資料4 利用促進策 平成28年10月12日 成年後見制度利用促進委員会臨時委員 川口純一 (公社)成年後見センター・リーガルサポート 理事長 多田宏治 1.法定後見・任意後見に係る取組状況 (1)平成 28 年 9 月 30 日現在の全会員の受託事件数合計 ① 法定後見事件 44466 件 ② 任意後見事件 ア 財産管理等委任契約 未発効 業務遂行 イ 任意後見契約 未発効 業務遂行 740 件 412 件 1782 件 240 件 (2)平成 28 年 9 月 5 日現在の会員数 ① 個人正会員数 7753 名 ② 法人正会員数 131 名 合計数 7884 名 (3)公益事業としての専門職後見人養成・指導監督事業 ① 専門職後見人指導監督事業 ア LSシステムによる業務報告及びその精査の徹底 イ 特定原本確認調査と全件原本確認調査 ② 専門職後見人養成事業 ア 後見人等候補者名簿登載と新規登載研修 イ 後見人等候補者名簿更新と登載更新研修 2.問題意識 成年後見制度の利用を妨げている背景・要因として以下のようなことを挙げることが できると考えている (1)制度を利用することによって、かえって制度の利用を必要としている人(本人) の権利が制限されたり、利益が害されたりしてしまうことがあること。 (2)本人にとって、あるいは本人のことを一番親身に考えている家族等にとって、必 ずしも使い勝手が良いとはいえない制度になってしまっていること。 (3)本当の意味で制度を必要としている人(身寄りのない人、資産・収入が少ない人 等)が制度の利用にまでたどり着けないケースが非常に多いこと。 (4)支援を必要としている人のために緊急で求められることが、現行の成年後見制度 あるいは法律の枠内ではできない、又はできるかどうか疑義があるという事柄が非 常に多いこと。 3.成年後見制度の利用促進に向けた課題・具体的方策 (1)市民後見人の活用の前提として検討しておくべきこと、親族後見人の支援を強化 することの重要性について (2)成年後見人及び各関係機関の相互の継続的な協働と連携を確保する新たな仕組み (社会的ネットワーク)にどう関わっていくのか ア 家庭裁判所の後見監督の在り方の見直し(行政、民間団体等も後見監督に関わる 仕組みづくりの構築) イ 本人支援のためのネットワークを地域において形成することの重要性 (3)成年後見制度の利用促進に当たっての要望、保佐・補助の利用が進んでいない理 由について ア 後見人の報酬助成について イ 後見人に対する報酬の付与の在り方一般について ウ 保佐類型及び補助類型の代理権付与の在り方について エ 行為能力の制限(取消権の行使可能性)を中心とした制度から、本人に寄り添う 支援のツールとしての代理権(同意権を含む)の付与・行使を中心とした制度への 運用の転換 (4)任意後見制度の利用の促進について 平成 28 年 10 月 12 日 成年後見制度利用促進委員会 利用促進WG資料② 利用促進策 平成28年10月12日 委員 川口純一 (公社)成年後見センター・リーガルサポート理事長多田宏治 1 問題意識 (1)制度を利用することによって、かえって制度の利用を必要としている人(本人) の権利が制限されたり、利益が害されたりしてしまうことがあること。 例えば、欠格事由・権利制限の問題のほか、家庭裁判所又は後見監督人が本人の保護 を必要以上に(本人の意思又は推定的意思の尊重よりも)重視する考え方をもっている 場合には、後見人が、本人の意思又は推定的意思を尊重した後見事務を行おうとしても、 それが難しいこと(監督機関のさじ加減で、本人の主観的利益を図る事務を行うことが 非常に難しくなること) 。 (2)本人にとって、あるいは本人のことを一番親身に考えている家族等にとって、必 ずしも使い勝手が良いとはいえない制度になってしまっていること。 