2017年度 早稲田大学大学院法務研究科 法学既修者試験 論述試験 民 法 ( 出題の趣旨 ) 【出題の趣旨】 問題1 (1)は、売買目的物が滅失した場合の当事者間の権利義務を整理して検討する問題である。検討すべき主 な権利関係は、売主Aの債務が履行不能になった場合の買主Cからの損害賠償請求と解除の可否、Aからの代 金請求の可否とその前提問題である危険負担である。Cの損害賠償請求・解除が認められるのはAに帰責事由 がある場合であるのに対し、Aの代金請求はAに帰責事由がない場合にのみ問題になる。そして、このAの帰 責事由の有無は、賃借人Eの過失をAの過失とみるべきかによるが、転貸借の場合と異なり、これをAの過失 とみるべきではないであろう。なお、このほか、代償請求権も検討する余地がある。 (2)のうち、BのDに対する請求については、火災保険金に対する物上代位(民法 372 条による民法 304 条の準用)の可否を検討する。その際に、被担保債権の弁済期が到来していることを確認した上で、差押えの 要否を論ずる必要がある。 次に、 Eに対する請求としては、 ①AのEに対する損害賠償請求権への物上代位と、 ②抵当権侵害を理由とする損害賠償請求がある。このうち①は、㋐甲所有権侵害の不法行為を理由にするもの と、㋑Eの賃貸借契約上の債務不履行を理由にするものが考えられる。しかし、不法行為による賠償請求は失 火責任法により重過失の場合に限られるので、本問では①㋐と②は認められないことに注意が必要である。 問題2 ABC3人による遺産共有を素材として、相続人(共有者)の1人Aが遺産共有状態にある不動産を単独で 占有している場合の法律関係を問う問題である。 (1)BとCのAに対する明渡請求の可否という論点については著名な判例があり、当然の明渡請求を否定 している。この判例に基づいて解答することでよいが、被相続人と同居していたAについては、一般的には、 使用貸借成立の可能性もある。使用貸借が成立していれば、明渡請求はそれを理由に否定される。しかし、設 問の事実関係においては使用貸借の成立を認めることは難しい。また、明渡請求を可能にする条件が問われて いるが、そのひとつとして、共有不動産をBが占有することを管理行為として多数決で決定することが考えら れる。判例を学習する際には、周辺論点にも視野を広げておくことが望ましい。 (2)問題とされている一定の金銭支払いは、基本的には甲不動産の使用料相当額を不当利得として請求す ることを意味する。他の共同相続人の承諾がない占有は、当然には明渡請求に曝されることはないとしても、 当然に適法占有であるというわけではない。他の共有者の持分権は、価値的には侵害されているのである。し たがって、Aに対する不当利得返還請求は、一般的にいえば、可能である。もっとも、Aが使用貸借上の権利 を有していれば不当利得返還請求は排除されるが、設問では使用貸借成立が難しいことは、先に述べた。 以上 Copyright(C) Waseda Law school All Rights Reserved.
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