Ⅴ 学識経験者による点検・評価の講評

Ⅴ
学識経験者による点検・評価の講評
(1)森田 英嗣
氏 (大阪教育大学 大学院連合教職実践研究科 教授 研究科主任)
0.はじめに
昨年度に引き続き、堺市教育振興基本計画である「未来をつくる堺教育プラン(平成 23~27 年度)」
(以下、「堺教育プラン」と略)に基づいた施策・事業評価の報告書を拝読する機会を頂いた。今回対
象にする平成 27 年度の報告書は、堺教育プランの最終年度のものであり、1年間の振り返りに加えて、
過去5年間の総括としての意味も併せ持つものである。
1.政策1「子どもの心と体を元気にします」関連施策事業について
3つの基本施策に基づいて11の事業が展開される政策1では、学校が中心となって行う教育の基盤
づくりがめざされている。市民からは「学力」が最も注目されるテーマであろうが、それを主題とする
政策2の前に、基盤づくりを打ち出している点が堺教育プランの特徴となっている。学力の育成は学校
教育の基本的な使命の一つであるが、その達成には、前提条件を整える必要があるという認識がよく現
れている。
基本施策1の「豊かな心の育成」では、「人権教育」[(1)-①]、「道徳教育」[(1)-②]、「堺・ス
タンダード」[(1)-③]等の事業が、基本施策2の「健やかな体の育成」では、「体力向上」[(2)-①]、
「食育」[(2)-②]等の事業が行われている。また、基本施策3の「秩序と活気のある学びの場づくり」
では、「生徒指導支援」[(3)-①]、「教育相談」[(3)-②]の各事業が、不利な状況に置かれる恐れの
ある児童・生徒にも配慮された形で、バランスよく実施されている。
「プランの成果指標」をみると、平成 21 年度との比較で、次の成果が確認できる。すなわち、基本施
策1の成果としては、「自分にはよいところがある」と答えた児童生徒の割合が小6・中3ともに伸び
た点、基本施策2では毎朝食事をとっている児童生徒の割合が中3で増えたこと、基本施策3では「学
校の決まりを守っている」および「学校に通うのが楽しい」と答えた児童生徒の割合が、小6・中3と
もに増えたことが強調できる。こうした変化は児童生徒の育成環境の改善の結果として、誇ってよいも
のである。
堺教育プランの実施プログラムに掲げる事業(以下「プログラム事業」と略)ごとに設定された指標
をみても、目標が達成されたり、改善してきていると判断できたりするものがあり(たとえば[(1)-②、
(1)-④、(2)-①、(2)-②の一部、(2)-④の一部]等)、各事業の実施方法が奏功していることが確認できる。
しかし、過去3年間数値に明確な改善がみられるとはいえない事業もいくつかみられた(たとえば[(1)①、(1)-③、(2)-③]等)。これらの点についてはこれまでの実施方法の限界を示しているとも考えられ
る。実施方法の改善は、教員の多忙化状況や教員支援も視野に入れながら、分析・立案することが、今
後とも必要であろうと思われる。
2.政策2「『総合的な学力』を確かに育てます」関連施策事業について
政策2は、市民がもっとも関心をもつと思われる「学力」がテーマになっている。ここでは6つの基
本施策に基づいて、11の事業が展開されている。
基本施策4の「『総合的な学力』の育成」では、指導の工夫・改善、系統性を考慮に入れて学力を培
う「小中一貫教育・学力向上」[(4)-①]、「堺マイスタディ事業」[(4)-②]をはじめ、「英語教育」
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[(4)-⑥]、「学校図書館教育」[(4)-⑦]等の充実が図られている。また、基本施策9の「地域資源を
活用した堺を知る教育の推進」では地域の特性を生かし地域を知る「子ども堺学」[(9)-①]が事業化さ
れている。いわゆる学力テストで計測される教科領域だけでなく、育てる必要のある学力の全体像を総
合的に把握し、各々の側面から丁寧に育てようとしている点が評価できる。
また、基本施策5の「育ちと学びが連続する小中一貫教育の推進」、基本施策6の「すべての幼児を
対象とした幼児教育の推進」、基本施策7の「夢を実現する高等学校教育の推進」では、学校への入口
・出口の接続がこまやかに設計されており、基本施策8により特別支援教育の充実が図られている。
「プランの成果指標」をみると、平成 21 年度との比較で、次の成果が確認できる。すなわち、全国平
均との差という観点からみて学力テストの平均が中3で上昇していること、また「国語の授業で意見を
発表するときうまく伝わるように話の組み立てを工夫している」あるいは「ふだんの授業では、自分の
