【2016年10月6日公開】 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ ~丸わかり! ロンドン発★欧州経済事情~ 「松崎美子」が注目テーマを一刀両断! 『英国の完全独立国家に向け 課題と英ポンド動向』 執筆者:(ロンドン在住/元為替ディーラー) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 10 月 2 日(日)、この日から 3 日間に渡り、英国議会の与党:保守党が年次党大会を開催するタ イミングにあわせ、メイ首相は重要なメッセージを 2 つ、国民に送った。 ひとつは、EU 離脱交渉を正式に始めるため、EU 基本条約(リスボン条約)50 条の行使時期。そし てもうひとつは、EU 離脱後、完全な独立国家として、主権を EU から取り戻す決意であった。 ●リスボン条約 50 条行使時期 メイ首相は、EU 基本条約(リスボン条約)50 条の行使時期を、2017 年第 1 四半期(3 月末)まで に行うと明言した。 それ以前から、来年 1~2 月に行使という噂が流れていたので、それほど驚きではないが、一部の 報道では来年秋のドイツ国政選挙直前に行使する可能性も指摘されていただけに、3 月末までと いう具体的な期限が見えてきたことで、一番大きな不透明感が払拭された。 ●完全なる独立国家となる決意 英国は 1973 年に EC(欧州共同体)に加盟する際、『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』 を採択した。これは、法律によっては、英国法ではなく、『欧州共同体加盟法(1972 年)』が適用さ れることを意味する。つまり、場合によっては、 英国最高裁の判決より 欧州最高裁の判決が 優先されることを意味する。 メイ政権は、EU 離脱後、英国連合王国が完全なソブリン国(Sovereign United Kingdom)として国 家主権を EU から取り戻すため、来年 5 月に予定されているエリザベス女王の施政方針演説に、 『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』からの撤退案を組み入れ、議会で審議することとなっ た。 ●どうして「英ポンド」は売られたのか? リスボン条約 50 条の行使時期がはっきりしたことで、一番大きな不透明感が払拭された。しか し、週明け月曜日の為替市場での「英ポンド/米ドル」相場は、それを好感して買われるどころか、 1.28 ドル台へ急落した。これは、どうしてなのか? その疑問を紐解く鍵が、『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』からの撤退に隠れている。 この撤退が実現し、英国が完全独立国家として EU から抜ければ、当然シングル・マーケット(EU 単一市場)へのアクセスを放棄したものと受け止められる。今回の Brexit 劇でのキーワードが、 「シングル・マーケットと移民」であり、ここへのアクセスがあるのと、ないのとでは、英国の将来が 大きく変わってくる。現在のところ、アクセスがある Brexit を「ソフト Brexit」、アクセスがなくなること を「ハード Brexit」と呼んでいる。 シングル・マーケットでは、4 つの自由「カネ・モノ・人・サービス」が保証されているため、ハード Brexit を選択した場合、「ロンドン金融街:シティ」から金融サービスが出来なくなることを意味して いる。 英国政府もそれは十分に理解しているため、何らかの手段を使い、「ロンドン金融街:シティ」の存 続に向け努力することは間違いない。実際に、ロンドン新市長はロンドンで働く人に対して、特別 労働ビザを発行する案を提出し、英国議会も前向きに検討しているというニュースが伝わってきて いる。 ●スコットランド自治政府首相の怒り メイ首相は、リスボン条約 50 条の行使時期をはっきりさせ、英国が国家主権を取り戻すことを 国民に語りかけたが、これを聞いて「冗談じゃない!」と公式に抗議したのが、スコットランドのスタ ージョン自治政府首相であった。 スコットランドは国民投票でも残留票が多く、特にシングル・マーケットへのアクセス権を保留した い気持ちが飛びぬけて高い。メイ首相の口から、突如として『欧州共同体加盟法案:Great Repeal Bill』からの撤退の意向が飛び出した時、スタージョン首相は自分の耳を疑ったそうだ。 既にメイ政権は、 ①2 度目の国民投票は、ない ②解散総選挙は、ない ③英国議会は、国民投票結果を尊重する ④EU との離脱交渉では、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの意見を聞きながら、調整す る ⑤ただし、EU との交渉を担当するのは、英国連合王国を代表して英国議会が進める。 以上 5 点を明確にしており、スコットランド政府の意向があまり反映されておらず、いつどんな反撃 に出てくるか分からないだけに、対EUとの交渉だけでなく、国内の意見の対立も表面化するのは 時間の問題かもしれない。 ●ここからのマーケット 主要通貨の実効レートを毎日チェックしているが、どの通貨も煮詰まった動きとなってきた。一 番ひどいのはユーロで、3 月から狭いレンジにすっぽり入ったまま、ビクともしない。 その点、英ポンドは今年の最弱通貨なだけに、6 月の Brexit 決定以降、大きく動いた。しかし、夏 以降のチャートは逆三尊の形に似てきていて、右肩を形成しているようにも見える。 データ: 英中銀ホームページ http://www.bankofengland.co.uk/boeapps/iadb/index.asp?Travel=NIxIRx&levels=2&XNotes=Y&A3951XNode3951.x=4&A 3951XNode3951.y=5&Nodes=&SectionRequired=I&HideNums=-1&ExtraInfo=true#BM 今月に入り、Brexit に向け英国政府が動きだしたことを考慮すると、更に悪い材料が出てくれば、 逆三尊が失敗に終わり、最安値の 76.8787 を下抜ける下落も十分に考えられる。 実際に「英ポンド/米ドル」のチャート(4 時間足)にベガス・トンネル(144/169EMA)を載せてみると、 現在トンネルの下の 2 番目の波のレベルでの推移となっているのが判る。過去の値動きを調べる と、下 2 番目の波は強いサポート・レベルになっている(オレンジの丸部分)。最近の「英ポンド/米 ドル」も、下 2 番目の波で 2 回サポートされ、今週に入ってそのサポートを抜けかけている。 この原稿執筆時点での下 2 番目の波のレベルは、1.2868 ドル。終値ベースでここが下抜けると、 次のターゲットとして、下 3 番目の波(チャート上のピンク★レベル)が通る 1.2724 ドルを意識した いと考えている。 -------------------------------------------------------------------------------【執筆者:松崎美子氏(ロンドン在住/元為替ディーラー)プロフィール】 東京でスイス系銀行 Dealing Room で見習いトレイダーとしてスタート。18 カ月後に渡英決 定。1989 年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店 Dealing Room に就職。1991 年に出産。1997 年シティーにある米系投資銀行に転職。 その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、 証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。 -------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】 本レポートは松崎美子氏より発行されているレポートであり、情報提供のみを目的として おります。 本レポート中のコメントは独自の見解に基づいたものであり、松崎美子氏、およびワイジ ェイFX株式会社共にレポート中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明 示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。 また、本レポート内のコンテンツ、データに関する著作権はワイジェイFX株式会社に帰属 しております。 コンテンツ、データ等は私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめく ださい。 さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、松崎美子 氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。 最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたしま す。
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