OPEC協調減産でも原油価格が上がりにくいわけ

リサーチ TODAY
2016 年 10 月 28 日
OPEC協調減産でも原油価格が上がりにくいわけ
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
9月28日に開催されたOPEC臨時総会(アルジェリア会合)において、OPEC加盟国は協調減産に合意し
た。実効性の面で不透明感が残るものの、需給の安定均衡に向けた体制作りを志向している状況がうかが
われる。みずほ総合研究所は、OPECの減産合意を受け、今後の原油相場の展望に関するリポートを発表
している1。今回の減産合意の背景には、シェールオイルの生産調整が進みにくくなっていることがあり、今
回の協調減産についても、原油相場の押し上げ効果がシェールオイルの増産によって相殺される可能性
がある。下記の図表は今回の減産協調に至ったOPECの選択を示す概念図である。サウジアラビアのこれ
までの狙いは、シェールオイルとのシェア争いにあった。それゆえ、今回のサウジアラビアの譲歩は、シェ
ールオイル業者の退出を狙って超過供給を放置してきたこれまでの戦略の断念を意味する。
■図表:OPECの選択
OPECの譲歩を予想し
再参入を決断
③シェールオイルのシェア維持・拡大を許容(野放し)
OPEC
→ シェア低下を許容
原油安の長期化
再参入する
OPEC
(サウジアラビア)
原油相場の下落回避
②減産して価格を下支え
OPECの協調減産
↓
原油相場の回復
米国の
シェールオイル
業者
原油安の長期化
①シェア争いで対抗
原油相場の回復
再参入しない
OPEC
→ シェア低下を許容
OPEC
→ 低利潤状態が長期化
シェールオイル業者
→ 投資コストを回収できない
OPEC
→ 利潤回復
消耗戦を予想し
再参入を断念
(資料)みずほ総合研究所作成
次ページの図表は米国シェールオイルの採算コストの推移を示す。米国の原油生産はその半分がシェ
ールオイルだが、シェールオイルの生産性の飛躍的な向上によって、新規開発を行う際の採算コストが約
40ドル前後まで低下している可能性がある。その結果、生産調整に歯止めがかかったとみられる。サウジア
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2016 年 10 月 28 日
ラビアがこれまで生産調整を行ってこなかったのは、急速にシェアを伸ばした米国の原油生産業者を市場
から退出させる戦略をとっていたためだが、米国の生産調整がこれまでのように進みにくいとの見方が、サ
ウジアラビアの今回の譲歩につながった。
■図表:シェールオイルの採算コスト
(ドル/バレル)
120
シェールオイルの採算コスト
WTI(期近)
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
14
15
16
(年)
(資料) 米国エネルギー情報局(EIA)よりみずほ総合研究所作成
これまで考察してきたように、たとえOPECが協調減産を行っても、シェールオイルが増産されてしまえば、
OPECが望む中期的な安定均衡を実現できるかは不透明である。突き詰めれば、これはOPECのカルテル
としてのプレゼンスが低下していることを意味する。さらに、カルテルの弱体化で、協調減産の掟破りのイン
センティブが高まりやすい。サウジアラビアについては、減産を真面目に実行することでシェアを奪われるリ
スクを負い、最悪の場合、原油価格の十分な押し上げが実現しないまま、単にシェアを落とすリスクもある。
シェールオイルの存在により、OPECの価格支配力の低下は今後さらに進む可能性があり、原油市場は
より競争的な市場になると考えられる。今回のOPECの協調減産が決定打となり原油相場が原油高トレンド
に転換する可能性は低い。原油相場が再び高値を追うには、需要の伸びしろが期待される新興国が再び
成長経路に戻ることが必要だが、こうした状況は当面期待しにくい。それだけに、一旦、値を戻したものの、
低水準の原油相場が常態化する可能性が一段と高まっていると考えている。
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井上 淳 「減産合意の評価と今後の展望」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 10 月 3 日)
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