心理学研究法ⅢC 資料⑬ 第5章 t検定と分散分析の前提の検討 (5)繰返しのある分散分析での等分散仮定 繰返しのある分散分析では、等分散性と独立性は「 分 散 -共 分 散 行 列 に お け る 複 合 対 称 性 」というものにおきかわる。複合対称性を検定するのがいわゆる古典的な Box 検定とい うもので、かつてSPSSはこの結果をデフォルトで出力したものである。いつのまにか オプションすら消滅した。この検定が有意なら、分散分析の結果は「甘 い 」も の ( 第 1 種 の 過 誤 、すなわち有意でないのに有意だとする間違いが増加する)になってしまう。 しかし、行列の複合対称性は正確なF検定の十分条件だが必要十分条件ではなく(すなわ ち厳しすぎる)、「 行 列 の 球 面 性 」 こそが真の必要十分条件である事が指摘されるように なった。そこで現在のSPSSは Mauchly の球面性検定の結果をデフォルトで出力する。 以下の例は、去年の Clark and Chase の結果で出力されたもの。球面性検定は水準数が3 以上ないと無意味なので、この表の中身はまったく意味がない。プリントアウト内の場所 を確認するために掲載した。それぞれの主効果と交互作用について「有意確率」を見て判 別する。 ( 6 ) 自 由 度 の 修 正 と Kirk の 3 段 階 検 定 球面性検定が有意の場合、修正項εによる自由度の修正が必要になる。もっとも保守的な 方法が、自由度を最小値にセットする事で、Geisser-Greenhouse の保守的検定と呼ば れる。これは保守的すぎる(厳しすぎる=第1種の過誤を減少させすぎるせいで、第2種の 過誤すなわち有意なのに有意でないとする間違いが増える)とされる。SPSSは「下 限 」 という名前で出力する。εをより正確に推定する方法として、Greenhouse-Geisser の 方法と Huynh-Feldt の方法がある。これらもデフォルトで出力される。 Kirk(1982)はこれらの技法を総括し、以下のような3段階の意思決定法を提唱している。 ① 通常のF検定を行う。有意でないならそれで終了。有意なら②へ進む。 ② 保守的F検定を行う。有意ならそれで終了。有意でないなら③へ進む。 ③ Greenhouse-Geisser 法か Huynh-Feldt 法で自由度を修正する。その結果を受け入れ る。 上記のSPSSの出力の右側に、この3段階検定を行うためのε値がある。この表の下に、 それぞれのεに基づく修正検定の結果が出力される。この表は非常にみにくい。 「球面性の仮定」とは、球面性が保証されたときの修正なしの結果のこと。 (7)多変量分散分析(MANOVA) 以上述べた通り、繰返しのある分散分析の前提条件を検討する事は非常に面倒である。し かし、かわりにMANOVAを使うという手がある。M A N O V A は 正 規 性 の み を 前 提 に し て い る の で 、行 列 の 球 面 性 な ど は ま っ た く 気 に し な く て い い のである。そのため、 SPSSは第一にMANOVAの結果を出力してくるのである。だったら最初からこれを 使えばいいじゃないかと思うだろう。全くそのとおりである。しかし「MANOVAは繰 返しANOVAと等価である」という事実は心理学界に普及しておらず、そのために学術 雑誌ではほとんどMANOVAにお目にかかる事はない。場合によっては、MANOVA を使うと論文の書き直しを命じられる事さえあるそうである。馬鹿な話である。 以下が繰り返し分散分析の出 力 の 冒 頭 に燦然と輝く、しかし誰も使っていない、MANO VAの結果である。いろいろな種類があるが結果はほとんど変わらない。 このようにSPSSの出力は、分散分析法の研究史を直接に反映した、非常に高度なもの である。昔話で恐縮ですが、私は大学院時代の博士資格試験の準備中にこれを発見し、深 く 感 動 したものである。しかし高度な分、非常にわかりにくいものでもある。
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