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◉食を通じてQOLの向上に
貢献する栄養通信
Better quality of life
through better nutrition
編集・発行●株式会社 ジェフコーポレーション 〒105-0012 東京都港区芝大門1-16-3 芝大門116ビル3F http://www.jeff.jp (03)3578-0303
提 供●株式会社 クリニコ 〒153-0063 東京都目黒区目黒4-4-22 http://www.clinico.co.jp (03)3793-4101
◉病態栄養 TOPICS 重症患者の栄養管理についての考察
-
「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」
の概要を中心に-
◉Trend
腸内細菌に関する最近のTOPICS
-FMT
(糞便微生物移植法)
を中心に-
◉臨床現場訪問 入院・外来患者さんの
ビタミン・微量元素不足を幅広くサポート
-微量元素強化・果汁入り栄養補助飲料の有用性-
◉連載 リレーエッセイ その❶
物語のはじまり…京滋摂食嚥下を考える会を立ち上げて
000©123RF.COM
2016
28
No.
病態栄養トピックス㉑
重症患者の栄養管理についての考察
―「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」
の概要を中心に―
小谷穣治 先生
こたに・じょうじ◉兵庫医科大学 救急・災害医学講座主任教授・救命救急センターセンター長
海外には重症患者を対象とした栄養管理ガイドラインが複数存
在しているが、わが国には存在しなかった。そこで、
日本集中治療医
学会は、2012 年 10 月に委員会を立ち上げ、重症患者の栄養管理に
関するガイドライン作成作業を開始し、
この度 2016 年3月に
「日本
版重症患者の栄養療法ガイドライン」の総論が公表された。本ガイ
ドライン作成委員会委員長の小谷穣治先生(兵庫医科大学救急・災
害医学講座主任教授)
にガイドラインの一部を紹介しつつ重症患者
の経腸栄養管理のポイントについて伺った。
また、既報の幾つかの RCT やメタ解析では、人工呼吸期間には
差がない結果です。ICU 在室期間の短縮、医療費の低下を示した
RCT やメタ解析はあります
(差を示さない研究もあります)
。ICU 在
室 期 間 は 7 編 の RCTと2 編 の メタ 解 析 で、在 院 期 間 は 24 編 の
RCTと3 編のメタ解析で検討されていますが、一つの RCTと一つ
のメタ解析で在院日数の短縮を認めるのみで、他の研究では有意
差が示されませんでした。
医療費に関する検討では、8 編の RCT で経腸栄養群での削減効
果が示されています。
これらを考慮して、経腸栄養と静脈栄養のど
ちらの栄養投与ルートを優先すべきかとの CQについては、経腸栄
養が最終的な転機を改善するとはいえないが、害はなく益が多いこ
とから経腸栄養を優先することを強く推奨すると結論づけました。
「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」
の概要
私は、
日本集中治療医学会の「日本版重症患者の栄養療法ガイド
ライン」委員会委員長、
また現在並行して作成中の、
「日本集中治療
医学会の敗血症診療ガイドライン」改訂版の栄養部門を担当してい
ます。委員会は私以外に救急・集中治療分野で日本を代表する16
名の委員で構成されています。
「日本版重症患者の栄養療法ガイド
ライン」の総論はこの 3 月にパブリッシュされました
(日本集中治療
医学会雑誌 Vol.23(2016)No.2.p185-281)。
基本的に対象患者は日本人の重症患者さんです。海外のエビデン
経腸栄養は治療開始後24時間以内の施行が望ましい
本ガイドラインでは、経腸栄養に関して以下の CQを記載しています。
CQ1.
CQ3.
経腸栄養の開始時期はいつが望ましいか ?
栄養チューブの留置位置の選択と
経十二指腸チューブの挿入法
CQ3-1. 経腸栄養施行の際、
経胃投与よりも、
十二指腸以遠から投与されるべきか?
CQ4. 入室後早期の経腸栄養の至適投与エネルギー量は?
