Page 1 マネーサプライ・コントロールのあり方を巡って 3 マネーサプライ

マ ネ ー サ プ ラ イ ・コ ン ト ロ ー ル の あ り方 を 巡 っ て3
マ ネ ー サ プ ラ イ ・コ ン ト ロ ー ル の
あ り方 を 巡 っ て
佐
久
1.は
間
敬
じめ に
1980年 代 後半 か ら90年 代 は じめ の マ ネ ーサ プ ラ イ の乱 高 下 の原 因 につ い て,
上 智 大 学教 授 の岩 田 規 久 男 と 日本 銀 行 の翁 邦 雄 との 間 の論 争(い わ ゆ る「マ ネ ー
サ プ ライ 論争 」)が 行 わ れ た 。 論 争 の な か で,マ
ネ ーサ プ ラ イ の コ ン トロ ー ル
につ い て は,岩
は 日銀 理 論 に基 づ い て議 論 を
田 は貨 幣 乗 数 理 論 に基 づ い て,翁
展 開 して い る。
この小 論 で は,マ
ネ ーサ プ ライ ・コ ン トロ ー ル に 関す る岩 田 ・翁 の 主 張 の相
違 を明確 にす るた め に,両 理 論 の基 本 的枠 組,相
違,問
題 点 を論 ず る こ とにす
る。
11.貨
幣乗数 理論
素 朴 な 貨 幣 乗 数 理 論 の 基 本 的 枠 組 み を示 す と次 の と お りで あ る1)。 マ ネ ー サ
プ ラ イMは,定
義 に よ り現 金CUと
預 金Dの
合 計 で あ る。 す な わ ち
M=C1十D(1)
で あ る。 ベ ース マ ネ ー
一
…-Hは,定
なわち
H=CU十
、R(2)
義 に よ り現 金 と準 備 預 金Rの
合 計 で あ る。 す
4
で あ る 。(1)式 と(2)式よ り
M一 物伽
が 成 立 す る 。mは
一 器 綴(3)
貨 幣 乗 数 と よ ば れ る 。(3)式 はmが
安 定 し た 値 を と る な ら ば,
日本 銀 行 が ベ ー ス マ ネ ー の 供 給 を コ ン トロ ー ル す る こ と に よ り,マ
ネ ーサ プ ラ
イ を コ ン トロ ー ル す る こ とが 可 能 で あ る こ と を 示 して い る2)。
こ の 素 朴 な 貨 幣 乗 数 理 論 で は 明 ら か に され て い な い マ ネ ー サ プ ラ イ の 決 定 メ
カ ニ ズ ム を,銀
行 行 動 の 理 論 を導 入 して,説
論 か ら述 べ る4)。
預 金,D=預
行行動 の理
こ こ で 使 用 さ れ る 記 号 の 意 味 は 次 の と お りで あ る 。R=準
金,L=貸
出,C=イ
ス な ら資 金 調 達 額),β=支
ル レ ー ト,物=預
明 し よ う3)。 まず,銀
ン タ ー バ ン ク 市 場 で の 資 金 運 用 額(マ
払 準 備 率,銀
行 の 利 潤=π,rL・=貸
出 金 利,rc=コ
備
イ ナ
ー
金 金利 。
銀 行 の バ ラ ン ス ・シ ー トは,簡
単 化 の た め に 日銀 借 入 と 自 己 資 本 を省 略 す る
と
R十L十C==D(4)
で 表 わ さ れ る。RとDの
問には
R=β1)(5)
が成立す る。
次 に,貸
出 にか か る費用 関 数 を
ん=h(L),ん'(L)>O,h"(L)>0(6)
と仮 定 す る 。
銀 行 の利 潤 は
π ニrLL十rcC-7fDZ}一
一h(L)(7)
と な る 。 す べ て の 金 利 を所 与 と して,銀
行 が バ ラ ン ス ・シ ー トの 制 約 の 下 で 利
潤 最 大 化 を 図 る と仮 定 す る 。(4)式 と(5)式 を(7)式 に代 入 す る と
π 一(rL-rc)
と な る 。(8)式 よ り,利
.L-一
一h(L)+{(1一
β)rc-rD}D(8)
潤 最 大 化 の た め の 一 階 の 条件 は
rL-h'(、L)=?rc(9)
(1「 β)rc-rD⑳
マネーサプライ ・コン トロールのあ り方 を巡 って5
とな る。(9)式 か ら,銀 行 の貸 出 供 給 関 数 はrLの
増 加 関 数,TCの
減 少 関 数 とな
るQ
銀 行 部 門全 体 の 貸 出 供 給 関 数 は,個
の増 加 関 数,rcの
一方
別 の 銀 行 行 動 が 同 質 と仮 定 す れ ば,rL
減 少 関数 と表 わす こ とが で きる。
