国 語

N16B.2/22.国
(平成28年度)
人間社会学部
試 験 問 題 冊 子
日︶
語
︵B日程 2月
国
意
⑥
試験終了後、問題冊子は持ち帰ること。
しないこと。
受験番号を記入し、マークすること。
④
解答は全て解答用紙に記入すること。
⑤
マーク式解答欄および裏面の記述式解答欄の指定された箇所以外は使用
①
試験監督者の指示があるまで、問題冊子を開かないこと。
②
問題冊子に落丁、乱丁があった場合は、試験監督者に申し出ること。
③
試験監督者が試験開始の指示をしたら、ただちに解答用紙の所定欄に、
注
22
注意
解答はすべて各問の下端の
内に指示された解答欄にマークまたは記入する
こと。なお、解答欄のうち、この試験で使うのは、マーク式解答欄の 1 ∼
記述式解答欄の A ∼ J のみである。
問題一
次の文章を読んで、後の設問に答えなさい。
、
誰でもすぐ気づく外国語学習の意義の一つは、その実用性にあると言えるでしょう。
つまり外国語を聞き・話し・読み・書くといった技術レベルでの有効性で、将来どんな
道を選ぶにせよ、欠かすことのできないコミュニケーションの手段としての︽語学力︾
です。
ところで、道具・手段としての外国語学習の必要性は認めるにしても、もし言葉を
のみに限られるとしたら、いささか寂しい気がします。たし
学ぶ意義がそんな a
1
かにフランス語とか英語を知ることによって貴重な原典を読むこともできましょうし、
ヨーロッパに旅行して実地にケンブンをひろめることもできましょう。フランス語や英
語が使われている社会の、広い意味での︽文化︾総体の研究に大いに役立つであろうこ
とには、疑いをはさむ余地もありません。
ところが、その言語圏の文化の媒体であるということに加えて、言語はそれ自身一つ
の︽文化︾であり、
︽社会制度︾であると言われています。次のようなことが新聞でと
り上げられたのを記憶している読者も少なくないでしょう。
数年前になりますが、在日アジア人留学生と日本の学生が協力して、それぞれの国で
親しまれているポップスや民謡を翻訳しあいました。そしてその成果を、﹁音楽を通じて、
お互いの文化を理解しあう︽サウンド・オブ・エイジャ・コンサート︾
﹂という形で実
現したのです。加わったのは、タイ、マレーシア、パキスタン、フィリピン、スリランカ、
シンガポール、インド、台湾、香港、日本の十か国の男女大学生、高校生であり、この
企画は大成功に終わりましたが、そもそものきっかけは、
﹁歌にこそ民族の心が生きて
いるのに、歌詞がわからないとその内容が通じないのではないか﹂という気持ちからで
した。
ア
ところが、翻訳作業はまことに困難を極めました。ただ単語を置きかえていくなどと
いう仕事でないことは覚悟していたそうですが、文法上の問題以上に彼らを悩ましたの
0
0
0
0
0
0
0
あったし、﹁同棲﹂は母国では恥ずべき行為。まして﹁洗い髪が芯まで冷え、小さな石
2
鹸がカタカタ鳴る﹂まで待たされた女が、
﹁あなたのやさしさが怖かった﹂などと言う
その心情は、マレーシア人には到底納得できなかったと言っています。
最も基本的なことから考えてみましょう。言葉は音声で表されるとしても、この音声
はいわゆる叫び声とかうめき声とは違っています。私たちが胃痛を覚えた時、
﹁ウーン﹂
とうめいて他人に苦痛を訴えることもできますが、このうめき声は区切りのない音声で
苦痛を表現しているばかりか、それがはたして頭痛なのか歯痛なのか胃痛なのか区別で
きません。ところが﹁イガ イタム﹂という言葉を使用して苦痛を訴える場合は、同じ
−1−
14
は文化そのものの違いだったのです。たとえば、
かぐや姫が歌ってヒットした﹁神田川﹂
0
をマレー語に訳したマレーシアの留学生には、まず﹁風呂屋﹂という語が翻訳不可能で
0
音声の連続体であっても、それぞれ区切られた音に対応する意味を理解することができ
イ
ます。
これは当りまえのことのようで、実は大変重要なことなのです。私たちが外国語をは
じめて耳にすると、
ふつうは一連の雑音の波としか聞こえません。これは、
私たちにとっ
て知らない言葉はちょうどうめき声とか叫び声のように聞こえ、どこでどう区切られ、
という声の連続体を聞かせた場合を想像してくださ
ʒemalalɛstɔma!
