アカデミックオープンプログラム中間報告書 トポロジー最適化と

アカデミックオープンプログラム中間報告書
トポロジー最適化と 3D プリンタを用いたポーラス材料設計に関する研究
広島大学大学院工学研究院
機械システム・応用力学部門
准教授 竹澤晃弘
はじめに
近年,積層造形(Additive Manufacturing)技術の産業
界への普及が急速に進んでいる.この方法は,従来
の鋳造や鍛造,切削加工では製造が難しかった複雑
形状も造形可能であり,極めて自由度の高い製造手
法として注目を集めている.特に,近年の技術進歩
により,金属材料やマルチマテリアル樹脂において
も微細な造形が可能になり,それは部品外形のみな
らず,ポーラス材料を直接造形できるほどである.
ポーラス材料は軽量・高剛性・高衝撃吸収能・大
表面積といった特徴を活用し,人工骨や熱交換器へ
の応用が研究されてきたが,その製造は材料溶融時
の発泡によるものが主であり,内部構造の詳細な制
御は困難であった.それに対し,積層造形技術を適
用すれば,意図した形状の内部構造を持つポーラス
材料の製造が可能になる.
ただし,ポーラス材料の内部構造の設計難易度は
極めて高く,人手による設計では最大限の性能を発
揮することは難しい.それに対し,数値計算で優れ
た最適構造を高い自由度で導出可能なトポロジー最
適化という技術がある.ポーラス材料の実効的
(effective)性能を目的として,トポロジー最適化を行
うことにより,意図した性能を実現する任意の内部
構造が得られる.
そこで著者らの研究グループは,トポロジー最適
化でポーラス材料の内部構造を設計し,それを積層
造形技術で忠実に造形して,最適な性能を持つポー
ラス材料を実現するという取り組みを行っている.
本講演では,それらの技術の詳細及び,実例として,
金属積層造形を用いた高熱伝導材料・高剛性材料の
開発,マルチマテリアル樹脂積層造形を用いた熱収
縮材料の開発について紹介する.
1.
トポロジー最適化を用いた材料設計
トポロジー最適化では対象構造の最適化問題を,
対象空間における材料配置問題と考え,その内部の
各位置における材料の有無を最適化する.そのため,
トポロジー(位相,穴の数)も含めた抜本的な最適
2.
化が可能である.ただし,実際の数値計算では,有
無を離散的に表す変数の扱いは困難なため,仮想的
な材料密度を考え,密度の濃い部分は材料あり,薄
い部分は材料なしと近似的に扱う手法がとられる.
また,ある単位構造があるとき,それを周期的に
配置して構成したポーラス材料の実効的物性値は均
質化法で計算することができる.
以上二つを組み合わせ,設計対象の空間に対して
均質化法による計算を行い,マクロ物性値を求めつ
つ,その物性値の最大化または最小化,あるいは指
定した値を目指してトポロジー最適化を行うことで,
設計者の意図した性能を有するポーラス材料のユニ
ットセル形状が得られる.そして,そのユニットセ
ルを適当な大きさで周期配置すれば,ポーラス材料
モデルが完成する.
積層造形装置での造形
積層造形においては,金属粉末や光凝固樹脂を,
層ごとに選択的に溶融・凝固させ,積層させて三次
元形状を造形する.そのため,造形の形状自由度が
極めて高い.ただし,装置や材料に依存して,造形
物の最小厚さや許容角度等に制約があり,それに違
反するモデルは造形できない.また,内部の金属粉
末や,樹脂サポート材を造形後に除去するため,ポ
ーラス材料はそれらの除去に十分な大きさを有する
空孔が互いに接続したオープンセル構造である必要
がある.
積層造形用の汎用三次元データは STL と呼ばれる
形式であり,自作のトポロジー最適化で得られた密
度分布を fem 及び sh ファイルを介して Altair Hyper
Mesh に読み込ませ,それに対してアイソサーフェス
を作成し,その形状を同ソフトの機能を利用して
STL ファイルに出力する.なお,3D プリンタでの造
型前に STL ファイルのエラーを専用ソフトでチェッ
クするが,Hyper Mesh で出力した STL ファイルは,
他ソフトで同様の操作をした場合に比べ,エラーが
極めて少なかった.
3.
4.造形例
まず,金属積層造形を用いた造形例を紹介する.
図 1(a)に示すのは,ユニットセルに等方性を持たせ
つつ,気孔率 70%で体積弾性率を最大化した例であ
る.図 2(a)に示すのは同様にユニットセルに等方性
を仮定し,気孔率 70%で熱伝導率を最大化した例で
ある.いずれも,最適解は当初クローズドセル構造
で得られたため,強制的に粉抜き穴を空けて最適化
を実施した.なお,ある気孔率における,ポーラス
材料の理論的な物性値の限界値は Hashin-Strinkman
の材料物性値境界式より求めることができる.今回
の最適化では,Altair Radioss を用いた有限要素解析
で,その限界値に対して体積弾性率では約 88%,熱
伝導率では約 97%を達成した.
以上の最適解をもとに,材料にマルエージング鋼
を用い,レーザ溶融方式の EOS 社 EOSINT M280 で
試験片を造形した.図 1(b)が圧縮試験によるヤング
率計測のための試験片で,図 2(b)が定常法による熱
伝導率計測のための試験片である.熱伝導計測のみ
完了しており,シミュレーションと実験値の誤差は
-4.5%~3.2%であった.また,従来のランダム気孔形
(a) 最適解
(b) 試験片
状のポーラス材料での試験結果と比較し,約 35.8%
の性能向上が確認できた.
続いて,マルチマテリアル光凝固樹脂積層造形を
用いて,平面内で負の熱膨張を示すポーラス複合材
料を造形した例を紹介する.図 3(a)に示すのは二次
元で実効的線膨張係数を最小化した最適解である.
一つの材料は高剛性・低熱膨張性を示し,もう一つ
の材料は低剛性・高熱膨張性を示すと設定した.こ
の構造の温度を上昇させると,材料間の熱膨張差に
よるバイメタルに似た曲げが内部におこり,図 3(b)
に示すような見かけ上の熱収縮がおこる.
この最適解を面外方向に引き延ばし,Stratasys 社
の Objet Connex 500 で図 3(c)に示す試験片を造形し
た.高剛性・低熱膨張性材料として,アクリルライ
ク材料の VeroWhitePlus RGD835 を用い,低剛性・高
熱膨張性材料としてゴムライク材料の FLX9895-DM
を用いた.レーザ走査式の熱膨張計で長手方向の線
膨張係数を測定し,室温から約 40℃の間で-1.18~
-1.12K-1 の値が得られた.
(a) 最適解
(b) 試験片
図 1 等方性実現と体積弾性率の最大化を目
図 2 等方性実現と熱伝導率の最大化を目的
的とした最適化例
とした最適化例
2mm
(a) 最適解
(b) 加熱時変形図
(青丸部分は人手で修正)
(緑線は元形状)
(c) 試験片全体図と拡大図
図 3 マルチマテリアル積層造形で負の熱膨張実現を目的とした最適化例