,民 間 非 銀 行 部 門 の貸 出需 要 関 数 は,rLの
に貸 出金 利,横
軸 に貸 出額 を とれ ば,貸
減 少 関 数 と仮 定 す る。 縦 軸
出需 要 ・供 給 曲線 は図1の
よ う に描 か
れ る。
こ こで,銀 行 の貸 出行 動 に影 響 を与 え る コ ール レー トの 決 定 につ い て説 明 し
よ う5)。 コー ル レー トは金融 機 関 全 体 の準 備 預 金 に対 す る需給 の均 衡 か ら決 定
され る。 準備 需 要 曲線dは
う る。 準 備 供 給 曲線Rは
図2の
図2に
よ う に,コ
ー ル レー トの 減 少 関 数 とみ な し
お い て垂 直 な 直 線 で 表 わ され て お り,日 本 銀
行 が準 備 供 給 量 を変 え ない 限 り,一 定 で あ る。
以 上述 べ た 貸 出市 場 と準備 市 場 との 間 の調 整 過 程 を検 討 す る こ とに よ り,マ
ネ ーサ プ ラ イの 決定 メ カニ ズ ムが 明 らか に され る6)。
図1に
お け る垂 直 な直線 五 は,銀 行 全 体 の貸 出可 能 最 大 額L*を
銀 行 が 超 過 準 備 を持 た な い と きは,ベ
大額 はL*=mHoと
図1の
ース マ ネ ー をHoと
示 して い る。
す る と,貸
出可 能 最
点Aの
な る。
超 過 準 備 はABで
状 態 で は,銀
行 全 体 の貸 出可 能 最 大 限 よ り少 く,銀 行 全 体 の
あ る。 こ の状 態 は,図2の
点A'で
示 され,A'B'の
準備 の
超 過 供給 が存 在 す る。 超 過 準 備 を持 った銀 行 は,準 備 市 場 に準 備 を放 出 し よ う
とす る ので,コ
ー ル レー トrcは 貸 出金 利 がrLで
消 滅 す る 売 まで 低 下 す る。 こ れ に と もな い,銀
か らS(γ'c)へ
図1の
点Cの
変 化 しな け れ ば,超
過供給が
行 の 貸 出供 給 曲線 はS(rc)
と下 方 に移 動 し,貸 出金 利 は 苑 とな る。
状 態 で は,銀 行 全 体 の超 過準 備 はCDに
に下 が る に と もない,準 備 需 要 曲線d(rL)はd(γ
ル レー トが 舜 にお い て は,CDに
分 まで下 方 に移 動 す る。コ ー
等 しい準 備 の 超 過 供 給C/D'が
この よ うな調 整 は,両 市 場 が 同時 に均 衡 す る ゲ㌔,T*cに
こ の よ うに して,貸
な る。 貸 出金 利 が 吃
存 在 す る。
な る まで 続 く。
出市場 と準 備 市場 が 同時 に均 衡 に達 す る こ とに な る。 そ
6
図2
図1
rb
S(r・)
S(rV
・0
塑﹂
' b
r
B レ乍
s(r・')
*0
一∼
*L一
一
∼
d(r・)
d`rQ
d㈹
R
L
0
の と き の 銀 行 の 貸 出 額 はL*と
な り,マ
Hoに
な る。
貨 幣 乗 数 を乗 じたmHoに
皿.日
ネ ーサ プ ラ イ もベ ー ス マ ネ ー の 供 給 量
銀 理論
日銀 理 論 は 次 の 二 つ の 特 徴 を持 つ7)。
① 日本 銀 行 は ベ ー ス マ ネ ー を コ ン トロ ー ル す る こ と は で き な い 。
② コ ー ル レ ー ト を コ ン トロ ー ル す る こ と に よ り,マ
ネ ー サ プ ラ イ を コ ン トロ ー
ルす る。
ま ず,日
本 銀 行 が ベ ー ス マ ネ ー を コ ン トロ ー ル で き な い 理 由 に つ い て 説 明 し
よ う8)。 ベ ー ス マ ネ ー は銀 行 券 と準 備 預 金 か ら成 っ て い る が,両
者 の性 格 が 異
な るの で 別 々 に考 え よ う。
銀 行 は預 金 者 の 銀 行 券 引 出 し に対 し取 付 け を 避 け る た め に,受
け 身 に な らざ
る を え な い 。 銀 行 券 の 発 行 残 高 は 需 要 に よ っ て 決 ま る 。 銀 行 券 に対 す る 需 要 は,
マネーサ プライ ・コン トロールのあ り方 を巡 って7
月 単位 で み る か ぎ り,金 利 の影 響 は受 け な い。した が っ て,銀 行 券 を コ ン トロ ー
ルで きな い。
