20160915週次レポート

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15 September 2016
Precious Metals Weekly Update
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WEEK IN REVIEW:
米 10 年物国債利回りが 3 ヶ月振りの高値をつけドルが上昇したことで、来週に行われる米連邦公開市場委員会(FOMC)にお
いて米連邦準備理事会(FRB)が利上げに踏み切るのではないかという見方が強まった。これにより貴金属全般は下方圧力に
晒されたが、特に PGM が軟調な推移を見せた。斯様な地合いの変化の背景には FOMC メンバーの中でも比較的ハト派的と
されるボストン連銀総裁のローゼングラン氏の発言があった。同氏は『低金利環境が長期化することで米国経済が過熱してし
まう恐れがある』と述べた。先週は欧州中央銀行(ECB)が政策金利の据え置きと追加緩和策の見送りを決定し、ユーロも対ド
ルで下落、欧州株は売り圧力に晒された。この影響は米株へも波及しボラティリティも一時急上昇、VIX 指数(Wall Street では
“恐怖指数”と呼ばれる)は 6 月下旬以来最も高い数値をつけた。しかしゴールドはこの株安の恩恵をあまり受けなかった。これ
はつまり株式市場は軟調な推移を見せたものの、今後数か月で各国中央銀行による金融緩和は加速せずその規模を縮めて
いくとの前提に立った多くの投資家にとってゴールドは魅力的に映らなかったという事を示している。今週は米国および欧州の
インフレ率の動向が明らかになる事に加え、米国が利上げに踏み切るか、先送りにするかが決定される。我々の見方としては
価格下落を予想した売りが入ることで、ゴールドは下方圧力に晒されると見ている。
プラチナ
プラチナは現在、500日移動平均である$1,054-5/ozを試す展開にある。同水準は7月からサポートラインとなっており2週間前に
は一度下回った水準である。プラチナ価格は足許弱含んでいるベースメタルや原油相場とは対照的に、南アにおける労働組
合との賃金交渉が難航していることが価格の押し上げ要因となっている。
先週、南アの鉱山労働組合のAMCUは主要3鉱山会社との賃金交渉が折り合わず、膠着状態(Dead Lock)に陥ったと正式に
表明した。これにより今後ストライキに発展していく可能性があるが、実際にストライキに踏み切るにあたっては複数の手順を
踏む必要があり、これに数週間は要すると見られている。解決に向けて各鉱山会社と労働組合の間での会合が行われることと
なっている。この交渉が仮に決裂した場合、労働組合は南アの仲裁機関に上申することができ、労働者・雇用者のどちらかに
有利な判断が下される。この仲裁を以てしても争議が解決しない場合、南ア政府は鉱山会社に対し、労働者が最大48時間のス
トライキを実行することを許諾する旨の証書を発行できる。しかし組合側はストライキを、交渉を有利に進めるための切り札と考
えており、この証書発行が行われたとしても必ずしもストライキが敢行されるわけではない。また組合の構成員としても必ずしも
ストライキに前向きというわけではない。2014年の労使交渉で約5ヶ月のストライキに踏み切ったことで、経済的に厳しい状況に
置かれた経緯があるからである。しかし政府と南ア鉱山会社がストライキを避けるべく解決策を模索する一方で、組合側は強
硬姿勢を貫いている(実際先週には短期間であるがAmplats社のMogalakwena鉱山の操業を停止させた)。
ストライキによる中期的な供給懸念が価格上昇要因となる可能性はあるが、鉱山会社における鉱石の精製は4-6週間ほど時間
を要することを考えると、2016年の生産量に影響が出るのはストライキが11月より前に実行された場合のみである。さらに言え
ば、12月・1月は鉱山労働者がクリスマス休暇や夏季休暇の時期であり、この時期にストライキが実行される見込みは低い。つ
まり今後の地金の供給バランスや価格推移のカギを握るのは10月の動向であると見ている。鉱山会社の安全在庫は2014年の
長期ストライキ時と比較してもかなり少ないことから、仮にストライキが発生すれば2014年の時よりも市場は敏感に反応すると
思われ、且つその影響は長期化する可能性が高い。総じて、今後数週間で交渉は過熱する可能性が高くプラチナ価格はサポ
ートされ得るが、ストライキが実行されるには至らないと見られる。
先週World Platinum Investment Council(WPIC)が公表した四季報によれば、第2四半期におけるプラチナ現物への投機需
要は2.8tとなり、第1四半期の4.8t、前年同期の3.6tをいずれも下回る結果となった。コインやバーの需要は3.4tと、直近の3四半