考えを発表する機会が与えられていると思う」と答えた児童生徒の割合が、いずれも極めて大きな伸び
を見せていることが指摘できる。授業の改善と学力の向上の仕組みがこの5年間で、うまく回り始めた
といってよいだろう。
プログラム事業ごとの指標から、目標の達成や改善が明確にみてとれる事業がある(たとえば (4)-①
の一部、(4)-⑥、(7)-①、(8)-①の一部)。同時に、過去3年間数値に明確な改善がみられるとはいえない
事業もある(たとえば[(4)-③、(4)-④、(4)-⑤、(6)-①]等)。
学力に関する事業は、一般に、劇的な動きはなく、事態が急に改善することはほぼないといってよい。
また少しずつ、動きにくい巨体を動かしていくようなイメージを持つ必要があるし、その現れには時間
がかかる。このことを前提にして、目標の達成や改善が見られたことには極めて大きな意義があるとい
える。
事業によってその達成の困難さは異なると考えられるが、成果が現れにくくなっている事業もあるよ
うである。「第2期未来をつくる堺教育プラン(平成 28~32 年度)」(以下、「第2期堺教育プラン」
と略)ではこうした堺教育プランの分析を役立てて、限られた資源を割り振っていく工夫が必要になろ
う。
3.政策3「学校力・教師力を向上します」関連施策事業について
政策3では、基本施策10の「信頼される教員の養成・採用・研修システムの確立」に基づいて、「教
職員研修」[(10)-③]、「学校マネジメント」[(10)-④]等の4事業が実施されている。
「プランの成果指標」をみると、平成 21 年度と比べて、「公開授業を伴う校内研修実施校の割合(小
学校 9 回以上、中学校 6 回以上)」が小、中学校ともに大きく増えたこと、また中3では国語や数学で
「授業の内容がよく分かる」と答えた生徒の割合が増えていることなど、若手教員が増える中、教員育
成・研修の点から、この5年間で大きな成果があったことが確認できる。
プログラム事業ごとの指標では、過去3年間においては、全体として目標の達成や改善が明確にみて
とれる事業はなかった。また、(10)-①のインターンシップ参加者数は減少傾向にあり、目標値との差が
拡大するなど、外部環境の変化との関係が問い直される必要がある部分もみられた。
教員の養成や研修については、引き続き、教員養成大学・学部・大学院等、外部機関との連携が模索
されてよいと思われる。
4.政策4 「家庭・地域力を生かした取組を推進します」関連施策事業について
政策4では、地域や保護者の学校教育への参加・支援・評価を核とした地域協働型教育の実現に関わ
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る2つの基本施策に基づいた8事業が実施されている。
基本施策11の「家庭・地域との協働により広がる教育の推進」では、「堺・地域コミュニティ学校
の推進」[(11)-①]、「地域人材活用」[(11)-②]等の事業が、基本施策12の「家庭・地域での学習
活動の支援」では、「放課後等の健全育成」[(12)-①]、「家庭教育支援」[(12)-②]、「地域の知の
拠点としての図書館の充実」[(12)-④]等の事業が行われてきた。
「プランの成果指標」をみると、平成 21 年度との比較で、次の成果が確認できる。すなわち、基本施
策11では、学校関係者評価の実施率が 100%に至り、基本施策12では、「放課後などにおける子ど
もの安心・安全な居場所が確保されている」と感じる市民の割合、「家の人と学校での出来事について
話をする」と答えた児童生徒の割合が大幅に増えるなどの成果がみられ、この5年間で家庭・地域との
連携は大きく前進したと考えられる。
過去3年間のプログラム事業ごとの指標をみても、目標の達成あるいは改善がみられたもの(たとえ
ば(11)-①、(11)-②、(12)-①、(12)-②、(12)-⑤)と、そうでないものがあった。
学校が連携しようとする家庭は、毎年一定の割合が、入れ替わっていく。このことは、9年間を通し
て連携を築いてきた家庭の児童生徒が卒業し、連携の経験が必ずしもあるわけでない家庭の児童生徒が
新たに入ってくることを意味している。こうした中で、連携を続けて行くには、地域の支えと学校の絶
えざる努力が必要になる。すなわち、指標の数字を維持するだけでも大きな尽力が必要になると理解す
るべきであろう。しかし、その上で、連携の裾野を広げ、より多くの地域・住民、保護者の参画を実現
していくためには、従来と同様のアプローチが今後も奏功するかどうかを含めた検討も必要になろう。
5.政策5「よりよい教育環境を整備します」関連施策事業について
