株式会社東海東京調査センター「日本経済予測(2016

Press Release
6-2, NIHONBASHI 3-CHOME, CHUO-KU, TOKYO
103-0027
JAPAN
平成 28 年 9 月 8 日
各
位
東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社
東京都中央区日本橋三丁目 6 番 2 号
証券コード
8616
東証・名証第一部
株式会社東海東京調査センター
「日本経済予測(2016-17 年度)」に関するお知らせ
当社の子会社である株式会社東海東京調査センターが「日本経済予測(2016-17 年度)」を
発表いたしましたので、別紙のとおりお知らせいたします。
以
本件に関するお問い合わせは、広報・IR部
03-3517-8618 までお願いします。
上
2016 年 9 月 8 日
日本経済予測(2016-17 年度)
~ディスインフレ下の安定成長~
【当社予想及び前提条件】
実質 GDP 成長率
16 年度+0.8%、17 年度+1.1%
CPI コア上昇率
16 年度▲0.1%、17 年度+0.6%
日銀金融政策
9 月の総括検証を経て、「量」「金利」については現状
維持、「質」やその他の政策への傾斜を強める
チーフエコノミスト
武藤弘明
03-3517-8374
[email protected]
★マクロ環境は安定、潜在成長率を上回る成長ペースを維持
実質 GDP 成長率は 16 年度が前年度比+0.8%、17 年度を同+1.1%
と予測した。6 月 8 日時点の予測と比べると 16 年度は不変で 17
年度を 0.1%ポイント上方修正した。16 年 4-6 月期は輸出、設備投
資ともに不振だが 7-9 月以降は徐々に持ち直していく。消費に関し
ても、賃金は伸び悩むが雇用は増加しており、個人消費は底堅く推
移しよう。海外経済等、輸出環境も年初に比べると相当程度安定化
しており、17 年度の GDP 成長率は前年度比+1.1%とむしろ上方修
正を施した。17 年度に関しては経済対策の効果(真水で 7.5 兆円
程度)による 0.3%ポイント程度の押し上げ効果が見込まれる。予
測期間を通じて潜在成長率を上回る成長ペースを維持すると予想
している。
★世界経済、加速感はないが、好調を保つ米国経済が下支え
米国の 8 月の非農業部門雇用者数の伸びは前月差+15.1 万人と市
場予想の同+18 万人(ブルムバーグ)を下回ったが、3 ヵ月移動平
均では 20 万人を超えている。個人消費も堅調に増加しており、基
本的に米国経済は好調を維持しており、
今後も世界経済の下支え要
因になる。中国については 8 月の月次統計は精彩を欠くものだっ
たが、市場も注目する PMI が政府・民間発表値ともに 50 台に乗せ
る等、安定感を失っていない。国際金融市場の混乱をもたらした年
初の景気減速懸念は相当程度後退している。市場予想対比での経済
指標の下振れ等から、米国の利上げペースは慎重で(9 月の利上げ
はハードルが高い)
、これも世界経済の安定化要因の一つだ。
★日銀は「量」
、
「金利」については現状維持を続ける公算
9 月の総括的検証を経て、日銀はインフレ目標達成時期を柔軟化
させるとともに、行動レベルでは「量」
「金利」から「質」やその
他の政策ツールへと軸足をシフトさせてくると考えられる。予想物
価上昇率の下振れとマイナス金利政策の金融仲介機能に与える影
響を気にするとともに、一方で“戦線縮小”と市場に認識されたと
きの長期金利の上昇リスクにも神経質になっているようだ。黒田総
裁は量の拡大やマイナス金利の深堀りの余地はまだあると述べて
いるが、現実的な対応としては、
「量」と「マイナス金利」に関し
ては現状維持のままアクションを凍結することになると思われる。
1/10
このレポートは、投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、投資勧誘を意図とするものではありません。投資の決定は、ご自身の判断と責任でなされますようお願い申し上げます。
