最新技術の応用 ＰＥＴ／ＣＴの有用性と将来展望 中 本 裕 士 診断法の一つと認識され、検査件数は年を追う ポジトロン放出断層撮像法︵ＰＥＴ︶検査は 悪性腫瘍の治療方針を決定する上で重要な画像 るため、骨シンチグラフィなどの核医学検査で る。この２本のガンマ線をとらえてカウントす と衝突することで２本の消滅放射線が放出され 素は、崩壊によってポジトロン︵陽電子︶を放 ごとに増加している。ＰＥＴ／ＣＴ検査の画像 用いられるガンマカメラのコリメータが不要と はじめに の原理、臨床的役割、今後の展望について振り なり、感度・解像度に優れた画像が得られる。 信度も高まる。 良好な画質のため、診断精度とともに診断の確 出する性質を有する。ポジトロンは近傍の電子 返る。 画像化のしくみ (859) CLINICIAN Ê16 NO. 651 53 18 標識のフルオロデオキシグルコース︵ＦＤＧ︶ 18 ＰＥＴ検査は放射性同位元素で標識された薬 悪性腫瘍は、糖代謝が亢進しているものが多 ︵ Ｆ︶ 剤を投与し、その分布を画像化する核医学検査 い。ブドウ糖の類似体であるフッ素 の一つである。ここで用いられる放射性同位元 − 来の核医学検査と比べて解像度が高いといって 瘍巣の局在診断が容易となる。ＰＥＴ検査が従 を投与し、その分布を画像化することにより腫 発診断、治療効果判定などの様々な役割がある。 検査には、存在診断、鑑別診断、病期診断、再 上で、ＦＤＧを投与して行われるＰＥＴ／ＣＴ も、ＣＴやＭＲＩに及ぶものではなく、集積を ＦＤＧは活動性の炎症巣にも集積するととも に、下垂体腺腫、甲状腺腫、ワルチン腫瘍、一 型ＰＥＴ／ＣＴ装置を利用して撮像することに づらかった。ＣＴとＰＥＴが一体化した、複合 ない。また小病変の発見も基本的には不利であ 知られている。よって良悪性の決め手にはなら 部の子宮筋腫など、良性腫瘍にも集まることが みとめてもそれがどこに相当するのかが判断し より、体のどこに、どのくらいの放射性薬剤が り、陰性所見をもって悪性を否定したり、リン 15 評価も保険診療として承認を得ているが、現在 の臨床現場におけるＰＥＴ検査といえば、ＦＤ Ｇを投与し、腫瘍を検索することをさすことが 多い。 臨床的役割 悪性腫瘍に対する適切な治療方針を検討する 13 ため、治療方針に直接影響を及ぼす。ただし臨 が高い場合には、一定の頻度で病変が見つかる れていると言える。病変の存在する検査前確率 いては、すでにある程度のエビデンスが確立さ 巣が不明のような状況で行われる再発診断にお 瘍マーカーの再上昇が見られるが、ＣＴで再発 な病変の発見に役立つと考えられる。術後に腫 一方でＰＥＴ／ＣＴ検査では、骨転移などの 予期せぬ遠隔転移巣や重複癌の同定など、大き パ節郭清を省略したりすることはできない。 集まっているか評価できるようになった。 ︵ Ｏ ︶で 標 識 ＰＥＴ 検査としては酸素 したガス製剤を用いた脳血流検査、窒素 15 ︵ Ｎ︶で標識したアンモニアによる心筋血流の − − 54 CLINICIAN Ê16 NO. 651 (860) 13 巣のチェックは、相対的に検査前確率が低く、 床的に何も疑われていない状況で行われる再発 こで得られる情報はＱ ＯＬ︵ quality of life ︶を 考慮した治療方針の決定に役立つ可能性がある。 予測における知見が増えるものと思われる。こ また早期に再発巣をみつけることが予後の延長 ＦＤＧを用いた現在のＰＥＴ検査は、腫瘍性 につながるというデータも乏しい。以前はあら 疾患以外にもてんかんや心筋バイアビリティの 今後は検査の依頼にもある程度のエビデンスが ＦＤＧは炎症にも集まるため、不明熱のような 評価に保険適用が得られている。前述のごとく ゆる行為が医師の裁量でみとめられていたが、 求められていく可能性がある。 炎症のフォーカス検索にも有効との報告があり、 治療効果判定は、悪性リンパ腫にのみ保険診 療として可能という明文化された見解があるが、 現在本邦では先進医療として複数の施設で進行 その他の腫瘍に対する治療効果判定に関しては、 中である。 