政策5については、基本施策13の「安全・安心・うるおいのある教育環境づくり」に基づいて、「学
校園の教育環境の充実」[(13)-②]、「学校教育 ICT 化推進」[(13)-③]等、学校園の施設整備等にか
かわる4事業が実施されている。
平成 21 年度との比較で「プランの成果指標」をみると、学校園施設の耐震化率 100%が1年前倒しで
達成され、プログラム事業自体が完遂されたことが象徴的な成果といえる。
過去3年間のプログラム事業ごとの指標を比較しても、(13)-①や(13)-④は成果がめだった。
(13)-③では、ICT が活用できる教員の割合は伸び悩んでいるように見えるが、授業での活用率は大い
に上昇しているようである。今後も、学校への ICT の普及に関する堺の展開を見守っていきたい。
6.おわりに
今回、事業の全体を見直してみて、「連携」がキーとなる重要な概念であることが改めて伺えた。「チ
ーム学校」が強調される今、そのことに今一度注目しておくことも必要であろう。
すなわち、現在、学校にはさまざまな期待が寄せられている。上にみてきた各事業は、それら一つひ
とつの期待が形になったものともいえる。しかし、それらに効果的に応えていくことは、教員個人の努
力だけでは難しい。そのため、教員は個業とよばれるような働き方を乗り越え、連携する力を持つこと
が必要になる。たとえば、カリキュラムや授業の開発とマネジメントは教員が連携して取り組む課題で
あろう。実際、それが重要な役割を果たすと思われる事業として、たとえば「堺・スタンダードの推進」
[(1)-③]や「国際理解教育」[(1)-④]等に典型的にみられるように教員が共通のカリキュラムや授業
を作成・管理・運営することが求められるものがある。
あるいはまた、教員という一職種内の連携だけでは解決できない期待もある。実際、次のものは教員
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だけではできない事業である。列挙してみると「体力向上事業」[(2)-①]における<体力向上サポータ
ー>、「食育推進事業」[(2)-②]や「小中一貫・学力向上事業」[(4)-①、(5)-①]における<保護者>、
「生徒指導支援事業」[(3)-①]における<スクールカウンセラー><スクールソーシャルワーカー>、
「堺マイスタディ事業」[(4)-②]における<指導スタッフ>、「科学教育推進事業」[(4)-⑤]におけ
る<理科観察実験アシスタント>、「英語教育推進事業」[(4)-⑥]における<ネイティブスピーカー>、
「学校図書館教育推進事業」[(4)-⑥]における<学校図書館サポーター>、「特別支援教育推進事業」
[(4)-⑥]における<自立活動アドバイザー>、等々、これらは全て堺市の教員が連携する可能性のある
教員以外の専門性を持つ他職種の方や、地域住民、保護者である。
さらに学校は、学校以外の組織とも連携が必要になる。「保健指導の推進」[(2)-④]における<各区
保健センター>、「幼児教育推進事業」
[(6)-①]における<幼稚園><保育所><認定こども園>、「ゆ
めをはぐくむ高等学校教育推進事業」[(7)-①]における<選挙管理委員会>等はその一部に過ぎない。
第2期堺教育プランにおいても、教員や学校は、その他の専門家や保護者、施設と連携しながら、期
待に応えていくことになる。このとき大切なのは、そうした連携のための資質を如何に培うかという視
点であろう。連携の基本的資質には、連携先の人や施設を理解することがあげられる。そうでないと、
連携の方法は、専門性ではなく人間関係によって決まってしまいかねない。また、無用な丸投げや抱え
込みによって、互いの力を打ち消すことさえあり得るであろう。いずれにしても、上に挙げた諸事業が、
連携を前提にしていることから考えると、このような連携を前提にする課題とどのように向き合ってい
くのかが、現在の教員研修の喫緊の課題ではないかと思える。そして、これまで停滞していた事業があ
ったとすれば、連携という視点を取り入れていくことが、現在の状況を乗り越えてあたらしい段階の成
果を上げる一つの方法であるようにも思えるのである。
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(2)大野 裕己
氏(兵庫教育大学 大学院学校教育研究科 教授)
はじめに
堺市教育委員会における事務の点検・評価(以下、「点検・評価」と略)は、堺市教育振興基本計画
「未来をつくる堺教育プラン(平成 23~27 年度)」(以下、「堺教育プラン」と略)の実施プログラム
に掲げる事業(以下、「プログラム事業」と略)を主な対象として実施している。この点検・評価に際