スしかない中で、国際ガイドラインでは言及されないが本邦で行われ
ている治療、海外では行われているが本邦には存在しない治療など
についても言及し、本邦の臨床に適応した推奨の提示に努めました。
エビデンスレベルは A-D の 4 段階、推奨の強さは 2 段階で表し
ました。全 3 章で構成し、第 1 章はガイドラインの作成方法について
述べ、第 2、第 3 章は成人と小児の栄養管理について、経腸栄養のモ
ニタリングや静脈栄養を開始すべき場合、特殊栄養素、補足的治療、
エネルギー投与量、栄養投与ルートなどをクリニカルクエスチョン
(CQ)形式で解説しています。各 CQに対する推奨作成にあたって
は、既存のシステマティックレビューとメタアナリシス、国際ガイドラ
イン の 推 奨 を 流 用 可 能 か 否 かにつ い て 検 討し、必 要に応じて
Minds 診療ガイドライン作成マニュアルで示された方法に準拠し
つつシステマティックレビューとメタ解析を行いました。なお、生命
予後を左右するCQ が存在することから、栄養投与が重要な治療の
ツールであることを示すべく、本ガイドラインの名称には
「栄養管
理」
ではなく
「栄養療法」
を用いました。
CQ1について触れますと、早期経腸栄養はこれまでのガイドラ
インにおいても一致して推奨されていました。直近のシステマ
ティックレビューであるCanadian Clinical Practice Guideline
(CCPG)で、早期経腸栄養による死亡率、感染症発生率、病院滞在
日数の低下も示されています。ICU 入室 24-48 時間以内の経腸栄
養開始による生命予後の改善は種々のメタアナリシスや観察研究
にて示されています。
また、早期経腸栄養の効果は重症度が高けれ
ばより高くなることも示されています。CCPG 以降にこの結論と矛
盾するRCT は発表されていなかったため、CCPG の推奨を踏襲し
て、重症病態に対する治療開始後 24 時間以内、遅くとも 48 時間以
内の経腸栄養開始を推奨することとしました。
経腸・静脈栄養療法中の患者管理のポイント
重症患者の栄養管理における経腸栄養の重要性
経腸栄養療法中の患者管理に関しては、以下の 8 項目について
記載しています。
本ガイドラインの内容を通じて重症患者の栄養管理のポイントに
ついて触れたいと思います。
まず、栄養投与ルートとして静脈栄養
と経腸栄養のどちらを優先すべきかについてです。
SCCM/A.S.P.E.N. や ESPEN のガイドラインでは、栄 養 投 与
ルートに関して、静脈栄養よりも経腸栄養が推奨されていますが、
委員会でも独自に経腸栄養と静脈栄養に関するRCT を集積し、
intention to treat 解析(ITT解析)
を用いてメタ解析を行いました。
死亡率の検討では、36 編の RCT が対象となりましたが、有意差は
認められませんでした。一方、感染症発症率では 33 編の RCT が対
象となり、同じくITT 解析を用いたメタ解析で、経腸栄養群が静脈
栄養群よりも有意に低い結果でした。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
1
胃管の位置確認
胃内残量の管理
経腸栄養投与中の体位
経腸栄養の間欠投与と持続投与
経腸栄養投与の開放式システムと閉鎖式システム
便失禁管理システム
栄養チューブの口径と誤嚥
胃瘻の適応
重症患者の栄養管理についての考察―
「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」
の概要を中心に―
一方、静脈栄養療法中の患者管理として取り上げたのは、以下の
る結果を示した RCT がないため、
作成ルールに従って国際ガイドラ
3 項目です。
インを踏襲し、基本的には投与しないことを推奨しています。
アル
ギニンは免疫機能改善や蛋白合成の亢進、創傷治癒を促進する役
割があり、微小循環調整に大切な一酸化窒素(NO)の基質ですが、
一方で、過剰な一酸化窒素の産生により、末梢血管の過度な拡張や
循環動態への悪影響が危惧されています。
1. 中心静脈カテーテル挿入時の感染防御
2. 中心静脈カテーテルの留置部位の選択
3. 静脈カテーテルの交換
●グルタミン
グルタミンについては、小さいながらRCT があります。国際ガイ
ドライン以降に矛盾する結果を示した RCT がないため、作成ルー
ルに従って国際ガイドラインを踏襲し、
グルタミンを強化した経腸
栄養の投与を熱傷と外傷患者で考慮することを弱く推奨していま
すが、
ショック、多臓器障害を呈する場合はグルタミンを強化した経
腸栄養剤の投与は控えることを強く推奨しています。
これら患者管理に関しては研究報告の内容が限られており、
エビ
デンスに乏しい部分もありますが、安全に栄養療法を行うためには、
患者管理について一定の見解を示す必要があることから、
ガイドラ
イン作成委員会にて検討の上、記載しています。
小児の栄養管理
栄養管理は、小児集中治療分野における支持療法の一つですが、
成長を考えれば重要な役割を担っています。そこで、本ガイドライ
ンでも小児の項目を設けることにしました。
しかし、
この領域では
質の高いエビデンスが不足しており、国際ガイドラインで小児を
扱っているA.S.P.E.N. ガイドライン以降に推奨に反するRCT の発
表はないため、作成ルールに従って、A.S.P.E.N. ガイドラインを基
に、近年の小児集中治療における栄養管理に関するRCT を集積し
たものを加味して構造化抄録を作成し、