このレポートのご利用に関しては、末尾の開示事項の記載もご覧ください。
日本経済予測一覧表
予測
<年度予測>
FY13
FY15
FY16
実績
項目
実質GDP
FY14
FY17
FY16
今回予測
FY17
前回6月8日予測
2.0%
-0.9%
0.8%
0.8%
1.1%
0.8%
1.0%
2.3%
-2.9%
-0.2%
0.7%
0.8%
0.5%
0.8%
8.8%
-11.7%
2.4%
5.9%
1.3%
0.7%
1.3%
民間企業設備投資
3.0%
0.1%
2.1%
0.6%
1.8%
1.7%
1.6%
在庫投資(寄与度)
-0.3%
0.6%
0.3%
-0.1%
0.0%
-0.2%
0.0%
公的固定資本形成
10.3%
-2.6%
-2.7%
1.8%
4.8%
-0.3%
4.8%
-0.5%
0.6%
0.1%
-0.1%
-0.1%
0.1%
0.0%
財サ輸出
4.4%
7.9%
0.4%
-0.3%
2.8%
2.1%
2.9%
財サ輸入
6.8%
3.4%
0.0%
0.5%
3.6%
1.6%
3.6%
3.0%
-0.4%
-1.4%
0.5%
2.6%
0.9%
2.3%
完全失業率(末値)
3.6%
3.4%
3.2%
3.0%
2.9%
3.1%
3.0%
消費者物価指数(コア)
0.8%
0.8%
0.0%
-0.1%
0.6%
0.2%
0.9%
-0.3%
2.4%
1.4%
0.5%
0.4%
0.6%
0.8%
2015
2016
10-12月
1-3月
4-6月
7-9月
10-12月
1-3月
4-6月
7-9月
10-12月
-1.7%
2.1%
0.7%
0.9%
0.9%
1.4%
1.1%
1.2%
0.8%
-0.8%
0.7%
0.2%
0.2%
0.2%
0.2%
0.2%
0.2%
0.2%
-0.5%
-0.1%
5.0%
0.6%
0.6%
0.5%
0.2%
0.2%
0.2%
民間企業設備投資
1.2%
-0.6%
-0.1%
0.2%
0.3%
0.4%
0.5%
0.5%
0.6%
在庫投資(寄与度)
-0.1%
-0.1%
0.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
公的固定資本形成
-3.2%
0.2%
2.6%
1.0%
-0.4%
2.3%
2.2%
1.5%
-0.5%
0.0%
0.1%
-0.3%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
財サ輸出
-0.9%
0.1%
-1.5%
0.6%
0.7%
0.7%
0.7%
0.7%
0.7%
財サ輸入
-1.1%
-0.5%
0.0%
0.8%
0.8%
0.8%
0.9%
0.9%
1.0%
鉱工業生産指数
0.0%
-1.0%
0.2%
0.8%
0.7%
1.2%
0.6%
0.5%
0.3%
完全失業率(末値)
3.3%
3.2%
3.1%
3.1%
3.0%
3.0%
3.0%
2.9%
2.9%
0.0%
-0.1%
-0.4%
-0.4%
0.0%
0.4%
0.5%
0.5%
0.6%
1.5%
0.9%
0.7%
0.5%
0.6%
0.3%
0.3%
0.4%
0.4%
民間最終消費支出
民間住宅投資
純輸出
鉱工業生産指数
GDPデフレータ
<四半期予測>
項目
実質GDP(年率)
民間最終消費支出
民間住宅投資
純輸出
消費者物価指数(コア)
GDPデフレータ
2017
(注)鉱工業生産指数の年度値は季節調整値をもとにしたもの。
(注)実質GDP成長率以外の需要項目は単純前期比(在庫投資と純輸出は寄与度)、GDPデフレータは前年比
(出所) 内閣府、総務省、経済産業省、予測は東海東京調査センター
2/10
1. 成長率の全般的な見方: 足元の景気は若干弱含むも、安定成長は維持
<成長率見通し全般について>
実質 GDP 成長率は 16 年度が前年比+0.8%、17 年度を同+1.1%と予測した。6 月 8 日時点の予測(16
