H18卒業論文pdf

選炭ジグ制御シミュレーションシステム
愛 宕
丈
史
(Takeshi Atago)
(指導 : 太屋岡篤憲)
選炭とは, 掘り出した原炭から製品となる石炭と不純物である硬 (ズリ) とを分ける工程であり, 代表的な選炭方式
であるジグ選炭は石炭と硬との比重の差を利用して両者を分離する制御方式である. 本稿では, 現場の選炭ジグ装置
に近い形の制御系を, 制御対象にアナログコンピュータ, コントローラに PC 及びシーケンサを用いて構成した. さ
らに, 現場で活用できる制御系を検討するために,P,PI,PID 制御を行い, 本システムの有効性を確認した.
キーワード:選炭 ジグ装置 制御系 PID 制御
1. は じ め に
鉱山から掘り出した原炭は, 石炭と不純物である硬から
成る. 現場での選炭は液体中に掘り出してきた原炭を入れ,
上下に振動する脈動水流を与えることで比重の違いにより,
石炭と硬とを分離・成層するジグ装置が用いられている. こ
の作業は, 実際に売り出す時に, 硬を何%という割合で製品
炭に含ませなければならないからである. しかし, 現状では
ジグに供給される原炭中の石炭と硬の比率が毎回変動する
ため, 現場では熟練のオペレータが勘と経験に頼って制御を
しているのが現状である.
図2
図1
実際に現場で使われる選炭ジグ装置
選炭ジグ装置
図 3 現場のシステム構成
2. システム構成
〈2・1〉 現場のシステム構成
図 2 に,実際の現場で
〈2・2〉 システム構成
用いられる選炭ジグ装置を示す.水の入った水槽の中に原
図 4 に,本研究で作成したシ
炭を入れ,水槽に上下に振動する水流を流すと比重の違い
ステム構成を示す.本システムは,制御対象としてアナロ
により石炭と硬が分離する.ここで,石炭と硬の中間の比
グコンピュータ,コントローラとして PC,両者をつなぐ
重を持つフロートの高さ y[m] をもとに,硬抜き装置を用
シーケンサから構成され, 現場の制御に近い形の構成となっ
いて硬を貫き, 製品炭に含まれる硬の割合を制御する.現
ている.現場での選炭プロセスの解析により,選炭ジグの
場での制御はシーケンサを用いた PI 制御が行われ,その
伝達関数は,一次遅れ+むだ時間系で近似できることがわ
際,オペレータが比例制御のパラメータ調整を行っている.
かっている. この制御対象をアナログコンピュータで作成
しかし,石炭と硬との比率の変動や外乱により,製品炭の
し,操作量をシーケンサの A/D・D/A 変換を介してコン
品位を一定に保つことが困難となっている.図 3 に, 現場
トローラを用いて取り込み, コントローラから操作量を送
のシステム構成を示す.
り,PID 制御を行った.
平成 18 年度 卒業研究論文集
19
図 6 アナログコンピュータによる作成手順
図4
本研究のシステム構成
4. 研 究 結 果
〈4・1〉 むだ時間の 1 次近似
3. アナログコンピュータ
〈4・1・1〉 制御対象の作成
アナログコンピュータは, 微分方程式の形で表される現象
本研究では, 制御対象の伝
達関数のパラメータをゲイン K=1, 時定数 T=12[s], むだ
の解析に用いられる装置で図 5 に示すように, 積分器や係
時間 L=2[s], 目標値を 1[v] として, 対象の作成を行った. 式
数器, 正負変換器などの演算要素を用いて解析を行う演算
(1) に制御対象の伝達関数を示す.
