加納 将行(かのう・まさゆき)(pdf 870KB)

D2 課題演習 レポート
(阿蘇火山地震観測とデータ解析)
理学部 3 回生
1.
0500176911
加納将行
はじめに
活火山の周辺では火山性微動と呼ばれる短周期微動が起こっている。この微動はマグマ
活動に起因した連続的な震動で、火山の活動度を知るための指標でもある。また阿蘇山で
は孤立型微動と呼ばれる短周期震動も発生している。
今課題では阿蘇山で実際に地震計を設置し、短周期微動を観測、さらに得られたデータ
に基づいて微動の震源推定を行った。以下の章では観測の概要、データ解析の手法・結果、
及び得られた結果に基づく考察を順に述べる。
2.
観測
今回はアレイ観測と呼ばれる手法を用いた。2007 年 9 月 19~20 日にかけて阿蘇火山第
1 火口の西側(火口西)と北側(馬ノ背)の 2 ヶ所にそれぞれ 5 台の短周期上下動地震計を
図 1 のように十字状に設置した。十字の中心の地震計の番号を♯5、中心から火口方向の地
震計の番号を♯1、あとは時計回りに♯2~4 と名付けた。それぞれの地震計の位置を GPS
測量で決定し、緯度(度、分、秒)
、経度(度、分、秒)、高度(m)を左から順に表 1、2
に示した。
図 1 地震計の設置場所
表 1 火口西に設置した地震計の位置
♯1 32 52 56.63653734 131 4 43.93830861 1233.035073
♯2 32 52 55.48973823 131 4 43.4935812 1222.729232
♯3 32 52 55.75624515 131 4 42.25489313 1220.757915
♯4 32 52 56.69552695 131 4 42.30268673 1223.300507
♯5 32 52 56.13579742 131 4 43.0666512 1227.231299
表 2 馬ノ背に設置した地震計の位置
♯1 32 53 24.89089095 131 4 54.33591529 1231.20688
♯2 32 53 25.42241005 131 4 53.14353967 1225.415283
♯3 32 53 26.48413692 131 4 53.41814633 1225.649929
♯4 32 53 26.0432653 131 4 54.9382546 1228.917834
♯5 32 53 25.71581097 131 4 53.95041917 1228.599178
3.
データ解析
3.1 解析手法
まず解析手法を説明する。
地震計の位置は分かっているので、震源の位置 O、地震波速度 v を仮定すれば地震が発
生してから揺れが地震計に到達するまでの時間が計算できる。地震が発生してから♯i の地
震計まで波が到達するのにかかる時間を ti、震源から地震計までの距離を xi とする。この
とき
xi
=
v×ti
である。また地震計♯i からみて、地震計♯j に波が到達する時間の差は
tj-ti =(xj-xi)×s
である。ここで s=1/v とした(s を slowness と呼ぶ)。地震計♯j で取れた波形に対し(tj
-ti)秒の時間補正を行えば、同じ時間軸に対し地震計♯i で取れた波形に類似した波形が
得られるはずである。
いま、基準となる地震計を 1 つ選び、残りの 4 つの地震計に対して上で述べた時間補正
を行う。この時の 5 つの地震波形に基づいて次式で与えられるセンブランス S という値を
計算する。
2
S=j=1~L∑(i=1~N∑ui,j(i))2/Nj=1~L∑i=1~N∑ui,j(i)2
N は観測点の数(今回は N=5)、L は比べている時間範囲内のデータのポイント数
ui,j(i)はi番目の観測点のjポイント目の記録を表す
センブランスは時間補正をした 5 つの波形がどれくらい似ているかを表す量で、波形が
似ているほど値が大きくなり全ての波形が一致したとき 1 となる。S が大きければ大きいほ
ど最初に仮定した震源の位置、地震波の速度が実際の震源・速度に近くなっていることを
表す。
この手法に基づいて 3.2 章以降では実際に阿蘇山で取ったデータの中から 1 分間のデータ
を取り出し、その間に起こる揺れがどこで発生しているかを調べる。震源の位置、slowness
をいろいろ変えてセンブランスが大きくなる領域を計算し、震源を推定する。
尚、以下の解析では緯度を北緯 32.7~33.1 度で 0.01 度おきに、経度を東経 130.8~131.2
度で 0.01 度おきに、slowness を 0.1~0.6(s/km)で 0.05 おきに変えてセンブランスを計
算した。
3.2
解析結果(1)
まずは 9 月 20 日 2 時 28 分の連続微動の地震波形データを基に震源推定を行った。火口
西・馬ノ背それぞれのデータを基にセンブランスを計算し、センブランスの等値線を図 2.1
(火口西)、2.2(馬ノ背)に示した。尚、図の横軸は経度(東経、単位は度、)、縦軸は緯度
(北緯、単位は度)である(以下に示す図は全て同様の軸の取り方をしている)
。
図 2.1
火口西のデータ
に基づくセンブランスの
等値線図(センブランス
が大きくなる領域での
slowness は 0.600 であ
る)
3
図 2.2
馬ノ背のデータに
基づくセンブランスの等値
線図(センブランスが大き
くなる領域での slowness
は 0.450 である)
