随伴関手定理 alg-d http://alg-d.com/math/kan_extension/ 2016 年 8 月 22 日 定義. F : C −→ D,E : C −→ U を関手として左 Kan 拡張 F † E が存在して,F † E が任 意の関手 H : U −→ V と交換するとき,F † E は絶対左 Kan 拡張であるという. 定義から明らかに次が成り立つ. 命題 1. F : C −→ D,E : C −→ U ,L : D −→ U を関手,η : E =⇒ L ◦ F を自然変換 とする. D =⇒ L F η C E U このとき ⟨L, η⟩ が F に沿った E の絶対左 Kan 拡張である ⇐⇒ 任意の圏 V と関手 K : D −→ V ,H : U −→ V ,自然変換 θ : HE =⇒ KF に対し て,ある自然変換 τ : HL =⇒ K が一意に存在して,次の等式が成り立つ. =⇒ F η C =⇒ τ V H = F θ L E K D U C V =⇒ K D E H U 定理 2. F : C −→ D を関手とするとき以下の条件は同値である. (1) F は右随伴を持つ. 1 (2) 絶対左 Kan 拡張 ⟨F † idC , η⟩ が存在する. (3) F に沿った idC の左 Kan 拡張 ⟨F † idC , η⟩ が存在し,F が左 Kan 拡張 F † idC と交 換する. D D η C = † F F idC C idC =⇒ =⇒ F id D F F †F =⇒ F ◦(F † idC ) C C idC D F またこのとき F ⊣ F † idC であり η がその unit である. 証明. (1 =⇒ 2) F ⊣ G を随伴として,その unit を η ,counit を ε とする.任意の圏 X と関手 K : C −→ X ,H : D −→ X ,自然変換 θ : K =⇒ HF を取る. idD := X =⇒ ε τ H D =⇒ D F θ G C K C idC と定義すれば C F idC C C X F θ η G H D K = F idC C idC C =⇒ X =⇒ τ F K η C H D = F θ X K G idC K θ C =⇒ H X G である.逆に τ が D H =⇒ η ε = D =⇒ K idD D =⇒ =⇒ =⇒ τ F X =⇒ H D C C 2 idC C idC C を満たせば C η C idD D K ε = idC C X F θ G G H D =⇒ τ F G D =⇒ H D =⇒ ε = K G idD D =⇒ =⇒ τ X =⇒ H D C idC K C となるから,このような τ は一意である.故に ⟨F † idC , η⟩ は絶対左 Kan 拡張である. (2 =⇒ 3) 明らか. (3 =⇒ 1) G := F † idC と置く.これの絶対性から左 Kan 拡張 F † F = F ◦F † idC = F G も存在する.F † F の普遍性により ε : F G =⇒ idD が一意に存在して εF ◦ F η = idF が成 り立つ. =⇒ F η C =⇒ ε D idD D F = D =⇒ idD D idF F F G C idC C idC C 故に後は Gε ◦ ηG = idG を示せばよい.その為には,左 Kan 拡張 ⟨G, η⟩ の普遍性から C G idC C G = η idC C F η C D =⇒ F =⇒ =⇒ η idD D =⇒ ε F D =⇒ idD D idG G G idC C idC を示せばよいが,それは明らか. 系 3. 圏 C に対して C が終対象 1 を持つ ⇐⇒ colim(idC ) が存在する. また,このとき colim(idC ) ∼ = 1 が成り立つ. 証明. 終対象とは対角関手 ∆ : C −→ C 0 = 1 の右随伴である. 1 C =⇒ 1 ∆ idC 3 C C (=⇒) 終対象 1,即ち ∆ の右随伴が存在するから,定理 2 により左 Kan 拡張 ∆† idC が 存在する.ところで ∆† = colim だったから colim(idC ) が存在することが分かる. (⇐=) 定理 2 により ∆ が colim(idC ) と交換することを示せばよいが,それは明らか. colim(idC ) ∼ = 1 も明らかである. 定義. 関手 K : I −→ J が final ⇐⇒ C を圏,F : J −→ C を関手とする.余極限 colim F ,colim F K のどちらかが存 在すればもう片方も存在し,普遍性から得られる射 colim F K −→ colim F が同型を与 える. 定義. C を圏,a, b ∈ C を対象とする.a と b を結ぶ zigzag とは a → c0 ← c1 → · · · ← cn−1 → cn ← b の形の図式のことをいう. 定義. 圏 C が連結 ⇐⇒ C ̸= 0 で,任意の対象 a, b ∈ C を結ぶ zigzag が存在する. 命題 4. 関手 K : I −→ J が final ⇐⇒ 任意の j ∈ J に対して j ↓ K が連結. 