装置である. アナログコンピュータは, スケーリングを行わ
なければ計算できる範囲が狭いことや, 精度がディジタルコ
G(s) =
ンピュータよりよくないことなどの欠点はあるが, 結果が連
続した波形で現れることや, 計算が速いことなど, 微分方程
1
e−2s · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (1)
1 + 12s
入力を X(s), 出力を Y (s) とすると,Y (s) は
式の解析には適している. 今回, アナログコンピュータを用
いて制御対象を作成したのは, 対象の伝達関数が一次遅れ+
Y (s) = G(s)X(s) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (2)
むだ時間系であり, 微分方程式を解くことでアナログコン
ピュータで作成しやすいということと, 現場での現象が連続
と表せる. 式 (1) を式 (2) に代入すると,
的であるので, なるべく, 現場の構成に近い形で制御系の作
成を行うためである. 図 6 にアナログコンピュータによる
Y (s) =
対象の作成手順を示す.
1
e−2s X(s) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (3)
1 + 12s
となる. また, むだ時間はそのままの形ではアナログコン
ピュータで作成することができないので, 式 (4) のパディの
一次近似を用いた.
e−Ls ≒
1 − 12 Ls
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (4)
1 + 21 Ls
式 (4) より, 式 (3) は式 (5) となる.
Y (s) =
1 − 12 2s
1
X(s) · · · · · · · · · · · · · · · · (5)
1 + 12s 1 + 12 2s
これを解くと式 (6) となる.
1 −2
1
s X(s) − s−1 X(s)
12
12
13
1 −2
− s Y (s) − s−1 Y (s)· · · · · · · · · · · · (6)
12
12
Y (s) =
図5
アナログコンピュータ
式 (6) より, 図 7 のような演算回路図を得る.
20
選炭ジグ制御シミュレーションシステム
図 7 制御対象の演算回路図
図 9 安定限界を算出する回路
図 7 の演算回路図をもとに, アナログコンピュータでパッ
チング (プログラミング) を行い回路を作成した. このアナ
ログコンピュータで作成した制御対象のステップ応答を求
めた. 図 8 に, サンプリング周期を 0.1[s] としてシーケンサ
の A/D 変換を介してコントローラである PC に取り込ん
だ制御対象の波形を示す.
図 10 安定限界における波形
図 10 の安定限界における, 限界感度 Ku=12.99, 周期
Pu=5.87[s] より, 表 1 のような P,PI,PID の各制御におけ
るパラメータを求めた.
表1
図 8 制御対象 (K=1,T=12[s],L=2[s])
限界感度法による PID パラメータの算出
制御動作
図 8 から, むだ時間が 2[s], 時定数が 12[s], 最終値が 1[v]
比例ゲイン Kp[-] 積分時間 Ti[s]
積分時間 Td[s]
P 制御
6.495
━
PI 制御
5.846
4.878
━
━
PID 制御
7.794
2.935
0.734
となっており, アナログコンピュータできちんと制御対象
が作られているのが確認できた. 本研究では, むだ時間を式
〈4・1・3〉 PID 制御
PID 制御基本式の時間領域表現
は式 (7) のように表される.
Z
1
de(t)
y(t) = Kp(e(t) +
e(t)dt +
) · · · · · · · (7)
Ti
dt
(4) のパディの 1 次近似を用いたため, 式 (4) の分子にある
不安定な零点による逆揺れ現象でむだ時間を実装している
からである.
〈4・1・2〉 ジーグラー・ニコルスの限界感度法
PID 制
御を行うための P,I,D の各パラメータを求めるために, ジー
グラー・ニコルスの限界感度法を用いた. 限界感度法では,
まず PID コントローラを比例動作だけにして比例ゲイン
をだんだん大きくし, 持続状態にすることによりゲイン (限
界感度)Ku とその持続振動の周期 Pu を求める. 本研究で
は, 制御対象のステップ応答より, 式 (3) のように制御対象
を同定しているので, 限界感度 Ku と周期 Pu を求めるの
に,VisSim でシミュレーションを行った. 図 9 に, 安定限界
を求める VisSim の回路を, 図 10 に安定限界の際の波形を
示す.
平成 18 年度 卒業研究論文集
図 11 に PID 制御の概念を示す.