図 2.1、2.2 を重ねて描いたものが図 2.3 である。図 2.3 に基づいて火口西、馬ノ背の両
方でセンブランスが大きくなった領域が震源に近い領域であると推定される。震源推定に
ついては 4 章で詳しく記す。
図 2.3 火口西、馬ノ背そ
れぞれのセンブランスの
等値線をまとめてプロッ
トした図
3.3 解析結果(2)
3.2 で解析したデータでは微動が連続して起こっていた。今度は孤立的に起こっている微
動のデータの解析を行う。9 月 19 日 20 時 26 分のデータに基づいて 3.2 と同様の解析を行
った。結果が図 3.1~3.3 である。
図 3.1
火口西のデータに
基づくセンブランスの等値
線図(センブランスが大き
くなる領域での slowness
は 0.550 である)
4
図 3.2
馬ノ背のデータに
基づくセンブランスの等値
線図(センブランスが大き
くなる領域での slowness
は 0.300 である)
図 3.3 火口西、馬ノ背それ
ぞれのセンブランスの等値
線をまとめてプロットした
図
3.4 解析結果(3)
最後に 9 月 19 日 15 時 39 分ごろに発生した地震についての解析を行った。上で述べた 2
つの解析では 1 分間のデータを使用したが、今回使用するデータは P 波到達時刻の最初の
揺れだけを取り出して解析をする。具体的には 15 時 39 分 17.0~17.2 秒(火口西)、15 時
39 分 17.04~17.24 秒(馬ノ背)のデータを用いた。今までと同様にセンブランスの等値線
図を図 4.1~4.3 に示した。
図 4.1
火口西のデ
ータに基づくセン
ブランスの等値線
図(センブランスが
大きくなる領域で
の
slowness
は
0.250 である)
5
図 4.2 馬ノ背のデータ
に基づくセンブランス
の等値線図(センブラン
スが大きくなる領域で
の slowness は 0.200 で
ある)
図 4.3 火口西、馬ノ背
それぞれのセンブラン
スの等値線をまとめて
プロットした図
4.
考察
得られた結果を基に震源推定を行う。
等値線図からも分かるように、センブランスの高い領域は火口西では主に東側、馬ノ背
では主に南東側、つまりどちらも火口側に発散している。今回震源領域の推定は発散して
いる領域全体を考えるのではなく、火口西・馬ノ背それぞれで等値線が密になっている領
域(センブランスが特異的に変化している領域)周辺で、それぞれのセンブランスが大き
い領域を含むような形で行った。そのためセンブランスの大きい領域がやや離れている連
続微動の場合は震源と推定される領域が大きくなり、センブランスの大きい領域が近い孤
立型微動の場合は領域が小さくなっている。最終的に震源と推定した領域は以下の通りで
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ある。
・ 解析結果 1(連続微動)
・ 解析結果 2(孤立型微動)
・ 解析結果 3(地震)
北緯 32.873~32.878 度、東経 131.08~131.086 度
北緯 32.875~32.878 度、東経 131.088~131.092 度
北緯 32.878~32.88 度、東経 131.088~131.090 度
それぞれの結果を実際の地図上にプロットすると図 5.1~5.3 のようになる。
図 5.1 震源と予想される領域(結果 1)
震源決定にはセンブランスの値の大きさが重要となる。一つ一つの解析においては相対
的にセンブランスの値が大きい領域がより震源に近いと推測される。またセンブランスの
絶対的な値が 1 に近いほうがより精度の高い推定が行われる。
図 5.1 から見て取れるように震源と予想される領域はかなり大きな範囲になっている。今
回解析した時間では比較的振幅の大きな微動が連続して起こっているため、センブランス
を計算しても 0.6 前後とあまり大きな値にならず、その結果、震源推定のレベルが粗くなっ
ていると思われる。
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図 5.2 震源と予想される領域(結果 2)
孤立型震動の解析では連続震動の場合よりもセンブランスが 0.1~0.2 ほど大きくなった。
またセンブランスが大きくなった領域が重なりはしていないものの近くなったので震源と
推定される領域も連続震動の場合より狭くなった。孤立型微動では振幅がほぼ 0 の時間領
域が多く、そのため連続微動に比べてセンブランスが大きくなっているのではないかと思
う。
図 5.3 震源と予想される領域(結果 3)
(図中の青領域は京都大学理学研究科地球熱学研究施設火山センターの井上さんによる実
際の震源位置情報をプロットしたもの)
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火口西、馬ノ背どちらの解析でもセンブランスが 0.8~0.9 と大きくなる領域があったた
め、比較的高い精度で震源の領域を推定できた。実際の震源が青でプロットした位置(北
緯 32.878 度、東経 131.089 度)なので解析結果は概ね正しいといえる。
震源は阿蘇山の第 1 火口の南側にあると思われる。あとは震源の深さを求めればより正
確な震源位置の推定が行える。
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