ファムビルの性器ヘルペス患者に対する有効性と安全性

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ファムビルの
性器ヘルペス患者に対する
有効性と安全性
特定使用成績調査
監修
まりこの皮フ科 院長/東京慈恵会医科大学 皮膚科 客員教授
本田 まりこ
〔 禁忌(次の患者には投与しないこと)〕
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
先生
「警告・禁忌を含む使用上の注意」等はD.I.の頁をご参照ください。
性器ヘルペス患者に対するファムシクロビル
ファムビルは初発型および再発型性器ヘルペスに対して、
1回1錠250mg、1日3回5日間投与での
有効性と安全性が確認されました。
調査概要
対 象 ファムビルを投与された性器ヘルペス(genital herpes
[GH]; 肛門および臀部を含む)患者のうち、過去に
ファムビルを投与されたことがない患者
・登録症例352例(初発型119例、再発型233例)
・安全性解析対象症例296例
(初発型107例、再発型189例)
・有効性解析対象症例251例
(初発型90例、再発型161例)
調査期間 2013年8月∼ 2015年2月 投与方法 ファムビルを成人には1回250mg1日3回、 原則5日間経口投与した。
調査方法 中央登録方式
(ファムビル投与開始後4日以内に担当医師が登録)
調査項目 患者背景、ファムビルの投与状況、併用薬の使用状
況、有効性(全般改善度および改善率、治癒までの
日数)
、安全性
(副作用の有無、事象名、重篤度、転帰)
有効性の 各担当医師がファムビル投与開始時点と比較して、
評価基準 観察終了時点のGHの状況を総合的に勘案して「著
明改善」、
「改善」、
「やや改善」、
「不変」、
「悪化」、
「判
定不能」の6段階で評価し、改善率は「判定不能」症
例を除いた「著明改善」および「改善」症例の割合と
した。
治癒の定義は、①病変部位の皮疹の状態を観察し、
紅斑・丘疹、水疱・膿疱、びらん・潰瘍がすべて消
失し、痂皮の完全消失または痂皮の下床の上皮化
が認められた状態、
②粘膜部位の病変等で痂皮が認
められない場合は、びらん・潰瘍の上皮化が認めら
れた状態、③水疱または膿疱が認められない場合は、
紅斑・丘疹がすべて消失した状態とした。
解析方法 治癒までの日数はKaplan-Meier法により解析した。
また、治癒までの日数の群間検定には、ログランク
検定およびWilcoxon検定を用いた。
患者背景
項目
性別
カテゴリ
前駆症状の種類
※重複あり
再発状況
※再発例のみ
「承認用法・用量」
再発型(189例)
96例(50.8%)
152例(51.4%)
56例(52.3%)
女性
144例(48.6%)
51例(47.7%)
93例(49.2%)
36.9±14.8歳
39.8±14.2歳
104例(97.2%)
179例(94.7%)
38.7±14.4歳
あり
283例(95.6%)
なし
13例(4.4%)
3例(2.8%)
10例(5.3%)
疼痛
258例
100例
158例
違和感
196例
72例
124例
リンパ節腫脹
57例
27例
30例
全身倦怠感
46例
19例
27例
発熱
21例
13例
8例
排尿困難
21例
15例
6例
4例
2例
2例
その他
過去6ヵ月以内の
初発型(107例)
男性
年齢(平均±標準偏差)
前駆症状
安全性解析対象症例(296例)
再発なし
87例(46.0%)
1 ∼ 2回
75例(39.7%)
3 ∼ 4回
16例(8.5%)
5 ∼ 6回
3例(1.6%)
7回以上
5例(2.6%)
不明
3例(1.6%)
単純疱疹の治療において、通常、成人にはファムシクロビル
として1回250mgを1日3回経口投与する。
「用法・用量に関連する使用上の注意」
(一部抜粋)
腎機能障害患者
血液透析患者
投与間隔をあけて減量することが望ましい。
腎機能に応じた本剤の投与量及び投与間隔の目安は右表のとおりである。
本剤250mgを透析直後に投与する。なお、次回透析前に追加投与は行わない。
ルの安全性と有効性の検討(特定使用成績調査)
本田 まりこ 他:日性感染症会誌. 27(1)