年度同+0.8%、17 年度同+1.0%)と比べると 16 年度は不変、17 年度は 0.1%ポイントの上方修正とな
る。16 年度に関しては、足元の生産・輸出が月次統計のレベルでは想定よりも若干下振れしているが、
一方で個人消費は想定していたよりも底堅く推移している。米国経済は基本的に堅調を維持しており、
中国経済に関してもその減速懸念から国際金融市場が混乱した年初の状況と比べるとかなり安定化し
ている。賃金上昇の弱さからディスインフレ的な状況が続いているが、雇用環境の改善から総雇用者報
酬は緩やかに増加しており、全体としてマクロ環境そのものは安定化している。需給ギャップが殆ど存
在しない状況下における事業規模 28.1 兆円(真水 7.5 兆円程度)の経済対策も 17 年度の GDP 成長率
を 0.3%程度押し上げると予想される。
GDP 成長率は予測期間を通じて潜在成長率
(足元では 0.2~0.3%
程度と目される)を安定的に上回ると予想した。この結果、17 年度の GDP 成長率は現段階での民間コ
ンセンサス(17 年度+0.9%:日経 QUICK)を上回ると見ている。
<16 年 7-9 月期以降の GDP 成長率>
16 年 4-6 月期の GDP 成長率は 2 次速報でも前期比年率+0.7%と 1 次速報の同+0.2%から上方修正さ
れた(上方修正は主に在庫投資の上方修正による)。これはその前の 1-3 月期が閏年効果の影響で同
+2.1%とイレギュラーに上昇していた後の四半期としては意外に強い数字といえる。4-6 月期は熊本地
震等の影響で供給サイドのボトルネックが生じており、これが生産や輸出に負の影響を与えていた。そ
れにも拘わらず全体として潜在成長率(0.2~0.3%程度)を上回る成長を維持した点については、ある
意味で日本経済の底堅さを示すものでもある。輸送機械に関しては既に挽回生産がはじまっており、7-9
月期以降は好調な米国経済に呼応する形で輸出・生産ともに緩やかに浮揚していくと考えられる。7 月
の月次指標をみると輸出・鉱工業生産ともにやや精彩を欠いたが、7-9 月期の GDP 成長率は前期比年率
+0.9%と 4-6 月よりも若干加速、17 年 1-3 月期以降は 16 年度の補正予算による押し上げ効果もあり、
前期比年率で 1%台に乗せてくると予想する。個人消費も基調は弱いながらも底割れするような状況で
はなく、雇用環境が引き続き良好に推移するもとで前期比+0.2%程度の増加ペースは維持すると見てい
る。
2. 海外経済: 巡航速度の成長を維持する公算
<全体感: 原油価格の安定、米国利上げリスクの後退で、世界経済は巡航速度を保つ>
年初には 30 ドル/バレルを割り込んでいた原油価格は持ち直し、5 月以降は 45 ドル近傍の水準で安定
的に推移している(50 ドルが壁になっている状況)
。このところ原油価格が横ばいで推移している点に
関しては、米国におけるエネルギー関連企業の設備投資を刺激するかどうかという点では必ずしも十分
でないかもしれないが、少なくとも価格が「安定」していることは資源国の資金流出懸念の抑制につな
がる。国際金融市場の混乱は、そのまま企業や家計のマインドを通じて実体経済に影響してくるため、
原油価格の安定自体はそのような不確実性を減じるという点でグローバル経済にとってもフェーバー
3/10
な材料といえよう。8 月の雇用統計をはじめ、米国の経済指標が市場予想対比で適度に下振れしている
点も、FED による性急な利上げがもたらす新興国・資源国からの資金流出懸念で金融市場が再び混乱す
るような展開を回避する上では望ましいともいえる。グローバルにインフレ圧力が急激に高まっていく
ような景気の加速が見られないということは、見方によってはどの国の中央銀行も利上げを急がなくて
よいということであり、逆説的には巡航速度の経済成長が持続しやすい環境ということもできる。
<中国・新興国経済: 景気減速が深刻化するリスクは遠のく>
中国に関しては引き続き過剰設備や民間債務が重石となり、一旦持ち直しかけたかに見えた固定資産
