松原商店街プロジェクト 2010 はじめに 松原商店街と言えば、周辺地域だけではなく、遠方からもお客さんがやって来る「ハ マのアメ横」としても有名な商店街である。全国の多くの商店街が衰退していく中、連 日驚異的とも言えるほどの人が集まって来るのだ。その魅力は簡単に表現することは難 しいが、あえていうならば「安さ」と「人情」ではないだろうか。 「安さ」とは、松原商店街の何よりの特徴であるだろう。毎日が大安売りと言っても 過言ではないような価格。さらに、そんな安く買えるお店が数多く存在するのだからやっ て来る人にとっては、大変魅力的に違いない。 「人情」とは、松原商店街に限らず、大型店舗にはない商店街独自の文化とも言える。 ただ買い物するだけではない、店主と客によるコミュニケーション。通信機器が発達し、 人とのコミュニケーションが疎遠となった現代では、非常に貴重な場である。さらに松 原商店街では、毎日がお祭りのような盛り上がりである。商店街に来ただけで楽しい気 分になれる、そんな魅力があるのだ。 「そんな松原商店街に一体どんな課題があるというのだろうか?」 これが今年度松原商店街プロジェクトに参加することになった我々のスタートであっ た。調査を初めてみると、現在の課題というよりも、近い将来大きな問題になるであろ う「潜在的な課題」がいくつか存在した。それらの課題は松原商店街の独自性に起因す るものであり、独自の発展を遂げてきた松原商店街だけでは解決しづらいものであった。 そこで、今年度は、「繋がり」をコンセプトに活動を進めていった。それは、商店街 と横浜国立大学、商店街と近隣住民、さらには、商店街内部に至るまでの「繋がり」を 大事にした。それによって、松原商店街元来の良さであった「人情」をさらに魅力的に するだけでなく、「繋がり」の中で新しく現代の松原商店街の魅力を創出することを目 的とするものであった。 今回の松原商店街プロジェクトにおける問題は、商店街に限らず、現代社会が抱える 課題とも言えるべきものであり、それに対しての取り組み方という観点から今年度のプ ロジェクトを考えてみても面白いかもしれない。 01 目次 はじめに 01 コミュニティ形成プロジェクト 04 松原商店街とは 05 新イベントの提案 06 商店街内の意識調査 08 PCM ワークショップ 14 街路灯プロジェクト 18 はじめに 19 指針決定 21 アンケート・分析 22 照度計測・分析 26 方針決定 27 総評 29 参画学生 久保田萌(教育 /B2) 小林翔(建築 /B3) 吉野遼平(シビル /B3) 担当教員 福多佳子(VBL 講師) 松行輝昌(VBL 講師) 連携者・外部協力者 洪福時松原商店街組合 上田直子様(横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科 講師) 金井智恵子様(株式会社 横浜フリエスポーツクラブ) 岸岡真人様(神奈川県 商工労働 局)関口範久様(神奈川県 商工労働局) 齋藤勝利様(横浜市 経済観光局) 神田憲治 様(大成建設株式会社) 協賛/協力 全国商店街振興組合連合会 神奈川県 横浜市 02 コミュニティ形成プロジェクト 松原商店街+YNU 04 松原商店街とは 松原商店街は昭和27年に「松原安売商店街」として始まった。戦後の物資がない時 代から安売りをモットーとしてきた商店街である。現在では、「安さ、来やすさ」を商 店街のコンセプトに、各商店が強い信念と営業への努力と工夫によって活気を生み出し ている。 天王町駅から歩くこと約5分。松原商店街に一歩足を踏み入れると、別の世界が広がっ ている。威勢のいい声、所狭しと並べられた商品やダンボール・・・ 松原商店街の店は、安さと品質で勝負している。どの店もそれぞれ個性があり、色ん な店を渡り歩くだけで、まるで宝探しをしているかのような楽しみが得られるのである。 その一方で、現在も賑わっているとはいえ、不況の影響でわずかだが客足は減ってい る。また、建物の老朽化、高齢化、跡継ぎの不在などの問題も抱えている。さらに、1 年以内に近隣に大型店舗ができることもあり、これらの問題に対処していくことは必要 不可欠だろう。 新イベントの提案 昨年度のイベントを振り返って 昨年度の松原商店街プロジェクトでは、お客さんに商店街にある飲食店の自慢の一品 を食べ歩いてもらう「味めぐりプロジェクト」というイベントが行われた。このイベン トは大盛況であったにも関わらず、それ以降行われることはなかった。横浜国大の学生 が中心として行われたイベントであったので、商店街だけで行うには、人手不足という 問題が存在したのである。 