民事訴訟法 出題の趣旨

2017年度 早稲田大学大学院法務研究科
法学既修者試験 論述試験
民事訴訟法
( 出題の趣旨 )
【出題の趣旨】
例年と同様に、民事訴訟法の標準的な教科書や学部での講義等で必ず取り扱っていると思われる基本的事項に
つき、その正確な理解と具体的事例での適用力、論理展開力をみる問題とした。
本問で最終的に答えなくてはならない点は、①後訴の債務不存在確認訴訟において裁判所がすべき判決であ
るが、その前提として、②前訴確定判決の既判力と前訴基準時後の取消権行使の関係を検討する必要がある。
そして、②の問題を検討するにあたっては、③同じ形成権である相殺権行使の場合と比較することが求められ
ているから、これら 3 点について的確な論述をすることが求められる。
本問では、前訴確定判決の既判力が後訴請求に及ぶことをまず確認したうえで(訴訟物が同一であると解す
るのが通説である。)、既判力の基準時が前訴口頭弁論終結時であることを、根拠及び条文(民事執行法 35 条
2 項)等を簡潔に示して明らかにすることになる。そのうえで、取消権の行使が前訴の口頭弁論終結時(基準時)
以後にされていることから、これが既判力の遮断効により認められないのではないかが問題になるという点を
指摘することになる。その際、形成権については、当事者の意思表示を待ってその効力が生じるため、形成原
因(取消原因)は基準時前から存在していたとしても、形成権が行使されるのは基準時後ということもありうる
こと、そして、形成権をいつ行使するかは当事者の意思に委ねられることからすれば、基準時後であっても形
成権の行使は許容されるのではないか、といった形で問題の所在を的確に示すことが必要である。そして、取
消権の行使について検討することになるが、その場合、前訴の訴訟物(請求権)と取消権の関係、取消権の行使
時期を当事者に委ねることの妥当性、取消権と相殺権の実体上の性格や訴訟手続上の取扱いの相違、遮断効に
おける取消権行使と無効主張との均衡などに着目して、具体的かつ説得的な論旨を展開することが必要である。
そのうえで、取消権の行使が既判力により遮断すると解した場合は、それに対応する形で裁判所の判決がどの
ようになるかを明示する必要があるが、請求棄却とするのが多数説である。これに対し、訴え却下と解する説
もあるが少数説であり、当然のごとく訴え却下となるわけではないことに注意が必要である。
以上
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【採点講評】
○ 時的限界の問題が、訴訟物同一等の理由により、後訴に既判力が及ぶ場合に初めて問題になるということ
を意識できていた答案が少なかった。また、既判力が及ぶということについて、判で押したように、「訴
訟物同一で、矛盾関係や先決関係にないことが必要である」と書き、それについて長々と検討している答
案が多く見られたが、そのような答案は、既判力の問題であればそれを必ず冒頭に書く、という条件反射
的思考に陥ってしまっているように感じられた。
○ 取消権と相殺権の比較については、根拠が不十分な答案が多かった。多く見られたのは、既判力の根拠を
手続保障と自己責任としたうえで、特にそれ以上の具体的理由を付すことなく(なお、時的限界について、
民事執行法 35 条 2 項を示していない答案が多かった。)、取消権は前訴で行使が期待できたのだから遮断
されるのに対し、相殺権は行使が期待できなかったのだから遮断されない、と一刀両断的に書いている答
案であった。また、「取消原因について知っていれば取消権は遮断され、知らなければ遮断されない」と
いった、既判力に関する原則的ルールを踏まえていない答案も散見された。
○ 取消権と相殺権を比較する際「権利に付着する瑕疵か否か」ということを指摘している答案が多く、これ
自体は特に誤りではないが、その具体的内容(訴訟物たる請求権と取消権との関係)を自分なりにわかりや
すく説明している答案はほとんどなかった。
○ 既判力により遮断されるとした場合に、裁判所がすべき判決は、出題趣旨に書いたとおり、請求棄却判決
とするのが一般である。しかし、何の留保もつけずに、当然のごとく訴え却下とする答案がかなり多く見
られたのは残念だった(昨年度の既判力の客観的範囲に関する問題でも、訴え却下とする答案が多かった
が、本年度も同様であった。)。民訴の基本的理解にかかわるところであり、正確な理解が望まれる。そ
して、このような基礎的部分での理解不足は、ときに致命傷になることを銘記されたい。今回の問題でい
えば、本問を重複起訴禁止の問題としたり、時機に後れた攻撃防御方法の問題であるとした答案も、これ
に該当する。
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