投資も民間投資を中心に減速が続いている(政府はインフラ投資でテコ入れをするも、民間投資がそれ
以上に減速している)
。一方で鉱工業生産はこのところ前年比 6%近傍で推移する等、伸びは安定してい
る。少なくとも年初来の景気減速傾向にはある程度の歯止めがかかりつつある。市場の注目度が高い製
造業 PMI についてみると、民間発表値(財新/MARKIT 社)は 7 月に大幅上昇し 17 ヵ月ぶりに 50 を上
回った後、8 月は低下したものの 50 をキープしている。これまで 50 近傍で推移していた政府発表値も
8 月は 50.4 にまで上昇しており、直近では民間・政府発表値が揃って 50 台を回復している(図表 1)
。
全体的なインプリケーションとしては、構造調整圧力は依然として強いものの、底割れリスクは限定的
になりつつあるようだ。中国経済のソフトランディングが担保されている限りにおいて、そこから影響
を受けやすい資源輸出国や周辺のエマージング地域の景気も緩やかに回復し、巡航速度での成長軌道を
維持可能と考えられる。
<米国経済: 基本は好調を維持、性急な利上げ懸念を高めない適度なペース>
米国の 8 月の非農業部門雇用者数の伸びは前月差+15.1 万人と市場予想の同+18 万人
(ブルムバーグ)
を下回ったが、3 ヵ月移動平均では 23.2 万人と基調は強い(図表 2)
。時間当たり賃金が前年比+2.4%
と前月の同+2.7%から鈍化する等、インフレ圧力は強くない中、失業率は 4.9%と FOMC メンバーが想
定する長期の失業率(16 年 6 月の時点で 4.8%:中央値)に限りなく接近している。
4-6 月期の GDP 成長率は前期比年率+1.1%と弱い数字だが、個人消費は同+4.4%と高い伸びを維持し
ており基本的には雇用環境がタイトであることが消費好調の背景にあると考えられる。原油価格の上昇
が抑制されていることも、ガソリン価格の安定化を通じて家計購買力にはプラスに働いていよう。
ただし FRB が 9 月の FOMC において利上げに踏み切れるかどうかは微妙なところだ。イエレン議長
はジャクソンホールで「ここ数か月で利上げの論拠は強まった」と発言しつつも、経済指標次第という
言葉を添えており、その経済指標は直近のものに関しては 8 月の雇用統計を始めとして市場予想対比で
の下振れが続いている(ISM 製造業指数も 8 月は 6 ヵ月ぶりに 50 割れ)。イエレン議長以外の FED 高
官発言も相まって市場ではにわかに 9 月の利上げ観測が浮上しているが、最近の経済指標を見る限り実
際には早期利上げのハードルは高いのではないかと思われる。
<ユーロ圏経済: 英国の EU 離脱問題の影響は限定的>
欧州経済に関しては、英国の EU 離脱問題の影響を受けて、企業や家計の支出行動は短期的には慎重
化し、成長率にも相応のマイナス効果が表れると考えられる。例えば 8 月の IFO 企業景況感総合指数は
8 月に大きく落ち込んでいる。ただし一方でユーロ圏全体の PMI は 8 月も高水準を保っており、欧州全
体でみると今のところ景気が底割れするような動きにはなっていない。英国のユーロ離脱決定によって
4/10
ポンドやユーロの通貨価値が下落しており、一方で実際に英国がユーロ圏から離脱するのは今のタイム
スケジュールではどんなに早くとも 2 年半後になるため、予測期間(2016~17 年)を通じてみれば通
貨安の恩恵が逆に景気の浮揚要因となる可能性もある。ISM の特別調査では回答企業の 61%が英国の
EU 離脱の米国企業への影響は「無視できる」と答えており、設備投資への影響に関しては 81%が「無
視できる」と回答する等、センチメントを通じた影響という意味でも今のところ世界経済全体へのマイ
ナスインパクトは限定的と思われる。これまで景気を支えてきたユーロ安傾向や低金利環境も継続する
と考えられ、ユーロ圏経済に関しても基本的には 1%台半ばの安定成長が続くと予想する。
国内経済: ディスインフレ下の安定成長局面
3.