そこで、今年度は商店街の方だけで行える持続性の高いイベントの提案をしようと考 えた。イベントを行うことによって、松原商店街に来てもらうきっかけにもなり、また、 常に賑わっている松原商店街をより元気にする効果があると考えたからである。 数店舗の連携から商店街全体へ広げていくようなイベント 06 新イベントについての話し合いの様子 イベント実施への課題 新イベントの実現に向けて、商店街の青年部の方々と何度か話し合いを重ねた。青年 部の方々とは、現在の商店街の運営の重要な部分を担っている方々である。話し合いの 中で挙げられた問題点を改善していったものを提案しても、「これは出来そうだ」とい う返事が返ってこない。 しかし、話を伺っている中で、新しいイベントを運営できない最大の理由は、「商店 街の中で協力し合う体制が十分には整っていない」ことなのではないか、という仮説を 考えた。このことについて、青年部の方々にもお話を伺ってみると、「協賛金は納めて くれるが、運営に積極的には協力しない」、「会議に出席しない」店主の方が多くいる、 という結果であった。 つまり、持続的なイベントを行うためには、まずは商店街の中で協力し合う体制を作 ることが必要なのであった。 07 商店街内の意識調査 商店街の意識の実態調査 商店街の中で協力しあう体制が十分にはできあがっていないということで、まずは、 それが一体どの程度でどのような原因によるものかを調査することにした。初めに、商 店街の中でも影響力が大きいと考えたいくつかの店舗にインタビューを実施し、その後 全ての店舗にアンケートを実施した。 インタビューの概要 インタビューでは、会議にあまり出席していないが、商店街の中で影響力のあると考 えられている5店舗の方にお話を伺った。具体的な質問内容としては、商店街の現状を どう考えているか、商店街全体のことについて話し合う必要はあるか、現在行われてい る会議に問題はあるか、などであった。今回のインタビューの目的は、商店街の方の意 識を調査するだけでなく、現在抱えている課題について改めて考えてもらうきっかけ作 りという狙いもあった。 インタビューの様子 インタビューの結果 どの店舗の方も商店街の現状に課題があることは感じていた。しかし、それは必ずし も協力する体制ができていないことではなかった。例えば、駐車場や公衆トイレといっ たハード面の不足、顧客の高齢化、店舗での世代交代などが挙げられる。 また、会議の問題点については、時間の問題(松原商店街では、遠方から働きに来て いる方も多い)、議題が曖昧、意見が反映されにくいなどが挙げられた。 以上のことから、インタビューに伺った店舗の方々は、必ずしも協力し合う必要性を 感じてはいなかったことがわかる。しかし、上で挙げられたような課題を解決するため に新しい客層を狙ったイベントが必要、という意見もあったのだが、それには1店舗だ けでは当然開催することはできない。そうなってくると、必然的に協力しあう必要があ るのではないかと考えた。 つまり、現状の会議の問題点の改善や、商店街の中での意識の共有ができれば、協力 しあう体制が整っていくのではないかと考えた。 09 アンケートの概要 アンケートは、インタビューの結果を基にして作成した。アンケートの目的は、イン タビューによって得られた現状に対する認識が、商店街全体の認識と捉えて良いかを判 断するためであった。また、多くの方の意見を集めることで、新しい発見があるのでは ないかと考えた。 以下にアンケートの結果を示す。 10 11 アンケートの結果分析 アンケート調査によって、商店街の約9割の方が、多少なりとも将来について不安を 抱えていることがわかった。内容もインタビューの結果と類似しており、商店街全体が 不安を抱えており、さらに約半数の方が商店街の将来について話し合う場が必要だと感 じている。 一方、会議の現状については、問題が「ある」と答えた方が20%程度いる一方で、 「な い」と答えた方も35%程度いた。これは実状と異なっているが、「わからない」と答 えた方達は会議に出ていないため選んだのではないかと考えた。 インタビューの結果と併せて考えると、商店街においてハード面やイベント等様々な 課題はあるが、それらを解決するためにはやはり商店街の中で協力する体制が必要と なってくるであろう。 そのためには、私たちが主体となって話し合うのではなく、商店街の方同士で話し合 えるような場を作っていくことが大事であると考えた。 