システマティックレビュー
を行いました。
項目分けに関しては、基本的にA.S.P.E.N.ガイドラインに準拠し
ましたが、血糖管理については 2009 年以降に比較的大規模なエビ
デンスがいくつか得られたため、
血糖管理の項目を追加しています。
各項目の要旨は以下の通りです。
●n-3 系多価不飽和脂肪酸
ARDS および ALI(acute lung injury)患 者におけるn-3 系 多
価不飽和脂肪酸含有製剤の有効性に関しては n-3 系多価不飽和脂
肪酸(EPA)、
γリノレン酸、抗酸化物質を強化した経腸栄養剤の有
用性を示唆する報告はあるものの、研究で使用されたコントロール
群の栄養剤は標準的栄養剤でない RCT がある、経腸栄養剤に含有
される形ではなくbolus 投与した研究で死亡率の上昇が示された
など、対象患者、投与方法、
コントロールが異なる研究が多くありま
す。国際ガイドラインでは総合的に推奨度を下げています。
これら
の国際ガイドライン以降に矛盾する結果を示した RCT がないため、
作成ルールに従って国際ガイドラインを踏襲し、sepsis/severe
sepsis/septic shock の患者に関しては n-3 系多価不飽和脂肪酸
(EPA)、
γリノレン酸、抗酸化物質を強化した経腸栄養剤の使用を
考慮することを弱く推奨することとしました。
A. 栄養療法の必要性:入室時の低栄養は死亡率や
人工呼吸日数を延長させる。解決策は不明。
B. 栄養評価:身体計測による栄養評価を行う。
血液検査所見での栄養評価は困難。
C. エネルギー投与量:エネルギー消費量は間接熱量計で
計測できるが、理想の目標投与エネルギー量は不明。
D. 三大栄養素:炭水化物、
たんぱく質、脂質の適正な
投与量は不明。
エキスパートオピニオンのみ。
E. 栄養投与ルートの決定:経腸栄養が優先される。
幽門後投与は目標エネルギー投与により早く到達する。
F. 免疫調整経腸栄養剤:投与を支持するエビデンスはない。
G. 血糖管理:厳格な血糖管理は推奨しない。
H. 経腸栄養投与プロトコール、
チーム医療:
臨床転帰に影響を及ぼすエビデンスはない。
●食物繊維
(可溶性と不溶性)
食物繊維については、可溶性食物繊維は下痢で難渋する症例に
は使用を考慮することを弱く推奨し、不溶性食物繊維は重症患者全
般に使用を避けることを弱く推奨しています。
●半消化態栄養剤と消化態栄養剤
(ペプチド型栄養剤)
消化態栄養剤(ペプチド型栄養剤)の使用が半消化態栄養剤と比
較して、重症患者に対して効果があるという根拠は得られていませ
ん。海外ではペプチド型栄養剤よりも半消化態栄養剤の方が低コス
トであることから後者の投与を考慮することを推奨していますが、
本邦におけるコストの違いは明確ではないためどちらでも良いとし
ました。
いろいろなメタ解析をみても、重症患者の栄養管理で試みられて
いる特殊栄養素の投与は概して、様々な病態と相まって評価しづら
く明確な有効性を得られていないというのが現状です。
小児分野における栄養管理のエビデンスは成人のデータをその
まま小児には当てはめ難いため、できる限り小児集中治療分野の
データを基に作成しました。その結果、不明瞭な部分が多く、推奨も
弱いものとなっています。
しかし、不明瞭な部分を明らかにすること
で、
今後の研究の方向性が示されたともいえます。
ガイドラインはあくまでも参考に
ガイドラインはエビデンス整理ブックであって、必ずこの推奨に
従って治療に当たる必要はありません。医療の現場では可能性に基
づいて治療方針を決めるのであって、選択した治療により結果を保
証することはできません。
また、効果が高いと思われる治療方針を
必ずしも選択するわけではなく、年齢、性別、宗教、家庭環境、倫理
観など患者さんの背景因子も考慮して、
治療方針を立てるべきです。
医療者はある意味で職人ですから、
ガイドラインを過去のエビデ
ンス整理本として参考にしながら自分の経験とスキルや直感、場合
によっては自分の一番慣れている方法を重視することが最も良い
治療の選択に繋がるのではないかと思います。
特殊栄養素について
ガイドラインでは、特殊栄養素としてアルギニン、
グルタミン、
n-3 系多価不飽和脂肪酸、食物繊維(水溶性と不溶性)、半消化態栄
養剤と消化態栄養剤(ペプチド型栄養剤)
に触れています。
●アルギニン
アルギニンに関しては、重症敗血症患者の投与で死亡率が上昇
するというRCT が幾つかあります。国際ガイドライン以降に矛盾す
2
最近の話題や用語を紹介㉖
腸内細菌に関する最近のTOPICS
-FMT
(糞便微生物移植法)
を中心に-
金井隆典 先生
かない・たかのり◉ 慶應義塾大学医学部内科学
(消化器)
教授 免疫統括医療センター センター長
最近の研究で腸内細菌は下痢や便秘などの便通異常だけでなく、
叢のパターンは異なり、IBD でも明らかにdysbiosis を起こしてい
全身の健康状態や様々な疾患にまで関係することが明らかになっ
るということが分かっています。そこで、疾患の治療にあたっては、
てきた。疾患治療として健常人の正常便(腸内細菌)
を移植する治
dysbiosis が起きている腸内細菌叢に対して疾患によって失われ
療法
(FMT:糞便微生物移植法)
も行われ、注目されている。2014
た腸内細菌を補ってあげる治療法が注目されています。
また腸内細
年にわが国でいち早く潰瘍性大腸炎治療にFMT を試みた慶應義
菌だけではなく食物繊維等も補充すると健康な個体が維持できる
塾大学教授金井隆典先生に糞便移植や腸内細菌に関する最新の話