<ディスインフレ下の安定成長局面>
16 年 7 月の労働力調査では、完全失業率が 3.0%と前月よりも 0.1%ポイント低下、有効求人倍率は
1.37 倍と前月から横這いだが引き続き上昇トレンド上にあると判断される。賃金の上昇ペースは非常に
緩慢ではあるが、雇用自体の改善は雇用者報酬の応分の押し上げ要因となる。上述のとおり 4-6 月の民
間最終消費支出は、
前期比+0.2%と閏年効果で膨れ上がった 1-3 月の後にしては堅調推移となっている。
7 月の家計調査やスーパー百貨店の売上高をみても緩やかな増加基調が維持されており(図表 3)
、消費
に関しては 7-9 月以降も 4-6 月期並みの「底堅さ」を維持するとみられる。基本的には前期比+0.2%程
度、年率換算では 1%弱のペースでの実質消費の増加が今後も続くと予想される。
9 月の決定会合で日銀が検証材料にするであろう「予想物価上昇率」については、確かに日銀がいう
ように日本では適合的に形成されており、基調としての物価上昇率もこのところ低下傾向となっている。
アベノミクスと異次元緩和の効果が一巡した後は、さすがにデフレとはいえないが(労働市場では完全
雇用が達成されている)、ディスインフレ的な状況は続いている。しかし、そのことは必ずしも日本の
景気が低迷していることを意味しない。グローバル景気が巡航速度で推移し、少なくとも雇用環境は良
好に推移する中、少なくとも現状で 0.2~0.3%と目される潜在成長率を上回る成長率ペースは維持でき
ると考えられ、それはすなわち日本経済が当面、実力ベースかそれ以上のペースで推移するということ
だ。
<最大のかく乱要因: 日銀はどう動くか
>
日銀も、雇用環境のこれまでの改善については自信を持っている筈であり、次回の 9 月 20~21 日の
決定会合における総括的検証でも、この点は強調してくるであろうと思われる。しかし、一方で消費者
物価に関しては、これまで日銀は相次いで見通しを下方修正してきている(図表 4)
。17 年度見通しだ
けは高めの数字を維持しているものの、展望レポートでは下振れリスクへの傾斜が大きいことが明確に
示されている。2 年程度の期間で 2%を達成するという「期限付きインフレターゲット」のフレームワ
ークを維持するのが運営上困難になりつつあり、今回の総括検証の真の狙いはインフレ目標の達成時期
の柔軟化にあるのではないかと思われる。つまり、2%の物価安定目標の達成はあくまでももう少し中
長期的な余裕をもった目標とし、これまでのように、物価見通しの下方修正のタイミング毎に市場の日
銀に対する追加緩和期待が必要以上に膨張することを回避したいというのが本音と思われる。9 月 5 日
の都内における黒田日銀総裁の講演では、日本の予想物価上昇率がもっぱら「適合的」に形成されるこ
とを指摘し、いわば異次元緩和が実施されたにもかかわらず、ここまで消費者物価指数が下振れしてき
5/10
たことの“エクスキューズ”が行われている。これなどは、期限付きインフレターゲットを取り下げる
タイミングで市場に日銀に対する失望が広がらないよう前もってクッションを設置しているのではな
いかと思われる。
また同じ 9 月 5 日の講演において、
黒田日銀総裁はマイナス金利の効果について「これまでのところ、
マイナス金利政策は、企業や家計の資金調達コストの低下にしっかりとつながっている」「マイナス金
利による収益圧迫によって金融仲介機能がかえって悪化するというような事態にはなっていない」と述
べつつも、
「この先、
(マイナス金利政策が)貸出等の金利の低下にどの程度波及するかは、一概にはい
えない」「貸出金利が大きく低下したということは、それが金融機関の収益を圧縮する形で実現してい
る」と述べ、
「この政策(=マイナス金利政策)を考える上で、金融機関収益を通じて、金融仲介機能
に与える影響についても考慮する必要がある」とこれまではあまり言及してこなかったマイナス金利の
「負の側面(コスト)
」について明言している。
このときに講演でも「
(総括的検証は)戦線縮小という話ではない」、
「『量』
・
『質』
・
『金利』の各次元
での拡大はまだ十分可能」と述べているが、実際の行動レベルでは今後これまでのメインツールであっ
た「量」「金利」から「質」やその他の政策ツールへと軸足をシフトさせてくる可能性が高いと思われ
る。ベネフィットだけを強調し、これまでの政策について自画自賛するだけでなく、5 日の講演では“コ
スト”についてしっかりと言及したのは印象的だ。