図 11 PID の概要
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図 11 をもとに,PID 制御のプログラムを Visual Ba-
sic.NET で作成した. 図 12 に, アナログコンピュータからの
制御量を, シーケンサの A/D 変換を用いて, コントローラ
に取り込み, コントローラから操作量をシーケンサの D/A
変換を介して送り,PID 制御を行った際の,P,PI,PID 制御の
各制御の応答を示す.
図 13 制御対象の演算回路図
図 12 PID 制御の結果
〈4・2〉 むだ時間の 2 次近似
〈4・2・1〉 制御対象の作成
本研究では,制御対象モ
デルの近似精度を上げるため,パディの 2 次式を用いたむ
図 14 制御対象
だ時間の近似についても検討した.式 (8) に,パディの 2
次近似式を示す.
e−Ls ≒
1 − 12 Ls +
1 + 21 Ls +
1 2 2
12 L s
1 2 2
12 L s
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · (8)
入力を X(s), 出力を Y (s) として方程式を解くと, 式 (9)
となる.
K −1
6K −2
s X(s) −
s X(s)
T
TL
L + 6T −1
12K −3
s X(s) −
s Y (s)
+
T L2
TL
6L + 12T −2
12 −3
−
s Y (s) −
s Y (s)· · · · · · · · · (9)
T L2
T L2
Y (s) =
図 15 むだ時間の比較
〈4・2・2〉 ジーグラー・ニコルスの限界感度法
図 13 に,式 (9) を用いて作成した演算回路図を示す.
本研究
では,むだ時間をパディの 1 次近似で行った場合と同様に,
また,図 14 に,図 13 の演算回路を用いて,目標値 1[V]
2 次式で近似した場合についても P, PI, PID 制御の効果を
に対するステップ応答を示す.
図 15 に,図 8 と図 14 のむだ時間に相当する時間帯を拡
検討した.まず,ジーグラー・ニコルスの限界感度法を用
大したものを示す.両者を比較すると,近時の次数が上が
いて,P,I,D の各パラメータを求めた.図 16 に安定限界を
ると,逆揺れ現象が緩和され,むだ時間が自然な形で実現
シミュレーションする VisSim の回路を示す.また,図 17
されていることがわかる.
に,安定限界における応答波形を示す.
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選炭ジグ制御シミュレーションシステム
図 16 安定限界を算出する回路
図 18 目標値 1[v]
図 17 安定限界における波形
図 17 より, 限界感度 Ku=10.15, 周期 Pu=7.465 となっ
た. 表 2 に,P,PI,PID の各制御における制御パラメータを
図 19 PID 制御の波形
示す.
表 2 限界感度法による PID パラメータの算出
制御動作
比例ゲイン Kp[-]
積分時間 Ti[s]
積分時間 Td[s]
P 制御
5.075
━
━
PI 制御
4.568
6.196
━
PID 制御
6.09
3.733
0.933
〈4・2・3〉 PID 制御
図 18 に,目標値を 1[V] とした
場合の P, PI, PID 制御の結果を示す.P, PI 制御は,1 次
近似の場合と同様な結果が得られたが PID 制御について
は,PI 制御より収束するのに時間がかかり, 性能が悪くなっ
ているようにみえる. そこで, 図 19 に, これを確認するた
めに,VisSim を用いて PID 制御の波形を導出した結果を示
図 20 目標値 2.5[v]
す. 図 18 と図 19 を比較すると, 本来は図 19 の波形になる
はずが, アナログコンピュータでむだ時間を 2 次近似で作
成した場合, 図 18 のように振動し安定性が悪くなっている
ことがわかる. このように,PID 制御については, 目標値へ
目標値 2.5[v] の場合の PID の制御結果を図 20 に示す.
の収束がアナログコンピュータで 2 次近似を作成した場合
目標値を増加すると,さらに,制御性能が悪化している
は悪くなっていることがわかる.
平成 18 年度 卒業研究論文集
ことがわかる.
23
5. 考
炭中の石炭と硬との比率が変動するため,伝達関数のパラ
察
〈5・1〉 1 次 近 似
メータが動的に変化する.今後はパラメータ変動や外乱に
対する制御系の構成を検討する.