わが 国 の準 備 預 金 制 度 は後積 み方 式 で あ るの で9>,準
備 需 要 は前 月 の 預 金 量
に規 定 され る。 も し 日本 銀行 が 準 備 需 要 に対 し同調 的 に準 備 を供 給 しな けれ ば,
短 期 金 利 は乱 高 下 す る こ とに な る。 日本 銀 行 は金 利 の乱 高 下 は適 当 で ない と考
え て い る ので10),準 備 預 金 もコ ン トロ ー ル で きな い 。
次 に,後 積 み方 式 にお け る金 利 決 定 の メ カ ニ ズ ム につ い て 説 明 しよ う11)。単
純 化 の た め に,マ
ー ケ ッ トに存 在 す る各 種 金 利 の うち,オ
み が 存 在 す る世 界 を考 え,財 政 収 支,銀
ーバ ー ナ イ ト金利 の
行 券 需 要 は捨 象 す る。
後 積 み方 式 に お い て は,積 み 最 終 日の金 利 は次 の よ うに 決 ま る。積 み 最 終 日
に お い て は,金 融 機 関 は どん な金 利 で あ って も,準 備 を積 む義 務 が あ るの で,
準 備 需 要 は金 利 非 弾 力 的 とな る。 日本 銀 行 は積 み 最 終 日に は,オ
ーバ よナ イ ト
金 利 を乱 高 下 させ る の を避 け る ため に,同 調 的供 給 を行 って い る。 そ こで,積
み 最 終 日の準 備 に対 す る需要 ・供 給 曲線 は,図3の
よ う に重 な り合 うこ とに な
る。
この よ うな場 合 に は,日 本銀 行 が 金 利 決 定 力 を もつ こ とに な る。積 み 最 終 日
の 金 利 は,ベ
ー スマ ネ ーの供 給 量 に関 係 な く,日 本 銀 行 の供 給 価 格(金
よ り決 まる12)。つ ま り,ベ ース マ ネ ー と金 利 の 間 に は1対1の
利)に
対 応 関係 は存 在
して い な い13)。
日本 銀 行 が 積 み最 終 日に金 利 決 定 力 を もって い る ので,銀
行 は積 み 最 終 日の
予 想 金利 と比 較 して行 動 す る。銀 行 の 利 潤 最 大 化 行 動 は,日
々 の オ ーバ ーナ イ
ト金 利 が 予 想 金利 よ り低 い と思 え ば準 備 を前 倒 しに積 も う と し,高 い と思 え ば
積 み を遅 らせ よ う とす る。 この 点 をふ まえ た銀 行 の行 動 に よ り,日 々 の 金利 は
決 ま る。
こ の よ うに して,金 利 は決 ま るの で あ る が,現
実 に は 日本 銀 行 が シ グナ ル を
送 る こ とに よ り金 利 を誘 導 して い る。 基 本 的 シ グナ ル と して は公 定 歩 合 を用 い,
日常 的 な シ グナ ル と して は積 み 進捗 率 を用 い て い る。
日本銀 行 に よ るマ ネ ーサ プ ラ イの コ ン トロ ー ル は,コ
ー ル レー トの変 動 を通
8
図3
'O
r
R
0
R。=d。
じて行 って い る。 で は,日 本 銀 行 に よるマ ネ ーサ プ ラ イの コ ン トロ ー ル ・メ カ
ニ ズ ム とは どの よ うな もの か 。 説 明 の便 宜 上,マ
と りあ げ て,4つ
第1は,日
ネ ーサ プ ラ イ の抑 制 の場 合 を
の経 路 が存 在 す る こ とを明 らか に しよ うユ4)。
本 銀 行 に よ る イ ン ターバ ン ク市 場 金 利 の引 上 げ は,民
の貸 出 の 限界 採 算 を悪 化 させ,民
間金 融 機 関
間金 融 機 関 の貸 出 を抑 制 す る とい う経 路 で あ
る。
第2は,イ
ン タ ーバ ンク市 場 金 利 の上 昇 は金 利 裁 定 を通 じて,オ
金利 も上 昇 し,そ の結 果,規
ー プ ン市 場
制 金 利 預 金 が オ ー プ ン市 場 へ 流 出 し(い わ ゆ るデ
ィス イ ン ター メ デ ィエ ー シ ョ ン),預 金 銀 行 は資 金 不 足 か ら貸 出 を抑 制 せ ざ る
を え な くな る とい う経 路 で あ る。
第3は,長
期 金 利 を含 め た全 体 と して の金 利 の 上昇 が,企
業 や個 人 の支 出 活
動 を直 接 抑 制 す る とい う経 路 で あ る。
第4は,金