12 PCM ワークショップ ワークショップの概要 インタビューとアンケートの結果より、商店街の方々が主体的に話し合える場を作る 方法についてプロジェクトのメンバーで議論を交わした。その結果、 「PCM ワークショッ プ」という方法を用いることにした。 PCM ワークショップとは、主に JICA などが発展途上国の支援に用いているワーク ショップの1つであり、様々な立場の参加者が主体的に議論し、課題に対する対策を考 えていくことができる点が特徴であると言える。また、そうすることによって、参加者 に自主性や、コミュニケーションが生まれるといった利点もある。 具体的には、ポストイットに意見・案を書き出していってもらい、それを模造紙に貼 ることによって課題に関するそれぞれの要素を整理していくという方法を用いる。この 方法の利点は、構造を視覚化することにより、理解しやすくなるということである。 右ページに PCM 法のフローチャートを示したが、各段階の内容は以下のようなもの である。 関係者分析 関係者分析では、取り上げた課題に関係するそれぞれの立場の関係者についての特徴 をまとめ、それぞれが課題においてどのような影響を受けるかを整理する。これによっ て、現状を把握しやすくなる。 問題分析 問題分析では、初めに中心となる問題を決定し、その原因となる問題を書き出し、さ らにその原因を・・といったように問題の構造を明確にする段階である。 目的分析 問題分析によってできた構成図において、それぞれの問題を解決された望ましい状態 に置き換える。それによって、どの問題を解決すれば中心問題を解決することができる かが明確となる。 PJ 決定・評価 目的分析によって得られた問題解決の手段の中から、便益や外部要因を考慮し、プロ ジェクトの決定を行う。また、最終的にプロジェクトの内容を評価することによって、 ワークショップの改善を行うことができ、次回以降へと反省を生かすことができる。 14 関係者分析 問題分析 目的分析 PJ 決定 評価 PCM 法のフローチャート 関係者分析の結果 ワークショップの成果 今回は、商店街の方々に営業もある中で時間を取っていただき、目的分析まで終える ことができた。特に重視した点は、私達プロジェクトのメンバーが抜けてしまっても PCM 法を実際に会議などで利用できるように青年部の方を中心に詳しく説明しながら 行った点である。初めは聞き慣れない方法なのでなかなかうまくいかなかったが、私た ちも商店街の方々もこの方法に慣れ、スムーズに行えるようになった。 構成を視覚化することによって、今まで気づかなかったこと、普段見落としがちだっ たことにも気づくことができたようであった。また、自由に発言することができており、 今まで聞くことがなかった話も聞くことができ、ワークショップの効果があったように 感じた。 しかし、今回このワークショップを開いたきっかけとして、誰でも意見を言うことが できる場を作り、今まで会議に参加してなかった方に参加してもらうことがあったのだ が、事前に勧誘に行ったものの、参加者は増えなかった。原因を尋ねてみると、やはり 毎日の営業に加えて参加するとなると厳しいとのことである。しかし、今回のワーク ショップの取り組み自体には興味を持ってもらうことができたようであった。今後は、 ワークショップに来て頂いた方と来て頂けなかった方との意識の差をどのように埋めて いくかが課題となるだろう。 ワークショップの様子 参加してくださった方の感想 ・今までこういう形式の話し合いをしたことがなかったから、ワークショップはすごく 新鮮だった。大事なことは、青年部だけでなく、商店街全体の意識を向上させることだ と気づけてよかった。 ・自分は若いので、普段は発言しづらかったが、このワークショップは参加も発言もし やすかった。もっと同じ年代の人や色んな立場の人が来るようになると面白くなると思 う。 ・学生という違った視点から商店街の内部を見てもらうことで、新しい考え方を教わっ た。近くに大型店舗ができることに対して危機感を覚えた。商店街全体に危機感を持た せて一致団結していきたいと思う。 ・スケジュール調整がうまくいかず3回だけだったが、これだけの成果を出せたのはす ごい。人数は少なかったが、積極的に意見交換ができたのはよかった。これからもこの 方法を続けていきたい。 まとめ 冒頭にも述べたように、松原商店街は戦後から独自の発展を遂げてきた。それは、各 店舗の個性が強いことが1つの理由として挙げられる。しかし、それが協力体制への弊 害ともなっており、そう簡単に解決できる問題ではないように感じた。