頸部内頸動脈狭窄症

脳血管内治療を行うにあたって
頚部内頚動脈狭窄症
の患者さん・ご家族のみなさんへ
監修
神戸市立医療センター中央市民病院
脳神経外科部長
坂井 信幸
脳に血液を送る血管に病気がある時、
頭部や頚部の切開手術をせず、血管内に
細い管(カテーテル)を入れることによっ
て行う治療が、
脳血管内治療です。
治療を行う前に、ご自身の病気について、
また治療法について知っておきましょう。
(2014年1月作成)BAS-10.0(5/オビ)
(TG/DI)
BAS・13・1005
あなたの病気の種類
頸部内頚動脈狭窄症
­頚
部内頸動脈狭窄症(けいぶ ないけいどうみゃくきょうさくしょう)
けっせん
動脈狭窄症は、血管の壁が内側に厚くなって、
血液の通り道が狭くなる病気です。
高血圧、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病に
よって起こる動脈硬化が主な原因です。厚く
なった動脈の壁には、コレステロールなどが
じゅくしゅ
溜まり、
プラーク(粥腫)を形成しています。
内頚動脈狭窄症が進むと、脳に送られる血液
が足りなくなります。また、プラークが破裂
すると、血液の小さな固まり(血栓)が形成さ
れ、それらが流れ、脳の細い血管に詰まって血
流を止めてしまいます。脳への血液が不足す
ると、部位によって手足の麻痺や言語障害な
どの神経症状が起こったり、場合によっては
命の危険にさらされることがあります(脳梗
塞)
。狭窄の程度が高い場合は、すみやかに治
療する必要があります。
脳へ
外頚動脈
ダメージを
受けた脳細胞
脳塞栓
脳細胞
内頚動脈
プラーク
(粥腫)
総頚動脈
血液の流れ
心臓から
1
血栓
破裂した
プラーク
2
あなたの病巣の位置
頚部と頭部の主な動脈です。あなたの病巣はどこ にあるのか、
担当医におたずねください。
前
横
前大脳動脈
前交通動脈
中大脳動脈
後交通動脈
後交通動脈
上小脳動脈
後大脳動脈
外頚動脈
総頚動脈
中大脳動脈
脳底動脈
内頚動脈
前大脳動脈
外頚動脈
上小脳動脈
脳底動脈
内頚動脈
椎骨動脈
鎖骨下動脈
後大脳動脈
椎骨動脈
総頚動脈
鎖骨下動脈
腕頭動脈
大動脈
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4
主な検査
脳血管内治療の前後に行われる検査です。必要 に応じて選択されます。
CT検査
X 線を利用して、頭部の断面写真を撮影します。検査時
間が短いため、
緊急の場合にも、
すばやく検査できます。
脳血管造影検査
カテーテルを血管に入れ、造影剤を注入して X 線撮影
を行い、血管の形や血液の流れ方を調べます。
局所麻
せんし
酔と動脈の穿刺を必要とします。
MRI検査
強力な磁場を利用し、頭部の写真を撮影します。CT より
時間がかかりますが、
非常に詳しい画像が得られます。
超音波検査
超音波を利用し、首や脳の血管の様子を比較的容易に
知ることができます。
脳血流検査
ごく微量の放射線を出すお薬を注射し、脳の血流を撮影
します。SPECT 検査では血流が低下している場所が、
PET 検査では脳が消費する酸素量などもわかります。
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治療の選択肢
頚部内頚動脈狭窄症の治療は、神経症状の有無 、狭窄の程度、部位によって異なります。
外科手術
●内膜剥離術
内科療法
抗血小板剤の内服を中心に、高血
圧・糖尿病・脂質異常症などの内科
疾患の治療管理を行う方法です。
狭窄がある頚部の血管を露出して血流
を一時的に遮断し、動脈を切開して肥
厚した動脈壁(プラーク・粥腫)を直接
取り除く手術です。血管を元通りに縫
い合わせると、元の血流が回復します。
●バイパス術
狭窄がある部分をそのままにして、開頭
して頭皮の血管を脳表の血管と吻合し
て脳に血液が流れるようにする手術で
す。ただし、頚部内頚動脈狭窄症で行わ
れることは、それほど多くありません。
脳血管内治療
頚部を切開せずに、血管内にカテ
ーテルを入れて血管を内側から拡
張 する治療です。
頚 部 内 頚 動 脈 狭 窄 症 の 場 合は、
主にステント留置術が行われます。