利 の上 昇 に と もな い,土 地 や株 式 とい った 資 産価 格 が 下 落 す る こ
とに よ り,企 業 や個 人 の支 出活 動 を抑 制 す る とい う経 路 で あ る。
マ ネーサ プ ライ ・コ ン トロー ル のあ り方 を巡 って9
第1と
第2の
経 路 が,民
間 金 融 機 関 の 貸 出 行 動 を通 じて,マ
供 給 面 か ら抑 制 す る の に対 し,第3と
て,マ
第4の
経 路 は,支
ネ ーサ プ ラ イ を
出 活 動 に影 響 を及 ぼ し
ネ ー サ プ ラ イ を 需 要 面 か ら抑 制 す る 。
]V.両
理 論 の問題 点
貨 幣 乗 数 理 論 と 日銀 理 論 と の 間 の 基 本 的 な 問 題 に つ い て,ベ
ン トロ ー ラ ビ リテ ィ,ベ
ースマ ネーの コ
ー ス マ ネ ー とマ ネ ー サ プ ラ イ の 因 果 関 係,そ
需 要 ・供 給 の 金 利 弾 力 性 の3点
して 準 備
か ら考 え て み よ う。
日本 銀 行 は ベ ー ス マ ネ ー を コ ン トロ ー ル で き な い と の 主 張 に 対 して,堀
(1980)は
内
次 の よ う に 批 判 し て い る 。 こ れ は ベ ー ス マ ネ ー の 事 後 的 な 定 義 を,
そ の 需 要 ・供 給 の 関 係 と混 同 して い る 。 日本 銀 行 は ベ ー ス マ ネ ー に対 す る 需 要
は コ ン トロ ー ル で き な い が,ベ
ー ス マ ネ ー の 供 給 に つ い て は コ ン トロ ー ル 可 能
で あ る。
ま た,日
本 銀 行 が 準 備 需 要 に対 して 同 調 的 な 供 給 を行 わ な け れ ば,金
高 下 を もた らす との 主 張 に 対 して,次
行 が 同 調 的 供 給 を行 わ な い 場 合 に は,銀
な る 。 こ の 場 合 に は,金
利 の乱
の よ う な 批 判 が な さ れ て い る15)。 日本 銀
行 は多 額 の超 過 準 備 を保 有 す る よ うに
利 の 乱 高 下 は金 利 の 調 整 と銀 行 制 度 全 体 で 保 有 さ れ て
い る超 過 準 備 額 の 調 整 に よ っ て 避 け られ る 。 翁(1993b)は
マ ネ ー に 占 め る シ ェ ア は あ ま り に も小 さ く,後
準備 預金 がベ ース
積 み 方 式 の 預 金 制 度 の 下 で は,
厳 格 な ベ ー ス マ ネ ー ・コ ン トロ ー ル を行 い う る よ う な 超 過 準 備 を創 り出 す こ と
は 不 可 能 と反 論 して い る 。
ベ ー一ス マ ネ ー の コ ン トロ ー ル を積 極 的 に 主 張 して い るT.マ
a)は,ベ
ー ス マ ネ ー ・コ ン トロ ー ル を可 能 に す る準 備 預 金 制 度 と し て 同 時 積
み 方 式 の 採 用 を提 案 して い る16)。こ れ に 対 し,翁(1993b)は
が1980年
ッ カ ラ ム(1993
連 邦 準 備 制 度(FRB)
代 前 半 に非 借 入 準 備 を タ ー一ゲ ッ トとす る こ と を放 棄 した 事 実 を も っ て,
同 時 積 み 制 度 の も と で も準 備 量 を 政 策 手 段 と して 使 用 す る 困 難 を示 し,受
れ が た い も の と し て い る 。 こ の 翁 の 主 張 に対 し,T.マ
ッカ ラ ム(1993b)は
け入
10
そ の時 点 でFRBは,ま
だ後 積 み 方 式 を採 用 して い た ので,例
と して は適 当 で
な い と指 摘 して い る。
ベ ー ス マ ネ ー とマ ネ ーサ プ ライ の 因 果 関係 につ い て ,貨 幣乗 数 理 論 で はベ ー
ス マ ネ ー → マ ネ ー サ プ ラ イ で あ るが,日
銀 理 論 にお い て は マ ネ ーサ プ ラ イ→
ベ ー ス マ ネ ー とな る。 日銀 理 論 にお け る 因果 関係 は,後 積 み方 式 にお いて は預
金 創 造 が 時 間 的 に先 行 して,そ
れ に見 合 う よ うに所 要 準 備 が 保 有 され る とい う
メ カ ニ ズ ム に よ る もの で あ る17)。鈴 木 ・黒 田 ・白川(1988)に