さらに、必ずし も協力しなくても、今まで通り各店舗の努力だけで大丈夫かもしれない。 しかし、実際には、多くの方が将来に不安を抱いており、話し合うことの必要性を感 じていた。今年度の活動を通して、商店街の中で、多くの方が不安を抱いていることに ついての意識を共有してもらうことは達成できたので、それをどのような手段で解決し ていくかが今後の課題と言えるだろう。 17 街路灯プロジェクト 松原商店街+地域+YNU 18 はじめに 今回街路灯プロジェクトを行うことになったきっかけは、松原商店街を夜通るのが怖 いという声が近隣住民の方から聞こえてきたからである。昼間は賑やかで、活気に溢れ ている商店街も夜になるとシャッターが閉まり、暗さが際立つ。家屋からの漏れ光も少 なく、街路灯の照度にもばらつきがあり、人の顔も認識しづらいのが原因ではないかと 考えられる。 松原商店街の街路灯は現在36基あり、内訳は、独立したポール型が30基、電柱共 用型が6基であり、建設から25年以上経っているため、老朽化が目立つ。また、使用 されているパーツが古いため、パーツ交換による応急処置もほぼ不可能となっており、 さらに数年前には、2基の街路灯が根元から倒れた。 このような現状を改善するために街路灯を新設し、安心感を得られるような空間演出 を行い、松原商店街に新しい価値を創出できるきっかけを生み出す。 活動の流れ 指針決定 住民への アンケート アンケート分析 照度計測 計測結果の分析 方針の決定 20 指針決定 商店街の方と話し合いの結果、予算が限られているためコストを削減する必要があり、 既製品を使用することが決定した。また、ランニングコストを削減するため LED 照明の 使用を検討することにした。 さらに、今後の活動についての話し合う中で、照明の現状を把握するために、アンケー トと照度計測を行うことを決定した。 また、経済産業省と横浜市に補助金を申請することを決定した。 話し合いの様子 21 近隣住民へのアンケートと分析 アンケートは、照明デザインを専門としてらっしゃる福多先生に協力して頂き作成し た。 宮田町、浅間町の地域住民に各300部配布し、現状の照明に対する評価をしてもら うことで、必要となる照明の要素を明確にする。以下にアンケートの結果と分析を示す。 属性 町名 宮田町 浅間町 合計 年代 性別 20代 30代 40代 50代 60代 合計 回収率 男性 2 6 3 7 21 39 女性 4 8 10 12 35 69 男性 0 3 8 10 17 38 女性 6 28 25 23 39 121 12 45 46 52 112 267 36.0% 53.0% 44.5% アンケート回答者の内訳と回収率 松原商店街の客層は年配の方が大部分が占めているが、アンケートの回答者でも男女 ともに60代が多い。これは、松原商店街の買い物客の多くは遠方ではなく近場から来 ていることを表している。また、本来ならば宮田町の方が浅間町よりも商店街に近いの で回収率が高くなると考えられるが、実際は浅間町の方が高くなっている。このことか ら浅間町の住民の方が松原商店街を利用していると考えられ、その理由としては、宮田 町近隣に SATY が存在することによる影響が考えられる。 Q2松原商店街の夜間通行の頻度 Q1松原商店街の夜間通行の有無 4% 20% 24% 26% ある 週の半分 ない 週1回 無回答 72% それ以下 15% 29% 10% 22 ほぼ毎日 無回答 Q3商店街を通る際の交通手段 21% 1% 0% 3% 徒歩 Q1∼3の結果からわかることは、や 自転車 はり交通手段は徒歩が66%であり、圧 自家用車 倒的に多いこと、72%の人が商店街を バイク(原付含む) 9% 66% その他 夜間に歩いたことがあること、そして4 無回答 人に1人がほぼ毎日歩いていることが挙 げられる。 Q4商店街を夜通ったときの印象評価 宮田町男性 宮田町女性 浅間町男性 Q4において浅間町女性に 浅間町女性 7.0 特に顕著であるが、 「明るい」、 6.0 「にぎやか」が少ない。女性 5.0 4.0 にとって明るさは防犯にも繋 3.0 がるので、無視できない要素 2.0 である。 