展望台 川瀬 昌俊 防衛装備研究開発の更なる 発展のために 1. 趣旨 科学技術の進展にともない防衛装備の高度 化・無人化が進行している。防衛装備の研究開 発の前提として、防衛装備を駆使する者である 人間の特性について改めて意識してみること で、今後の研究開発で忘れてはならない視点を 提供したい。 2. 改めて意識すべき前提 (1) 防衛技術と防衛力 防衛技術は、防衛装備品に実装され、訓練 した運用者がその防衛装備品を駆使して防衛 力となる。防衛技術が防衛力として力を発揮 し続けるには、運用者と防衛装備がいずれも 健全であり続けなければならない。 (2) 人間は多様である。 人間の物理的性質や能力は多様である。人 間の物理的性質や能力は、体格などの各種サ イズ、視力をはじめ五感の感受性、自身やモ ノの操作力、言語力、状況把握力や記憶力な ど測定の難易度も異なり、科学的な把握は必 ずしも容易ではない。 世界の運用者を相手にする時代においては、 文化・習慣の違いをも意識せざるを得ない。 2 防衛技術ジャーナル October 2016 (3) 人間は変化する。 労や負傷の度合いに応じて反応を変化させる 人間は、鍛錬・経験により月・年単位で能 ことが必要である。また本人が気づきにくい 力が向上する。人間は、病気・老化により日 本人の状態を鏡のように提示して本人に最適 から年単位で能力が低下する。人間は、疲 労・けがにより時間単位で能力が低下する。 人間は、気合いで短時間能力が向上する。人 間は、他人の振りを見て我が身を直せる。 (4) ソフトウェアは柔軟である。 多様な選択肢の準備容易性、パラメータに 化させるのが適切な場合もある。 (4) ソフトウェアの活用による個別最適の 追求 ア 選択肢の準備 多様な個人を意識した豊富な選択肢の 準備 よる性能調整容易性によりソフトウェアは柔 イ 経験の蓄積によるパラメータ変化 軟である。人工知能では、 「自ら学ぶ」仕組み 個人の使用状況を把握するパラメータ によりますます柔軟となる。 (5) ハードウェアは固定的・直感的である。 ハードウェアは変化させにくい。あるいは 容易に変化しないように作られている。 デザインは、人間に必要な「指示」を与え る。レバーのように操作が可能か否か、そこ に腰掛けても十分に支えられるのかといった ことを直感的に訴えている。 の採用と対応する選択肢の準備 ウ 個人の識別 使用者を識別する要領の確立 エ 個人の状態把握 使用者の状態を把握する要領の確立と 対応するパラメータや選択肢の準備 (5) ハードウェアのソフトウェア化の追求 ア ハードウェアの調整可能構造の採用と 使用状況に応じた効果把握 3. 今後の研究開発で忘れてはならない視点 (1) 防衛技術の防衛力への貢献要領 防衛技術は、防衛装備の瞬間最大的な能力 への寄与はもちろんのこと、防衛装備品の能 力維持のための兵站機能、駆使する人の生命 を守り、疲労・負傷を軽減・回復し、教育・ ど んな状況でどの「位置」で使用し、 効果はどうかを把握 イ ハードウェアの調整可能構造のソフト ウェアによる制御 調 整構造の状況把握と制御をソフト ウェアで実施 訓練の効果を効率的に高めることにも寄与し なければならない。 そのためには、人間を防衛技術の視点で 4. 結言 防衛装備の高度化は、人間の対応力を超えて 「知る」ことが必要である。 いく。無人化は、遠隔化ないしはある条件下で (2) 個人最適が理想 の自律化として実現していく。遠隔化も通信遮 人間が多様であるので、個人に最適化され 断時のことを考えると自律化を組み込む必要が た防衛装備が最も能力を発揮しやすい。たと ある。従って、高度化と無人化を追求すれば自 えば、サイズ、表示、操作反応などが個人に最 律化は必然であり、想定に基づき場合分けによ 適にできているなら、そうでない場合に比べ、 るにしろ、人工知能に委ねるにしろ、条件の判 人はより上手く防衛装備を駆使することが期 断は人間の側に残るであろう。条件あるいは前 待される。さらには、容易に計測しがたい特徴 提の理解と認識がますます重要となり、今後運 にもフィットできるならば差がつけられる。 用者と技術者が議論を通じて明らかにすべき焦 (3) 個人最適は時間の関数 点の一つである。 人間は変化するので、個人最適も時間の関 数である。各瞬間に最適であるためには、疲 防衛装備庁 装備官(陸上担当)、陸将 3
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