日銀は一方で、そのような軸足のシフトが、“戦線縮小”と市場に認識されたときの長期金利の上昇
リスクに対しても相当神経質になっているのではないかと思われる。「総括的検証」を経ても、日銀が
明示的に「量の拡大」や「マイナス金利の深堀り」についての見合わせをアナウンスしてくる可能性は
低いだろう。現実的な対応としては、
「量」と「マイナス金利」に関しては現状維持のまま、これらの
分野についても依然として緩和余地があるという姿勢を維持しつつ、実際にはこれらのアクションにつ
いては凍結、大きな方向としては ETF、REIT、社債、地方債等の「質的緩和」への傾斜を強めること
になると予想する。
(以上)
6/10
(図表 1)
中国製造業PMIの推移
52
51
50
49
48
政府発表
47
財新/MARKIT社
46
1
3
5
7
9
11
1
3
5
14
7
9
11
1
3
15
5
7
16
(年・月)
(出所)データストリームより東海東京調査センター作成
(図表 2)
(万人)
35
米国 非農業部門雇用者数(前月差)の推移
3ヵ月移動平均
30
25
20
15
10
5
0
1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7
13
14
15
(出所)データストリームより東海東京調査センター作成
7/10
16
(年・月)
(図表 3)
百貨店及びスーパー売上高
(10億円)
525
520
515
510
505
500
495
490
485
480
(10億円)
1,120
1,110
1,100
1,090
スーパー(右軸)
1,080
百貨店(左軸)
1,070
(注)季節調整は東海東京調査センター
1,060
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
3
15
4
5
6
7
16
(出所)百貨店協会、チェーンストア協会より東海東京調査センター作成
(年・月)
(図表 4)
展望レポートにおける日銀のコアCPI見通しの変遷
(%)
2.5
2.0
17年度
1.5
1.0
16年度
0.5
15年度
0.0
1
4
7
13
10
1
4
7
10
1
4
14
7
15
(出所)日本銀行より東海東京調査センター作成
8/10
10
1
4
7
16
(年・月)
【 レーティングの定義 】
Outperform
今後 6 カ月間における投資成果が TOPIX に対して 15%以上上回るとアナリストが予想
Neutral
今後 6 カ月間における投資成果が TOPIX に対して±15%未満とアナリストが予想
Underperform
今後 6 カ月間における投資成果が TOPIX に対して 15%以上下回るとアナリストが予想
NR
レーティング、目標株価を付与せず
【 レポート利用に関する注意事項 】
このレポートは、東海東京調査センター(以下「弊社」)が作成し、弊社の許諾を受けた証券会社、及び情報提供会社等から直
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のレポートの権利は弊社に帰属しており、いかなる目的であれ、無断で複製又は転送等を行わないようにお願いいたします。
レーティングの表記は、TOPIX に対して Outperform、Neutral、Underperform の 3 段階で区分表記しています。また、レーティ
ングが無い場合は、NR と表記しています。対象期間は、投資評価が付与された日を起点として、6 カ月程度を想定しております。
アナリストがレポートにおいて企業の目標株価に言及した場合、その目標株価はアナリストによる当該企業の業績予想に基づく
もので、期間は 6 カ月程度を想定しております。実際の株価は、当該企業の業績動向や、当該企業に関わる市場や経済環境な
どのリスク要因により、目標株価に達しない可能性があります。
このレポートで述べられている見解は、当該証券又は発行会社に関する執筆者の意見を正確に反映したものです。執筆者の
過去、現在そして将来の報酬のいかなる部分も、直接、間接を問わず、このレポートの投資判断や記述内容に関連するものでは
ありません。
弊社は、このレポートを含め、経済・金融・証券等に関する各種情報を作成し、東海東京証券に提供することを主たる事業内容
としており、弊社の収入は主に東海東京証券から得ております。
【 金融商品取引法に基づく留意事項 】
このレポートは、東海東京調査センターが作成し、東海東京証券株式会社が許諾を受けて提供いたしております。投資判断の