1.0 安 心 な 調 和 し た 落 ち 着 い た 明 る い 歩 き や す い ま ぶ し く な い に ぎ や か 親 し み や す い 開 放 的 好 ま し い 美 し い 安 ら い だ 見 通 し が 良 い 個 性 的 な Q5街路照明における配慮事項の重要度 Q5においても、「明るさ」 や「見通し」、「防犯」すな 0% 20% 40% 60% 80% 100% わち安心感を最も求めてい 安心感 見通しの確保 省エネルギー効果 均一な明るさ(路面全体が明るい) 街並み(景観)との調和 防犯パトロールなど住民自治への効果 設置維持のための費用 周辺住宅への光害 照明の光色 局部的な明るさ(器具の真下が特に明る い) 照明器具自体の眩しさ 非常に重要 かなり重要 少し重要 あまり重要ではない 全く重要ではない わからない 無回答 ることがわかる。 次に「省エネ効果」や「維 持費」についてなど商店街 への配慮が表れた回答が目 立つ。 23 Q6街路灯の改善によって望む商店街のイメージ 0% 9% 41% 伝統的な商店街 新しさを取り入れた商店街 不明 無回答 50% Q5より、新街路灯に求めるイメージは、伝統よりも新しさを取り入れた方がよいと いう意見が多いという結果になった。つまり、暖かさを感じる暖色系よりも、はっきり と照らす青白い照明を望んでいると考えられる。しかし、その一方で伝統を望む意見も 全体の41%であり、それを無視する訳にはいかない。 Q7改善後に商店街を通るかどうか Q8改善後に夜間営業の店舗が増えたら 商店街に来たいか 0% 20% 40% 60% 80% 100% 街路照明改善後に夜間通る頻度 が増えるかどうか はい いいえ 無回答 街路照明の改善によって夜間開店 のお店が増えたら、夜来たいかど うか Q7より、街路照明が改善されることで、半数以上の方が夜間に通行するという回答 であることがわかる。さらに Q8では、夜間営業の店舗が増えれば60%以上の方が利 用したいという回答であることがわかる。これらの結果より、街路照明を改善すること によって新しい魅力を生み出すことができると考えられる。 24 Q9その他自由な意見 2% 12% 26% 2% 3% 6% 6% 8% 9% 26% 明るさ 安心感 省エネ 光色 新しさ 防犯 均一な明るさ 管理 伝統的 その他 Q9では、質問以外にも意見があれば記入してもらえるようにした。記入していただ いた方は少なかったが、近隣住民の率直な意見として反映させていかなければならない。 上図は、自由意見に書いて頂いた内容をグループ分けして整理したものである。 Q9の意見の例 ・現在の町並みであれば、明るければよい。 ・夜には人っ子一人歩いてなくて不気味で怖い。 ・これほど昼夜で様変わりする街を見たことがない。 ・新たな商店街が一つの見所となれば良い。 ・照明は引き立て役であり、防犯効果を期待する。 ・今はやや暗いので一人で歩くのは不安だが、明るくなれば安心して通れる。 ・明るいだけではなく、松原らしさを感じられる照明を期待。 ・環境にも優しい照明を。 ・季節感を感じられる照明。色調が変化するなど。 ・照明器具に緊急ボタンをつけてほしい。 ・均一な明るさが必要だと思う。 ・店の看板照明で路上を照らしてもよいのでは。 25 現状の照度計測 下図の示すように、4箇所で計測を行った。2m 間隔で道路の両端から0.5m 内側 と道路中央点で水平面照度、また、街路灯中央付近で鉛直面照度をそれぞれ計測した。 照度結果シートの方向 街路灯 浅間下方面 ④ マルヨシ衣料 横浜駅西口方面 ヘアースタンプアクト(漏れ光) ② 焼き鳥ムック 公園 光屋 魚幸水産 マルセン ① ③ カメヤ 環 状 1 号 線 HAC ダイソー 西谷方面 天王町駅方面 国道16号線 図10 照度計測マップ 計測結果の分析 JIS 基準と4箇所の測定結果を右に示す。グレーになっている箇所は基準を満たし ていないことを表している。路面照度平均値と鉛直面最小照度は④以外が、均斉度 (平均的な明るさ ) は②と③が基準を満たした。測定箇所①は店舗からの漏れ光が あったため、均斉度が低くなったと考えられる。 しかしながら、4箇所の測定結果を比較すると照度のばらつきが著しい結果が出 た。その1番の原因は、街路灯がランダムに配置されていることである。この背景 には、店の方々が自分の店の前に街路灯を配置したくなかったということがあり、 26 老朽化による建て直しに行われたので、最終的に現在のような配置となっている。 また、アンケートの結果を併せて考えると、均一な照度ではないということに近 隣住民の方々も気づいているようだ。商店街内の建物は壁が古く、照明計測②付近 には林があるので、照明光の反射光には期待出来ない。また、測定箇所④は街路灯 が少ないので JIS 基準以下だが、防犯照明ガイドのクラス B( 水平面平均照度 3lx, 鉛 直最小照度 0.5lx) の指針より高い結果であった。