例えば、本人のことを一番よく理解し、一番親身になって考えている家族が、本人に 寄り添う支援、介護、看護をしたいと思い、そのツールとして成年後見制度を利用しよ うとしても、親族は後見人に選任されず(専門職後見人の選任しか認められず)、ある いは後見制度支援信託の利用を事実上強制されることが少なくないこと。 (3)本当の意味で制度を必要としている人(身寄りのない人、資産・収入が少ない人 等)が制度の利用にまでたどり着けないケースが非常に多いこと。 例えば、生活困窮者、資産をほとんど保有していない人であっても、判断能力が不十 分であれば、自身では生活保護の申請、福祉サービスの受給等のための行政窓口に対す る申請等の手続等ができないため代理人による援助を必要としているにもかかわらず、 成年後見人の立場ないし資格ではそれができないとする運用がされることがあること。 また、後見等の開始の審判の市長申立てにしても、成年後見制度利用支援事業(報酬助 成)の実施にしても、同じ市町村の高齢者福祉の担当課と障害者福祉の担当課とでは扱 いが異なることが少なくないため、特に、生活困窮者、資産をほとんど保有していない 人等にとっては、制度の利用にたどり着くまでのハードルが高く感じられることが少な くないこと。 (4)支援を必要としている人のために緊急で求められることが、現行の成年後見制度 あるいは法律の枠内ではできない、又はできるかどうか疑義がある(がだからといって 放置するわけにはいかないので、疑問を持ちながら、悩みながら、日々事務を行ってい る)、という事柄が非常に多いこと。 死後事務や医療行為の同意の問題のほか、病院や施設から、身元引受・身元保証(以 下「身元引受等」という。 )を頻繁に求められ困惑することが少なくないこと(病院や 施設が成年後見人等や身元引受人等に対して求めていることのうち、主要なものは、成 年後見人等としてその権限の範囲内で行うことができるにもかかわらず、形式上、病院 や施設は、飽くまで身元引受等を求める傾向があり、実務上ミスマッチが生じているこ と)。 2 成年後見制度の利用促進に向けた課題・具体的方策 (1)市民後見人の活用の前提として検討しておくべきこと、親族後見人の支援を強化 することの重要性 (2)成年後見人及び各関係機関の相互の継続的な協働と連携を確保する新たな仕組み (社会的ネットワーク)にどう関わっていくのか。 ア 家庭裁判所の後見監督の在り方の見直し(行政、民間団体等も後見監督に関わる 仕組みづくりの構築) 家庭裁判所は、後見の開始、後見人の選任・解任等については、独占的な判断権 を有している必要があるが、後見人の支援、指導監督等の任務の全部を家庭裁判所 が担わなければならないと考える必要はないと思われる。平時の後見監督、すなわ ち、後見人の支援・援助といった側面を中心とした緩やかな後見監督の機能は、行 政機関、一定の質(能力)が担保される仕組みが確保されている民間団体等が、そ の全部又は一部を担うことも検討されるべきではないか。この緩やかな後見監督の 機能を有する機関は、地域の実情に応じて様々なバリエーションが認められてよい と考える。このような機関の設置、運営等については、専門職後見人の指導監督を 主たる事業としてきた当法人のノウハウを生かすことができる分野が少なくない と思われるので、当法人としては、このような機関の設置、運営に関して、最大限 の協力体制を構築したい。 なお、後見人の支援・援助といった側面を中心とした緩やかな後見監督の機能は、 本来は国家の責任でなされるべきものと考えられるので民間団体や専門職が実施 する場合には、監督費用は国家が負担すべきではないかと考える。 イ 本人支援のためのネットワークを地域において形成することの重要性 本人に寄り添う支援、本人の主観的意思・利益を最大限に尊重した後見事務、本 人の身上の保護を重視した後見活動は、後見人のみで行うことができるものではな く、司法、行政(地方公共団体を含む) 、福祉、医療等のネットワークに支えられ て初めて実現することができるものであると考える。