Page 1 海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTECTR 20 (1988

海洋科学技術 セン タ ー試験 研究 報 告 JAMSTECTR 20
(
19 8 8)
日本周辺 海域 におけ る水質 (1)
緑 川 弘 毅 ゛1
日本周 辺の海 域 におけ る水質 につい ての一 般的な知 識 は広く行きわた って い
る。 しか し, 海 水 の性 質 は海 域によ り独特の性質 と変動性を持 って いる。 この
よ うなこ とか ら日本周辺 の各 海域 の深 さ に対す る 水温, 塩分の資料 の整理を 行
った。 調 査海域は 太平洋 側 と日本海の湾 内と沖 合 の計 8海域を 対象 とした。
四国沖 のT 一Sダ イヤ グラ ムが 西部北 太平洋 に おけ る典型を 示 し, 中層 の塩
分 極小値 も34.00 ∼34.10 ‰で ,亜寒帯 中層の平均的 な値で あ る。こ れに対 して
三陸沖合 (30 °OON, 147 °00E)と駿河湾 ,相模湾 において は極小値は,0.20 ∼
0.40‰高くな っている。 三陸沖合で は ,表 層水の塩分 が逆 に34.00‰ぐらいまで
の低い値 にな ってい る。
湾 内 におけ る中層 の水は, 塩分値 の高い 周囲 の水塊 と流 れによ る混 合で , そ
の特 徴が変 形 し た もの と考え ら れる。 三陸沖合 水域で は極前 線が近い ため, そ
の影 響が考え ら れ, 特 に表層 水は寒流 系の水 の寄与が推 測さ れる。
日本 海において は,富 山湾, 秋田沖 の水温は 表層で は急激 に減少 し, 深層で
はほぼ 一定で あ るo 富山湾 における中層およ び 下層 の塩分値 は34.10 ∼34.15
‰の ほぼ均質 な ものであ った。
こ れに対 して 水 深3,200 m の秋田沖海 域において は, 底層において 塩 分値 が
34.00∼34.05‰と減少してい る。 この値 は日本 海 固 有水 の塩分値 に比べて 小さ
い。
キーワ ード :海水 ,深層 水 ,中 層水 ,底層流 ,底層
Characteristics of Sea Water around Japanese Islands (1)
Koki MIDORIKAWA*
T-S diagrams
were made
by STD
measurements
2
in order to study the charac-
teristics of water from particular localitiesin the adjoining seas. Measurements
made
at the sea areas in bays and offing in the Pacific Ocean
In the Pacific Ocean,
in which
34.0
the T-S diagram
off Shikoku
the salinity of subarctic intermediate
34.1%0 which is the mean
are
and the Japan Sea.
is a typical representative
water has a minimum
value of
value in the North Pacific Ocean. However,
the
●1 海 洋開 発 研 究 部
●2 Marine Research and Development Depax ‘tment
45
intermediate salinity minimum
Sagami
is.extremely high (0.20
O.4O%0)in Suruga Bay,
Bay and the sea area far off the Sanriku coast (30°00' N, 147 °00'E), and
the salinity of the upper water off Sanriku is low and close to 34.00 %0 at the
surface.
The waters in the bays seem to be affected by adjacent dense waters and they
gradually lose their characteristicsby current mixing with the waters above and
below
them. The
water off Sanriku may
be influenced by the adjacent waters
near the polar front.
In the Japan sea, the potential temperature
of the upper layer decreases
rapidly with depth, while it is almost constant in the lower layer. The
below
the upper layer in Toyama
Bay is occupied by homogeneous
water
water of low
temperature and the salinityof 34.1%0, called the proper water in the Japan Sea,
while off Akita, the salinityof the deep water below 2,000 m gradually decreases
to below the value of 34.05%0at the bottom
Key
at 3,200 m.
word: sea water, deep sea water, intermediate water,
layer.