測定結果だけで考えると暗いとい う状況ではなかった。したがって、昼間の賑やかさと比較してしまうことによって、 心理的に寂しい、暗いといった印象を受けやすいということではないかと考えた。 表1 JIS の基準との比較 調査箇所 路面最小照度(lx) 路面最大照度(lx) JISZ9111*1 路面照度平均値(lx) 均斉度(最小/平均) 10 0.2*2 鉛直面最小照度(lx) 備考 2 ① 4.91 159.5 30.64 0.16 5.57 店舗からの洩れ光あり ② 4.56 40.6 17.29 0.26 6.06 ③ 7.54 37.6 18.81 0.4 6.4 ④ 1.18 24.22 7.19 0.16 0.57 *1 JIS Z9111道路照明基準における歩行者に対する道路照明の基準より交通量が少ない商業地域の基準を適用 *2 道路照明設置基準では歩道における均斉度0.2以上 新街路灯の方針決定 松原商店街の大通りから一歩外に出ると真っ暗で照度の差が歴然となっている。 アンケートにおいても暗くて怖いという意見が多く、近隣住民は安心感が得られる 街路灯を望んでいる。 不安の原因はやはり照度のばらつきによる心理的要因であると考えられ、規定を 満たしても怖いと感じてしまうのではないか。したがって、この心理的要因を解決 するために、明るい国道16号から商店街に向かって徐々に暗くしていく「照度の グラデーション」を用いることを提案する。 今年度の活動を通して、街路灯の現状を把握し、1つの提案も行うことができた。 しかし、実際にはコストとのバランスなども考慮に入れなければならず、まだ街路 灯設置プロジェクトの第1歩に過ぎない。街路灯が整備されることによって、近隣 住民の方が安心して通れるようになり、また、松原商店街に新たな価値を創出でき るようになることを望む。 27 28 総評 29 松原商店街で感じたこと 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科 講師 上田 直子 私は、2010 年春に国際協力機構(JICA)から横浜国大に出向するまでの 21 年間、 JICA で開発途上国の援助プロジェクトのマネジメントに携わってまいりました。このた び、JICA が援助プロジェクトの計画立案・実施や評価に利用している PCM(Project Cycle Management)手法が松原商店街のワークショップに適用されることとなり、私 もその PCM ワークショップの場に参加する機会をいただきました。 PCM 手法は、途上国のたとえば農村部で、住民代表や地方行政職員などの参加を得て、 ある特定の課題をとりあげて、問題は何か?それはなぜそうなのか?その解決手段は? 援助プロジェクトで何ができるのか?ということを一緒に考えていく方法です。これま での途上国での経験から私自身がいつも感じていたことは、当初は、さまざまな問題の 原因があれがないからこれが足りないから…の「ないものリスト」つくりになりがちな ワークショップであっても、全員参加で議論を進めるうちに、私たち外国人はもちろん、 その地の行政も住民もそれまで気づかなかった豊かな社会的資源が徐々に意識化されて いく過程でした。この道筋を経過することにより、えてして海のむこうからやってくる サンタクロースのようにとらえられがちであった援助プロジェクトが、住民の真のニー ズに沿った彼ら自身の事業となり、また現場に自ずからそなわっている能力や強みがそ の計画に活かされ、援助の成果のみならず、自主性と成果発現の持続性をも導きます。 今回、松原商店街でも、PCM 手法のエッセンスが独自の采配で進められた結果、援助 の現場で私が目撃し、実感してきたものと同様の転換が実現したようでした。 新たな気づきが人や組織をかえ、大げさではなくそれはやがて社会をかえていく力に なっていくことを、遠い途上国の物語ではなく、私自身が属する文化で、私と同じ言葉 や感覚の人々と一緒に体験できたことは、私にとって思いがけない発見とよろこびとな りました。貴重な機会を与えてくださったみなさまに感謝いたします。 30 松原商店街における街路灯改善プロジェクトについて―総評コメント 横浜国立大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー 講師 福多佳子 松原商店街は横浜市の中でも有名な商店街で、平日でも大変にぎわっている印象を受 けます。街路灯は設置から 25 年程度経過し、老朽化が著しく、商学交流事業として街 路灯改善プロジェクトとして参加することになりました。