そして、そのネットワークの 中で、代理人として情報を収集し、判断をし、意思表示・法律行為をして、本人を 支える司令塔となることが、後見人の重要な役割である。当法人は、これまでもそ うであったが、今後も、より積極的にこのようなネットワークの形成に関わってい きたい。このネットワークは、医療、介護、福祉、法律の専門家のほか、関連事業 者、有償・無償のボランティアその他の有形無形の社会的資源を活用して形成され るべきものである。当法人又は当法人の会員は、他の専門職団体、社会福祉協議会、 地域包括支援センター等とともに、地域におけるこのようなネットワークの形成の 核として活動をすることができると考えている。 地域におけるネットワークの形成は、制度を利用する必要がある人を早期に発見 することにも繋がるし、また、発見者がすぐ気軽に相談できる窓口等の体制整備や 広報活動の強化も必要である。そして、相談から制度利用に繋げていくためにもネ ットワークの形成は欠かせないものと考えている。 (3)成年後見制度の利用促進に当たっての要望、保佐・補助の利用が進んでいない理 由について ア 後見人の報酬助成について 困窮困難な事案についても専門職後見人が業務として後見の事務に関わること ができるよう、全国一律の基準に基づく最低限の報酬助成制度を確立していただき たい。特に、成年後見利用支援事業による報酬助成制度については、市長申立ての 案件に限定される運用が多く、高齢者と障害者とでは根拠も運用状況も異なるよう になっていて、非常に使いにくいので、改善を求めたい。 イ 後見人に対する報酬の付与の在り方一般について 専門職後見人に限らず、後見人一般についての報酬の在り方について、全国のど こでも、誰でも、成年後見制度を利用しやすくなるよう改善すべきである。例えば、 (ア)本人の資産が少ない場合一般の後見人に対する報酬の付与の方法、更には報 酬の財源等について改めて検討するとともに、(イ)管理財産額の多寡だけではな く、本人の意思(主観的意思・推定的意思)の尊重、身上の保護の重視等の主観的 な基準の導入をも図ることを検討すべきである。 ウ 保佐類型及び補助類型の代理権付与の在り方について 保佐及び補助の類型のうち、少なくとも、通常の(同意権・取消権の拡張を伴わ ない)保佐類型及び行為能力の制限を伴わない補助類型における代理権の付与につ いては、本人の同意を必要的な条件とするかどうかについて検討を要すると思われ る。これらの場合における保佐人又は補助人の代理権は、適切に活用されれば、本 人の主観的な利益の最大限の尊重と、本人の保護という、場合によっては相反する ニーズを同時に満足させることも可能であると思われることから、その積極的な活 用を図るべく、個別の代理権の付与の手続につき、柔軟な制度設計を検討する余地 があるのではないかと思われる。 エ 行為能力の制限(取消権の行使可能性)を中心とした制度から、本人に寄り添う 支援のツールとしての代理権(同意権を含む)の付与・行使を中心とした制度への 運用の転換 現行制度は、制度の趣旨だけでなく、実際の運用も、判断能力の低下の程度を基 準に行為能力の制限の度合い(取消権の行使ができる範囲)を決めるという考え方 に基づくものであるが、取消権の行使は、本人の客観的利益の保護のために必要な ものであるとはいえ、本人の意思・主観的利益の尊重という観点からは、 「判断能 力の低下が著しい」というレベルに達する前の状態の本人にとって、必ずしも「使 いたい」 「使うことにメリットがある」と思わせる制度になっていない。 一方、後見制度を、必要に応じた適切な代理権の付与の仕組みであると理解し、 代理人が、個別の事案ごとに、本人の主観的意思を最大限に尊重して代理権を行使 することができ、しかも、そのことに対して何らかのインセンティブが付与される ような制度の運用を目指せば、後見制度は、依然として重要な意思決定支援のツー ルといえるのではないかと考える。 