「冷媒圧力測定のススメ」

「冷媒圧力測定のススメ」
平成19年式トヨタ・カムリ
(車両型式DBA−ACV40、エン
ジン型式 2 AZ−FE、走行距離
140,000km)で、エアコンが冷
えないという相談を受けた。
症状を詳しく聞くと、この車
両は左右独立温度コントロール
のオート・エアコンが採用されており、温度設定操作を運転席側と助手席側とに設け左右
の連動制御と左右独立温度コントロール制御を切り替えられるようになっているが助手席
側だけ冷風が出ないということだった。
過去にもエアミックス・ダンパ・サーボの不具合で同じような症状が発生した事例があっ
たのでスキャンツール(外部診断機)を使用してアクティブ・テストを実施してもらうと、
助手席側のエアミックス・ダンパ・サーボはデータ・モニタの表示で 5 ↕103パルスの範囲
内で作動しておりエアミックス・ダンパの制御は正常と判断した。(参考値〔助手席側〕
MAX COLD時: 5 パルス、MAX HOT時:103パルスの範囲で表示)念のため、ダイアグ
ノーシスを実施してもらったが正常だったので基本に立ち返り、冷媒圧力の点検をしても
らうように説明をした。
後日、工場側から症状が改善したと連絡が入り詳しく聞くと、ディーラにも相談したと
ころ冷媒圧力の低下が原因でエアコンの冷えが悪くなり同じような不具合が発生すること
があるとアドバイスをもらい、冷媒圧力を点検すると低下していたので冷媒ガスの補充を
行った結果、助手席側から冷風が出るようになり運転席側も更に冷えるようになったとの
ことだった。
今回は、スキャンツールを活用した故障診断を実施したことで関連部品と制御システム
の良否判断や不具合個所を絞り込むことができたが、最終的に冷媒圧力の点検を行った結
果が原因究明に繋がった。また、FAINESで調べるとサービスマニュアルに冷媒圧力の測
定結果に基づいた点検表等が掲載されているので圧力の良否判断や冷凍サイクルの点検を
する際には参考にしていただきたい。電子制御化が進みスキャンツールを活用した故障診
断が主流となっているが今回のように基本に立ち返った点検を行うことが不具合箇所の絞
り込みや解決へのヒントになるということを再確認した一件であった。
エアコンコントロールパネル
・左右独立温度コントロールシステムの採用に伴い、操作性に優れた温度設定ダイヤルを運転
席側と助手席側とに独立して設けるとともに、連動制御と左右独立温度コントロール制御を
切り替えるためのDUALスイッチを配置しました。
エアコンコントロールパネル
ステアリング
スイッチ
サーボモーター
・全車に内外気ドア切り替え用・モードドア切り替え用・運転席側および助手席側エアミック
スドア切り替え用の各サーボモーターを採用しました。なお、これらのサーボモーターには
パルス信号によって位置を検出するパルスパターン式を採用しました。また、パルスパター
ン式サーボモーターの採用に伴い、エアコンコンピューターとの通信機能などをもつICを内
蔵した、スマートコネクターを採用しています。
・各サーボモーターの取り付け位置は、モードドア切り替え用および運転席側エアミックスド
ア切り替え用がヒーター &クーラーユニット右側面、助手席側エアミックスドア切り替え用
サーボモーターがヒーター &クーラーユニット左側面、内外気ドア切り替え用サーボモーター
がブロワーユニット右側面としました。
内外気ドア切り替え用サーボモーター
助手席側エアミックスドア
切り替え用サーボモーター
モードドア切り替え用サーボモーター
運転席側エアミックスドア
切り替え用サーボモーター
ECUデータモニター
・SST(TaSCAN)を使用して、画面表示に従って“ECUデータモニター”画面を表示させ、コ
