腫瘍非形成多能性幹細胞である Muse 細胞 (Multilineage-Differentiating Stress-Enduring Cells)からの機能的 Melanocyte の分化誘導への検討 ○山﨑 研志 東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学 皮膚科学分野 ヒト間葉系組織には間葉系幹細胞が存在する。その一部は多能性を有しており、適当な刺 激 に よ り 三 胚 葉 へ の 分 化 を 誘 導 す る こ と が で き る 。 Muse (Multilineage-differentiating stress-enduring) 細胞は皮膚真皮や脂肪組織などの間葉系組織に存在する多能性幹細胞で、 (1)テロメラーゼ活性が低いか又は無い、(2)三胚葉のいずれの胚葉の細胞へも分化する能力 を持つ、(3)腫瘍性増殖を示さない、(4)自己複製能を持つ、(5) glycosphingolipid である stage specific embryonic antigen 3(SSEA3)で認識されるという特徴があり、体性幹細胞に属しながら 3 胚葉に分化する多能性を持っている細胞である(PNAS 107:8639–43,2010. PNAS 108:9875– 80,2011)。我々は、培養ヒト線維芽細胞由来の SSEA3 陽性 Muse 細胞を Wnt3a などの 10 因 子を含む培地で培養し、Muse 細胞が機能的色素細胞へ分化しうる事を示した(Tsuchiyama et al, JID 133, 2425-2435,2013) 。更に我々は臨床応用を目的とし、生体組織からの Muse 細胞 の 単 離 と 色 素 細 胞 の 誘 導 の 可 能 性 を 検 討 し た 。 ヒ ト 脂 肪 組 織 由 来 幹 細 胞 ( ASC, adipose-derived stem cell)を分離培養し、約 3%の SSEA3 陽性細胞が回収できた。ASC 由来 Muse 細胞を 10 因子を含む培地で 6 週間培養することで、色素細胞マーカー分子と L-DOPA 反応陽性細胞の出現を確認した。また、ヒト脂肪組織由来 Muse-MC を含んだ三次元皮膚培 養では基底層に色素細胞の局在が確認された。Muse-MC の telomerase 活性は、正常ヒ ト色素細胞と同程度であり、腫瘍化の可能性が低いと考えられた。生体組織由来の Muse 細胞をもちいる再生医療は、多能性幹細胞の確立のために遺伝子改変を行う必要がなく、 安全性の高い再生医療の一方法と考える。
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