制度を利用することにより本人の行為能力が制限される、という仕組みから、代 理権の付与という機能を中心とした制度に転換を図ることにより、成年後見制度は、 利用者である本人にとって、更には本人のことを親身に考える周囲の多くの支援者 にとって、 「使って良かった」という実感を持てるような制度になることが期待で きるのではないか。 なお、個別の案件ごとに適切な代理権の付与・行使がされるような実務のプラク ティスが定着した暁には、現行制度の後見、保佐及び補助の 3 類型を維持する必要 は必ずしもなく、保佐又は補助の制度をベースに、個別の事案に応じて適切な代理 権の付与の審判を受け、代理人が本人の主観的意思を尊重して代理権を行使して本 人の主観的・客観的利用を保護する制度に自ずと成年後見制度は変容していくので はないかと考えている。 (4)任意後見制度の促進について 平成 28 年 10 月 12 日 成年後見制度利用促進委員会 利用促進WG資料③ 利用促進~何処でも誰でも必要がある人に利用できる制度の為に~ 文責 川口純一 ○保佐及び補助の制度の利用を促進する方策の検討 ・後見・保佐・補助の各類型毎の特性を踏まえた制度上・運用上の問題点の整理 1.補助・保佐制度を利用することによる権利侵害の防止をPR ① マスコミも成年後見制度に対するネガティブなニュースを流したがるが、成年後見 制度を利用したことによる人権侵害の防止事例をマスコミとの協力によりPRする。 特に、補助、保佐類型程度の判断力の低下時点が、悪徳業者に騙されやすいことを 国民に認識してもらい、その利用が国民本人の為であること、メリットであることを PRする。 2.補助・保佐制度の利用の多様性、利用の仕方のPRと一定期間毎の見直し ① 特に、補助制度については、行為能力の制限の無いもので、その利用の仕方に多様 性があり、国の関与がほとんど無いものから相当関与させられるものまで、国民本位 でオーダーメードできることをPRする。 ② 同時に、現在の補助、保佐をサポートする補助人、保佐人につき多くの代理権・同 意見を付与する傾向にあるが、本人の意向に沿った代理権・同意権は何なのかを考慮 し、なるべく限定的に付与するとともに、本人にも付与された代理権・同意権以外は 自己責任がある旨を理解してもらい、財産管理的については限定的な方向を探り、市 民後見人等が就任し易くするべきである。 同時に、本人になるべく寄り添う形をとり、本人の判断力の低下、代理権等の適切 性を見ていくようにする。この点は、市民後見人が適しているので、その活躍範囲は 拡大するものと考える。 ③ 成年後見制度の利用類型の適切さ、代理権・同意権の範囲の適切さを一定期間(例 えば5年)毎に見直す制度を導入し、本人の状況に合わせたオーダーメードの成年後 見制度とする。 (補助・保佐制度、見直し制度を進めていくと、家庭裁判所の判断事項 が飛躍的に多くなるので、監督部門の切り離し、外部委託或いは外庁化が必要。 ) 3.親族補助人・保佐人の推進 ① 上記2.の推進が図られ補助に行為能力の制限が無いこと等が周知されれば、本人、 親族共に補助の利用に抵抗感が無くなり、転勤等で遠方にいる親族でも補助人等に就 任し重要な一部分のみの財産管理を担うことにより、大きな散財から本人を守れるこ とになる等、補助・保佐の推進が図られる。 4.費用がかかる 何処でも誰でも必要がある人に利用できる制度の為に 1 ①成年後見人等の報酬負担 ア.高収入、高資産の被後見人等には応分の負担 イ.低資産、低収入の後見等に対する成年後見人等の報酬助成制度の一元化、利用し 易さの追求 ウ.成年後見利用支援事業の統一的運用 A.