: 135, 2016
ファムビルの投与状況
安全性解析対象症例296例におけるファムビルの1日投与量はすべて「1回250㎎ 1日3回」であった。投与期間が
5日間を超えた症例は初発型が2例(1.9%)、再発型が1例(0.5%)であった。
ファムビルの投与期間
■ 1日 2例(0.7%)
■ 6日以上
3例(1.0%)
■ 3日 1例(0.3%)
■ 4日 5例(1.7%)
■ 1日 1例(0.9%)
■ 6日以上
2例(1.9%)
■ 4日 3例(2.8%)
■ 1日 1例(0.5%)
■ 3日 1例(0.5%)
■ 6日以上
1例(0.5%)
■ 4日 2例(1.1%)
平均±標準偏差
平均±標準偏差
平均±標準偏差
5日
285例(96.3%)
5日
101例(94.4%)
5日
184例(97.4%)
全例(296例)
初発型(107例)
再発型(189例)
5.0±0.6日
5.0±0.8日
5.0±0.5日
全般改善度および改善率
有効性解析対象症例251例における改善率は93.2%(234例)であった。
不変 5例(2.0%)
やや改善 11例(4.4%)
全例(251例)
著明改善 159例(63.3%)
改善 75例(29.9%)
改善率 93.2%(234例)
悪化 1例(0.4%)
やや改善 4例(4.4%)
初発型(90例)
著明改善 59例(65.6%)
改善 25例(27.8%)
改善率 93.3%(84例)
不変 1例(1.1%) 悪化 1例
(1.1%)
やや改善 7例(4.3%)
再発型(161例)
著明改善 100例(62.1%)
改善 50例(31.1%)
改善率 93.2%(150例)
腎機能に応じた減量の目安注)
注)外国人における成績をもとに設定した。
クレアチニンクリアランス(mL/分)
≧60
40-59
20-39
<20
単純疱疹の治療
1回250mgを1日3回
1回250mgを1日2回
1回250mgを1日1回
不変 4例(2.5%)
より一部改変 (本調査は旭化成ファーマ株式会社、マルホ株式会社の資金により行われた)
治癒までの日数
治癒までの日数の50%点(50%の症例が治癒するのに要した日数)は初発型、再発型ともに9.0日であった。
初発型・再発型別
(%)
100
病 型
80
初発型(90例)
50%点
9.0日
非治癒率
再発型(160例) 9.0日
60
Wilcoxon検定
ログランク検定
χ2
p値
χ2
2.9674
0.085
p値
0.5271 0.468
40
20
0
0
5
10
15
治癒までの日数
20
25
30(日)
男女別にみた治癒までの日数の50%点は初発型では女性が7.0日、男性が10.0日であり、女性がより短かった
(Wilcoxon検定、p=0.030)。特に、女性で発熱を有する症例では5.5日と、他の群と比べより短かった(ログラ
ンク検定、p=0.006、Wilcoxon検定、p=0.011)。なお、再発型では男女間に有意差はみられなかった(ログ
ランク検定、Wilcoxon検定)。
初発型(男女別)
(%)
100
80
80
非治癒率
非治癒率
60
40
20
0
再発型(男女別)
(%)
100
60
40
20
0
5
10
性別
女性(43例)
15
20
治癒までの日数
50%点
7.0日
男性(47例) 10.0日
ログランク検定
χ2
2.4073
p値
0.121
25
30(日)
Wilcoxon検定
χ2
p値
4.7265 0.030
0
0
5
性別
10
15
20
治癒までの日数
50%点
女性(74例) 10.0日
男性(86例)
9.0日
ログランク検定
χ2
p値
0.7600
0.383
25
30(日)
Wilcoxon検定
χ2
p値
0.0147 0.903
安全性
安全性解析対象症例296例中4例(1.4%)に4件の副作用が認められ、その内訳は初発型で107例中1例(0.9%)、
再発型で189例中3例(1.6%)であった。発現した副作用は、外陰部腟カンジダ症、動悸、上腹部痛、湿疹で、
本調査において死亡例を含む重篤な副作用はなかった。
「使用上の注意」
(一部抜粋)
重要な基本的注意
(1)本剤の投与は、発病初期に近いほど効果が期待できるので、早期に投与を開始すること。