1 はしがき
我が国の海洋調査において,海水の塩分や 水温
bottom
current, bottom
ぞれに異な ってい る。
北太平 洋側の中 層の水は,亜寒帯中層水と呼ば
に関 する研究は,古く から数多 く行われてきた。
れ,これは北太平 洋極前線海域において沈降した
そして, 特定 海域にお ける海水の性質に関する一
親潮水塊に源を発す るもの と考 えられている。 ま
般的 傾向 につ いて は大変良く知れわた っている。
た,底層水は, はるか南極圏の海域において,氷
それだけに水温や塩分は海の状 態を良く 物語 って
結時に析出された塩分を受 け 入れた表層水が沈降
くれる一つの大きな要素とい って よい。しかし,
し, 300 年 ともいわれる長い歳 月を 経て4,000 m
広大な海は天空と同 様に時期により,域により,
以深の海底に沿 って到達した ものであ る。この他
状態あ るいは特徴か変化するもの であ る。
に表層水ではそれぞれ海域ごとに異な った海流や
このような状態を踏まえて ,日本周辺の海洋 と
陸水の 影響を受 けているの であ るo
半閉鎖海域をそれぞれ3海域ずつの計6海域(図
この ように異 なった成因を もった海水が日本近
1) を 選び, 1983年から1985 年に計測を行った 資
海に在 って, それぞれの特徴を有してい るものと
料を主 として 用いて,各海域の水質の特徴を とら
思われる。 ここでは季節的な特徴より も海域的な
える試みを行 った。
日本周辺の海域は西部北太平洋に属し,日本海
一般的特性を調べることに重点を置いた。
もその一部に位置してい る。 ただ,日本海 はその
2 本邦南 東 岸側 (太平 洋側 )海域
の水 質
閉鎖性により,海域を満たしている海水の生成 起
因に至るま で本邦南東岸側( 太平洋側) とは異な
太 平洋 側おいて は 沿岸 部と 2海 域, 沖合 の 2海
る。
日本海の水は,表層水を除いた その ほとんどが
域を 研究 の対象として行 った。 そ れら は駿 河 湾,
日本海固有水と呼ばれるもので,ある一定の狭い
照)。
相模 湾そして三 陸沖 合, 四国沖 合 であ る(図 1参
範囲に限定さ れ塩分値と水温値, そして独自の生
最 初 に三 陸沖合 のT − Sダ イヤ グラムを図 2に
成過程をもっ ものであ る。日本海固有水が日本海
示 す。 塩 分 が最 も小さ く, 水 温が20°
C 以 上の表
北部沿岸域 で形成された底層水に起因するのに対
層 は水 深 が50m ぐらい までであ る。 表 層水100 m
して,太平洋側の海域では, その海水の大半を占
層ぐらい ま での塩 分値 は, 北 太平洋 の 他の 例(Ka
める中 層水並びに底層水の生成海域や機構 もそれ
wai, 1972)
46
と 比べて か なり低 い。 水深200 ∼
JAMSTECTR 20 (1988)
図 1 日本周辺の海域と等深線図並びに計測点(
(E)
)
Fig. 1 Map showing the Isobath of adjacent area around Japan
with the locations
(⑧)of stations.
‰
は 2°C 以 下 の深層 水に なり, 塩 分は 徐 々に増 加
ぐ らい で, 北 太 平 洋 上 の 上 層 の 水 の中 で は 最 も塩
し て 水 深4,000 m 以 深 になる と 北太平 洋の底 層水
分 値 の高 い 層 で あ る。
の塩 分値 は の塩 分値34.68 ‰に達する。
300m
層 に 塩 分 の 極 大 値 があ って そ れ は34.80
(1942)
図3は四国 沖合1,200 m 水 域 におけるT−Sダイ
によ って 示 さ れた 西部 北 太 平 洋 の 中 央 水 に つ いて
ヤ グラ ムであ る。冬 期で はあ るが表層水 温が20 ℃
の各 温水 に 対 す る平 均 塩 分 値 で あ る。 当海 域の 上
以 下であ る こと は, 黒潮 があ まり近 くな かっ たこ
層 か ら 中層 に か けて の 塩 分 値 は , 若 干 この 値 を 上
とを 示してい る。し かし 塩 分値 は 高く, 黒潮 水域
まわっている。亜 寒 帯 中 層 水 の 塩 分 極小 は(7tが26.8
の もので ある ことが分る。 中層 の塩分 極小は 亜寒
の 面 に 在 ると い わ れて い るが , その 深 さ は800m
帯 中層 水の平 均的な値, 34.00 ∼34.20 ‰の範 囲に
ほど に な って い る。 塩 分 極小 値 は 黒 潮 水 域の 平 均
ほぼ収 まってい る。 下 層 において はT − S値 は収
より 少 し 大 きい よ うで34.15 ∼34.35 ‰の値である。
束状態 になり, 成層圏 の様 相を 呈 して いる。 下層
図 中 の一 本 の 曲 線 はSVERDRUP et al.