要件の統一 申立助成・報酬助成の両方の設置を義務付ける 要綱の設置を必須 生活保護基準の撤廃 補助・保佐の適用制限の撤廃 窓口の明確化 B.事業予算の確保・・・高齢者人口比による各市町村の予算確保と県による指導 ②成年後見監督人の費用を本人が負担する問題=本来監督は裁判所(国)が行うべきで はないか。 ア.成年後見監督人等に対する低所得、低資産案件の一律一定額の報酬助成。 5.制度の柔軟性が乏しい ①「意思決定支援」への対応を含め、問題点の確認と対応の検討する委員会の設置 支援が進むにつれて、大まかな判断基準の提唱が必要 ②将来は、3類型を1元化し補助類型に統一 行為能力の制限を原則無くし、利用し易い制度としていくとともに、申立権者を広 げることにより利用を増やす。 ③一定期間ごとの類型及び代理権・同意権等の見直し。 6.金融機関等成年後見関連事業者の理解の促進 一定程度の理解は進んでいるが、必ずしも全ての事業者ではないので、理解の促進が 必要である。 金融機関の営業担当者は、日常的に顧客と接している。顧客の中には成年後見制度、 特に補助・保佐を利用すべき方が多くいるが、営業担当者の制度理解が不十分であった り、営業への影響を考慮して利用しない方向になりがちである。 (例として、判断力の無 い高齢者を字が書けるということで、関係者の意向に従い融資、預金の解約をする。 ) 金融機関、特に地域に密着している地方銀行、信用金庫等に再度成年後見制度、特に 補助保佐の制度の研修、講演を集中的に行う必要がある。 7.医師等への理解の推進 ○任意後見制度の積極的な活用 1.任意後見契約だけの利用促進策では十分ではなく、安全で柔軟性のある任意代理契約 2 との連動が望まれている現状を認識する必要 ① 契約件数は 967,790 件(27 年 12 月現在・法務省統計等)である。この数字自体が 少ないが、実際の発効件数は 2245 件(最高裁成年後見関係事件の概況 27 年 12 月)と さらに少ない。 ② 日本本ライフ協会の不祥事で明らかになったが、任意後見契約と同時に締結する任 意代理契約(財産管理等委任契約・みまもり家族契約等)を相当数締結しているにも かかわらず、任意後見契約の発効が少なく、任意代理契約を判断能力のいかんにかか わらず多用しているのではないかと思われる。このことは、他のNPO法人等にも言 えることで、1 法人で数千件もの多くの移行型の任意後見契約を契約し、任意代理契約 を発効させている。 (ここでは利用促進策に重点を置き、不正防止の側面に関しては別 稿による。 ) ここで重要なのは、任意代理契約の使い勝手が良いいことである。任意代理契約は 委任契約なので、 「一緒に買い物に行く。」 「話し相手になってくれる。」 「お墓参りに連 れて行ってくれる。 」等の事実行為も依頼でき、一人暮らしの高齢者には受け入れやす い。 細田美知子公証人が日本助成弁護士会会報への寄稿の中で、 『事理弁識能力には問題 がなくても、高齢、病気その他の理由により身体が不自由であったり、福祉施設に入 所するなどして外出が 困難な状況である場合には、財産管理等の事務を行う任意の受 任者を置いて日常の生活支援をして貰い、将来事理弁識能力が低下した際には、任意 後見人として財産管理をしてもらう必要性と有用性は高い。当役場においても、公共 交通手段が整備されておらず、車がないと外出が困難な施設に入所し生活をしており 日常的に銀行等へ赴くことが難しい人、身体が不自由で外出が困難な人等、委任契約 を締結して日常的財産管理を行ってもらう必要性から、当役場を来訪し、あるいは施 設や自宅への公証人の来訪を求め、移行型契約を締結する例が決して少なくはない。 』 と言っている。 要は、任意後見契約だけの利用促進策では十分ではなく、安全で柔軟性のある任意 代理契約との連動のある任意後見契約が望まれている現状を認識する必要がある。 