2017年度 早稲田大学大学院法務研究科 法学既修者試験 論述試験 憲 法 ( 出題の趣旨 ) 【出題の趣旨】 1.本問の主要な出題趣旨は、Y 大学の AO 入試の面接試験において、試験委員は受験生に対して思想・政治 信条に関する質問をすることができるか、そして、受験生が思想や政治信条に関する質問の回答を拒否し たことによって入試成績において不利益に評価された場合に、入試での不合格処分が違法として取り消さ れることになるか、である。 2.いうまでもなく、関連判例として三菱樹脂事件がある。入社試験に際して学生運動の経験を質されて、あ いまいな答えをし、そのための本採用が拒否されたという事件である。ただし、状況は相当に異なる。① 民間会社の入社試験と公立大学の AO 入試、⑤入社にあたっての人物調査と大学入試にあたっての学力・ 資質判定、③自己の政治活動の経歴調査と内閣の政策の是非の理由の質問、④曖昧な応答と意見表明の拒 否、⑤入社後の本採用の拒否と入学試験不合格などである。事案の特質をどこまで細かく押さえて、入試 不合格の当否の結論を説得的に論証できるかどうかが、答案の評価の分かれ目になる。 3.まず、X の思想・良心の自由に関して、 「Q 内閣を支持しないのはなぜですか」という P の質問、そして、 「それは私の政治信条にかかわるから答えられません」という X の答弁が問題となる。P の質問は、X の支持政党を問うものと同種ととらえれば、X の内心の政治思想に関連するもので、公的な試験の場で問 うことは X の思想の自由(沈黙)の自由を侵して許されないと考えられる。しかし、教養学部の面接試験で、 受験者の政治的素養と関心の度合いを見るために政治に関する質問をすることは許されることであり、政 治の現状の分析という観点から「Q 内閣の不支持の理由」を問うことも一概に否定されないという見解も 成り立つ。 4.これに対して、Xの回答拒否は、自己の政治信条を披瀝することができないというものであり、思想の自 由のうち自己の思想・信条の開示を拒否する自由によって保護された行為といえる。一般に、大学入試に おける面接試験において、家庭環境や政治・政党の支持など、問うてはいけない質問が事前に試験官に配 付されるのが実情である。とすれば、P が X の回答拒否をどのように評価し、面接試験の合否にどの程 度反映させたかが問題となる。文面からは、X の回答拒否が X の不合格の評価へとどの程度関連してい るか必ずしも明らかではないが、P の打ち切りの態度などから、相当の連関が推認されよう(答案では、 断定しているものが少なくなかったが、法律の答案では事実認定が客観的になされているかどうかは重要 な評価の分かれ目になるので、推認の根拠を論理的に示す必要がある)。ただし、ここでも、大学の入学 の合否決定における裁量、とくに AO 入試における総合的判断の尊重が優先されるという結論も成立しよ う。 Copyright(C) Waseda Law school All Rights Reserved. 5.なお、大学入試の不合格決定が「法律上の争訟」とはならないのではないかも問題になり得る。入試の合 否決定は大学の内部問題ではないが、入試の評点の評価は専門的判断に委ねられるべきことがらという理 由から、「法律上の争訟」性を否定することができないわけではない。しかし、思想に関する質問への回 答をマイナスに評価されることは一種の「他事考慮」になるとも考えられるため、専門的判断の枠を超え ており、それについては司法審査の対象となるということができよう(群馬大医学部高年齢不合格決定取 消訴訟に関する東京高判平成 19.3.20 判時 1979-70 参照)。ただし、設問の解答で「法律上の争訟」性につ いて論及したものは多くはなく、したがって、この論点は評価の対象から除外した。 6.答案では、2の本事例の特徴を踏まえて、3、4の衡量と論理的で説得的な理由づけをしなければならな い。しかし、全般に通り一遍の衡量にとどまり、詳細に検討しているものは少なかった。論点を多面的に 挙げて総合的に考察し、その当否を緻密に論証することが求められる。 以上 Copyright(C) Waseda Law school All Rights Reserved.
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