期の中では最も低い水準となり、更にETFの売却と相殺され需要は前述の数値まで落ち込んでいる。WPICは年間ベースでの
プラチナの投機需要量を10.9tと見ており、従って下半期の需要量は3.3tになるとの見込みだ。この数量は、投資のタイプ別での
数量は明らかにされてはいないものの、ETFやコイン・バー等の需要は引き続き軟調に推移すると見られ(実際、第3四半期に
は足許で既に2.8tが売り手仕舞われているが、ストライキが発生すればこの勢いは鈍化、或いは買いに転じる可能性もある)、
特に日本での落ち込みが顕著である可能性が高い。豪州や米国で新たに発行されるプラチナコインや、WPICがValcambiと
協業して発行するコインによって、下半期のプラチナ現物需要は下支えられる可能性もある。
Platinum prices $/oz
Palladium prices $/oz
Gold prices ($/oz)
Silver prices ($/oz)
last week:
last week:
last week:
last week:
1,200
750
1,400
1,100
700
1,350
650
1,300
1,000
5-Sep
9-Sep
Change: -0.3%
Support: $1,025
Resistance: $1,136
Outlook:
5-Sep
9-Sep
Change: -0.2%
Support: $635
Resistance: $713
Outlook:
21
20
19
18
5-Sep
9-Sep
Change: 0.3%
Support: $1,303
Resistance: $1,358
Outlook:
5-Sep
9-Sep
Change: -1.8%
Support: $18.40
Resistance: $20.22
Outlook:
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Precious Metals Weekly Update
15 September 2016
パラジウム
先週パラジウムは50日移動平均を下回るなど軟調な推移を見せ、9月初旬につけた安値である$657/ozを目指して推移してい
た。これを下抜けると、次のサポートラインは5月安値と8月高値を結んだ50%フィボナッチリトレースメントの水準である$635/oz
近辺にあると考えられる。
先週も言及した米自動車市場の弱さとは対照的に、中国の8月自動車販売台数は25%増加の180万台となり、年初来の販売台
数を1,420万台とした。これは2015年の同8ヶ月の販売台数よりも13%上回る結果となっている。特に堅調な推移を見せているの
はSUV(Sports Utility Vehicle)タイプで、8月は販売台数が40%も増加した。同結果はガソリン車市場における(ロジウムや)
パラジウム需要にとってかなりポジティブである。また中国におけるSUVの売上が今後も拡大していくことでより排ガス触媒の
需要量にも増加が見込まれる為、同要素は不調が続く米自動車市場を相殺する要素になり得る。しかしここで重要なポイントと
なるのは生産レベルと販売ペースとの乖離である。中国汽車流通協会が7月に公表したデータによると、在庫の内未販売自動
車在庫が占める割合は50%まで増加している(汽車協会が定める警告レベルである60%は下回っている)。最近では大幅な割
引の対象が未販売自動車にシフトしてきており、売上の増加に拍車をかけることとなるだろう。もし中国での販売ペースに合わ
せた増産が許可される水準まで在庫が縮小されれば、パラジウム需要は堅調に推移すると見られる。
ゴールド
ゴールドは直近高値の$1,350/ozから下落したが、5月下旬から続いていた上方トレンドチャネルは維持する形となった。株式市
場が下落する中、ゴールドには安全資産としての買いがなかなか集まらない状況が続いている。主要中央銀行が金融政策や
財政政策の活性化に対する意欲を欠いている中、ゴールド価格はそれらの動向に左右される展開が続くだろう。
欧州中央銀行(ECB)は先週、政策金利の据え置きと同時に追加緩和策の導入も見送り、限界と称される彼らの超緩和的政策
の現状維持を決めた。長年にわたる過度な緩和政策は経済成長とインフレ率を阻害するとのECBの見方が現れる格好となっ
た。この追加緩和策見送りを受けてドイツ10年物国債利回りは上昇し、直近3ヶ月で初めて利回りがマイナス圏を脱した一方で、
利回りを生まない資産であるゴールドは下方圧力に晒された。このECBの判断が緩和政策の転換であるのか若しくは単なる見
送りであるのかは、今後数か月の間に明らかとなるだろう。短期的な焦点は、日銀がECBと同様に現行の異次元緩和策の手を