専門職が行う移行型の任意後見契約も任意代理契約の中で「家事代行」業者(ダス キン、ニチイ学館、ベアーズ等(2016 年 10 月 9 日朝日新聞) )を利用することにより、 委任者の要望に合致する(自己決定支援に適う)ことにより任意後見契約も促進され ていくことになると考える。 2.任意後見契約の良さ・安全性をPR (1)任意後見契約は発効しても委任者の行為能力を制限するものではないことを分かり 易くPRする。 (2)任意後見契約は必ず監督人が付く安全な制度であることをPRする。 3.預託金の問題の解決=信託銀行等への成年後見に関する信託商品の開発の働きかけ 3 任意後見契約を締結する場合、見守り契約、財産管理等委任契約(任意代理契約)、 任意後見契約、死後事務委任契約、遺言をセットで作成する場合が多いが、死後事務 委任契約遂行のために預託金を預かるケースがあるが、この預託金が問題になったの が、日本ライフ協会の事件でした。そのため、この預託金を受任者とは別に管理して くれるところがあると、制度自体の利用が推進されると考える。 特定非営利活動法人シニアライフ情報センターの池田敏史子代表理事も、実践成年 後見 63 号P29 の中で「受任者は他社の財産をできるだけ身近に置かないこと」と預託 金の問題に言及しているし、同紙P47 の中で弁護士の熊田均氏も預託金の保全を確保 するシステムの必要性を述べているように、信託銀行等で成年後見に関する信託商品 の開発をお願い出来ないであろうか。 4.医療行為の同意条項 医療行為の同意の問題は、別に議論するが、任意後見特有の事があるので、議論を 待ちたい。 5.任意後見監督人であった者の法定後見申立権の創設 任意後見人が死亡した場合において、任意後見監督人であった者にも法定後見申立 権を認めるべきである。 任意後見が継続中であれば、任意後見監督人には法定後見の申立権がある(任意後 見契約法 10 条 2 項) 。しかし、任意後見人が死亡した場合には任意後見は終了し、任 意後見監督人の権限も消滅することになるため、同条項によることはできず、このた め本人を保護する者がいないまま放置されるおそれがある。 6.任意代理契約を継続し任意後見契約を発効しない問題 日本ライフ協会の事件では、任意後見契約と同時に締結する任意代理契約(財産管 理等委任契約・みまもり家族契約等)を相当数締結しているにもかかわらず、任意後 見契約の発効が少ない。日本ライフ協会の任意代理契約は、判断能力が低下しても任 意代理契約が終了しない契約であった。 この契約はしたけど発効をしていない状況を改善することも、任意後見契約の信頼 向上と利用促進につながるものと考える。 細田美知子公証人が日本助成弁護士会会報への寄稿の中で、 『委任者の事理弁識能力 が低下した状況になっても、任意後見受任者から任意後見監督人選任の申立がなされ ず、委任契約が継続したまま任意後見契約への移行がなされない事例、・・・・がある とされ、移行型契約に対する批判がなされている〔日本公証人連合会法規委員会作成 「移行型 任意後見契約等委任契約公正証書作成に当たって の実務上の留意点」( 濫用 の危険を防ぐ観点から )〕 。 』と言っている。 特定非営利活動法人シニアライフ情報センターの池田敏史子代表理事も、実践成年 後見 63 号P27 において次のように言っている。 『任意後見契約が発効されないまま放 置されるケースがある・・・・』 4 7.任意後見監督人選任申立を適切に行うための方策(移行型の問題点とその対策) (1)委任者の判断能力低下を任意後見受任者の任意後見人監督選任義務とすることを任 意後見契約法で規定する。 任意の財産管理契約(任意代理契約)と任意後見契約を並行して締結する移行型の 任意後見契約において、委任者の判断能力が既に低下しているにもかかわらず、任意 後見監督人の監督を受けるのを避けるため、あえて任意後見監督人選任申立をせず、 監督を受けない任意代理契約を継続させる事案が見受けられる。