経 ViewPoint 2016.10.3 営相 談 親族による家屋の増改築をめぐる税務 吉田 覚 相談部 東京相談室 親の高齢化などの理由により、子が親と同居することとなったとき、家屋が手狭なため に増改築することがよくあります。その際の資金を子が負担するなど、所有者以外の者 が増改築資金を負担する場合は、贈与税をはじめとした課税関係に注意が必要です。ま た、子が金融機関のローンで増改築資金を調達する場合の住宅借入金等特別控除(以下、 住宅ローン控除という)の適用の適否や、増改築後に親に相続が発生した際に相続税計 算の基礎となる財産評価(不動産の評価)も注意を要します。 今回は、家屋の所有者以外の者が増改築資金を負担する典型的なケースとして、親所有 の家屋の増築資金を子が負担する場合の税務の取り扱いを解説します。 1. 不動産の付合(増築した部分の所有権) 不動産の所有者は、当該不動産に付属するようなかたちで付着(付合)された物の所有権を取得する とされています(民法 242 条)。 家屋に増築をする場合は、その増築した部分が独立した1戸の家屋としての構造を有するものでな い限り、その増築部分の家屋は、不動産の付合により、既存の家屋の所有者が所有権を取得すること となります。例えば、親所有の家屋に子が増築をした場合は、増築した部分の所有権は親に属するこ ととなります。 このように、所有権の区分登記ができない場合は、付合による税務面の諸問題が生じることになり ます。 2. 増築をめぐる税務 [1]贈与税 増築の資金を子が負担し、増築部分の区分登記ができない場合は、家屋所有者の親は付合により、 資金負担なしに増築部分を取得することとなります。この資金負担は、子から親への贈与として、贈 与税の問題が生じます。贈与税の納税義務者は、贈与を受ける親となります。 贈与税課税が生じないようにするためには、資金負担相当分の家屋の持分を子が親から譲り受ける 方法があります。 1 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.10.3 [2]譲渡所得税 前項[1]による親から子に対する家屋の持分の譲渡は、不動産譲渡所得課税の対象となります。 この場合、親の居住用財産の譲渡に該当しますが、譲渡者の直系血族への譲渡となるため、居住用財 産譲渡の特例(3,000 万円特別控除)の適用はありません。 ただし、譲渡する持分の価格(取得費)が譲渡収入と等しい場合は、課税所得は発生せず、譲渡所 得課税はありません。一方、譲渡所得が発生する場合は、譲渡所得税の納税義務者は、譲渡者である 親となります。 [3]事例解説:父名義の家屋に子が増築した場合 甲は自己所有の土地に自己の家屋を所有しています(図1)。今般、甲の長男乙が甲と同居するこ ととなりましたが、手狭となるため、乙が建築資金を負担して増築することとなりました。税務上の 注意点を教えてください。 ■図1 ●建物所有者:甲(父) 【既存建物(80 ㎡)】 所有者:甲(父) ●時価:600 万円(注) 注:増築前の建物の取得費(未償却残高)が 時価と等しいとする。 【土地】所有者:甲(父) (1)贈与税 「1.不動産の付合]で説明したとおり、家屋の増築に際し、その増築した部分が独立して1戸の 家屋としての構造を有するものでない限りは、既存の家屋の所有者(ここでは甲(父))が増築部分の 所有権を取得することになります(図2)。 ■図2 ●増築部分(注):50 ㎡ 増築部分 ●増築費用:400 万円(長男・乙が負担) ●建物所有者:甲(父) 【増築後建物】所有者:甲 (父) ●時価:600 万円+400 万円=1,000 万円 80 ㎡+50 ㎡=130 ㎡ 注:増築部分は、1戸の家屋としての構造を 有するものではないので、 「付合」により 区分登記できない。このため、建物全体 【土地】所有者:甲(父) 130 ㎡は甲(父)の所有となる。 この場合、甲の所有となった増築部分の建設資金は、甲の長男である乙が全額負担しているため、 乙から甲への贈与が発生し、贈与税課税の問題が発生することとなります。 そこで、贈与税課税が生じないようにする方法として、増築資金を負担する乙が、その負担する金 2 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.10.3 額に相当する家屋の持分を取得することが考えられます(図3)。