のではないかといった考え方もあります。特に腸内細菌を補充する
題について伺った。
究極の方法として糞便微生物移植法
(FMT:Fecal Microbiota
Transplantation)
が最近の話題になっているのです。
dysbiosis の疾患への影響
CD 感染症とFMT
腸内細菌は、元来人間の食事の 10%ぐらいを横取りして、その代
わりに消化吸収を助けてくれる掃除役を担う家来のようなイメージ
2013 年 1 月、「The New England Journal of Medicine」誌
で捉えられていました。
しかし、近年腸内細菌こそが人間にとって最
にある論文が掲載されました。
オランダ・アムステルダム大学の
も重要な働きを担っているのではないかと非常に注目されています。
ニードロップ先生が、
健康人の糞便を腸内に移植する
「糞便移植」で、
人間の体は約 60 兆個の細胞でできていますが、腸内細菌は 1000
難治性の
「クロストリジウム・ディフィシル感染症
(CD 感染症)
」の
種類で総数 100 兆個くらいが腸内に棲んでいます。
また、人体には 2
症状を大きく改善させたと報告しました。CD 感染症は、欧米を中心
万 5 千個ぐらいの遺伝子が存在するのに対して、一人の人間が持っ
に患者さんが増えており、
下痢・腹痛・発熱などの症状が現れ、悪化
ている腸内細菌由来の遺伝子は100万種類あるいは1200万種類と、
すると敗血症などの合併症を引き起こし死に至ります。CD は健常
はるかに多くの遺伝子が存在している事実があります。
人においては諸症状を引き起こすことはない日和見菌ですが、例え
「The New England Journal of Medicine」誌の総説で、第二
ば感染症治療のための抗生物質の過量投与で他の腸内細菌が減少
次世界大戦後、結核やマラリアなどの感染症は激減した一方、それ
すると、毒素を産生して症状を引き起こします。特に免疫機能が低
とまさに逆相関するように、喘息や炎症性腸疾患といった疾患が増
下した高齢者や病人が重症化しやすいと言われており、抗生物質の
加していることが報告されました。
これは環境や食生活を含む生活
使い過ぎが CD 感染症の原因と考えられます。そのため抗生物質に
様式の変化が原因と言われています。
この環境等の変化は腸内細
よる治療に限界があり、
根治は難しいとされています。FMT は、
こう
菌にも影響を及ぼし、腸内細菌叢のパターンが崩れることで病気に
した抗生物質によって激変した腸内環境を、健康人の便に含まれて
なるとも推測されています。
こうした現象は dysbiosis(ディスバイ
いる正常な腸内細菌叢を外部から注入して腸内環境を改善しよう
オシス:
「dys」は
「無い」、
「biosis」は
「腸内細菌の環境」)
と呼ばれ
とする治療法なのです。
ています。腸内細菌叢に起こった何らかの不具合が様々な疾患の発
潰瘍性大腸炎への応用
症の原因になっている可能性があるということです。
また腸内細菌には多様性があり、腸内に1000 種類の菌があるこ
私も本論文を目にしたことで感銘を受け、FMT の研究に取り組
とが重要で、例えば、それが 500 種類になると獲得できる遺伝子の
むきっかけとなりました。難治性の CD 感染症以外にも dysbiosis
数も少なくなり、多様性も機能も損なうことに繋がり、それが病気
が影響している疾患はいろいろと考えられます。我々は、その中で
の発症に繋がるのではないかと言われています。
この腸内細菌叢
私の専門であるIBD の潰瘍性大腸炎をターゲットにFMT 治療の研
のパターンが崩れることと、腸内細菌の種類が減ることは、特に食
究を続けています。潰瘍性大腸炎症例の中でも手術に移行するリス
生活の欧米化が大きく影響しているとも言われており、その結果、
クの高い重症で難治療性の症例に対して FMT の臨床試験を行って
病気の種類も劇的に増えているのではないかと言われています。
いますが、有効性のエビデンスレベルはまだ乏しい段階です。
また、
何しろ他人の便を移植するという衝撃的な治療法ですから、誰もが
dysbiosisを改善するには
納得できるよう安全性を評価するとともに、科学的な治療法として
腸内細菌叢は、人種や国によって内容が異なっています。
おそら
いくことを念頭に置いて研究を進めています。我々が FMT を行っ
く同じ日本人でも地域によって異なってくると思います。その要因
た 10 例の臨床試験において、
プライマリーエンドポイントである安
ははっきりと分かっていませんが、
おそらく各民族等が有する独自
全性に関しては確認できています。現在も安全性を評価しながら、
の伝統や、生活様式といったものに由来しているのでしょう。
食事だ
慎重に進めているところです。
けでなく、遺伝学的な背景によっても腸内細菌叢のパターンが異な
ります。
FMTにおける問題点
また、私の専門分野であるIBD
(炎症性腸疾患)
について触れると、
FMT の有効性がまだ限定的であるという点で指摘したいのが、
わが国の健康人と潰瘍性大腸炎やクローン病患者さんの腸内細菌
移 植 の 難しさ で す。FMT:Fecal Microbiota Transplantation
3
腸内細菌に関する最近のTOPICS-FMT
(糞便微生物移植法)
を中心に-
の transplantation の意味は移植です。transfer
(移入)ではあり
関」
という言葉もありますが、腸内細菌は自閉症やうつなどの精神
ません。
