吉田千紗 - 愛知学院大学 薬学部 医療薬学科

平成 28 年度 卒業論文「がん治療におけるドラッグデリバ
リーシステムの最前線」
愛知学院大学薬学部医療薬学科
生体有機化学講座
11A165 吉田 千紗
ドラッグデリバリーシステム(DDS)は医薬品の効果をよりよく発揮させるた
めに設計された投与形態である。抗がん剤は重篤な副作用が多く、DDS 技術の
開発に対する期待は大きいことから本研究では薬物キャリアーとしてリポソー
ム、PEG 修飾リポソーム、カーボンナノチューブ、さらに目的組織へ集積後、積
極的にがん細胞内へ取り込まれるアクティブターゲティング能を付与したアプ
タマー製剤など、がん治療における DDS の有用性について幅広く調査を行った。
抗がん剤の DDS 製剤化では EPR 効果を利用して固形腫瘍への薬物ターゲティ
ングが実現されており、EPR 効果による抗がん剤の腫瘍蓄積のためには、粒子
径が 10~200 nm になるような DDS 設計が求められている。リポソームや PEG
修飾リポソームは実用化されている薬物キャリアーとして、非常に多くの研究
が行われている。リポソームそのものの生体適合性や抗がん剤を封入すること
による抗腫瘍効果から今後も研究がさかんに行われていくと考えられる。新規
薬物キャリアーとして注目されているカーボンナノチューブは毒性を有する可
能性があるため、キャリアーとしての研究が進められる一方で安全性の面での
さらなる検討が必要となる。短鎖の RNA または DNA で特異的に特定のタンパ
ク質と結合する核酸分子(アプタマー)を利用したアプタマー製剤はその高い結
合親和性から臨床への応用が期待できる。一方、アプタマーは米国 Gilead
Sciences 社が RNA ライブラリーから効率よくアプタマーを選別する技術である
SELEX 法を開発し、その権利を与えた Archemix 社と SomaLogic 社のほぼ独占
状態となっているため実用化が遅れているのが問題となっている。また本研究
では既存の抗がん剤のほかに抗がん剤として利用が期待される化合物ゲラニル
ゲラニルトランスフェラーゼⅠ阻害剤(GGTI)やトリプトライド(TP)を利用
した DDS 研究について調査しており、それらの化合物の抗腫瘍効果もみられた。
抗がん剤の DDS 製剤化は多くの抗がん剤が持つ重篤な副作用の軽減の可能性を
有し、有効性に加え、安全性に重視した抗がん剤の開発が行われることが期待で
きる。しかし DDS 製剤化することで予期せぬ新たな副作用が発生する可能性も
あり、この問題にどのようにして対策をとるのか考慮する必要がある。