ンピュータデータを点検する。
[診断メニュー画面:ボディー → A/C → ECUデータモニター]
項目名
[項目記号]
項目名解説
点検条件
参考値
異常時の
主な点検項目
・5 ←→103パルスの範囲で
P席エアミックス 助手席側エアミック 助手席側設定
エアミックスダン
表示
目標パルス数
スダンパの位置情報 温度スイッチ
パサーボ(助手席
・MAX COLD時: 5 パルス
[PAMP]
を表示
操作時
側)系統
・MAX HOT時:103パルス
アクティブテスト
a.SST(TaSCAN)を使用して、画面表示に従って“アクティブテスト”画面を表示させ、ア
クティブテストを行う。
[診断メニュー画面:ボディー → A/C → アクティブテスト]
項目名
P A/M(パルス)
テスト内容
助手席側エアミックスダンパサーボの作動
制約事項
5 ←→103パルスの範囲で行う
冷媒ガス圧力点検
a.冷媒量点検
ⅰ.リキッドチューブAのサイトグラスを確認する。
ⅱ.次の条件に車両をセットする。[※ 1 ]
項 目
ドア
設定温度表示
エンジン回転
ブロワスピード
A/C
条 件
全開
MAX COOL
1500r/min
HI
ON
ⅲ.[※1]の状態でサイトグラスを点検する。
症 状
冷媒量
サイトグラスに気泡がある
不十分
処 置
・ガス漏れがないか確認し、必要であれば修理する
・気泡がなくなるまで、冷媒ガスを注入する
ない、不十分、
(※ 2 )と(※ 3 )を参照
過多
コンプレッサ吸気口と排気 空またはほとん ・ガス漏れがないか確認し、必要であれば修理する
口の温度差がない(※ 2 )
ど空
・気泡がなくなるまで、冷媒バスを注入する
コンプレッサ吸気口と排気
適正または過多(※ 4 )と(※ 5 )を参照
口の温度差が著しい(※ 3 )
エアコンを切った直後、サ
・冷媒ガスを排出する
イトグラスの冷媒ガスが透
過多
・エアを抜き、適正な量の新しい冷媒ガスを注入する
明のままである(※ 4 )
エアコンを切った直後、冷
−
媒ガスが泡立ち、その後透
適正
明になる(※ 5 )
サイトグラスに気泡がない
□ 参 考 □
室温が平常より高い場合、冷却が十分であればサイトグラスの気泡は正常と考えられる
b.ゲージによる冷媒ガス圧力点検
ゲージ指示値参考データ
低圧側圧力
MPa{kgf/cm2}
0.5{5.0}
ブロワHI領域
0.4{4.0}
1.06{10.9}
0.3{3.0}
0.27{2.85}
1.2{12.3}
0.22{2.25}
0.2{2.0}
0.2{2.1}
ブロワLO領域
1.25{12.3}
0.14{1.5}
1.32{13.5}
0.5{5.0}
1.0{10.0}
1.5{15.0}
2.0{20.0}
高圧側圧力
MPa{kgf/cm2}
ⅰ.エアコンツールセットを取り付ける。
ⅱ.次の条件に車両をセットする。[※2]
項 目
エンジン
ドア
A/C
エンジン回転
内気切り替えスイッチ
設定温度表示
ブロワスピード
エアコン吸い込み口温度
条 件
暖機後
全開
ON
1500r/min
RECIRC
MAX COOL
HI
30℃−35℃
ⅲ.[※2]の状態で、ゲージの数値を点検する。
基準値
0.15−0.25MPa(1.5−2.5kgf/cm2)
(低圧側)
1.37−1.57MPa(14−16kgf/cm2)
(高圧側)
□ 参 考 □
基準値は、冷媒ガス充てん量正常時を示す。
LO
HI
ⅳ.[※2]の状態で、ゲージの数値を点検する。
※FAINESに掲載されているサービスマニュアルに測定結果に基づいた点検表等がありますの
でご参照ください。
NEWS 2016 9月号