証明. (=⇒) j ∈ J とする.F := HomJ (j, −) : J −→ Set とすれば,K が final だから ) (⨿ ∼ ∼ F Ki /∼ だから,ある i ∈ I に対 colim F K ∼ colim F 1 である. colim F K = = = i∈I して F Ki ̸= ∅ でなければならない.即ち HomJ (j, Ki) ̸= ∅ だから j ↓ K ̸= 0 が分かる. また,colim F K ∼ = colim F ∼ = 1 となるためには任意の f ∈ F Ki0 ,g ∈ F Ki1 に対し て f ∼ g とならなければならない.よって j ↓ K が連結となることが分かる. (⇐=) C を圏,F : J −→ C を関手として余極限 µ : F K =⇒ ∆(colim F K) が存 在するとする.i ∈ I に対して µi : F Ki −→ colim F K は C の射である.j ∈ J を 取る.j ↓ K ̸= 0 だから,ある対象 ⟨i, f ⟩ ∈ j ↓ K が存在する.この i と f を使って τj := µi ◦ F f : F j −→ colim F K と定める. i j f Ki Fj Ff F Ki µi colim F K この τj は well-defined である. . . . ) ⟨i, f ⟩, ⟨i′ , f ′ ⟩ ∈ j ↓ K に対して µi ◦ F f = µi′ ◦ F f ′ を示せばよい.j ↓ K が連結 だから zigzag ⟨i, f ⟩ → ⟨i0 , f0 ⟩ ← ⟨i1 , f1 ⟩ → · · · → ⟨in , fn ⟩ ← ⟨i′ , f ′ ⟩ が存在する. 4 このとき次の図式は可換である. i Ki f i0 F Ki Ff Ki0 i1 f1 Ki1 fn .. . j .. . in F f1 Fj F fn Kin f′ i′ µi0 F f0 f0 F f′ Ki′ µi F Ki0 F Ki1 .. . µi1 colim F K µin F Kin µi′ F Ki′ 故に µi ◦ F f = µi′ ◦ F f ′ である. この τj は自然変換 τ : F =⇒ ∆(colim F K) を定める. . . . ) s : j −→ j ′ とする.⟨i, f ⟩ ∈ j ↓ K ,⟨i′ , f ′ ⟩ ∈ j ′ ↓ K を取れば τj = µi ◦ F f , τj ′ = µi′ ◦ F f ′ となる. i f j Ki Fj s i′ j ′ f′ Ki′ Ff Fs F f′ ′ Fj F Ki µi F Ki′ µi′ colim F K このとき well-defined の証明と同様に連結性から µi ◦ F f = µi′ ◦ F f ′ ◦ F s となるこ とが分かる.故に τ は自然変換である. この τ が F から ∆ への普遍射であることを示せばよい.その為に c ∈ C を対象, θ : F =⇒ ∆c を自然変換とする.このとき θK : F K =⇒ ∆c は自然変換である.故に colim F K の普遍性から射 h : colim F K −→ c が存在し (∆h) ◦ τ = θ となる.また colim F K の普遍性から h の一意性も分かり,τ は F から ∆ への普遍射である. 系 5. I が終対象 1 を持てば,関手 F : I −→ C の余極限は存在し colim F ∼ = F 1 となる. 証明. 関手 K : 1 −→ I を K(∗) := 1 で定める.任意の i ∈ I に対して i ↓ K = 1 だから K は final である.colim F K = F 1 が存在するから,前定理により colim F ∼ = F 1 であ 5 る. 定理 6 (General Adjoint Functor Theorem). C, D を圏,C は余完備で関手 F : C −→ D は余連続であるとする.更に,任意の d ∈ D に対してある集合 S ⊂ Ob(F ↓ d) が存在し て次を満たすとする (この条件を solution set condition と呼ぶ): 任意の ⟨c, f ⟩ ∈ F ↓ d に対してある ⟨s, k⟩ ∈ S と射 ⟨c, f ⟩ −→ ⟨s, k⟩ が存在する Fs k f Fc d Fs k′ ′ このとき F は右随伴を持つ. π 証明. 各 d ∈ D に対して colim(F ↓ d − → C) が存在することを示せばよい. . . idC . ) この余極限 colim(F ↓ d → C) = colim(F ↓ d → C −−→ C) が存在したとする. d D =⇒ 1 F ↓d π F C idC C idC このとき各点左 Kan 拡張 F † idC が存在し,F † idC (d) = colim(F ↓ d → C −−→ C) である.今 F が余連続だから,F は各点左 Kan 拡張 F † idC と交換する.