緩めるのか、またFRBが利上げに踏み切るのかという点になり、どちらも9月21日が発表予定日となっている。足許では、日銀
が今年2月にマイナス金利の導入に踏み切って以来初めて日本10年物国債利回りがマイナス圏を脱しようとしており、市場で
は日銀の黒田総裁が次の金融政策決定会合では追加緩和策に踏み切らないと見方が強まっていることを示している。この市
場の見方は既にゴールド価格に織り込まれており、予想通りの結果となっても下げ幅は限定的となる可能性がある。それだけ
でなく追加緩和策の見送りにより円高圧力がかかれば、ドル建ゴールド価格はむしろ上昇する可能性もあるだろう。追加緩和
策に踏み切れば、国債利回りがマイナス圏に反落することとなりゴールドはリスクヘッジとしての買いが集まる事で上昇する。
一方で米国利上げペースに関しては全く逆の状況である。金利先物市場では次回のFOMCで利上げが見送られるとの予想が
大宗となっており、実際に利上げが先送りされれば僅かながら更に上昇する可能性もあるが同要素は既にゴールド価格に織り
込まれている。一方でサプライズ的に利上げが行われれば、利回りを生まない資産であるゴールドにとってはネガティブな地合
いが広がるだろう。
9月6日に発表された米商品先物取引委員会(CFTC)の最新のデータによると、COMEXゴールドのグロス・ロングは7週間振り
の高水準である1,318tとなり、過去最高水準の96%となった。グロス・ショートは1%程増加したが、7月後半と概ね同水準となっ
ており過去最高水準の47%に留まっている。先物市場の動向は、短期的には米利上げ観測に左右されるものと見られる。利上
げ観測が高まれば、グロス・ロングの減少と同時に価格下落を予想したグロス・ショートが増加する可能性があり、同要素はゴ
ールド価格の弱材料となるだろう。ゴールドETF残高は年初来で増加を続けていたが9月に入り伸び率は横ばいとなった。これ
は、足許ではETFの手仕舞いは見られていないものの機関投資家はもはやゴールドに対してポジティブな見方をしていない事
を表す結果となっている。
シルバー
シルバーは先週半ばにスポットベースで3週間振りの高値である$20/ozをつけた後下方圧力に晒され、今週2週間振りの安値
である$18.70/ozまで下落した。シルバーは米利上げ観測だけでなく、工業用メタルとして米株や原油の下落等の要因も価格動
向のカギとなるだろう。
シルバーはゴールドと比較しても軟調な推移が続いており、今週月曜日にはゴールド・シルバーレシオが2週間振りの低水準で
ある70まで低下した。先週シルバーは$20/ozを超す上昇を見せたが、CFTCのデータを見るにこの上昇の背景には投機的な買
いがあったことは明らかである。最新のデータではグロス・ロングが22,465t(過去最高水準の96%)、一方グロス・ショートは
6,967t(過去最高水準の55%)となり、ネット・ロングは15,458tまで上昇した。ここ数日でつけたスポット高値から7%以上下落した
場合、シルバーは利益確定の売りに晒される可能性があり、金融緩和政策が今後縮小に向かうとの前提に立てば、価格下落
を予想したショートポジションが再度構築されることとなるだろう。
15th September, 2016
三菱商事 RtM ジャパン(株)貴金属事業部
転用・転送 堅くお断りいたします
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15 September 2016
Precious Metals Weekly Update
ECONOMIC CALENDAR Source – Bloomberg
Sep-12
US:
ブレイナ
ード FRB
理事講演
Sep-13
Japan:
7 月鉱工業生産
前 -3.8% 予 -3.8%
China:
8 月鉱工業生産
前 6.0% 予 6.2%
8 月小売売上高
前 10.2% 予 10.2%
UK:
8 月消費者物価指数
前 0.6% 予 0.7%
8 月生産者物価指数
前 0.3% 予 1.0%
Sep-14
EU:
7 月鉱工業生産
前 0.4% 予 -0.8%
UK:
8 月失業率
前 4.9% 予 4.9%
US:
MBA 住宅ローン申請件数
前 0.9%
8 月輸入物価指数
前 -3.7% 予 -2.2%
Sep-15
EU:
8 月消費者物価指数
前 0.2% 予 0.2%
8 月新車登録台数
前 6.9%
US:
8 月小売売上高
前 0.0% 予 -0.1%
新規失業保険申請件数
前 25.9 万件 予 26.5k 万件
8 月生産者物価指数
前 -0.2% 予 0.1%
8 月鉱工業生産
前 0.7% 予 -0.2%
DATA BANK: Source – Mitsubishi from Bloomberg updated at 14.20 BST on 12