最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。
金融商品取引法に基づきお客様にご留意いただきたい事項を以下に記載させていただきます。
東海東京証券の概要
商号等
:東海東京証券株式会社 金融商品取引業者 東海財務局長(金商)第 140 号
加入協会 :日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会
【 リスクについて 】
◎ 国内外の金融商品取引所に上場されている有価証券(上場有価証券等)の売買等にあたっては、株式相場、金利水準等の
変動や、投資信託、投資証券、受益証券発行信託の受益証券等の裏付けとなっている株式、債券、投資信託、不動産、商品
等(裏付け資産)の価格や評価額の変動に伴い、上場有価証券等の価格等が変動することによって損失が生じるおそれがあ
ります。
◎ 上場有価証券等の発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合や、裏付け資産の発行者等の業務や財産の状況
等に変化が生じた場合、上場有価証券等の価格が変動することによって損失が生じるおそれがあります。
◎ 新株予約権、取得請求権等が付された上場有価証券等については、これらの権利を行使できる期間に制限がありますので
ご留意ください。
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◎ 上場有価証券等が外国証券である場合、為替相場(円貨と外貨の交換比率)が変化することにより、為替相場が円高になる
過程では外国証券を円貨換算した価値は下落し、逆に円安になる過程では外国証券を円貨換算した価値は上昇することに
なります。したがって、為替相場の状況によっては為替差損が生じる恐れがあります。
※裏付け資産が、投資信託、投資証券、預託証券、受益証券発行信託の受益証券等である場合には、その最終的な裏付け資
産を含みます。
※新規公開株式、新規公開の投資証券及び非上場債券等についても、上記と同様のリスクがあります。
【 手数料等諸費用について 】
Ⅰ.国内の金融商品取引所に上場されている有価証券等
国内の取引所金融商品市場における上場有価証券等の売買等についてお支払いいただく委託手数料等は、次の通りです。
(1)国内の金融商品取引所に上場されている株券等(新株予約権付社債券を除く)
委託手数料の上限は、約定代金の 1.242%(税込)になります。
(2)国内の金融商品取引所に上場されている新株予約権付社債券等
委託手数料の上限は、約定代金の 1.08%(税込)になります。
※上記金額が 2,700 円(税込)に満たない場合には、2,700 円(税込)になります。
Ⅱ.外国金融商品市場等に上場されている株券等
外国株券等(外国の預託証券、投資信託等を含みます)の取引には、国内の取引所金融商品市場における外国株券等の売
買等のほか、外国金融商品市場等における委託取引と国内店頭取引の 2 通りの方法があります。
(1)外国金融商品市場等における委託取引
①国内取次ぎ手数料
国内取次ぎ手数料が約定代金に対して掛ります。
当該手数料の上限は、約定代金の 1.404%(税込)になります。
②外国金融商品市場等における委託手数料等
外国株券等の外国取引にあたっては、外国金融商品市場等における委託手数料及び公租公課その他の諸費用が発生します。
当該諸費用は、その時々の市場状況、現地情勢等に応じて決定されますので、本書面上その金額等をあらかじめ記載するこ
とはできません。
(2)国内店頭取引
お客様に提示する売り・買い参考価格は、直近の外国金融商品市場等における取引価格等を基準に合理的かつ適正な方法
で算出した社内価格を仲値として、仲値と売り・買い参考価格との差がそれぞれ原則として 2.75%(手数料相当額)となるように
設定したものです。当該参考価格には手数料相当額が含まれているため、別途手数料は頂戴いたしません。
※外国株券等の売買等にあたり、円貨と外貨を交換する際の為替レートは、外国為替市場の動向をふまえて弊社が決定した為
替レートによるものといたします。
Ⅲ.その他
募集、売出し又は相対取引の場合は、購入対価をお支払い頂きます。また、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただく
ことがあります。
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