よ る グ レ ンジ ャー
の 因果 性 テ ス トで は,日 銀 理 論 を支 持 す る結 果 が え られ て い る。
翁(1993a)は
岩 田が 用 い た 図2の
よ う な金 利 弾 力 的 な準 備 需 要 曲線 は長 期
分析 が 前 提 で あ り,日 々 な い し月 々 の短 期 金 融 市 場 金 利 の形 成 につ い て 分析 に
用 い る の は現 実 的 で ない と批 判 して い る。植 田(1993)は
金 利 弾 力 性 の 度合 い
は,準 備 預 金 制度 を は じめ と した短 期 金 融市 場 の様 々 な制 度 の枠 組 み に依 存 す
るの で,制 度 が 変 われ ば,積
み最 終 日で も準備 需 要 が 金 利 弾 力 的 とな りうる と
指 摘 して い る。
古 川(1994)は
で あ る ので,積
日銀 貸 出 の計 測 の結 果 よ り準 備 供 給 が 金 利 に関す る増 加 関 数
み最 終 日に お い てベ ー ス マ ネ ー の供 給 量 と金 利 の 間 に1対1の
対 応 関係 は な い との 翁 の 主 張 とは真 正 面 か ら衝 突 す る こ と に な る と述 べ て い る。
V.お
わ りに
貨 幣 乗 数 理 論 と 日銀 理 論 のマ ネ ーサ プ ラ イ ・コ ン トロ ー ル の相 違 を簡 単 に示
す と次 の よ うに な る18)。
貨幣乗数理論
・
〈一スマネー(操作変数)一:-」レレー トく 罪茎舗1錨]一
マネー
一"7・5d(中 間目標)
日銀理論
コールレート(操
作変動)く1麟ll欝]一
マネー
棚(中
間目標)
マ ネ ー サ プ ラ イ ・コ ン トロ ー ル の あ り方 を 巡 っ て11
中 間 目標 と して の マ ネ ー サ プ ラ イ を コ ン トロ ー ル す る 場 合 の 両 理 論 の 基 本 的
対 立 は,操
作 変 数 と して ベ ー ス マ ネ ー と コ ー ル レ ー トの ど ち らが 好 ま しい か と
い う点 に あ る と思 わ れ る 。
操 作 変 数 と して ベ ー ス マ ネ ー を 採 用 す べ き と い う理 由 と して,次
の点 が あ げ
ら れ る19)。
① ベ ー ス マ ネ ー は 中 央 銀 行 の バ ラ ン ス ・シ ー トに表 わ れ る 項 目 な の で,き
わ
め て 正 確 に コ ン トロ ー ル で き る 。
② 金 融 緩 和 ま た は 引 締 め 状 況 の 指 標 と して 曖 昧 さが 残 る 金 利 よ り も,ベ
ース
マ ネ ー の 方 が 政 策 手 段 と して 優 れ て い る。
こ れ に 対 し,コ
ー ル レ ー ト を採 用 す べ き理 由 と して は,次
① 日本 銀 行 は 金 利 の 乱 高 下 を適 当 で な い と考 え て お り,ベ
に コ ン トロ ー ル し よ う とす る と,短
の 点 が 考 え られ る 。
ー ス マ ネ ー を一 定
期 的 に は大 幅 な 金 利 の 変 動 を起 こ す20)。
② ベ ー ス マ ネ ー を コ ン トロ ー ル す る の に適 した 調 節 の フ レ ー ム ワ ー ク を 設 計
す る の が 実 務 的 に は な か な か 容 易 で は な い21)。
マ ネ ー サ プ ラ イ ・コ ン トロ ー ル の た め に,ど
る か につ い て,こ
ち らの操 作 変 数 の 方 が優 れ て い
れ ま で も多 くの 理 論 的 ・実 証 的 な研 究 が な さ れ て き た が22),
い ま だ 結 論 は で て お らず,今
後 の 課 題 と して 残 さ れ て い る 。
注
1)古
川(1985)を
参照。
2)こ
の よ う な 解 釈 に つ い て の 批 判 は 翁(1993a)を
3)さ
ら に 包 括 的 な 資 産 市 場 の 一 般 均 衡 に 基 づ い た 分 析 に つ い て は,堀
参照。
内(1980)を
参照 。
4)岩
田 ・堀 内(1983),川
5)池
尾 ・岩 佐 ・黒 田 ・古 川(1993)を
6)岩
田(1993)を
参照。
7)岩
田(1993)を
参照 。
8)翁(1993a),岩
9)わ