これでは任意後見制 度の趣旨が没却され、財産管理権の濫用を防止することができない。 したがって、適切に任意後見が開始されるために、委任者の判断能力低下を任意後 見受任者の任意後見人監督選任義務とすることを任意後見契約法で規定する。 (2)任意後見契約がある場合の長期型任意代理契約については判断能力の低下を契約終 了事由とする規定をする。 民法では、判断能力の低下は委任の終了事由にも代理権の消滅事由にもなっていな いため、判断能力の低下にもかかわらず、誰も監督をしていない任意代理契約が続け られ、管理財産から流用等が行われている。高齢者には任意代理契約と任意後見契約 の区別がついていない場合もある。これでは、任意後見制度の趣旨が没却され、財産 管理権の濫用を防止することができない。 移行型任意後見契約は、判断能力が減退した場合は、任意後見契約に移行させると する趣旨の契約であるから、委任者の意思は、判断能力減退によりすみやかに任意後 見契約に移行するところにある。そこで、任意後見契約がある場合の長期型任意代理 契約については判断能力の低下を契約終了事由とする規定を義務化する。 具体的には、公証役場において、任意後見契約、長期型任意代理契約の公正証書を 作成する際に、 (1) (2)の条項があることを確認することを義務化する等がある。 ○地域において成年後見人等になる人材の確保 1.制度の受け皿の確保 現状の成年後見人等の 7 割が専門職であることが物語っているように、様々な理由で 本来成年後見制度の中心である親族後見人の就任が少ない。この点を解決しなければ、 上記の補助・保佐の利用促進が図れないと考える。 また、 (1)親族後見人・・・後見の社会化と言われても、本来成年後見制度の担い手の筆頭は 親族後見人とならないと成年後見制度の利用促進は難しい。世界的に見ても親族後 見人が一番多い。 ①親族後見人の支援・相談できる体制の整備 ア.社会福祉協議会、行政等社会的ネットワークに組み込んだ支援の強化 5 申立だけではなく、成年後見人等就任中の支援体制の強化、個人情報の問題を クリアーし管轄内の孤立している親族後見人のフォローを強化していく。 相談窓口、支援機関を社会福祉協議会中心に多く設置し、相談等をし易くする。 イ.社会福祉協議会による支援監督が難しい地域では、専門職成年後見監督人等に よる監督・支援(原則 2 年の監督)をし、社会福祉協議会・社会的ネットワーク と連携して支援していく。 ②親族後見人が報告し易い報告方式の策定。 (2)専門職 親族後見人、市民後見人の活躍が大きな課題と言っても、その親族後見人、市民後 見人を支援していくのは、行政、社会福祉協議会等と連携していく専門職後見人とな る。その専門職後見人の育成も課題である。 ① 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートを総合専門職の支援監督機関 としていく。 今、リーガルサポートにおいては、司法書士に対する支援監督を行っているが、 その中心に位置するのがLSシステムという支援監督しシステムである。LSシス テムもシステム改善及び個人情報等の問題をクリアーすることによって、より良い 支援監督が、適切・迅速にできるようになる。将来的には、法務省(法務局)によ る監督支援センター(仮称)に繋ぐことも考えられる。 これを多くの専門職が利用できるようにあれば、社会的ネットワークの要の一つ として全国で展開ができる。 ② 親族後見人、市民後見人等の支援監督を行う。 社会福祉協議会等が支援を行っている親族後見人、市民後見人等の監督について 専門職が就くことによる分業により多くの利用が期待できるとともに、社会福祉協 議会の多方面への支援が期待できる。 ③ 成年後見監督人等への就任=成年後見監督人の費用を本人が負担する問題=本来 監督費用は裁判所(国)が負担すべきではないか。 