水 深 が1,500m
JAMSTECTR
以 深 に な る と ポテ ンシ ャル水 温
20 (1988)
において は, 水 温が 3℃以 上, 塩 分が34.63 ‰ぐ
47
図 3 四国 沖 水深1,200 m 海 域におけ るT-
S
ダ イヤ グラ ム, 1985 年 2月
図 2 西 部北 太平 洋三 陸沖, 水深5,700 m 海域
(30 °00 'N, 147 ° 00’
E)で のT − Sダ イ
Fig. 3 T − S diagram for the water masses
measured at the station off Shikoku in
February, 1985.
ヤ グラ ム, 1980 年 7月
Fig. 2 Potential temperature- salinity diagram
for the water masses at the stations
(30 °OO'N, 147 °00'E) of the depths of
5,700m far off Sanriku coast in North
Pacific Ocean in July, 1980. A shorter
curve near center shows the average salinities of the central water masses at different temperature demonstrated by svERDEUP et al. (1942)
and two longer
ones are 叭 c
u
rves. The beside are plots
depth in meters.
化 の 少 ない 形 に な って い る。 ot=26.8の面付近に 現
わ れる べ き塩 分 の 極小 も, 三 陸 沖 合 や四国 沖 合 の
中 層水 の よ う に 明 瞭 で は な い 。 下層 に おい て は 両
者 共 深 さ が 増 す に した が って 塩 分値 は 徐 々 に 増 加
し, 34.60 ‰を 越えて深 層 水の値 に近 く なり , 水 温
も2.5 ℃ 前 後 まで 下 って い る。
図 5は 駿 河 湾 松 崎 沖 の 駿 河 ト ラ フ水 深2,000 m
の海 域 に お け るT − S ダ イヤ グ ラ ムであ る。 上 層
の塩分 の 極大 値 を 有 す る100 ∼150 m
層の 塩分値
は34.50 ∼35.00 ‰に なって い る が ,こ れは 黒 潮 起
因 の外 洋 水 と 思 わ れる。 この 層を 除 くと ダ イ ヤ グ |
ラ ムは 全 体 的 に 直線 状 に な って い る。 特 に中 層 は
らいまで で, 深層 水 の値 には達 して い ない。 こ れ
34.30 ∼34.50 ‰ の範 囲に 収 ま って い て ,中層 水 の
は 水深 が浅い た めであ る。
特 徴で あ る 塩 分 極小 もな い (あ る い は 見 か け 上 に
図 4には駿河 湾と 相模 湾の 隣り合 った 2つ の海
現 われていない )
。そして 下層 では, さらに狭 い34.40
域にお けるT − Sダ イヤ グラ ムであ る。 両者共 に
∼34.50 ‰の 間 にすべて 収 まってい る と いう 特 異 な
水 深1,500m
状 態 に な って い る。 このSTD計 測 の 数 時 間 前 と 約
以 上 の海域 で, 図 の内容 も表 層 の水
温値を 除 けば良 く以て い る。 表 層水 の 温度 に 約4 °
2日前 の 2回 に , こ の 海 域 の 海 底 に 約IKt の 流 れ
C の差 があ るのは, 計測 季節 の1か月 間のず れに
が 在 った こ と が 確 認 されて い る の で , 中 層, あ る
よ る もの と思 われ る。 表 層を 除い た上 層並 びに中
い は底 層 に お い て 流 れによ る混 合 が あ った た め と
層 の塩 分値は34.30 ∼34.65 ‰の範 囲に 収まり, 変
考 え ら れる。
48
JAMSTECTR 20 (1988)
図4 相模洵 a)
〔1983 年 5月〕 と駿河 湾中 央付近lbl〔1985 年 4月 〕につ いて のT − S ダ イヤ
グラ ム
Fig. 4 T − S diagram for the water masses measured in Sagami Bay in May,.