それぞれの区切りがどんな意味をになっているかがわからないからです。フランス語を
全く知らない人に
い。 ʒem/al/al...
と区切るのか ʒe/mal/a...
と区切るのか、一切見当もつきません。外国
語を学習するということは、まず、この音の連続体をどのように区切って不連続体とし
て受け取るかという能力を身につけることなのです。
ところで、この区切り方が、日本語でもフランス語でも英語でも全く同じだとしたら
話は簡単です。日本語の﹁犬﹂にあたるフランス語の
や英語の
を覚えてお
chien
dog
けばよいのですから、
外国語学習というのは単語の暗記だとも申せましょう。
しかし、﹁胃
が痛む﹂という体験を *Estomac souffre.
︵正しいフランス語ではありません。文字通
りには、﹁胃が痛む﹂という意味。左肩につけた*印はあり得ない形であることを示し
ます︶とは言わないところに問題があります。
4
0
3
0
0
0
0
0
A
問2 空欄
1
a
d
c
︾に、フラン
︵丸山圭三郎
︶
﹃言葉とは何か﹄
︾にし、これを通して新しい生き方を始めることなのです。
B 3
C 4
D 5
E 1
に当てはまる語句として最も適当なものを、次の①∼④の中から一
2
問1 傍線部1、3、4、5のカタカナを漢字に、傍線部2の漢字のよみをひらがなに
直して記述式解答欄に記入しなさい。
ス的思考を加えた︽
点から読解・ハアクすることであり、日本的思考といういわば︽
5
ものの見方を身につけること、すでに私たちが日本語を通して知っている世界を別の観
言語が、それ自身文化であり、 b 形式であるというのも、右のような事実から
言われることで、たとえばフランス語を学ぶということはとりもなおさず、全く新しい
をカクトクすることにほかなりません。
0
つ選びなさい。
①
公共性
②
一般性
③
社会性
④
実用性
−2−
これは単に構文の違いということだけではなく、私たちが世界中に共通する一定数の
概念をもっていて、言葉はそれぞれ既存の概念に︽名づけ︾をするものではないことを
化・構造化であって、外国語を学ぶということは、すでに知っている事物や概念の新し
0
意味しています。言葉は、それが話されている社会にのみ共通な、経験のコユウの概念
い名前を知ることではなく、今までとは全く異なった分析やカテゴリー化の新しい視点
0
0
0
0
0
0
0
マレーシアではポップスではなく民謡が主流である。
マレーシア人と日本人は物事の感じ方や考え方が違う。
マレーシア人は同棲を好まない。
2
問3
傍線部ア﹁文化そのものの違い﹂の説明として最も適当でないものを、次の①∼
0
④の中から一つ選びなさい。
マレーシアには風呂屋がない。
①
②
③
④
0
①
②
③
④
﹁イガ
イタム﹂という言葉を使用して苦痛を訴えること
区切りのない音声であるうめき声によって苦痛を訴えること
言葉は音声の連続体であるが、区切られた音に対応する意味を持つということ
4
に当てはまる語として最も適当なものを、次の①∼④の中から一つ
同じ音声の連続体であっても、言葉は区切ることが可能であるということ
b
d
複眼
d
文化
d
不連続体
d
構造
a 言語は文化そのものでもある。
6
7
b
新たな言語の習得は新たなものの見方を身につけることである。
8
c
言語は事象の概念形成そのものに関わる。
d
言語の習得にとって最も重要なことは音の区切り方を身につけることである。
9
問7 次のa ∼dについて、本文の内容に合致するものを①、合致しないものを②とし
て、それぞれ解答欄にマークしなさい。
①
c
単眼
・
②
c
道具
・
③
c
連続体
・
④
c
構文
・
c ・ d に当てはまる語の組み合わせとして最も適当なものを、次
問6
空欄
の①∼④の中から一つ選びなさい。
