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講演
就職問題懇談会 (立教大学 総長) 吉岡 知哉
皆さまおはようございます。ただ今ご紹介いただきました立教大学の吉岡でございます。
『平成 28 年度全国キャリア・就職ガイダンス』開催に当たり、主催者の一員である就職問
題懇談会を代表いたしまして私からは大学側の立場から学生のキャリア教育、就職採用活
動についてお話をさせていただきます。
人間社会の持続的な発展のためには、若者が希望と活力を持って社会に参加することが
何よりも大切であり、大学等の高等教育機関は、学生に高い学力と豊かな人間性を身につ
けさせた上で社会に送り出す社会的使命を負っております。そのためにも教育の質の向上
を図り、学生が学業、課外活動に専念して自らの可能性を最大限に発揮できる環境を整え
ることが必須であると考えております。現代社会は激しく変動しており、グローバリゼー
ションは文字どおり地球上の隅々までを覆っております。科学の分野においても生命科学
や情報通信技術に見られるように、進歩の速度は想像を絶するといっても過言ではありま
せん。それゆえにこそ、変動の中にあって状況を的確に分析し、そこから問題を発見して、
自らの課題として解決に向かう能力と勇気とを備えた人間が求められています。これまで
の思考枠組み自体が通用しない時代にあっては、高等教育の重要性はますます高まってい
ると言わなければなりません。就職問題懇談会といたしましては、これまでも正常な学校
教育と学生の学修環境を確保するため、大学等関係団体の総意として、企業側に対し、大
学等の卒業終了予定者の就職採用活動の早期化長期化の是正等について要請してまいりま
した。大学生活とその後の社会生活との接続のあり方については、政府、企業、大学等の
間で就職採用時期を含めて、広く協議を重ねてきた伝統があります。一時期、いわゆる就
活が極端に早期化長期化した事態を受けて、平成 25 年度には就職採用活動を遅らせること
について、政府、企業、大学等が方針を明確にし、平成 27 年度卒業生、すなわち本年 4
月に就職した学生たちから実施いたしました。現在最終学年である平成 28 年度卒業予定者
の就職採用活動時期に関しましては、昨年 12 月 7 日に経済団体連合会が採用選考に関する
指針を改定し、学事日程の配慮を明示した上で採用選考活動開始時期を 8 月から 6 月に変
更いたしました。これを受けまして、就職問題懇談会といたしましても同月 8 日に、大学
側に対し、学生が混乱することないよう十分な周知と就職指導を行うこと、企業側に対し、
採用選考活動が学業の妨げにならないよう必要な配慮を求めることを申し合わせました。
また政府からも内閣官房、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の連名で広く経済団体、
業界団体に対する要請が行われました。このように、この変更に対する取り組みは、特定
の経済団体のみに関係するものでなく、日本社会全体での取り組みとして展開されており
ます。かつて大学生活と社会生活との接続は文字通り卒業時点の就職という点でとらえら
れていましたが、現在では生涯を通じたキャリアという線、あるいは面でとらえられ、就
職は人間の成長と結びついたキャリア形成の 1 段階として理解されるようになっています。
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授業のカリキュラムも、いわゆる教室での授業に加え、ボランティア、インターンシップ、
あるいは海外研修や留学、企業や地域との協働など、アクティブ・ラーニング、サービス・
ラーニングの手法を取り入れた改革が進められております。課外活動もまた人間形成のた
めの教育の一環として積極的に位置付けられています。他者とのさまざまな出会いと交流
を組み込んだこれら多様な教育を通じて、一人一人の学生の社会性を涵養し、これからの
人間社会を担う青年たちを育てることが目指されているのです。キャリア教育・就職支援
は、大学と社会とを結びつけるものとして、今や支援策というよりも教育の中心部分とし
て、教育改革全体の中で大きな意味を持つようになっています。また、本日の第 2 部の情
報交換会において、障害のある学生、外国人留学生のキャリア教育・就職支援についての
セッションが企画されていますが、このような多様な学生支援は今後ますます重要になっ
ていくに違いありません。私たちは、学生の一人一人が自分の人生を深く考え、激動する
現代社会の中で十全な自己実現ができることを心から望んでやみません。そのためにも私
たちは、教育の質の向上にこれまで以上に努力するとともに、キャリア教育・就職支援に
力を注いでいく所存です。キャリア教育・就職支援の充実には企業の皆さまのご協力が不
可欠です。大学と企業が連携を強化する中で、例えば、早い段階から本格的なインターン
シップを採り入れていくことも、キャリア教育の一環として非常に効果があるものと考え
ております。今月 1 日より現在就職活動中の学生に対する採用選考活動が開始されており
ますが、これらを円滑に実施するためには、大学側、企業側の双方がその趣旨を踏まえた
対応を行うことが必要です。われわれ大学側といたしましては、全教職員が連携協力し、
就職活動時期の再度の変更によって学生に不安と混乱が生じないよう努めることが重要と
考えます。各大学におかれては、申し合わせの趣旨にのっとり、学生に適切な就職指導を
行っていただきたく存じます。併せて学生に対しては、社会人として踏み出す第一歩とな
る就職活動に際し、適切なマナー等の指導を行うようにお願いいたします。各企業の皆さ
ま方におかれては、これからも採用選考活動が学業等の妨げにならないよう、授業、留学、
教育実習等と採用選考活動が重複する場合は、学生からの求めに応じ別日程を設定するこ
とや、土日祝日や平日夕方の活用を取り入れるなど柔軟な対応を取っていただくようお願
いいたします。また、昨年度は一部の企業において、必要な人材確保に熱心になるあまり、
内々定を出す代わりに他社への就職活動の終了を迫ったり、内々定段階で誓約書等を要求
するなどの行為が見られました。このような行為は慎んでいただくようにお願いいたしま
す。本日のガイダンスが、学生のキャリア・就職について大学側と企業側の共通理解を深
める場となりますことを期待しております。ご静聴ありがとうございました。
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