and in Suruga Bay in April, 1985 (Right)
こ の現 象から, 成層圏 とい われ る中層 や下層 に
も, 特に港湾 や その他の沿岸 海 域 におい て はかな
り の 混合 があ る ものと推 測さ れる。
1983 (Left)
と考 えら れて い る。 この日本 海固有水 の 温度 は1
∼2 ℃以 下で, 塩分 は34.1 ‰前 後であ る。
表 層に はリマ ン寒流 と対馬 暖流,そし て 陸水 の
流 入があり ,こ れら によ る混合水 を形 成して い る
3 日本海, 富山 湾, 秋 田沖海域 の水 質
日本海 は平 均水深約1,400 m で, ほとん どを 陸
地 に囲ま れた 海であ る。 日本海 と太平 洋を 結ぶ も
のは 対馬 海峡, 津軽海 峡, 宗谷 海峡, そして 間宮
ものと思 われ る。 塩分 は深層 の水に比 べてか なり
薄く, 水平的 な分布 に も大 き な差 異があ る。
日本海 の底層 の水 に関 す る研 究は古 くはSUDA
(1932),
そしてNITANI
( 1972) などがある。
海峡 であ るが, そ れらの水 深は150 m 以 浅 で, 周
近年 日本海 の海峡に関 す るシンポジウムが行 われ,
囲の海から 日本海には深 層の水 は 入って く ると こ
津 軽海峡( S UGI MOTO et al.,
ろが ない。 し たが って ,日 本海 の 温度の低い深 層
MAKI
の水は日本 海のどこか で冷 や さ れて 沈降 した もの
対馬 海峡( TAWARA et al., 1984) など につ
であ ると考 えら れて い る。 その場所は日 本海 の北
いて の研 究報告 がま とめら れて い る。
部 沿岸 域とさ れて い るが, 西 岸という説 もあ る
(Gamo,
1983) 。そして, そ れが大和堆を 乗り
1984., ODA-
, 1984), 宗 谷海峡(AOTA,
1984),
図 6は富山湾 と大 和堆海 域の ポテン シ ャル水 温
の鉛 直分 布を 示した が, 水 深200 m で共 に 2°
C
越えて 日本 列島沿岸 に も到達 するo もち ろん原料
を下 まわり, 1,000 m
水深 においては 富山 湾で は
と な る水 は日本 海の表 層の水 で, 元をた だせ ば対
0.1 °
C 以下 になって い る。 水 温躍 層はい ず れ も
島 海流を は じめ 日本海 に流 入するすべて の水 であ
水 深300 ∼400 m にあ るので,成 層圏は400 m 以
る。
深 という こと にな る。
こうして でき た日本 海固有 水 と呼ばれるものが,
図 7は富山湾 の水 温, 塩分 の鉛 直分 布 であ る。
日本海 の中 層, 下層の ほと んどを 占めて い る もの
塩分 躍層 は水 深100 m ほど のとこ ろにあり , 水 温
JAMSTECTR
20 (1988)
49
図 5 駿 河ト ラフ海 域につ いて のT − Sダイヤ グ
ラムで下 層の塩 分値が均質 にな って いる。
1987 年10 月
Fig. 5 T − S diagram showing homoge nous water
of the salinity in the Bottom layer in
Suruga Bay in Octber, 1987.
| ・_」
0 0.
