ると店長からの着信が来ている事に気づく。
﹁ほい、立華です。﹂
珍しく店長からの電話に懐かしい感じがしたが、電話越しの店長の声はいつもの優し
さは感じられなかった。
電話の内容に立華は焦りを感じていた。一歩一歩前進するたび胸の鼓動が跳ね上が
﹁・・・わかりました。﹂
る。
の人影が目に入る。
人気もなく街頭だけで照らされ川にかかる橋。そのさらに下へ視線を落とすと三人
﹁・・・見つけた。﹂
10
58
1人は棒のように立ち尽くし、1人は蹲って身動きもしない。またある1人は地面に
﹂
這いつくばりピクリとも動く様子はない。
バシャッ
お前
!!
﹁ヒナミを連れて逃げろ。﹂
葉は意外なものだった。
静かに名を呼ばれたトーカはまた戦闘に入るかと思い身構えるが立華が口にした言
﹁トーカ。﹂
にあしらっていた俺を後悔する。
込まれた。そしてまたある時はクインケの話で盛り上がり。今となってはあの時、適当
良く顔を合わせてはクインケの話しで盛り上がり、またある時は捜査のイロハを教え
前に顔を合わせていた捜査官の顔に俺は涙をこぼした。
状況を理解した俺は地面に倒れ込んでいる人影に近寄るり膝をつく。ほんの数時間
﹁・・・そーか。﹂
でここで喰種とCCGの戦闘が繰り広げられていたはずだが・・・。
水の音に反応して1人が俺の存在に気づく。その1人とはトーカだった。今の今ま
﹁ッ
!
59
﹁・・・はぁ
﹂
﹁アンタ、自分で何言ってんのかわかってんの
恥さえも覚える敗者の顔だった。
﹂
こちらを見ていた。その顔は喰種との勝利に誇りを感じる顔ではなく、自分の無力さに
重い足取りで近づく水をかき分ける音。振り返ると肩から血を流し息も絶え絶えで
バシャ、バシャ
を閉じ、顔を覆うように俺のコートを被せた。
真戸さんの体を水中から引き上げ石だらけで申し訳ないが遺体を岸に横たえる。瞼
でた水の流れる音だけが聞える。
その言葉を最後にトーカはヒナミを連れてこの場から立ち去った。誰もいない場所
﹁わかってるよ。何度も言わせんな。・・・お前達だけでも生きるんだよ。﹂
?
んていくに戻れ。﹂
﹁もうすぐ他の捜査官たちが来る。近くに四方さんと金木もいるはずだから合流してあ
こちらへ視線を向ける。
余りにも予想にしていない内容にトーカは信じられないような物を見たかのように
!?
﹁・・・すまない。手を合わせてやってくれ。﹂
10
60
この声は耳に届いたのだろうか。亜門は静かに真戸に近寄るとその冷たい体を抱き
寄せ肩を大きく上下させる。
某日、真戸呉緒
ラビットの手により殉職。
翌日、真戸さんの葬儀が執り行われ無論俺も出席することになった。
急な式にも関わらず多くの人が会場に駆けつけ中には篠原特等、丸手特等に並び有馬
の姿もあった。
﹁どうも、有馬さん来られたんだね。忙しいから今日もモグラ叩きかと思った。﹂
目を合わせるなり声を掛けてくる。
﹁ヒサ、ご苦労だったな。﹂
61
﹁流石に今日は、な。﹂
有馬も旧友の葬式にいつもとは感じ雰囲気である事に気づく。いくら歴戦の猛者で
﹂
あり多くの喰種を葬って来た有馬でも人の死に何も感じないわけがない。
﹁彼の最期を見たか
そうかとだけ有馬はつぶやく。
?
そう言って通話を切った有馬はポケットから小銭を数枚取り出した。
﹁わかった。すぐに行くよ。﹂
から聞こえて来た。良かった流石に常識は持ち合わせていてくれたようだ。
と話しの途中で有馬の携帯が鳴る。〟鳴る〟と言ってもヴーヴーとバイブの音が懐
﹁・・・〟懐かれた〟んだよ。﹂
からね。﹂
﹁だったら時間がある時にでも顔を出して見ると言い。あの子達はヒサになついていた
﹁別に、つーか前までモグラ相手してたんだし。こっち来てからも忙しくてさ。﹂
﹁そう言えば、卒業してから庭には行ったのか
﹂
﹁いや、俺が来た時には・・・もう終わってた。﹂
?
﹁これでジュースでも買ってこい。またなヒサ。﹂
10
62
そう言って俺の手に無理やり小銭を押し付けて立ち去って行った。
感謝。
ジュース代を投げ捨てるような事はしない。ここは有り難く喉を潤すとしよう。有馬
いつになったら子ども扱いを止めてくれるのだろうか。だからと言って握りしめた
﹁・・・はぁ∼。﹂
63