5
選びなさい。
①
文法
②
音声
③
思考
④
技術
問5
空欄
問4 傍線部イ﹁これ﹂が指している内容として最も適当なものを、次の①∼④の中か
ら一つ選びなさい。
3
0
−3−
0
問題二
次の文章を読んで、後の設問に答えなさい。
1
美術作品の価値はひとえに、目の前のものを見る画家の能力にかかっている。モデル
がすばらしく見えるのは、それをとらえた画家の目がすばらしいからである。そのモデ
ルに対する画家の見方はつねにドクソウ的で、モデルのほうもそんな画家の視線に対し
てたえず呼応する。レンブラントの視線がモデルに向けられると、モデルは生き生きと
反応する。レンブラントは人間に対して深い洞察力をもっていた。物に備わった意味を
2
深く見通すことができる類稀な能力の持ち主だった。
レンブラントの素描でも、ありふれた雑誌の表紙でも、モデルは同じようにポーズを
とるだろう。天才とは、見る力を持った人間のことである。 a
でなくても、とび
2
きりうまい﹁スケッチ﹂を描くことはできる。だが、その種のスケッチはどちらかとい
3
えばお手軽なものだ。それらは簡単に変わってしまう。自分の素描に対する見方もうわ
べだけで浅薄になりやすい。ものの見方にこだわらないからだ。見る力をもった人間の
場合、そうはいかない。主題を正確に表現すること、それが何よりも大切なのだ。技術
を思いのままに駆使できることは当然として、必要に応じて特殊な技術を開発しなけれ
ばならないこともある。芸術家とは、芸術活動と称して毎日をのらくら過ごす人間では
ない。自分の道を切り開こうと熱く燃える人間である。まず技術を身につけ、それから
4
見ることにしようなどと考える人は、出来合いの技術しか得られない。
そのたびごとに生の素材を
技術を学ぶとは、それを作り、コウアンすることである。
4
新しく用い、形を作りあげる。技術は特別な目的のためにコウアンするべきものである。
同じ技術は二度と使えない。たった一度きりで、前例のない新鮮なものでなければいけ
ア
ない。決まりきったマンネリの手法などありえない。技術の研究は叡智を育てることに
等しい。
画家の経験を詰めこんだ倉庫があるとすれば、それはいつでも使えそうなうまい慣用
表現の貯蔵庫ではない。そこには生の素材が蓄えられている。うまい慣用表現もあるだ
ろうが、それらは一度徹底的に壊したあとで、新しい形に作りかえられる。創作意欲の
ある人間は、古い表現を使うことにためらいをもたない。自分にどうしても必要な何か
を作りだすための試行錯誤は楽しいものだ。なんでも利用すればよい。まず壊し、その
あとで最初からやりなおす。ものの真髄を見る力をもつのは、すばらしいことだ。見る
ことには限りがない。正しい見方ができるというのは、すばらしいことだ。そして、そ
れを表現する方法を考えだせること。技術をやたらと習得するのではなく、技術を使い
こなせる人間であれ。むやみに技術をかき集めるだけの人間は、せいぜい二流の画家に
しかなれない。偉大な画家とは、自分の創造力がすべてだといえる人である。ふつうの
画家は多様な技法をもっていることが多い。それらはすでに評価が定まった技法である。
腕のある画家なら、それらの技法を駆使して自分のアイディアを驚くほど見事に表現す
イ
る だ ろ う。 あ る い は、 そ れ ら の 技 法 に 合 わ せ て ア イ デ ィ ア を 練 り な お す か も し れ な い。
だが、そんな画家は絵を描いていても楽しくないだろう。脱皮した蛇は抜け殻に潜りこ
むことができるかもしれない。だが、そんなばかなことをする蛇はいない。
私はこのことをはっきりさせようとしてきた。つまり、人間を刺激し、楽しませるの
は、見ることであり、作りだすことである。当たり前の常識に反駁することである。た
−4−