成年後見監督人等に対する低所得、低資産案件の一律一定額の報酬助成。成年後 見監督人等(専門職)による監督・支援(原則 2 年の監督) 。 (3)市民後見人 また、いくら親族後見人が中心とならなくていけないと言っても、日本の超高齢 社会、高齢者世帯の増加を考えると、「後見の社会化」は喫緊の課題である。 市民後見人の優れた点は、次の点と考える。 ①頻回な訪問により寄り添い型の支援ができること。このことは、補助・保佐の利 用促進につながると考えられる。 ②社会貢献の意識が高く、低廉な報酬で活動を期待でき、パブリックガーディアン としての位置付けを期待できる。 6 ③地域に密着した活動が可能である。 ④社会福祉協議会等の全面的な支援が受けられ ア.市民後見人の定義の確立 A.司法書士・弁護士・社会福祉士等の専門職でない一般市民。 B.市民後見人養成講座を修了している。 C.実際に家庭裁判所から後見人として選任されている。 D.個人受任が原則である。 E.任意後見人は含まない。 F.自治体またはその委託を受けた社会福祉協議会、NPO 法人等の実施機関、さら に専門職等のサポートを受けている。 G.本人と同じ地域に住んでいる。 H.社会貢献として本人のための権利擁護活動をする。 イ.市民後見人を支援・監督していく機構は、地域の社会福祉協議会等により状況が 異なるので、その状況に合わせた対応が必要。 どの方式でも、募集、養成、研修、支援、監督につき専門職と社会福祉協議会等 との連携が重要である。 A.大阪市社会福祉協議会方式・・・支援は、社会福祉協議会等が行い、監督は 家庭裁判所(将来は監督センター)が行う方式 B.東京家裁方式・・・社会福祉協議会等が成年後見監督人等に就任する方式。 C.専門職協調方式・・・支援は、社会福祉協議会等が行い、監督は専門職が担 う方式。 オ.頻回に訪問ができ、寄り添いができる市民後見人の特性を考え、在宅を中心に考 える。 カ.問題点として、その募集・養成(研修) ・支援・監督等に費用がかかることである。 それ故、パブリックガーディアンとしての使命が中心になると考えられる。 ④法人後見 社会福祉協議会の成年後見のノウハウを蓄積するためにも、市民後見人を育成して いく過程で法人後見の支援員として実地の訓練をする等のためにも有効な手段である ので、推進していくべきである。 しかし、LSの法人後見の経験、及び様々な資料から、法人で行うことにより、そ の構造上関与者が多く必要で人件費等の費用がかかる。そのため、パブリックガー ディアンとしての使命が中心になると考えられる。 ○地域住民の需要に応じた利用の促進 ○成年後見等実施機関の活動に対する支援 ○関係機関等における体制の充実強化 7 ○関係機関等の相互の緊密な連携の確保 1.地域ネットワークの確立 ①発見・・・被後見人等の早期に発見できる仕組み ア.一般市民への広報(行政・社会福祉協議会等) イ.民生委員等への具体的発見方法の研修の実施(行政等) ウ.医療機関、各種施設への啓蒙(行政等) エ.警察等との連携(行政等) 課題:地権事業との住み分け ②相談・・・発見者がすぐ気軽に相談できる窓口等の体制整備と広報。 ア.地域包括支援センター イ.社会福祉協議会(リーガルサポート(以下「LS」)等専門職の参加) ウ.専門職、LS エ.民生委員等(一次的祖団窓口) ③利用・・・相談から申立につなげる ア.申立支援(行政等) (LS 支部、地区における紹介制度) イ.後見人等候補者の紹介(LS 支部、地区における紹介制度) ウ.首長申立ての推進 ④支援 ア.成年後見人等になった者と本人の支援 イ.行政、社会福祉協議会、地域包括支援センター、CM、介護事業者、医療関係者、 民生委員等、配食弁当事業者、成年後見人等がネットワークを組み本人支援 8
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