懲戒処分の調査の限界

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職場の法律相談
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懲戒処分の調査の限界
どういった調査が具体的にプライバシー侵害に
当たるのかの基準と、前記1の調査協力義務の限
界とは別種の議論であろうと考えられますが、現
在のところ、裁判例等で両者の関係が理論上整理
されているわけではなく、調査態様ごとに個別に
不法行為か否かの判断が出されている状況です。
ご 質 問 の 中 に あ っ た 例 で い え ば、⑴会 社 の 施 設
を利用する私用メールについて、そのようなメー
ルに関するプライバシー保護の期待は相当程度低
いとした上で、会社が送受信履歴を閲読して私用
メール等を特定することは、就業規則に規定がな
い場合であっても、社会的相当性の範囲内であれ
ばプライバシー侵害には当たらないとした例があ
り ま す︵F 社 Z 事 業 部︵電 子 メ ー ル︶事 件=東 京
地 判 平 ・ ・ 労 判 8 2 6 号 頁︶。加 え て、
事前に就業規則等でメール履歴の閲読を明示して
いるような場合には、原則として調査がプライバ
シー侵害に当たることはないと一般に考えられて
います。
⑵所持品検査に関しては、①検査を必要とする
合理的理由があること、②程度・方法が妥当であ
ること、③制度として画一的に実施されること、
④明示の根拠があること、の 点を掲げて、鉄道
会社が金品の不正隠匿調査のため乗務員に靴を脱
ぐよう求めたことを適法とした判例があります
︵西日本鉄道事件=最判昭 ・ ・ 民集 巻 号
1 6 0 3 頁︶。も っ と も、そ の 後 の 裁 判 例 を み る
と、この 点のどれかが欠けると直ちに所持品検
査が不法行為になるというわけではなく、やはり
調査の態様の相当性と労働者の受ける不利益の程
度を比較して違法な調査か否かが判断されている
ようです。
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仁野 直樹 ︵弁護士、石嵜・山中総合法律事務所︶
内容になっている場合︵例えば、指導・監督・企
業秩序維持などを職責とする労働者である場
合︶、ま た は、②労 働 者 が 労 務 提 供 義 務 を 履 行 す
る上で調査に協力することが必要かつ合理的であ
ると認められる場合︵調査対象である違反行為の
性質、内容、労働者の違反行為見聞の機会と職務
執行との関連性、より適切な調査方法の有無等、
諸般の事情から総合的に判断されます︶の つの
場合に限って、労働者が調査協力義務を負うとし
ています︵富士重工業事件=最判昭 ・ ・ 民
集 巻 号1037頁︶。
非違行為を行ったと思われる労働者本人に対し
ても、判断枠組みは同様であると思われます︵労
働 政 策 研 究・研 修 機 構 事 件=東 京 高 判 平 ・ ・
労 判 8 9 3 号 頁︶。こ れ ら は い ず れ も 事 情 聴
取の判例・裁判例です。
このように、労働者は、企業秩序維持のために
会社が行う事情聴取等に対して、一定の限度で調
査協力義務を負いますが、会社は、この限度を超
えた協力を懲戒などで強制することはできません。
労働者のプライバシー侵害との関係
他 方 で、事 実 関 係 の 調 査 が 労 働 者 の プ ラ イ バ
シーを過度に侵害することもありえますので、態
様によっては調査が不法行為となり、社員が損害
賠償を求めることができる場合もありえると思わ
れます。
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私 の 勤 め て い る 会 社 で は、懲 戒 処 分 を
行 う 際 に、特 に 厳 密 に 事 実 調 査 を 行 う こ
ととしています。たとえば、社員には、自己・同
僚問わず、会社の事情聴取に対する協力義務が就
業規則に規定されています。
また、特に就業規則に定めがあるわけではあり
ませんが、会社では、必要に応じて、会社のサー
バーを利用して送受信した社員のメール履歴を閲
覧したり、個人の の中を所持品検査したりする
こともあるそうです。
こうした会社の厳密な調査姿勢は一面で安心な
のですが、拘束が強すぎるような気もします。社
員は、どこまで事情聴取に協力すべきものなので
しょうか。また、メールなどを見られてプライバ
シーが侵害されたらどうなるのでしょうか。
労働者の調査協力義務
労 働 者 が、労 働 契 約 に 付 随 す る 義 務 と
して、会社の懲戒処分のための事実調査に対して
協力義務を負うことは、ほぼ異論なく認められて
います。しかし、労働契約に付随する義務である
以上、およそいかなる場面でも会社が労働者に協
力を強いてよいものではありません。
この点、最高裁判例では、他の社員の非違行為
の調査に関してどの程度の協力義務を負うかにつ
き、①調 査 に 協 力 す る こ と が 労 働 契 約 上 の 労 務 の
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第356号 6
は こ だ て
法人ニュース
平成28年 9 月 1 日