とえば教育では、知識を収集し、貯蔵することが主体であり、作りだすことは二の次で
ある。常識を崩すのは簡単ではない。だが、このことはよく考えてみるに価する。
女性のドレスを賛美する男たちがいる。 b 、そのドレスがどんな素材でできて
いるかは知らない。人は、それが栗の木であることを知らずに、その木を褒めるかもし
れない。画家が一艘の船に目を引かれ、絵を描いたとしても、画家は帆の扱いについて
は船乗りほど知識がないだろう。画家は自分が見たものを描くだけだ。画家はそれを美
しいと思い、その美を描きたいと思った。女性の衣装はめったにない上等な逸品で、高
価な品物かもしれない。だが、画家にとって、ドレスはその女性の一部でしかない。
5
スケッチで描いたものの比例がつねに狂っているようなら、ものの見方が歪んでいて、
それを見抜く批評眼をなくしたと思うべきである。だらしない暮らしをしていると、そ
うなりがちだ。
自分の考えを自分の考えだとカクシンできる強い人間はめったにいない。
教育がそのままあらわれる絵もあれば、愛を訴える絵もある。
無学な人と同じくらい、高い教育を受けた人びとのあいだにも無知は見られる。
人のことを知りたければ、体の動きを見るとよい。舌は、体より嘘つきだ。
ときとして、個人的な経験を深く受け入れるのに教育が妨げになることもある。一方、
教育の不足は、個人の経験に限界をもたらすことがある。
G 3
H 4
I 5
J
に当てはまる語として最も適当なものを、次の①∼④の中から一つ
2
a
−5−
握手にも様々な種類がある。とても暖かく、気にかけてくれることが伝わってくる握
手もある。
モデルは一時間ずっと沈黙しているかもしれない。だが、体はつねに語っている。
画家は人体の動きを捉える。画家は人間観察の目が鋭い。
人は、首の後ろの皮膚にまで神経をいきわたらせていない。相手の敵意を探るには、
首の後ろを見ればよい。
︵ロバート・ヘンライ
︶
野中邦子訳
﹃アート・スピリット﹄
美術作品はそれ自体が一つの動作であり、暖かかったり、冷たかったり、誘いかけた
り、拒んだりする。
F
問1 傍線部1、4、5のカタカナを漢字に、傍線部2、3の漢字の読みをひらがなに
直して、それぞれ記述式解答欄に記入しなさい。
1
問2
空欄
選びなさい。
①
芸術家
②
画家
③
天才
④
モデル
10
問3 傍線部ア﹁うまい慣用表現﹂の意味として最も適当なものを、①∼④の中から一
つ選びなさい。
①
何度でも再利用できる技術や知識
② 必要に応じて開発した特殊な技術
③
一度徹底的に壊された技術や素材
④
前例のない新鮮な技術や生の素材
問4 傍線部イ﹁脱皮した蛇は抜け殻に潜りこむことができるかもしれない﹂の意味と
して適当なものを、次の①∼④の中から一つ選びなさい。
b
に当てはまる語として最も適当なものを、次の①∼④の中から一つ
①
芸術活動と称して毎日をのらくら過ごすこと
② 古い表現を使うことにためらいをもたないこと
③
さまざまな技術をやたらと習得すること
④
評価の定まった技法を駆使して表現すること
問5 空欄
選びなさい。
①
また
②
だが
③
それゆえ
④
つまり
問6
筆者の考えに最も合致するものを、次の①∼④の中から一つ選びなさい。
①
すぐれた芸術家の作品は、作者の深い洞察力によって生み出され、美術作品とし
ての価値をもつ。
②
必要な何かを作りだすための試行錯誤は楽しいものであり、ものを見る力がある
のであれば、古い表現を使用することをためらうべきではない。
③
画家は、女性が身につけているドレスを美しいと感じれば、その素材や価値につ
いて詳しく知りたいと思う。
④
腕のある画家なら、身につけた多様な技法を駆使して、自分のアイディアを驚く
ほど見事に表現することができる。
︵以上︶
−6−
11
12
13
14