4
図 6 富 山 湾 と 大 和堆 海 域 の200m
以 深 にお け る
ポテ ンシ ャ ル水 温 の鉛 直分 布
躍 層 は300m
付近 にあ る。密 度分 布図 ((yt) は
300m に大 きな 躍層 があ って, その上 に小さ な変
動 の多 重構 造にな って いる。 下 層では 水 温は徐 々
に下 がり, 水深1,000m
で は約0.1 °
C に,塩分 は
Fig. 6 The vertical distribution of the potential
temperature below a depth of 200m in
Toyama Bay and at
a bank called Yamato
Rise near the middle of Japan
.Sea
34.10 ‰前 後になっている。 この躍 層以 下の水 すべ
沿 岸に沿 って 北 上したものと考えられる(KAWAI,
て が日本海固 有 水であ ろう。
湾内 5点 での資料 から地 衡流 の計算 を行 った 結
果,1 00 m 以 浅 の表 層で最大 2Kt 弱の,300 m 層
で0.6 Kt の半時 計回り の流 れがあ った。 上層にこ
1974)。 富 山湾 の上層 の高塩 分層については後 にも
う一度 検討 す る。
図 9は 日本海 秋田 沖合 のT − Sダイヤグラムで,
れ だけ の流 れがあ るに もかか わらず, 中 層以深 の
下 層の水 温座 標を拡 大して 別 に記し た。 塩分 は表
塩 分値は 一定 してい る。 もう 一度上 層 の塩分 の鉛
層を除いて , 水深170 ∼300 m の 卜層が最 も濃 く
直分布を 見て みる と, 100m
から300 m の 間に塩
34.25 ‰で,中 層に向 かって徐 々に減少 して いる。
分 極大 値を持 つ大 き な変動 があ る。 こ れを詳 しく
中 層か らは深 層 にむ か ぢて 塩 分は さら に少し ずつ
みるため に図 8 に塩分 の断 面を示 した。
減少し,800m 層で34.10 ‰以 下と なる。 深 層の
図 8において 水深150 ∼250m
間 に塩 分 値 の
2,000m 以 深 において も塩 分は 減少を 続 け2,500m
34.20 ‰とい う大 きな層が あって,逆 転層 にな って
層で34.05 ‰程度 になり, 3,000m の 底層で もう少
い るo こ れは 日本海 や北太平洋 によ くみら れる小
し小 さな値 にな って いる。
規模の暖水 塊で, ここ日本海で は対馬 暖流の 日本
50
秋田 沖合 と富 山湾の海 洋 構造を 比べて み ると,
JAMSTECTR 20 (1988)
図7
富山 湾中央付近 の水 温,塩分 そして(7tの鉛 直分布 図
The vertical profiles of temperature, salinity and
‘7t in the mid-area in Toyama Bay
Fig. 7
in August,・1983.
図8
Fig. 8
JAMSTECTR 塩分分布 の南 北断面図, 富山湾137 ° 14'E において
South-North section of salinity cross Toyama Bay at 137
20 (1988)
°14'E in August, 1983
51
図 9 男鹿半島北西水深3,200 m 海域のT −Sダイヤ グラム, 1983 年9月
Fig. 9 T-S diagram for the water at the station of the depth of 3,200m off Akita in
Japan Sea in September, 1983.