従って定 理 2 により F は右随伴を持つ. d ∈ D とする.solution set condition を満たす集合 S ⊂ Ob(F ↓ d) を取る.S ⊂ F ↓ d を充満部分圏とみなす.K : S −→ F ↓ d を包含関手とすれば,S が small で C は余完備 K π だから,余極限 colim(S −→ F ↓ d − → C) が存在する.故に K が final であることを示せ π K π ば colim(F ↓ d − → C) ∼ → C) の存在が分かる. = colim(S −→ F ↓ d − ⟨c, f ⟩ ∈ F ↓ d とする.⟨c, f ⟩ ↓ K が連結であることを示せばよい.S の取り方から 明らかに ⟨c, f ⟩ ↓ K ̸= 0 である.⟨⟨s0 , k0 ⟩, g0 ⟩, ⟨⟨s1 , k1 ⟩, g1 ⟩ ∈ ⟨c, f ⟩ ↓ K とする.即ち 6 g0 : ⟨c, f ⟩ −→ ⟨s0 , k0 ⟩,g1 : ⟨c, f ⟩ −→ ⟨s1 , k1 ⟩ である. s0 F g0 g0 F s0 k0 f c Fc g1 d F g1 s1 F s1 k1 C が余完備だから,左の図式の pushout p が存在する.また F が余連続だから,F p も pushout である. s0 F g0 g0 p c F s0 Fp Fc g1 k0 d F g1 s1 F s1 k1 よって pushout の普遍性により,射 F p −→ d が一意に伸びる. F g0 F s0 k0 Fp Fc d F g1 F s1 k1 k 2 S の性質により,この射 F p −→ d はある ⟨s2 , k2 ⟩ ∈ S を使って F p → F s2 −→ d と書 ける. F g0 F s0 k0 Fp Fc F s2 F g1 F s1 k1 7 k2 d このとき次の図式を得る. s0 s2 c F s0 F g0 g0 k0 g1 k2 F s2 Fc d F g1 s1 F s1 k1 この図式は可換である.故に ⟨c, f ⟩ ↓ K が連結であることが分かる. 補題 7. C, D, U を圏で U は co-wellpowered で余完備,F : C −→ D ,S, T : C −→ U を関手,φ : S =⇒ T をエピな自然変換とする.このとき Kan 拡張 F † S が存在するなら ば F † T も存在する. D =⇒ F †S F η S U φ ⇒ C T π T 証明. d ∈ D に対して colim(F ↓ d − →C− → U ) が存在することを示せばよい. π S 各点 Kan 拡張により F † S(d) = colim(F ↓ d − →C− → U ) である.⟨c, f ⟩ ∈ F ↓ d に対 して,標準的な射を σ⟨c,f ⟩ : Sc −→ F † S(d) と書く.これと自然変換 φ : S =⇒ T を合わ せて,次の可換図式を得る. F † S(d) id F † S(d) σ⟨ci ,fi ⟩ Sci σ⟨cj ,fj ⟩ φcj Scj φci T cj T ci 今 U は余完備だから,次の図式のように pushout を取ることができる.また,pushout 8 の普遍性から点線の射が延びる. mj F † S(d) uj id mi F † S(d) φcj Scj Sci ui T cj T ci φci 仮定から φci はエピ射で,エピ射の pushout はエピ射だから,mi もエピ射である.U が co-wellpowered だから,mi たちの余極限 v を取ることができる. F † S(d) uj v † ui F S(d) Scj Sci π φcj T cj T ci φci T v = colim(F ↓ d − →C− → U ) であることを示そう.その為に任意の θ : T ◦ π =⇒ ∆w を 取る. w F † S(d) uj v F † S(d) ui Scj Sci φci φcj θ⟨cj ,fj ⟩ T cj T ci 9 θ⟨ci ,fi ⟩ このとき θ ◦ φ : S ◦ π =⇒ ∆w が得られるから,普遍性により F † S(d) −→ w が一意に延 びる.よって pushout の普遍性から ui −→ w が一意に延びる.よって v の普遍性から π T v −→ w が一意に延びる.以上により v = colim(F ↓ d − →C− → U ) である. 定理 8 (Special Adjoint Functor Theorem). C, D が圏で,C は余完備,co-wellpowered で,small generating set S を持つとする.このとき関手 F : C −→ D に対して F が余連続 ⇐⇒ F が右随伴を持つ. 証明. (⇐=) 明らか. (=⇒) Kan 拡張 F † idC が存在することを示せばよい. generating set S ⊂ C を充満部分圏とみなし,i : S −→ C を包含関手とする.S が small で C が余完備だから Kan 拡張 i† i,(F ◦ i)† i が存在する. D =⇒ =⇒ =⇒ =⇒ =⇒ F C ■ ■ i ■ S (F ◦i)† i i† i η C i 故に F † (i† i) も存在して,F † (i† i) = (F ◦ i)† i が成り立つ.