2 明日のふるさとを目指して 【提言】 明日のふるさとを目指して 全国農地保有合理化協会会長 渡 辺 好 明 「人・農地プラン」の作成作業が進み出した。この24年度末には,おそらく全国市町村の 半分近くでプランが出来上がることと思う。プランの作成が,「各種の優遇措置を受ける前 提になっているからやっている」という消極的な面もあるだろうが,スタ-トとしてはやむ を得まい。ただいつまでも「作りっぱなし」では能がなく,願わくば,このプランが,5年 後,10年後の地域社会のあり姿を目指し,①作ったものを常に見直して発展させる,②「人 と農地」に限らず,集落,地域全体の「経営計画」にまで高まっていく,といった方向と作 業を是非とも期待したい。 地域社会を豊かにするためには これから先,農家数の減少,高齢化は必至であり,混住化も進む中で地域社会を豊かにす るにはどうしたらよいだろうか。もはや,農業者だけで地域社会を維持,発展させるのは到 底不可能で,また,地域社会そのものが農業関係者だけのためのものではない時代なのだか ら,ここに暮らす,あるいは,この地域にやって来る人々すべての知恵と労力が必要な時期 に来ていると思う。従って,「人・農地プラン」は,現状に甘んじることなく,ぜひ「明日 のふるさとづくり」を指向するものへと進化して欲しい。 その場合でも,「豊かな地域社会(ふるさと)」が,単なる回帰的なものでは面白くない。 将来に向かっての前向きな創造的,建設的なものでなければならない。 かつて,雑誌「故郷」発刊の辞(昭和47年8月)において,編集者である杜山悠は,<故 郷は過去にもあるが未来にもあるもの(=つくるもの)である>といっている。 いま,念のため,その部分を抜粋すれば,こうなる。 ...人がやがては人らしい本然の姿に立ち戻ることのできる日,自然と倶に自然人らしく生 きることが,誰がなんといおうと仕合せだとわかった日,そういう時の故郷は「回帰的な故 郷ではなく」今の私達の未来に位置する故郷ではないのか... 地域づくり(むらづくり)の三原則 宮本常一にいわせると,①歴史と地理を知ること,②なんでも自分でやること(=地域の 寸法で裁断する),③誇りを持つこと,の三つだという。この点については全面的に賛成で, 予算獲得のための決まり文句「我が国農業を取り巻く情勢はまことに厳しいものがある」な どと暗いことをいっていて,後継者や新規参入が確保できるわけがない。誇りをもって, 「農 業は素敵な職業だ」といわなければいけない。 道具はあるのにうまく使いこなせていないのではないか 補助金,助成金,交付税,金融,税制など,随分と多様な手法はあるのに,何故かいい結 果が出ていない。その理由とは,一定の目的に向かった総合化,システム化がないため,道 明日のふるさとを目指して 3 具を使いこなせていないのだ。「人・農地プラン」を作成し,話合いを重ねてブラッシュ・アッ プしていく,そこから初めて発展の可能性が出てくると考える。 何もないところからは何も生まれないが,「中核になるもの(プラン)」があればことは必 ず進んでいく。企画,設計と全体のマネ-ジメントがあってこそ,道具や技術が生きる。 六次産業化は目新しいものではない まずは,地域資源として何があるか,徹底的に洗い出してみよう。「地理と歴史を知る」 とはこのことである。ここには,物質的なものにとどまらず,水,空気,太陽,雪,景観, 伝統行事,おもてなしや料理までの全てが含まれる。最近の例では,「畜舎の屋根を使った ソ-ラ-発電」だって立派な地域資源だ。 ときどき,学者の中に「1+2+3で六次産業化」とか「足しても掛けても6になる」な どと軽くいう人がいるのだが,これは明らかに間違っている。地域の1次産業に軸足がなけ れば意味はない。地域の一次部門が「ゼロ」ならば,その後の何を掛けようが答えは「ゼロ」 なのだから,六次産業化は,「1×2×3の掛け算」でなければならない。そして,大事な ことは,掛け算の「答の数字」を大きくするにはどうしたらよいかを考えよう。 最終消費のパイを大きくしないと,それは縮んでいく小さなパイの分捕り合いに過ぎず, 簡単には勝たせてもらえない。輸出,バイオマス利用,隙間(ニッチ)などを活かして,需 要そのものを拡大することが肝要だ。 かつての農村では,地主層や篤農家が「六次産業化」を担い,戦後はその役割を農協が果 たしてきた。いまとなれば,人任せはいけない。加工,販売,サ-ビスも,自分たちで手が け,反応を実感してこそレベルが上がり,生産の工夫がもたらされる。「食管制度」の亡霊 から脱却しよう。一度,地域ごとの「産業連関分析」をやってみるのもよいだろう。 知恵はどこにあるのか 混住化が進んだ今日,純粋な農家,農業者だけで地域づくりをするのはもう無理であり, 「地 域社会に住んでいて非農業の方々」の知恵と労力を借り, 「都会から地域社会へやってくる,滞在 する,住む人たち」の力も借りる時代になった。地域社会の<中の中>だけでなく,<中の外> <外の外>の力も大きな助けになる。 地域リ-ダ-に必要な素養とは 地域が栄えるには,やはり,リ-ダ-が必要だ。リ-ダ-の資質とは,①ちょっとした好 奇心,②ちょっとした工夫,③ちょっとした行動の3点を挙げたい。そして,そういう人た ちが複数になれば,「三人寄れば文殊の知恵」でよい循環の形ができるだろう。 高齢化は,日本社会全体の問題であり,混住化はイノベ-ションの「ゆりかご」でもある。 地域社会での成功例は,必ずや,今後の都市へのよき手本になるであろう。
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