しては、堺教育プランを支える5つの政策(・基本施策)の総合評価、個別のプログラム事業の評価を
行う形式を採っている。
今回点検・評価の対象となる平成 27 年度は、堺教育プランの最終年度にあたる。このことを踏まえ
つつ、以下、平成 27 年度の点検・評価報告書について、実施手法面を中心に講評を述べたい。
プログラム事業の点検・評価について
各プログラム事業の点検・評価については、現在までにその基礎となる事業評価シートの改善が継続
的に講じられてきた。現行の事業評価シートは、各プログラム事業について、達成目標として成果指標
もしくは活動指標を明示した上で、「堺教育プランの下で何の実現を目的にするのか」「前年度事業の
課題は何か」「それを踏まえて年度の取組をどのように実施したか」「その成果と課題(指標に即して)
は何か」「次年度以降対応すべき点が何か」を記入するようになっており、PDCAの流れが明瞭に把
握できるような努力がなされている。
各プログラム事業の実施状況を縦覧すると、38プログラム事業のうち、上記の達成目標を達成でき
た事業は7事業(学校園施設の耐震化事業含む)と確認できるが、大半の事業は達成目標に近い水準に
達している。各プログラムの事業評価シートを精読すると、事務局担当者によって各事業における指標
数値の達成が意識されつつ、そのために必要となる学校支援・条件整備の手立ても広く検討され、具体
化されていることを読み取ることができた。この点は、5月12日に実施した9事業の担当者ヒアリン
グ調査でも確認できた。堺市教育委員会においては、堺教育プラン策定以後、事業の点検・評価の手法に
ついて継続的な改善を重ねてきたが、現行の手法については、事業の効果的な推進及び担当者の意識改
善に寄与していると指摘でき、
地方教育行政の組織及び運営に関する法律第 26 条の趣旨に照らして適切
な内容と評価できる。
その上で、次年度以降(「第2期未来をつくる堺教育プラン(平成 28~32 年度)」の計画期間)の点
検・評価への課題も述べたい。平成 27 年度の各プログラム事業の点検・評価では、約8割の事業が達成目
標を満たしていない(ただし、上述のように、その大半は達成目標に近い水準に達している)ことが示
されている。これは、堺教育プランではできる限り達成目標として児童生徒の変化に関わる成果指標を
掲げること、そして必達目標を多く掲げていることが一つの要因と思われる。妥協のない目標を設定す
ることはもちろん大切であるが、目標が達成できないことを当然視する文化が生まれることには注意を
払うことが重要である。これを踏まえると、現在のところ各事業について達成目標が一つとなっている
が、今後においては指標を複数設定(成果指標と活動指標をバランスよく設定)し、事業の進捗を内外
によりわかりやすく示す等の工夫も検討に値しよう。
また、平成 27 年度の各プログラム事業の実施状況においては、指標値と 10%以上乖離がある(満た
していない)事業もややみられた。これらの事業には、事業の妥当性が乏しい、指標値の設定自体に合
理性が欠けていた、学校レベルでの指標達成への動きが難しい事情がある、教育委員会の条件整備に課
題がある(モデル事業から全校拡大できない等)、といった要因が潜在していると思われる。堺市教育
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委員会においては、今後このような事業の要因の検証を進め、より妥当性の高い達成目標の設定あるい
は条件整備の方策づくりを図っていくことを期待したい。
政策評価について
政策評価の部分についても、堺市教育委員会では改善を重ねてきた。本年度の点検・評価では、堺教
育プランの5つの政策ごとに、政策を支える基本施策について各プログラム事業を横断した形での検証
・評価がなされ、かつ各政策について文章記述形式による総合評価が行われている。各基本施策につい
ての評価も、プログラム事業と同様、堺教育プランで重視する成果指標、平成 26 年度の課題、関連する
平成 27 年度の事業、その成果・課題、今後の方向性と対応の順にPDCAサイクルに即して書き込まれ
ており、一定のわかりやすさを備えるものとなっている。政策評価については、「プランの成果指標」
と「取組-成果・課題-今後の対応」の関連づけや、取組の各主体(教育委員会・学校等)の提示等さ
らなる工夫が期待される点もあるものの、堺市教育委員会の施策の構図・重点事項について市民・教職
員にわかりやすく伝える取組として評価できる。
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