42 53 22 8 3 13 76 2 4 8 12 2 17 3 43 職場の法律相談 7 懲戒処分の調査の限界 どういった調査が具体的にプライバシー侵害に 当たるのかの基準と、前記1の調査協力義務の限 界とは別種の議論であろうと考えられますが、現 在のところ、裁判例等で両者の関係が理論上整理 されているわけではなく、調査態様ごとに個別に 不法行為か否かの判断が出されている状況です。 ご 質 問 の 中 に あ っ た 例 で い え ば、⑴会 社 の 施 設 を利用する私用メールについて、そのようなメー ルに関するプライバシー保護の期待は相当程度低 いとした上で、会社が送受信履歴を閲読して私用 メール等を特定することは、就業規則に規定がな い場合であっても、社会的相当性の範囲内であれ ばプライバシー侵害には当たらないとした例があ り ま す︵F 社 Z 事 業 部︵電 子 メ ー ル︶事 件=東 京 地 判 平 ・ ・ 労 判 8 2 6 号 頁︶。加 え て、 事前に就業規則等でメール履歴の閲読を明示して いるような場合には、原則として調査がプライバ シー侵害に当たることはないと一般に考えられて います。 ⑵所持品検査に関しては、①検査を必要とする 合理的理由があること、②程度・方法が妥当であ ること、③制度として画一的に実施されること、 ④明示の根拠があること、の 点を掲げて、鉄道 会社が金品の不正隠匿調査のため乗務員に靴を脱 ぐよう求めたことを適法とした判例があります ︵西日本鉄道事件=最判昭 ・ ・ 民集 巻 号 1 6 0 3 頁︶。も っ と も、そ の 後 の 裁 判 例 を み る と、この 点のどれかが欠けると直ちに所持品検 査が不法行為になるというわけではなく、やはり 調査の態様の相当性と労働者の受ける不利益の程 度を比較して違法な調査か否かが判断されている ようです。 12 仁野 直樹 ︵弁護士、石嵜・山中総合法律事務所︶ 内容になっている場合︵例えば、指導・監督・企 業秩序維持などを職責とする労働者である場 合︶、ま た は、②労 働 者 が 労 務 提 供 義 務 を 履 行 す る上で調査に協力することが必要かつ合理的であ ると認められる場合︵調査対象である違反行為の 性質、内容、労働者の違反行為見聞の機会と職務 執行との関連性、より適切な調査方法の有無等、 諸般の事情から総合的に判断されます︶の つの 場合に限って、労働者が調査協力義務を負うとし ています︵富士重工業事件=最判昭 ・ ・ 民 集 巻 号1037頁︶。 非違行為を行ったと思われる労働者本人に対し ても、判断枠組みは同様であると思われます︵労 働 政 策 研 究・研 修 機 構 事 件=東 京 高 判 平 ・ ・ 労 判 8 9 3 号 頁︶。こ れ ら は い ず れ も 事 情 聴 取の判例・裁判例です。 このように、労働者は、企業秩序維持のために 会社が行う事情聴取等に対して、一定の限度で調 査協力義務を負いますが、会社は、この限度を超 えた協力を懲戒などで強制することはできません。 労働者のプライバシー侵害との関係 他 方 で、事 実 関 係 の 調 査 が 労 働 者 の プ ラ イ バ シーを過度に侵害することもありえますので、態 様によっては調査が不法行為となり、社員が損害 賠償を求めることができる場合もありえると思わ れます。 13 4 私 の 勤 め て い る 会 社 で は、懲 戒 処 分 を 行 う 際 に、特 に 厳 密 に 事 実 調 査 を 行 う こ ととしています。たとえば、社員には、自己・同 僚問わず、会社の事情聴取に対する協力義務が就 業規則に規定されています。 また、特に就業規則に定めがあるわけではあり ませんが、会社では、必要に応じて、会社のサー バーを利用して送受信した社員のメール履歴を閲 覧したり、個人の の中を所持品検査したりする こともあるそうです。 こうした会社の厳密な調査姿勢は一面で安心な のですが、拘束が強すぎるような気もします。社 員は、どこまで事情聴取に協力すべきものなので しょうか。また、メールなどを見られてプライバ シーが侵害されたらどうなるのでしょうか。 労働者の調査協力義務 労 働 者 が、労 働 契 約 に 付 随 す る 義 務 と して、会社の懲戒処分のための事実調査に対して 協力義務を負うことは、ほぼ異論なく認められて います。しかし、労働契約に付随する義務である 以上、およそいかなる場面でも会社が労働者に協 力を強いてよいものではありません。 この点、最高裁判例では、他の社員の非違行為 の調査に関してどの程度の協力義務を負うかにつ き、①調 査 に 協 力 す る こ と が 労 働 契 約 上 の 労 務 の 1 31 23 2 Q A 第356号 6 は こ だ て 法人ニュース 平成28年 9 月 1 日
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