th
Sep-16
US:
8 月消費者物価指数
前 0.8% 予 1.0%
September
Metal Price Indications (US$/oz)
Current spot price
Change from yesterday's close (%)
Platinum
1,046
-1.50
Metal Forward Swap Indications (basis points)
1m
Platinum
Mid point of spreads
80.00
Daily change
0.00
Palladium
Mid point of spreads
45.00
Daily change
0.00
Gold
Mid point of spreads
91.00
Daily change
2.00
Silver
Mid point of spreads
100.00
Daily change
0.00
Palladium
662
-1.93
Gold
1,324
-0.25
Silver
18.93
-0.64
3m
6m
12m
90.00
0.00
95.00
-10.00
106.00
0.00
45.00
0.00
45.00
0.00
45.00
0.00
96.00
0.00
100.00
8.00
102.00
0.00
111.00
0.00
118.00
-1.00
125.00
-2.00
PGM Sponge Indications ($/oz)
JMUK sponge vs. Zurich ingot switch
Platinum
Mid point of spreads
Palladium
Mid point of spreads
0.00
-1.00
1.00
0.25
-0.25
0.75
1m
0.53
0.01
3m
0.85
0.01
6m
1.25
0.02
12m
1.56
0.02
Latest
Daily change (%)
EUR / USD
1.12
0.10
USD / JPY
101.92
-0.11
ZAR / USD
14.50
1.03
DXY
95.32
-0.10
Non commercial futures
As at 6th Sep 2016
Net long position (Moz)
Weekly change (%)
Platinum
2.6
-3.5
Palladium
1.4
-1.3
Gold
33.0
9.5
Silver
498.0
4.1
Platinum
2.3
0.0
Palladium
2.1
0.0
Gold
64.9
0.0
Silver
671
0.0
Gold
16,177
-5
0.6
0.7
-0.1
Silver
1,410
253
LIBOR (%)
USD LIBOR Indication
Daily change
Foreign exchange indications
Exchange Traded Funds
Total holdings (Moz)
Daily change (%)
Physical flows in China
SGE turnover (kg)
Comparison with 30-day average (%)
Local premium /discount (%)
Daily change (%)
Platinum
158
28
7.0
0.5
6.5
PGM basket price indications
USD basket price per ounce
Daily change (%)
ZAR basket price per ounce
Daily change (%)
15th September, 2016
899
-1.5
13,035
-0.9
912.7486
13158.00127
三菱商事 RtM ジャパン(株)貴金属事業部
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3
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15 September 2016
Precious Metals Weekly Update
Spot
Gold
Forwards
Silver
Platinum
Leases
Palladium
Futures
Rhodium
Options
Ruthenium
Swaps
Iridium
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15th September, 2016
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