また idC : C −→ C を考えれ ば,Kan 拡張の普遍性により φ : i† i =⇒ idC が一意に取れる. idC C i† i =⇒ =⇒ i φ η S i idi C φ はエピ射である. . . . ) c ∈ C に対して φc : i† i(c) −→ c がエピ射であることを示せばよい.各点 Kan 拡 張の構成を思い出せば,φc は i† i(c) = colim(i ↓ c → S → C) = colim c の普遍性 ⟨c,f ⟩∈i↓c 10 から定まる射である. cj cj fj fj φc i† i(c) c fk ck c fk ck u, v : c −→ d を射で,u ̸= v とする.S が generating set だったから,ある s ∈ S と g : s −→ c が存在して u ◦ g ̸= v ◦ g となる.このとき ⟨s, g⟩ ∈ i ↓ c である. cj fj u φc i† i(c) c d v fk ck よって u ◦ φc ̸= v ◦ φc でなければならない.故に φc はエピ射である. D =⇒ F † (i† i) F η ⇒ C i† i φ C idC よって補題 7 により F † idC が存在する. 双対的に,以下の定理も成り立つ.(証明は同様である.) 定理 9. G : D −→ C を関手とするとき以下の条件は同値である. (1) G は左随伴を持つ. (2) G に沿った idD の右 Kan 拡張 ⟨G‡ idD , ε⟩ が存在し,任意の関手 K : D −→ X が 右 Kan 拡張 G‡ idD と交換する. C C K◦(G‡ idD ) D idD G‡ idD D id K = X 11 G D G‡ K =⇒ η =⇒ =⇒ G idD D K X (3) G に沿った idD の右 Kan 拡張 ⟨G‡ idD , ε⟩ が存在し,G が右 Kan 拡張 G‡ idD と 交換する. またこのとき G‡ idD ⊣ G であり ε がその counit である. 定理 10 (General Adjoint Functor Theorem). C, D を圏,D は完備で関手 G : D −→ C は連続であるとする.更に,任意の c ∈ C に対してある集合 S ⊂ Ob(c ↓ G) が存在して 次を満たすとする.(この条件を solution set condition と呼ぶ) 任意の ⟨d, f ⟩ ∈ c ↓ G に対してある ⟨s, k⟩ ∈ S と射 ⟨s, k⟩ −→ ⟨d, f ⟩ が存在する Gs k f c Gd k′ Gs′ このとき G は右随伴を持つ. 定理 11 (Special Adjoint Functor Theorem). C, D が圏で,D は完備,wellpowered で, small cogenerating set S を持つとする.このとき関手 G : D −→ C に対して G が連続 ⇐⇒ G が左随伴を持つ. また,関手の表現可能性について次の定理が分かる. 定理 12. D を完備な圏,G : D −→ Set を連続な関手で solution set condition を満た すとする.このとき G は表現可能関手である. 証明. General Adjoint Functor Theorem により G は左随伴関手 F : Set −→ D を持 つ.このとき d ∈ D と 1 ∈ Set に対して HomD (F (1), −) ∼ = HomSet (1, G−) ∼ = G であ る.故に G は表現可能関手である. 定理 13. D を完備,wellpowered な圏で,small cogenerating set S を持つとする.こ のとき関手 G : D −→ Set に対して以下は同値である. (1) G が連続である. (2) G が左随伴を持つ. (3) G が表現可能関手である. 12 証明. 1 ⇐⇒ 2 は Special Adjoint Functor Theorem である. (2 =⇒ 3) G の左随伴関手を F : Set −→ D とすれば 1 ∈ Set に対して HomD (F (1), −) ∼ = HomSet (1, G−) ∼ =G である.故に G は表現可能関手である. (3 =⇒ 1) 表現可能関手 HomD (d, −) は連続だから明らか. 定理 14. C を余完備な圏,D を圏とする.A ⊂ C を小さい稠密部分圏とする.このとき 関手 F : C −→ D が余連続 ⇐⇒ F が右随伴を持つ. 証明. (⇐=) 明らか. (=⇒) Kan 拡張 F † idC が存在することを示せばよい.包含関手 i : A −→ C が稠密だ から i† i = idC である.また A が小圏で C が余完備だから (F ◦ i)† i も存在する. D =⇒ =⇒ =⇒ =⇒ =⇒ F C ■ ■ K ■ A (F ◦i)† i idC idK K 故に F † idC も存在する. 13 C
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