すなわちただ注入すればよいわけではなく、そこに植えつ
疾患に加え、認知症との関連も考えられており、大変興味深い分野
けて生えなければなりません。FMT 治療下ではそれまで棲んでい
だと思っています。
た菌と注入した菌の間で相当な合戦が繰り広げられているだろう
と想像できます。
人間を取り巻く環境が腸内細菌に及ぼす影響
我々は移植した菌がそれまで棲んでいた菌を追い出して生える
そう考えると世の中の多くの事象が腸内細菌の科学的な研究で
ことを検証する必要があります。過去の論文には、FMT 治療後、
ド
説明できる可能性があります。例えば、米国では清涼飲料水、特に炭
ナー側の細菌叢が変化している症例は治癒の方向に向かい、一方、
酸飲料の飲みすぎが肥満の一因と言われ、人工甘味料を使った炭
移植後もそれまでと細菌叢に変化があまりない症例では治癒が進
酸飲料が発売されました。多くの人がこの炭酸飲料を愛飲するよう
まないことが報告されています。
ということは必要条件として、次
になったのですが、全然肥満は減りません。
「Nature」誌に発表され
世 代シ ークエン サ ー 等 を 用 い て 腸 内 細 菌 叢 を 解 析し、trans-
たある研究によれば、人工甘味料が腸内細菌の dysbiosis を起こし
plantation がなされたかどうか、詳しく検証する必要があります。
ているということが分かってきたのです。
また、同誌には、乳化剤に
現在、移植後の菌交代がどのような機序で進むのかといった研究も
ついての論文も掲載されました。肉をはじめとする食品の加工等に
盛んに行われています。それらの研究成果がフィードバックされれ
欠かせない乳化剤が有する界面活性作用が、腸粘液の萎縮等の要
ば FMT もさらに進歩していくものと思います。
因となることがわかり、様々な疾患の発症に関与している可能性が
FMTの諸疾患への応用
とともに、人工甘味料や乳化剤といった文明の発展とともに生み出
国内外では、潰瘍性大腸炎以外にも、肥満、パーキンソン病等、
された利器の利用が増えることが、腸内細菌を通じて人の健康など
様々な疾患で FMT が試みられています。よく知られているのは
に新たな悪影響を及ぼす危険性もはらんでいる可能性があります。
あるといった内容です。食物繊維等の大事なものの摂取が減少する
「Science」誌に発表された研究で、肥満者の便を無菌マウスに移
植すると、同じ食事を摂っていてもそのマウスは肥満になっていく
プロバイオティクス分野の発展に期待
※1
のです
(図1)
。一方、痩せている人の便を無菌マウスに移植すると、
腸内外の環境を整える重要性が注目されている中で、今盛んに
痩せるということを証明しました。そこで、肥満に対するFMT の有
活用が試みられているのが善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌を
用性の研究が行われたのですが、RCT では肥満患者さんの改善は
含むプロバイオティクス関連の食品だと思います。
プロバイオティ
あまりみられませんでした。
しかし、
インスリン感受性
(耐糖能)の向
クス産業にとって、今は本当に追い風だと感じていて、私は、
この
上は認められました。
ブームに乗って、
もっとこの分野が大きく発展していくことを願って
また、最近、脳と腸内細菌との関連が注目されています。例えば、
います。
日本はプロバイオティクスの有力企業が多く、健康産業の
ハンバーグが好きな子というのは、ハンバーグを食べて
「おいしい」
領域で活躍していますが、医療とも非常に直結している分野でもあ
と脳で感じるからだと思います。一方で、その子に棲んでいる腸内
るので、そうした企業が一歩踏み込んでどのように医療に貢献して
細菌の中には、ハンバーグが好きな菌もいて、実はその菌も
「おいし
いくかも試されている時期だと捉えています。
い」
と感じているのではないでしょうか? ハンバーグが好きな菌
よく腸内細菌は培養不可能と言われてきましたが、現在はメタ
は、ハンバーグを餌として増殖することで、何らかの代謝産物を分
ジェノミクスで一つ一つの菌の全ゲノム情報がどんどん解明されて
泌し、血液に乗せて脳に
「またハンバーグを食べろ」
という指令を出
きて、難培養菌でも増殖のための固有の餌を特定できる時代になり
しているのではないか、
と最近考えるようになっています。
「脳腸相
つつあります。欧米では、ある善玉菌をいくつか増殖して特定の疾
患の患者さんに大量に投与してその有効性等
を明らかにする研究も進んでいます。私は、
こ
うしたいわば善玉菌のカクテルを爆弾的に大
量に投与するという方法をカクテル治療と呼ん
でいますが、FMT の次世代治療戦略にも繋が
太ったヒトの
腸内細菌叢
(多様性が乏しい)
痩せたヒトの
腸内細菌叢
(多様性に富む)
る治療法になりうると注目しています。
また、私も本分野の研究者ですから、食物繊
維はよく摂るようにしているし、腸内細菌に良
いことをしようと思い、
ときどきストレス解消の
ために仕事から逃げたりして
(笑)健康維持に
腸内細菌が
いない
無菌マウス
努めています。健康寿命を延ばすためには、人
間を取り巻く環境を整えることも重要で、その
ためのプロバイオティクスによるアプローチの
研究も進めばよいと思っています。
※1 Ridaura VK, et al. Science. 341 :1241214(2013)
体重は
増えない
体重や体脂肪
が増加
4
⬅図 1 腸内細菌叢と肥満との関連(イメージ図)
腸内細菌とプロバイオティクス .