図 12 より, 表 3 に P,PI,PID の制
御性能を示す.
7. お わ り に
本研究により, 実際の現場での制御に近い形で制御を行
表 3 制御性能
制御対象 P 制御
PI 制御
PID 制御
行き過ぎ量 [v]
━
0.273
0.67
0.409
行き過ぎ時間 [s]
━
3.333
3.843
3.922
うことができた. 実際に本研究で行った制御では, 制御対象
を上手く制御することができ, 速応性, 減衰特性, 定常偏差
をともに改善することができ, 制御性能は良くなったといえ
遅れ時間 [s]
9.22
1.667
1.786
1.452
立ち上がり時間 [s]
21.18
1.062
0.936
0.702
る. また, アナログコンピュータを用いた場合, 制御に支障
整定時間 [s]
43.14
13.73
21.57
9.8
をきたす場合もあるが, 実際の現象のように連続的な信号
振幅減衰比 [-]
━
0.732
0.667
━
定常偏差 [-]
━
0.114
━
━
を得ることができ, 選炭ジグ装置における一連の流れをつ
かむことができた. 今後は本研究での問題点を追求し, さら
にさまざまな条件下のもとで対応できる制御系の作成を行
いたいと思う.
表 3 より制御系に望まれる特性として, すばやく目標値
に追従する速応性, 定常値にすばやく収束する減衰特性, 制
御偏差がないことが望ましい定常特性について考察してい
文
献
く. 遅れ時間, 立ち上がり時間, 整定時間を比べると制御対
( 1 ) ADAC L-100 アナログ計算機 説明書
( 2 ) 若山芳三郎: 「学生のための Visual Basic.NET」
東京電機大学出版局 (2004 年)
( 3 ) AD・DA 参考書
( 4 ) 若山芳三郎 板垣幸一: 「入門アナログ計算機」, 啓学出版 (1976 年)
( 5 ) 広井和男 宮田朗: 「シミュレーションで学ぶ自動制御技術入門」
CQ 出版 (2004 年)
象に比べて各制御とも早くなっており, 速応性が向上してい
るといえる. 特に,PID 制御は性能の向上が最も顕著に見ら
れ速応性がよくなっているといえる. また, 整定時間や振幅
減衰比から減衰特性は PID 制御が最も優れており,PI 制御
は P 制御より劣っているが P 制御は定常偏差が表れ, 収束
値が目標値とは一致しない定常特性が表れている.
〈5・2〉 2 次 近 似
まず, 目標値を 1[v] とした場合は,
図 18 からわかるように,P,PI 制御は 1 次近似と同じらいの
性能だが,PID 制御は 1 次近似と比べて悪くなっていること
がわかる. これは, 積分器が増えた場合, 微分動作が加わる
とアナログコンピュータに何らかの誤差が生じたからだと
考えられる. また, 目標値を 2.5[v] にした場合は図 20 に示
されるようにまったく制御されていないことがわかる. これ
は, アナログコンピュータの上限が 10[v] までであり, 最初
の積分器の出力が 10[v] を超えたため制御ができなくなっ
たと考えられる. また, この他にも, ジーグラー・ニコルス
の限界感度法により求めた比例ゲイン Kp が大きくなると,
操作量がシーケンサの限界である 10[v] を超えてしまい飽
和してしまった. このように,2 次近似を用いるとうまく制
御ができず, 制御が困難となった.
6. 今後の課題
今回, アナログコンピュータを始めて扱ったことでいろ
いろと問題が発生し, 何が原因か解決できていない. よって,
アナログコンピュータに対してさらに知識を深めるととも
にスケーリングなどを行い, 図 20 の問題を解決することが
望まれる. また, 実際の現場でも操作量の飽和が生じ, 制御
に異常がきたすことも考えられるため, 操作量が飽和した
場合の制御についても検討していくことが望まれる. 本研
究では, オーソドックスな制御法として PID 制御を用いた.
研究では,制御対象の伝達関数のパラメータが一定の場合
の制御を行ったが,実際の現場では,ジグに供給される原
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