Document

ハウスにおける水利用の実態と課題
−静岡県三方原用水地区事例−
Conditions and Problems about Using
Water under Greenhouse
−Case Study at Mikatagahara Irrigation Area,Shizuoka Prefecture−
○ 駒村正治、近藤晋一郎
Masaharu KOMAMURA,Shinichiro KONDO
1.はじめに
本調査の対象地である三方原用水地区は、静岡県西部の三方原台地に位置し、2005 年時
点における受益面積は 3,320ha(水田 620ha、畑 2,700ha)である。気候は太平洋沿岸のた
め年平均気温が 16℃、年間平均降水量が 2150mm と温暖多雨であり、畑作に適した気候で
ある。なお、土壌は赤黄色土であり、土性は植壌土ないし軽植土である。
調査の目的は、ハウスにおける水利用の実態を気象、作物、営農などの要因から解析し、
合理的・節水的灌漑方法を探るものである。とくに三方原用水の水源である天竜川におけ
る緊迫した水利調整が浮上している今日、貴重な水資源および揚水エネルギーの省資源・
省エネのため、より有効な水利用および灌漑効率向上の必要性が高いためである。
2.調査地区の概要および調査項目
ここではハウス面積割合が 40%程度と高い CH 地区(受益面積 27ha)および地区内のH農
家のハウスを調査対象とした。地区の主な作物は、ハウス・露地とも春夏作がメロン、ト
マト、秋冬作がセロリ、キャベツなど、1年2作が多い。調査項目は、CH 地区ファームポ
ンドの加圧ポンプ運転記録による揚水量(使用水量)、作物栽培面積、ハウス内外における
気象観測、テンシオメータによる土壌水分量および灌漑水量・農作業記録収集である。
3.結果および考察
(1)CH 地区の水利用
2005 年における月間使用水量は図−1に示すとおりである。こ
の図には浜松気象台の記録からペンマン法によって求めた蒸発位および降水量も併記して
ある。使用水量は受益面積で除して水深(mm)単位で表示した。使用水量からみて年間を通
して利用され、冬期が 30mm 程度、春∼夏が 50mm とやや多く、9月が 73mm と最大であり 、
その後減少している。年間の使用水量は 560mm 程度であり、畑地灌漑実績としては多い。
三方原用水全体の天竜川からの基準水量と取水量の関係は図−2に示すように、10 月から
翌年の5月までほぼ同程度であり、取水量は基準水量の限界に達しているといえる。
降水量
蒸発位
取水量(05年)
0
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
25000
700
11
月
12
月
9月
10
月
8月
7月
1月
6月
0
800
Using Water Requirement and Precipitation
5000
5月
600
10000
4月
500
15000
3月
400
20000
2月
300
水量(1,000m3)
200
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
Fig.1
基準水量
100
降水量(mm)
使用水量・蒸発位(mm)
使用水量
Fig.2 Basic Water Requirement and Intake Water
農 業 大 学 地 域 環 境 科 学 部 Faculty of Regional Environment Science, Tokyo University of Agriculture
キーワード:畑地灌漑、ハウス、灌漑水量、蒸発位
(2)ハウスにおける水利用
ここでは 2005 年秋作のハウスセロリ栽培期間における灌
漑水量、消費水量(土壌水分減少量)およびハウス内蒸発位の結果(図−3)から検討す
る。セロリは9月下旬に定植し、翌年1月 10 日から収穫を開始した。定植前においてハウ
ス土壌の塩類除去・耕起のため、やや多量に灌漑し、その後の生育促進のため頻繁に灌漑
を行った。灌漑方法は頭上に設置した塩ビ管のノズル方式であり、灌漑強度は1mm/分、1
回の灌漑時間は 10∼15 分、灌漑水量 10∼15mm である。間断日数は5日程度であり、日量
2∼3mm に相当する。この期間の消費水量は平均2mm/日程度であり、灌漑水量に比べて
やや少ない。ハウス内蒸発位は、9月に3mm/日と多いが徐々に減少し、12、1月には1mm/
日以下になる。消費水量と蒸発位の関係(作物係数対応)は、2以上の期間があり、既存
の値と比べて大きな値である。これはハウス内の蒸発位が比較的少ないのに対して、消費
水量が過大に算出されたためと思われる。この理由として、灌漑水量が多いため、消費水
量は蒸発散量のみでなく、下方浸透が含まれるためと思われる。
(3)ハウスの気象特性
同期間に観測したハウス内とハウス外(露地)における気温、湿
度、風速、日射量および蒸発位を比較した。図−4に示すように、旬間平均日蒸発位はハ
ウス内がハウス外よりやや高いが、それほど差がなかった。これはハウス内の気温が高い
が、湿度がやや高く、風速もほとんどなく、日射量も露地の 80%程度と少ないためである。
すなわち蒸発位に影響する気象因子のうち気温以外の影響が小さいためである。ハウス管
理は作物、栽培時期および管理方法によって異なるため一概にはいえないが、H農家の場
合は 12 月の中旬に夜間温度が5℃以下で加温する。加温する頻度が少なく、ハウス内温度
はそれほど上昇せず、蒸発位も露地と比較してそれほど高くなかったものと判断される。
4.まとめ
ハウスおよびハウス地帯における水利用の実態を調査した。本地区ではハウス栽培が盛
んであり、そのため冬期の使用水量が多く、天竜川の基準水量の限界まで取水している。
この大きな理由としては、冬期間の基準水量が少ないことと、ハウスでは降雨を利用でき
ず多量な灌漑を実施しているなどである。今後の対策としては天竜川からの基準水量の見
直し、節水灌漑の実施などが重要である。しかし、前者は簡単には解決できそうもない。
そのためより節水的・合理的な灌漑および水管理の必要性が高いといえる。
Fig.3
Water Use and Irrigation
0
Fig.4
気温(℃)
10
0
12月11∼20
20
1
11月1∼10
30
2
3月1∼10
12月26∼31
12月21∼25
12月16∼20
12月11∼15
12月1∼5
12月6∼10
11月26∼30
11月21∼25
11月16∼20
11月11∼15
11月1∼5
Consumptive
11月6∼10
10月26∼31
10月21∼25
10月16∼20
10月11∼15
0.0
10月1∼5
0
40
3
11月21∼30
0.5
50
4
10月11∼20
1.0
1
60
5
9月1∼10
2
70
6
9月21∼30
1.5
7
8月11∼20
3
内気温
7月1∼10
2.0
内蒸発位
外気温
7月21∼31
4
外蒸発位
6月11∼20
2.5
5月1∼10
3.0
5月21∼31
5
4月11∼20
3.5
3月21∼31
6
蒸発位(mm)
灌漑水量
作物係数
蒸発位(mm/d)・作物係数
消費水量
ハウス蒸発位
10月6∼10
灌漑水量・消費水量(mm/d)
最後に、本調査にご協力いただいた関係機関および農家の皆様に感謝いたします。
Evaporation and Temperature under Greenhouse