る薬剤、低酸素イメージング、受容体イメージ 広義の病期診断・再発診断と見なされるか否か ＰＥＴ検査で使用できる薬剤はＦＤＧに限ら ず、アミノ酸代謝や核酸代謝の亢進を画像化す 審査側にゆだねられている。様々な局所進行癌 に対して化学療法が行われるようになり、早期 れている。腫瘍性疾患に対する製剤としては、 の効果判定目的でのＰＥＴ／ＣＴ検査の依頼は、 ング用の薬剤など、様々なＰＥＴ製剤が開発さ 今後増加するものと推測される。 現時点でＦＤＧのみであるが、アミノ酸代謝の 亢進を画像化して、脳腫瘍や前立腺癌といった ＦＤＧでは十分な情報が得られない腫瘍を対象 に治験が進んでいる。筆者の施設ではソマトス (861) CLINICIAN Ê16 NO. 651 55 これからのＰＥＴ検査 ＰＥＴ／ＣＴ検 腫瘍性疾患に対するＦＤＧ 査では、治療効果の早期判定のみならず、予後 − 指摘が難しい病変の検出に役立てている︵図︶ 。 おり、ＣＴ、ＭＲＩ、ＦＤＧ ＰＥＴ／ＣＴで ︵ ︶で標識した DOTATOC という薬剤を用 いて神経内分泌腫瘍に対する画像診断を行って タチン受容体イメージングとして、ガリウム を行っていたのが、ＰＥＴ／ＭＲではＭＲＩの ＰＥＴ／ＣＴではＣＴデータをもとに吸収補正 の施設に導入され、臨床応用が開始されている。 ＭＲＩを一体化させた装置で、国内でいくつか れる。ＰＥＴ／ＭＲ装置は文字どおりＰＥＴと 値の変化が懸念されたが、これまでの 画像を用いることで算出することになり、定量 基礎データに基づく限り大きな差はな いようである。ＣＴ部分の被曝がなく なるため、繰り返しの検査や小児の検 査では好ましいと考えられるが、高価 な機器となるため、どのような状況で 利用すべきなのかは今後の検討課題と 言えよう。 より、通常の全身用ＰＥＴ装置よりも 感度・解像度の向上を図った撮像装置 であり、保険適用も得られている。胸 56 CLINICIAN Ê16 NO. 651 (862) 乳房専用ＰＥＴ装置は乳房に近接し て専用のＰＥＴ装置で撮像することに Ga DOTATOC を投与し、 1 時間後に撮られた PET 像（左 図） 、および CT と PET の融合横断像（右図）を示す。膵神 経内分泌腫瘍の多発肝転移が判明していたが、DOTATOC PET／CT ではさらに右鎖骨頭に骨転移を示唆する点状集積 （筆者提供画像） をみとめた（矢印） 。 さらに、ＰＥＴ装置自体も機器の進歩が見ら 68 − 68 Ga Ga DOTATOC PET／CT 検査で同定され た予期せぬ骨転移 68 68 − 壁に近い深部病変は撮像範囲に入らないために おわりに つかの検診施設で利用が始まっており、今後の 検診目的でどの程度の有効性があるのか、いく 視できない。臨床を前提とした場合には、効率 増えよう。ただしＰＥＴ検査はコストの面も無 全に的確に治療を進めていく臨床応用の機会は このような画像診断技術を利用することで、安 描出されないこともあるが、撮像範囲にあれば ＰＥＴ／ＣＴ検査の原理、現状の役割および 小病変の検出や腫瘍内不均一性の評価に役立つ。 将来展望を簡潔に述べた。高齢化社会が進み、 データの蓄積が待たれる。以上の２種類の新し れる。 的な運用が現場に求められていくものと推測さ いＰＥＴ装置はすでに保険適用を受けている。 今後のＰＥＴ検査を考慮するに当たって、機 械そのものではないが、ソフトウェアへの期待 がある。これは、機械が著しく進歩する一方で、 ︵京都大学医学部附属病院 放射線部 准教授︶ 人間の処理能力には限界があり、得られた画像 に対して、ある程度まで機械が判断し人間の診 断を支援するというものである。最終診断まで 機械に頼ることへのめどは立っていないが、コ ンピュータと人間とで将棋をさせて互角の戦い 今後の展開が楽しみである。 になってきたように人工知能の発展も著しく、 (863) CLINICIAN Ê16 NO. 651 57
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