単に街路灯の形状の提案をす るのではなく、より松原商店街に相応しい街路灯整備を行なうために現状を把握するこ とが先決と考え、今年度は住民アンケートと現況の照明測定調査を行うこととしました。 工学部建築学コース3年生の小林翔くんがプロジェクトに参加し、住民アンケートの 作成およびデータ入力、現況の照明測定調査を行ってくれました。商店街の伊藤さんも 住民アンケートの配布およびデータ入力にご協力頂き、貴重なデータを得ることが出来 ました。 商店街ならびに小林くんの積極的な取り組みにより、現況の街路照明の課題を明らか にし、また現況の課題を解決するための街路照明の改善方法をまとめることが出来まし た。 プロジェクトの成果として、街路照明の改善だけでなく、今後の商店街の運営方法や 店舗の看板や軒下照明の追加など店舗側の積極的な取り組みの必要性が明らかとなり、 よりオリジナリティのあるプロジェクトにすることが出来たと思います。今後はこの成 果を生かして、より松原商店街に相応しい街路灯を設置できるよう検討が望まれます。 31 松原商店街プロジェクト2010 横浜国立大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー 講師 松行 輝昌 洪福寺松原商店街と横浜国立大学の連携は今年で 3 年目を迎えました。昨年度は、本 学建築都市スクール Y-GSA と協働し、商店街の年末セールに合わせてイベントを開催し、 大学と商店街の連携による地域再生に新しい可能性を見ました。しかし、それと同時に、 こうした連携に持続性を持たせることが課題であるように思われました。 今年度のプロジェクトには 3 名のメンバー(工学部 3 年小林翔、工学部 3 年吉野遼平、 教育人間科学部 2 年久保田萌)が参画しました。この 3 名は今年度から新たにプロジェ クトに参画しましたが、早くから商店街の抱える課題の本質に気付き、来るべき大きな 社会構造の変化に対応するためには、商店街の方々のあいだに新しい「つながり」を構 築し、商店街全体としての新たな価値を創り出すことが重要であることを見抜きました。 吉野君と久保田さんは、商店街の内部組織を変革し、商店街の方々がより積極的に商 店街の意思決定に参画する仕組みをつくることが肝要であると考えました。そのために、 まず商店街の方々に対しアンケート調査と聞き取り調査を行い、現状を把握しました。 その後、PCM 法という開発途上国援助で用いられる手法が有効なのではないかと考え、 国際社会科学研究科の上田直子先生の指導を受けながら、この手法を商店街向けにアレ ンジして PCM ワークショップを数回開催しました。PCM 法を地域再生に応用するとい うアイデアは斬新であり、また商店街の方々にとっては新しい視点を与えるものです。 また、小林君は商店街の街路灯設置のための調査をベンチャー・ビジネス・ラボラト リーの福多佳子先生の指導のもとに実施しました。商店街における照明のあり方につい て、地域住民の方々のニーズや意識を把握するためにアンケート調査を作成、実施しま した。またそれに加えて、商店街現地での照度調査を行いました。これらの調査により、 地域の方々が求める街路灯設置のための具体的な条件が明らかになりました。また、小 林君は街路灯設置の過程に参画することにより、商店街内の合意形成や行政や業者との やりとりなど現実世界での実践的な経験を積むことができたと思います。これらのこと は、今回の商学連携の成果であると考えています。 松原商店街は誇り高い商人の集団です。横浜が誇る人情商店街の魅力は、単に利益を 挙げるだけではなく、お客さんのことを思い商売をするプロフェッショナルたちの日々 の営為によるものです。今後、我が国では大きな社会構造の変化が起こり、私達の生活 は大きく変化していきます。松原商店街はこのような変化に対しても、これまでと同様 に力強く適応し、ユニークで魅力的な横浜を代表する商店街として繁栄していくことと 32 思います。横浜国立大学はこれからも松原商店街のパートナーとして共に歩んでいきま す。 今年度も松原商店街の方々、地域の方々、神奈川県、横浜市の職員の方々など多くの 方々のお力によりプロジェクトを実施することができました。ここに深く御礼申し上げ ます。 33 松原商店街プロジェクト2010 発行 2011 年2月 発行者 横浜国立大学 印刷/製本 野毛印刷 松原商店街プロジェクト2010
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