(2)本剤は、原則として単純疱疹の治療においては5日間使用すること。改善の兆しが見られないか、あるいは悪化する場合には、速やかに他の治療に切り替えること。
(3)本剤は、免疫機能の低下(造血幹細胞移植、臓器移植、HIV感染による)を伴う患者に対する有効性及び安全性は確立していない。
監修コメント
本調査から、ファムビルの承認用法・用量でのGHに対する有効性および安全性が確認された。
男女別にみた治癒までの日数の50%点は再発型では有意差はみられなかったが、初発型では女性7.0日、男性10.0日
と女性で短く、さらに発熱の有無別にみると、発熱のある初発型の女性の治癒までの日数の50%点は5.5日とより短かっ
た。発熱がある場合、HSV-1の初感染の可能性が高いことを考えると、HSV-2よりもHSV-1に対して感受性が高い 1)ファ
ムビルでの治療が奏効した可能性も考えられる。
GHは性器にHSV-1またはHSV-2が感染することによって有痛性の小水疱や浅い潰瘍性病変を認める疾患であり、特
にHSV-2によるGHは再発頻度が高い 2)。また、再発型GH患者はQOLが低下していること3)が報告されており、積極的
に治療する必要のある疾患であると考える。ファムビルは活性体のペンシクロビル3リン酸が長時間にわたりHSV感染細
胞内に保持される4)という特徴を有しており(図1)、マウスHSV-2皮膚感染モデルで、三叉神経節や頸部後根神経節の
潜伏HSV-2の再活性化を抑制すること5)が確認されている(図2)。このような薬剤の特徴を認識した上で、患者にあわ
せたGHの治療薬を選択することが重要と考える。
1)Boyd MR et al: Antimicrob Agents Chemother 31(8): 1238, 1987
2)Benedetti JK et al: Ann Intern Med 131(1): 14, 1999
3)川島眞: 臨床医薬 29(2): 137, 2013
4)旭化成ファーマ(株)社内資料(HSV感染細胞内におけるペンシクロビルリン酸化体の安定性)
[承認時評価資料]
5)Thackray AM et al: Antimicrob Agents Chemother 40(4): 846, 1996
図1 ペンシクロビル3リン酸のHSV感染細胞内における安定性(in vitro)
10,000
方法:
HPLC法
HSV-1及びHSV-2感染MRC-5細胞
に感染約1時間後よりペンシクロビ
濃度(pmol/106cells)
1,000
ルまたはアシクロビル10μMを添加
し、4時間培養した。培養後、被験
100
物質を培地から除去し、3リン酸化
体濃度を経時的に測定した。
半減期(hr)
10
ペンシクロビル3リン酸/HSV-1
1
0.1
0
5
10
ペンシクロビル3リン酸/HSV-2
20
アシクロビル3リン酸/HSV-1
0.7
アシクロビル3リン酸/HSV-2
1.0
15
10
時間(hr)
20
旭化成ファーマ(株)社内資料(HSV感染細胞内におけるペンシクロビルリン酸化体の安定性)
[承認時評価資料]
HSV-2が検出された割合(%)
図2 感染6週後の神経節内のHSV-2検出率(マウス)
100
(10/10)
(10/10)
(10/10)
方法:
左耳介部の皮膚にHSV-2を接種し
80
60
(6/10)
(5/10)
たマウスHSV-2皮膚感染モデルに
(6/10)
ファムシクロビル50mg/kgまたは
バ ラシクロビ ル50mg/kgを1日2
(5/10)
40
回5日間経口投与した。6週後に三
(3/10)
叉神経節および頸部後根神経節を
摘出し、培養細胞のプラーク形成か
20
0
(0/10)
左三叉神経節
(0/10)
右三叉神経節
(0/10)
(0/10)
ら神経節内のHSV-2を確認した。
左頸部後根神経節 右頸部後根神経節
(HSV-2検出マウス/全マウス)
コントロール(薬剤投与なし)
バラシクロビル
ファムシクロビル
Thackray AM et al: Antimicrob Agents Chemother 40(4): 846, 1996より作図
1083718
2016年9月作成
A0916GX-ES