このケースでは、乙は自ら負担し た増築資金 400 万円と同額の持分を取得することになり、結果として、乙から甲への贈与はないもの とされます。 ■図3 ●時価:1,000 万円 ●所有者: 甲(父) ……持分 6/10、600 万円 乙(長男)……持分 4/10、400 万円 【建物】所有者: 甲(父)、乙(長男) ・増築後の家屋(130 ㎡・時価 1,000 万円)の 10 分の4(時価 400 万円)を乙に持分移転 (譲渡)することで、乙は自らが負担した 増築資金と同額の持分を取得。乙から甲へ 【土地】所有者:甲(父) の贈与はないものとされる。 (2)譲渡所得税 前述のとおり、甲は増築後の持分の一部を乙へ移転しますが、これは、甲から乙への不動産の譲渡 となります。この譲渡における譲渡収入と取得費に関しては、甲は乙が負担した家屋の増築部分(時 価 400 万円)を付合により取得し、同額(時価 400 万円)の持分を乙に譲渡したことになります。 したがって、甲にとって譲渡収入と取得費は同額となり、この事例では、譲渡所得は生じないこと となります。 収入金額(400 万円)- 取得費(400 万円 ※)=0円 ※(600 万円+400 万円)×4/10 (3)相続税 建物が親子の共有となることで、親所有の土地上に子が建物を所有し、親の土地を使用することに なります。このような場合、親子間では地代の授受は行わず、無償での使用(使用貸借)とすること が一般的です。この状態で、親に相続が発生した際は、敷地に関する相続税の評価について注意が必 要です。 家屋の敷地を使用貸借する場合は、借地権の贈与税課税(子が親の土地を権利金なしで借り受ける ことによる借地権相当額の贈与)の問題は生じません。一方、親に相続が発生した際には、家屋の敷 地の相続税評価は借地権が存在しないため自用地評価となることに、留意が必要です。 (4)住宅ローン控除 住宅ローン控除の対象となる家屋の増改築等とは、自己の居住の用に供する自己の所有している家 屋について行う増築、改築、一定の大規模修繕・模様替え等の工事、とされています。したがって、 親が所有する家屋について子が増築を行う場合は、所有者以外の者が行う増築となり、ロ―ン控除の 対象となりません。 これに対して、増築を行う前に、親から贈与または売買により子がすでに持分を取得している場合 3 V P 経 営 iew oint 相 談 2016.10.3 は、他の要件を満たしていれば、住宅ローン控除の対象となります。ただし、その場合も、第2項で 説明した贈与税と譲渡所得税の検討が必要となります。 【参考】住宅ローン控除の対象となる増築・改築の範囲 工事費用の額が 100 万円を超える以下のいずれかの工事に該当するもの。 ① 増築、改築、建築基準法に規定する大規模な修繕または大規模の模様替えの工事 ② マンションなどの区分所有建物のうち、その人が区分所有する部分の床、階段または 壁の過半について行う一定の修繕・模様替えの工事(①に該当するものを除く) ③ 家屋(マンションなどの区分所有建物にあっては、その人が区分所有する部分に限る) のうち、居室、調理室、浴室、便所、洗面所、納戸、玄関または廊下の一室の床また は壁の全部について行う修繕・模様替えの工事(①および②に該当するものを除く) ④ 地震に対する安全性に係る一定の基準に適合させるための修繕または模様替えの工事 (①~③に該当するものを除く) ⑤ 一定のバリアフリー改修工事(①~④に該当するものを除く) 内容は2016年3月18日時点の情報に基づいて作成されたものです。 本情報は、法律、会計、税務などの一般的な説明です。個別具体的な法律上、会計上、税務上等の判断や対策などについては専門家 (弁護士、公認会計士、税理士など)にご相談ください。また、本情報の全部または一部を無断で複写・複製(コピー)することは著作権法 上での例外を除き、禁じられています。 みずほ総合研究所 相談部東京相談室 03-3591-7077 / 大阪相談室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/ 4
© Copyright 2024 ExpyDoc