全 体的 傾向 は良 く似て い る。 し かし, 秋田 沖 にお
黒 潮流 域であり, 上層 の水は 沿岸 水の 影響は 少な
け る水 深3,200 m にお ける底 層の 水の塩分値 が,
く, 黒潮 の影 響を 強 く受 けたよ うであ る。
日本海 の底 層水 の塩分 値とい わ れる値 に 比べて小
さい よ うに思 わ れる。
中層 にお ける塩分 値は反 対に三 陸沖合 が四国 沖
合 に比べ て 高い。 北太平 洋 におけ る中 層水 は, 塩
分 の極小 値を持つ こ とで特 徴づけら れ, そ の深さ
4
4.1
考 察と まと め
太平 洋 側 の水質
まず太 平洋 沖合 の 2つの海 域 におけ る水質 につ
いて 検討して みる。 三 陸沖合 の上 層水, 水深200
ぱ*t=
(RE
26.8 g /1 の等値 面付 近 であ る といわれる
ID, 1965) 。 黒潮 海域 にお いて は, その塩
分極小 値は34.0∼34,1 ‰で 水深800m ぐらいである
ことをSVERDRUP
ら(1942)
は示 して いる。
m 以 浅で は 温度18 ℃以 上で塩 分は 薄く, 表層 近 く
図 4の駿 河湾 並 びに相模湾 の中層 水では塩分 極
で 最小 になって い る。 当海 域は沿 岸 水の影響 の及
小 はさら に明瞭 では なく なる。 極小 値は34.15 ∼
ばない黒 潮の沖 合で, 北太平 洋中央水 域と考え ら
34.35 ‰で 水 深が700m ほど であ る。沿岸海 洋で あ
れるが, 極前 線が 近い ため寒 流系 の水が 関係し た
るため, 両湾の 表層 は陸 水の影響で 塩 分値 は低い
もの と推定 さ れる。
が, 中層は 全体的 に 西部北 太平 洋の 平均的 な塩 分
こ れに 対して 比較 的沿岸寄り の 四国沖 合 の表 層
値より も高い 値で あ る。
水の塩分値 は,三 陸沖 合の それ に比 べて 高い。 四
こ れらを まと める と, 4海域 のうち で, ほぼ 黒
国 沖 合で は水深400 m 以 浅で水 温12°
C 以 上, 塩
潮 流域 であ る四国 沖 の水が西部北 太平 洋 の典 型的
分値34.25 ∼35.10 ‰に'な って いる。当 海 域はほ ぼ
な値に近 く, 黒潮流 の沖側 におい て も, 沿岸 側 の
52
JAMSTECTR 20
(1988)
2水 域において も, 中層 水の塩 分値 が高 か った。
こ れは, 日 本近海 の極前線 水域 でつくら れた 亜
水塊 と 接触して 混合 が生じ ると, 混合 水は以前 の
密度 よ り も大き くな って 沈 降が 生 じること がある。
寒帯 中層 水が 北太平洋を循 環し ながら塩分 を増 し
富山 湾は 対馬 海流 による 高い 塩分値 の水塊 の到
てい くこ とを考 え れば納得 しう ることであ る。 相
達 す る海 域であり, 冬期 には 風 による蒸発 と冷却
模湾 や駿 河湾 のよう に陸地 と黒潮 に囲ま れた半 閉
は著し い。 この ことから, 当 湾 では密度 不 安定 が
鎖水 域に, 亜寒 帯中 層水 が到達 する過程に おい て
生 じること も十分考え ら れる。 当 湾の上層 には沿
陸水及び 黒潮 の影響を受 け た水 の混 入が考 えら れ
岸 に沿 った反時 計回り の循 環流 も認め ら れて いる
る。 さら に もう 1つ の原因 として ,駿 河ト ラフ に
ので, 長い期 間 に少 し ずつ 塩 分が 下方へ 補給さ れ
おけ る流 れの例(図 5) に示し たよ うに, 流 れと
る可 能性 はあ る。
海底 地形と の作 用によ って 混合 が生 じる可 能性 も
十分 にあ る。
5 謝 辞
表層 の塩 分 につ いて は, 相模 湾の100m
層の 水
本 報告 に 用い たSTD の資料 は深海曳 航調 査及
温, 塩 分が, 黒 潮の流 路の変 化 に従 って 変動 す る
び潜 航調 査 によ って得 ら れた もの である。 調 査を
例が示 さ れて い る(KAWABE et al., 1987 )。
行 われた, あ るいは ご協力を 下さ った深海研究 部,
運航部 の方 々 に御礼を 申し上 げま す。 資 料 の整理
日本海 におけ る水質
富 山湾, 秋口
]沖 のい ず れにおい て も中 層お よ び
4.2
お よ び作図 等 では, 同室 の神宮 忍女 史の ご協力 を
得 まし た。 同女 史に感謝 の意を 表し ます。
深層 にお ける 水は,水 温2℃以 下, 塩 分34.10 ‰前
後の 日本海固 有水で ある。 秋田 沖 におけ る中 層お
参考文 献
よ び深層の塩 分は, 深 さの増大と 共に わず か に減
Aota, M・, (1984):Oceanographic Structure of
少してい るが, 富山湾 において は ほと んど 変化が
the Soya Warm Current, Bull.