編集・発行 株式会社ジェフコーポレーション, 2015
臨床現場訪問㉙
入院・外来患者さんの
ビタミン・微量元素不足を幅広くサポート
-微量元素強化・果汁入り栄養補助飲料の有用性-
長谷 恵 管理栄養士(NST 専門療法士、TNT-D) はせ・めぐみ◉金沢医科大学氷見市民病院 栄養部 課長代理
金沢医科大学氷見市民病院では、多職種によるNST で患者さん
元素については、通常の食事だけでは日本人の食事摂取基準の推
をサポートしている。NST 介入が必要となる患者さんや食事摂取
奨量や目安量を満たさない可能性があります。特に病院給食にお
量が低下した患者さんにおいては、通常の食事では十分なビタミ
ける大量調理では、食品の下処理から調理の過程で栄養素量が減
ン・微量元素を補うことは難しい。そこで、NSTでは微量元素強化・
少してしまう場合があるため献立や新調理の導入など工夫を施し
果汁入り栄養補助飲料の有用性に着目し、食事中のビタミン・微量
ています。
しかしながら、水溶性ビタミン類は減少しやすく、献立作
元素補給のために積極的に活用している。その利用方法や有用性
成時の計算量を充足することは難しいと考えられます。喫食率が低
等について伺った。
下している患者さんも多く、
ビタミン・微量元素の必要量を摂取し
てもらうことが課題としてありました。
金沢医科大学氷見市民病院の NST
1回カンファレンスとラウンドを実施しています。
また、栄養スクリーニ
微量元素強化・果汁入り栄養補助飲料に
着目した理由は
ングや栄養アセスメント、モニタリング等の活動は、病棟の NSTリン
そこで、当院では栄養補助飲料に着目し、
ビタミン・微量元素の
クナースはじめ、ST(言語聴覚士)、PT(理学療法士)、OT(作業療法
調理損失を考慮し、その補給を目的に、基本の食事の中に微量元素
当院の NST は、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士が中心となり、週
士)、歯科衛生士、臨床検査技師等多職種が関わっています。
強化・果汁入り栄養補助飲料を組み込み、毎日飲用していただくよ
低栄養患者さんの抽出においては、臨床検査部にて血清アルブ
うにしています。提供する製品については主に、サンキストポチプラ
ミン値3.0g/dl以下またはヘモグロビン値9.0g/dL以下でスクリー
ス
(クリニコ:以下ポチプラス)で、嚥下困難な患者さんには他のゼ
ニングを実施し、栄養障害を有すると判定された患者さんについ
リータイプの補助食品を提供しています。
て各病棟の NSTリンクナースが注意深くチェックし、必要に応じて
栄養補助食品の選択については、味も良くジュース感覚で飲みや
すいこと、
ビタミン・微量元素の補給の他、高齢の患者さんは咀嚼
NST が介入する体制になっています。
や嚥下困難な場合もあり、
野菜や果物の摂取不足も顕著なことから、
ビタミン・微量元素をできるだけ
充足できるよう献立を考慮しているが…
ポチプラスなら食物繊維の摂取も可能なことが選択の決め手とな
りました。
当院のある富山県氷見市は県内でも高齢化が顕著な地域であり、
入院患者さんの過半数が 65 歳以上と平均年齢が高く、何らかの栄
ビタミン・微量元素の重要性を説明しながら
養障害や食事バランスの悪い方が多く見受けられます。
また、比較
管理栄養士は主に昼食時に病
的栄養状態が維持されている患者さんにおいてもビタミン・微量
棟に出向きミールラウンドを行
い、栄養補助飲料のパンフレット
を付けて、
ビタミン・微量元素の
重要性などを患者さんに説明し、
納得いただいた上で飲用してい
ただくよう努めています
(図1)。
また、退院指導や外来の栄養
指導の際は、在宅で食事のバラ
ンスをとることが難しそうな患
者さんには、いくつかの製品を
紹介し、個々に応じて栄養補助
食品の利用を勧めています。
クリ
⬆ 図1
ニコのお試しBOXは気軽に利用できるので、患者さんにも好評を
得ています。
様々な場面でポチプラスを活用
当院の診療科は二十数科あり、食事の種類が細分化されている
⬆NSTの皆さん。後列左から時計回りに、長谷恵管理栄養士、宮下浩美看護部副師長、
荻沢好美看護部師長、
澁谷知加看護師、
中村春香管理栄養士、
円内は栄養部長・NST 委員長の伊藤智彦先生
(内分泌代謝科准教授)
ので、その食事に併せて様々な使い方をしています
(右上表)。
5
入院・外来患者さんの ビタミン・微量元素不足を幅広くサポート―微量元素強化・果汁入り栄養補助飲料の有用性―
献立の工夫・対応の
ポイント
【様々な場面での使用例】
●回復期リハビリ病棟…当院ではリハビリに力を入れており、
リハビリ
※ポチプラス・ブイクレス・
GFO 水などお好みのもので…
後にポチプラスを飲用してもらう場合がある。
●脂肪を含まないので、
あっさ
●脂肪制限食…脂質制限により、脂溶性ビタミンが吸収されにくく
り食べられる。
なるためポチプラスで脂溶性ビタミンを補充
●ビタミンや 微 量 元 素 の 独 特
●糖尿病食…果物1単位(80kcal)をポチプラスにおきかえて指導
ポチプラス
(アップル&キャロット)
●透析食…水分制限の範囲内でポチプラスを利用し、不足しやすい
ビタミン・微量元素を補充
の風味も凍らせることで感じ
にくくなる。
●大きさは一口サイズが食べや
すい。
●貧血食…ポチプラスで鉄、