口 ・三 木 谷(1986),池
田(1993)を
密 に い え ば,後
参照。
参照。
参照 。
が 国 の 準 備 預 金 制 度 で は,積
て い る の で,厳
尾 ・金 子 ・鹿 野(1993)を
み 期 間 が そ の 月 の16日 か ら 翌 月 の15日
まで と な っ
積 み と同 時 積 み の 混 合 形 態 で あ る。 こ の 点 に つ い て
12
は 翁(1993b)を
参 照。
10)翁(1992a)を
参 照 。 植 田(1993)は
金 利 の 大 幅 な 変 動 が 望 ま し くな い と い う理
論 的 根 拠 が は っ き り して い な い と 指 摘 し て い る 。
11)翁(1991),(1992a),(1992b)を
12)岩
村(1991b)は
参照。
最 終 日 の 金 利 決 定 を 中 央 銀 行 と市 場 参 加 者 と の 金 利 決 定 ゲ ー ム
と して 説 明 して い る。
13)図3に
示 さ れ る よ う に,最
の 供 給 量)に
対 し て,金
終 日 の 準 備 量(こ
利 が 而 の と き も あ れ ばrcの
こ の 点 に つ い て は 翁(1992a),岩
田,白
れ に銀 行 券 を加 え れ ば ベ ー ス マ ネ ー
田(1993)を
川(1988),鈴
と き もあ る とい う こ とで あ る 。
参照 。
14)鈴
木,黒
木(1989),(1993),岡
部(1991)を
15)堀
内 ・高 橋(1981)を
16)準
備 預 金 制 度 と ベ ー ス マ ネ ー ・コ ン トロ ー ル の 可 能 性 に つ い て は,岩
参照。
参照 。
村(1993a)
の 補 論 を参 照 。
17)堀
内 ・高 橋(1981),翁(1993a)を
ユ8)岩
田(1993)を
19)T.マ
参照 。
ッ カ ラ ム(1993b)を
20)翁(1993b),植
田(1993)を
21)翁(1992a)を
参照 。
22)吉
参照 。
野(1989)を
参 照。
参照 。
参照。
参考 文 献
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池 尾 和 人 ・岩 佐 代 市 ・黒 田 晃 生 ・古 川 顕
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岩 田 規 久 男 ・堀 内 昭 義
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『
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鈴 木淑 夫
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鈴 木淑 夫
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号.
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古川
顕
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古川
顕
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堀 内昭義
『日 本 の 金 融 政 策 』 東 洋 経 済 新 報 社,1980年.
堀 内 昭 義 ・高 橋 俊 治
「マ ネ ー サ プ ラ イ ・コ ン トロ ー ル の
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T.マ
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T.マ
ッ カ ラ ム 「翁 氏 の コ メ ン トに 対 す る 返 答 」 『金 融 研 究 』 第12巻
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吉 野 直行
「金 融 政 策 手 段 の 有 効 性 と政 策 のCredibilityの
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テ ス ト」 『フ ィ ナ ン シ ャ ル ・