ない。 また, 秋田 沖では2,000m 以 深 にお いて も,
ogr・, vol. 22(1), pp. 30-39・
底層 に向 って わず かなが ら減少を 続けて いる。 こ
れは深層 水に おけ る一般 の概 念と は異な る状 態で
あ る。
Gamo,
300 年 と もい われる日本海底 層水 に(Gamo,
19
83 ) 海底 からし み出した 水で もあ れば, こ れ に
よ って 塩分 が薄めら れるこ と も考えら れる。 こ の
M. and Yoneno,
Influence of the Kuroshio Path,
Kawai, H・, (1972): Hydrography of the Kuroshio Extension, KUROSHIO, pp. 235・352・
images in the Japan Sea,
れと の関 係 の 有無 はまだ 分ら ない。
Warm Current
富 山湾は 水域 の3 /4 近 くを 陸地 に囲ま れて お
J. Oceanogr.
Soc. Japan, vol. 43, pp. 283-294.
の痕 跡が深 海カ メ ラにより 認め ら れて い るが, そ
さく なら ない理 由 につ いて 考 えて みたい。
M・, (1987): Water
and Flow Variations in Sagami Bay under the
Kawai,
かか わらず, そ の中 層や底 層 におけ る塩 分値 が小
J. Oceanogr. Soc.
Japan, vol. 39, pp. 220-230.
付近 には, 過 去に海底 岩盤を破 壊した大き な地 震
今度 は富 山湾 の水 が, か なり の湾流 があ るに も
Y・, (1983): Abyssal
Circulation in the Japan Sea,
Kawabe,
た だし, こ のこと につい て は, 平均 滞溜時 間 が
T. and Horibe,
Coastal Ocean-
H・,
(1974): Transition of current
In,
the Tsushima
―Ocean structures and fishery,
ed. by Fishery Soc. Japan, Koseisha-Koseikaku,
pp- 7・26 (in Japanese).
Nitani, H・, (1972): On the deep and bottom
waters in the Japan Sea. In, Research in
drography and Oceanography,
ed. by Shoji, D・,
り, 湾内 には雪 解け水 の湧 出や土石流が生 じる こ
Hydrographic Department of Japan,
と があ るとい われてい る。 し かし, こ れら の現象
201.
が湾 の中層以 深 の水に影響を 及 ぼすことは考 え に
Odamaki,
くい。 上層 の水 が中層あ るい は下 層に影 響を 及ぼ
す可能 性として は, 下記 の現 象が 挙げら れ る。
たと えば当 湾 の150 m 層 にみら れるよう な高塩
分 層(図 7ま たは図 8) の水塊 が, 周 囲の低 温の
J A・MSTECTR 20 (1988)
Hy・
pp. 15J・
M., (1984): Tide and Tidal Current
in the Tsugaru Straits,
Bull. Coastal Oceanogr・ ,
vol. 22 (1),pp. 12-22.
Reid, J. L
(1965):Intermediate waters of the
Pacific Ocean, Johns Hopkins Oceanographic
Studies, 2, pp. 85-86.
53
Suda,K.,
(1932): On the bottom water
in the
Japan Sea, J. Oceanogr・, vol. 4, pp. 221-241 ・
Sugimoto, Kawasaki,
Y.,
(1984):
Seasonal and yea-to・year Variations of the
Tsugaru Warm Current and Their Dynamical
Interpretation,
Bull. Coastal Oceanogr・ , vol. 22
(1) ,pp. 1-11・
Sverdrup,
H. U., Johnson,
R. H.,.(1942): The Oceans,
M. W. and Fleming,
Prentice-Hall, New
York, pp. 739-745・
Tawara, S., Miita, T. and Fujiwara,
T., (1984):
Oceanographical Structure and Its Variabilities
of the Tsushima Strait,
Bull. Coastal Oceanogr.,
v01. 22 (1),pp. 50-58.
( 原稿 受 理 1988 年 4月15 日)
54
JAMSTECTR 20
(1988)