ビタミン C、
葉酸が同時に摂取できる。
熱量
●胃切後の少量頻回食…胃や回腸切除後や胃粘膜障害ではビタミン
蛋白質
0.6 g
脂質
0.0 g
食塩相当量
0.0 g
B12 が欠乏する可能性があることや、食事
摂取量が少なくなるため、
ポチプラスを利
用。
補食にも適している。
●褥瘡対策…ビタミン C、亜鉛の補充
75 kcal
●クラッシュしながらシャリシ
ャリ感を味わったり、口が渇
く方は、口の中で溶かしなが
ら食べると良い。
●お好みの飲み物を、
冷やし固
めるだけなので、とても簡単
にできる。
⬆ 図2 ポチプラスを使ったアイスキューブ
●長期絶食後の開始食として…飲み慣れたポチプラスから開始する
とその後の食事摂取がスムーズに
に対応した料理・献立を考案する課題があり、当院からは、
ポチプ
移行できる場合が多い
ラスを使ったアイスキューブのレシピを提案し、その後に作成され
●緩和ケア…ポチプラスを凍らせたアイスキューブを、食欲不振や
た、
「癌治療時の症状別 対応ポイントと料理・献立集」で紹介され
嘔気・嘔吐などがある患者さんに提供。
さっぱりしてい
ました
(図2:日本栄養士会のホームページで閲覧可能)。
ポチプラ
て、少しずつ食べていただけます。
スを使った献立は、他施設からもゼラチンを混ぜた、溶けても離水
●胃瘻管理…食物繊維、
オリゴ糖を配合しているので排便コントロール
しにくいゼリーのレシピが紹介されています。
に使用
●経管栄養のテーパリングの際に…経管栄養を開始してから徐々に
ポチプラスの評価
投与量を増やしていく際、栄養素
の微調整にポチプラスを使用
ポチプラスは、果汁入
りで味が良くジュース感
*鉄制限がある場合は鉄を含まない栄養補助食品に変更。
慢性肝炎では肝臓内に鉄が過剰に沈着している例が多いので、鉄の
過剰に注意する。
覚で飲用できるうえ、当
おいしくない
味が気になる
17%
院 の 通 常 食にポチプラ
スを 1 本追加した場合、
その他、入退院を繰り返している患者さんの栄養維持のためにも
平 均 的 な 食 事(1 日 分)
積極的に利用するようにしています。
の 充 足 率(平 成 21 年 国
体に良い
から飲む
30%
美味しい
57%
民健康・栄養調査 栄養
医薬品経腸栄養剤の補助栄養としても活用
素 等 摂 取 量 :50~59 歳
経管栄養の患者さんが退院して自宅に戻られる場合、入院時に
男性)
を凌駕できている
使用していた食品濃厚流動食から、医薬品経腸栄養剤の利用に切
点を評価しています。当
り替える場合があります。近年、食品濃厚流動食については、各栄養
⬆ 図3 ポチプラスの嗜好調査結果
院では、患者さんを対象にポチプラスの嗜好調査を年 2 回行ってい
素が充足できるよう工夫された製品が増えてきましたが、医薬品経
ますが、常食の患者さんへの直近の調査では、
「おいしい」
と答えた
腸栄養剤に切り替わると、
ビタミン・微量元素の充足が難しくなる
方が 57%、
「体に良いから飲む」
と答えた方が 30%でした。中には
場合があります。そこで、医薬品経腸栄養剤投与時にポチプラスを
「おいしくない」、
「微量元素と思われる独特の味が気になる」
と答え
追加することで、食物繊維やビタミン・微量元素の調整を試みる例
た方もいらっしゃいますがそれほど多くありません
(図3)。当院では、
もあります。経管栄養の場合、食物繊維成分が加わるとチューブの
ポチプラスは認知度が高く、在宅でも引き続き飲用したいと、院内
詰まりが懸念されるとの声もありましたが、投与前後に白湯を流す
の売店や近隣のドラッグストアで購入される方もいます。
などの処置により問題なく投与できました。
院内で栄養補助食品を採用する際は、NST 委員会において試食
をしますが、
ポチプラスについては、
フレーバーが数種類あるので、
摂取しやすくする工夫
飽きずに飲んでもらえることもあり、
スタッフにも好評です。
「緩和ケア」の患者さんには、食べる楽しみを少しでも感じていた
だけるよう、素麺や冷奴、
アイスクリーム等の他、栄養補助食品から
栄養部の目標
希望される物を提供しています。栄養補助飲料の場合、一口でも食
平成27年9月に福岡市で開催された全国栄養改善大会にて、厚
べていただきたいとの思いから、口あたりよく食べていただくため
生労働大臣表彰を受賞しました。栄養管理の個別対応等の実践を
に、凍らせてキューブ状にする場合もあります。
評価していただいた結果でした。今後も職種間連携を図り、
「一人
日本栄養士会による、がん専門管理栄養士育成事業の一環とし
ひとりに応じた栄養サポートにより患者さんの QOL 向上に努める」
て行われたモデル研修に参加させていただいた際に、がん治療時
の理念のもと、業務を遂行していきたいと思います。
6
リ
ッセイ そ
の
ーエ
連載コラム
❶
レ
物語のはじまり…
京滋摂食嚥下を考える会を立ち上げて
荒金英樹 先生
あらがね・ひでき◉ 愛生会山科病院 外科 消化器外科部長 / 京滋摂食嚥下を考える会 代表世話人
上げました。施設毎でバラバラに取り組まれていた嚥下調整食、食
栄養サポートチーム
(NST)
との出会い
支援の現状を鑑み、考える会では嚥下調整食の基準として当時もっ
とも多くの施設で支持されていた
「嚥下食ピラミッド」の導入と、食
私の NSTとの出会いは、ある事件(?)