局 所 麻 酔で行われ、入 院 期 間は
順調なら4∼5日です。
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いずれの手術も、全身麻酔で行われ、
入院期間は長くなります。
次のページからは、
についての説明です。
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カテーテルの挿入まで
術前術後を通して、血栓ができるのを防ぐ薬を
飲み続けます。薬の量や飲む期間については、
■カテーテル
挿入のルート
担当医の指示を必ず守り、飲み忘れがないよう
に気を付けてください。また、術中はヘパリン
を点滴し、
血栓ができるのを防ぎます。
カテーテルの挿入は、脳血管内治療に共通した
操作です。患者さんには、ベッドに仰向けに寝
ていただき、術者は X 線透視の映像を見ながら
カテーテルを脳の血管まで到達させます。
麻酔は通常、局所麻酔を行いますが、全身麻酔
を行うこともあります(血管内には痛みを感じ
る感覚はありません)
。
カテーテル
カテーテルは、通常、腿の付け根の動脈から
挿入します。
カテーテル
シース
(カテーテルの出入口)
皮膚 皮下組織
脳へ
腿の付け根
の動脈
筋肉
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あなたの病気の種類
­頸
ステント留置術
部内頸動脈狭窄症(けいぶ ないけいどうみゃくきょうさくしょう)
血管の狭窄部を内側からバルーン(風船)で
押し広げ、ステント(金属製の網の筒)を留置
して血行を確保する治療法です。
つぶれたプラークの破片が脳へ流れるのを
防ぐフィルター(プラークの破片は、フィル
ターと一緒に回収します )
血管を広げる
バルーン(矢印)
ステント
バルーン
動脈内に留置する
ステント
これらの器具はカテーテルを通して
頚動脈へ到達させます。
頚部内頚動脈に
留置された
ステント(矢印)
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まずフィルターを開き、続いてバルーンで少し
拡張した後に、ステントを留置します。最後に
バルーンで完全に押し広げます。
バルーンで血流を一時的に止めてから治療を行
う方法もあります。
治療の合併症
ステント留置術中にできた血栓や、つぶれ
たプラークの破片が、脳の血管を詰まらせ
て脳梗塞が起こることがあります。これが
原因で麻痺や言語障害、意識障害が残る可
能性もあります。
また、頚動脈の治療では、血管反射が起こっ
て一時的な徐脈や血圧低下をきたす可能性
もあります。
医師は合併症が起こらないよう細心の注
意を払っていますが、合併症が起こる頻度
は3〜5% といわれています。
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脳血管内治療を受けるにあたって
施設により多少異なりますが、治療スケジュール は、概ね以下のようになります。
入院前
治療前より、血栓ができるのを防
ぐ薬を飲み始めます
手術後
採血、
採尿、
CT検査など
手術についての説明(医師)と入院
生活についての説明
(看護師)
入院当日
手術当日
手術同意書などの書類を作成
夜9時以降、
食事はできません
針を刺した部分の確認
手術翌日
から
鼠径部の剃毛
手術前
手術当日
手術結果についての説明
(医師)
止血が確認されるまでベッド上
安静、
ベッド上排泄です
持参の薬の服用は医師の指示に
従ってください
必 要 に 応 じ て C T 、M R I 、脳 血 管
造影などの検査
手術前日
病室に戻って、ベッド上安静、手術
時に入れた管が抜かれます
手 術 当 日 の 薬 の 服 用 は 、持 参 の
薬も含め、医師の指示に従ってく
ださい
尿の管を抜くまではポータブルトイレ
術後2日目に点滴を抜きます(目安)
シャワーは術後3日目より(目安)
退院指導、
退院手続き
退院
(手術3∼
7日後)
退院後は、医師の指示通りに薬を
服用し、
定期的に検査を受けます
朝から点滴を行います
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