D.C.通信 海外だより 連載 64 中村岳志 （ＪＡ全中農政部国際企画課＜在ワシントン＞） September, 2016 EU離脱を選択したイギリス国民 投票が通商交渉に与える影響 6 月23日に実施されたイギリ ■難航が予想される離脱交渉 スの欧州連合（EU）離脱にかか このため、英 EU 間の離脱交 る国民投票では離脱派が勝利 渉においては、 「労働者の移動 離脱交渉の動向に世界が注目している し、欧州共同体発展の歴史にお の自由」の取り扱いが主要な論 イギリスとの離脱条件にかかる いて、初めて加盟国が脱退する 点のひとつとなると想定される。 交渉に注力することとなり、諸 事態を迎えることとなった。 しかしながら、イギリスを除 外国との通商交渉の早期妥結 くEU 27か国の首脳は、 「単一市 は、当面難しい状況となったと 場へのアクセスを認めるには、 見られている。 ■移民問題が引き金のひとつ EU では、①商品移動の自由、 『 4 つの自由』全ての受け入れを このため、EU がアメリカとと ②サービスの移動の自由、③資 要する」との立場を明らかにし もに年内妥結を目指す環大西 本と支払いの移動の自由、④労 ている。これは、イギリスに寛 洋貿易投資パートナーシップ 働者の移動の自由のいわゆる 容な措置を与えてしまえば、他 （TTIP）交渉や、 5 月の G7伊勢 「 4 つの自由」が認められてお の EU 諸国における離脱世論を 志摩サミットや 7 月の日 EU 首脳 じゃっ き り、イギリスもこれらを認める 惹起することを懸念したものと 会談で年内合意に向けた決意が ことで、 5 億 人 の EU 市 場 へ の 見られており、離脱交渉におけ 示された EU とわが国との経済 無税アクセスを手に入れるなど る対立と難航が予想される。 連携交渉についても、イギリス 経済面での恩恵を享受している。 なお、離脱手続きは、イギリ の EU 離脱手続きに伴う政治的 しかし近年では、イギリスよ スが EU に離脱の意思を通知す 混乱の影響は避けられないもの り平均所得が低い他の EU 諸国 ることから開始されるが、イギ と見られることから、欧州にお からの移民労働者が急速に増加 リスのメイ新首相は、 「交渉の準 ける情勢の推移を引き続き注視 し、移民に雇用が奪われること 備には時間がかかる。今年中は していく必要がある。 や、公共サービス負担増等の懸 ない」と明言しており、通知は なお日米両国では、環太平洋 念が拡大しており、国民投票直 早くとも2017年以降となるもの 連携協定（TPP）の批准が目下 前の世論調査では、31% が移民 と考えられる。 の政治的課題のひとつであり、 問題を最も重要な課題と回答し、 32 それまでは EU との本格的な交 うち73% が EU からの離脱に賛 ■ EU の通商交渉への影響 渉に入れないとする向きもある 成であった。 イギリスが EU からの離脱を ため、TPP 批准をめぐる両国の 選択したことで、EU はまずは 動向への目配りも重要となる。 月刊 JA 2016/09
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