がきっかけでした。今から
10 数年前、ふとしたアクシデントから両足を骨折、手術、長期の車い
支援の方法について共通連絡票を作成、運用することを提案しまし
すの生活を余儀なくされました。
(事故の詳細が気になる方は学会
た。
これらの提案は京都府医師会を中心に歯科医師会、歯科衛生士
等でお声掛けください)事故前の手術、診療等で忙殺されていた
会、栄養士会、言語聴覚士会、看護協会に介護支援専門員会などの
日々から一転、
リハビリテーション以外は病室でのベッド生活となり、
専門職能団体に京都府内の病院・介護施設団体、在宅関連団体の
有り余る時間は日ごろ目に留めない雑誌や記事も隅々まで目を通
支持をいただき、
京都府基準として承認をいただけました。
すようにさせ、NST の記事もそのころ出会いました。当時は全国各
異業種連携の輪が広がって…
地で NST 立ち上げがはじまるNST 黎明期であったことも何かの
縁だったのかもしれません。
さっそく栄養学の成書を取り寄せ、病院
これを契機に食を支援する京都の多職種連携の体制が整備され、
のベッドの上で目から鱗の思いでページをめくっていました。
こう
この体制を背景とした京都の伝統地場産業との異業種連携の輪が
した時間は自分に栄養学の知識だけではなく、管理栄養士、言語聴
広がるようになりました。京都に本部を構える
「日本料理アカデ
覚士、作業療法士に歯科衛生士といった職種の理解も深め、
自分の
ミー」所属の老舗料亭の料理人との嚥下調整食の改善、和菓子職人
不明を自覚する貴重な機会となりました。
との高齢者向けの和菓子、老舗茶舗福寿園との香りの高い高齢者
向けとろみ茶、
お茶ゼリーの開発が始まり、
こうした京都の伝統技
NST 設立へ
法を凝らした食事を引き立てる意匠性の高い京焼・清水焼、京漆器
現場へ復帰すると早速、多職種の方々の協力のもと院内で NST
による介護食器の作成まで発展しています。昨年の 9 月には在宅で
を組織し、安全な経静脈栄養法の提案や急性期患者への経腸栄養法
療養されている方とご家族を招待し、私どもの成果物を秋の松花堂
の導入、
がん患者の栄養療法と少しずつ活動の幅を広げていきまし
弁当として振舞ったところ、
目に涙を浮かべて喜んでいただいたこ
た。そうした中、地域の高齢化とともに当院でも入院患者の疾病構造
とは、私どもの取り組みが間違っていなかったことを強く感じさせ
が徐々に変化し、入院中の介入だけでは対応困難な
「摂食嚥下障害」、
るとともに、一日も早くこうした方々の手に届くよう、その責任も痛
感しました。
「高齢者の食支援」
が大きな課題となってきました。院内で嚥下リハ
ビリテーションの体制や嚥下調整食を整備しましたが、再入院を繰り
一方で、
このような異業種の方々との出会いは、
日ごろ意識して
返す患者はあとを絶たず、胃瘻に対する風当たりも強まる社会環境
いない当たり前と考えていることが、他の業種の方々にとっては新
も重なり、
NST の活動に行き詰まりを感じるようになりました。
鮮に映り、
自らの価値観を互いに再認識する非常に刺激的な機会と
なっています。想えば自分に降りかかった事故が巡り巡って、
こうし
京滋摂食嚥下を考える会
た出会いをいただくことになるとは当時は夢にも思わず、
また、
こ
摂食嚥下障害に対するには、地域との連携が必要と感じた当院の
の BEQ ニュース執筆のお話も事故が無ければ、出会うことはな
NSTメンバーは京都府、滋賀県で NST や摂食嚥下障害に熱心に取
かったでしょう。本コラムを 1 年間担当させていただきますが、
自分
り組まれている多職種の方々とともに、2010 年 1 月に京都駅前の
の事故を契機とした数々の野望に巻き込まれた当院のメンバーが
居酒屋に集い、
「京滋摂食嚥下を考える会(以下、考える会)
」
を立ち
リレー形式で 1 年間展開していただきます。楽しみにしてください。
⬆写真1 嚥下食プロジェクト~京料理~のメンバー
⬆写真2 嚥下食プロジェクト~京の和菓子と京のお茶~のメンバー
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