平成 28 年度 卒業論文「がん細胞の代謝異常と細胞老化」 愛知学院大学薬学部医療薬学科 生体有機化学講座 10A074 志食 友太 要旨 がんは我が国において第一位の死因であり、依然としてがん死亡数、罹患率 はともに増加しているため多くの研究がなされており、治療法は年々進歩して いる。細胞が自律的に増殖し続けるのが、がん細胞の特徴である。その増殖や 生存を援助するために代謝異常が起こり、エネルギーを確保している。増殖し 続けるがん細胞に対抗するのが細胞老化という現象であり、細胞分裂が不可逆 的にできなくなった状態である。 研究目的としてはがん細胞における代謝異常と細胞老化がどのようにがんの 発生、抑制に関わっているのか、または現在行われている研究が既知の結果に どう関係するのかなどとし、1つ1つのメカニズムから調査研究した。 結果として、ワールブルグ効果と呼ばれる糖代謝異常が、酸素の有無に関わ らず、非効率的ながら安定してエネルギーとなる ATP を産出することで増殖、 生存に有意に働いていることが分かった。またもう1つの代謝異常としてアミ ノ酸の代謝異常が見られ、アミノ酸の中でもセリン、グリシン、グルタミン、 トリプトファンが、がん細胞で多く消費されることで ATP と同じく増殖、生存 に大きく貢献していることが分かった。細胞老化については、正常細胞の場 合、転写因子の E2F に RB が結合しており転写抑制しているが、CDK4/6 によ って RB がリン酸化されると E2F が RB から解離し、転写抑制能が解除され、S 期への移行に必要な遺伝子発現が誘導される。しかし、老化細胞では CDK 阻 害たんぱく質(CKI)による CDK4/6 活性の抑制が RB を低リン酸化状態に保 ち、強い転写抑制能を保持していることで細胞は G1 期で停止させられてい る。また p53 をはじめ、RB、p16INK4a、p19ARF といった複数のがん抑制遺伝子 が複雑に関わり合いながら細胞老化を可能にしていることが分かった。 代謝異常と細胞老化はまだまだ発展中の研究分野であり、さらなる研究によ って分子関連が解明されれば、新薬の開発はもちろん、細胞自体の若返りも可 能であるという結論に至った。
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